大人への階段

Last-modified: 2015-05-07 (木) 21:00:00

マスター・マ):ダルモア
ファルシオン・フ):ファルシオン様
白蛇姫・姫):白蛇姫様

 

マ)皆様、背伸びした経験はお有りですか?
マ)背を伸ばす。ただそれだけで普段の自分では味わえない景色や甘美にめぐり合えるもの
マ)しかし、それも長くは続きません
マ)やがて疲れ、普段の退屈な日常へと引き戻されてしまいます

 

マ)─でも。中には何かを得、大きく前進する時も

 

マスター:初期装備のあれ

 

フ)リスボンの路地裏
フ)ここに、猫の額ほどの空間が広がっていた
フ)店員はマスター1人。顔に、年季の入った刀痕があること以外、素性を伺えるものの無い男

 

フ)カラン コロン
フ)おや? 珍しいこともあるもので。一人の若い女性が足を踏み入れる。

 

フ)これは、ブルボン家の隠し子、白蛇姫とマスターの、甘く切ない物語

 

マ)いらっしゃいませ。お客様、何名様でしょうか?
姫)あら、ごきげんよう。なぁにこの店。埃っぽいったらありゃしないわ
マ)ははは。よく言われます
姫)わたくしこう見えて由緒ある出の大海賊、「白蛇姫」よ。そんなわたくしが足を踏み入れたのですから
マ)左様で御座いますか。善処いたします
姫)さて、ここではどんなものが頂けて?
マ)メニューは御座いません
姫)ええ!?
マ)私の思いつくまま、その方に相応しいものを気まぐれにお出ししております
姫)へえ。どんなものを出すつもり? MOST EXPENSIVE COGNACくらいは用意できて?
マ)……
姫)あら? どうかなさった?
マ)背伸びするのはそのくらいにしろ、ガキ
姫)がっ、ガキ!? ちょ、ちょっとわたくしにそのような口使いしてただで済むと!
マ)足音と顔つきで分かる。大体、18~19歳だろ
姫)あっ……
マ)未成年に出す酒はない。さ、帰った帰った
姫)そっ、そんなこと、そんなことなくてよ!
マ)─あとその言葉遣い。無理してるだろ
姫)ほえ!?
マ)ははは。ようやく尻尾を出したか。
姫)ちっ、違う、違います!
マ)ほれ、もう一本
姫)あうううう!
マ)仕種を見ていれば分かる。名家の出にしては物腰が柔らかで、海賊にしては手の甲が白く綺麗だ
姫)……
マ)ま、ここは酒を嗜む場だ。落ち着きたいときぐらい、ペルソナを脱ぎ捨てて素顔になってはいかがかね?
姫)─はい
マ)よし。良い子だ。じゃ、今の君にふさわしい一杯を差し上げよう
姫)!? このカクテル、海に沈む夕日のよう。なんてお名前なんですか?
マ)シャーリー・テンプル。伝説的な子役女優の名を模した、ノンアルコールカクテルだよ
姫)へえ! って、子役って!?
マ)ま、詰めは甘かったけどな。ははははは
姫)むー! マスター! 私を子供扱いしないで下さい!
マ)─いいじゃないか。子供でも。
姫)ほえっ?
マ)子供はいいものだよ。とにかく自由で、夢に溢れ、なんでも素直に信じられる
姫)……ですね。そうですね!
マ)仮面を被ったお姫様。
姫)あ、は、はい!
マ)貴女もいつか大人になるだろう。でも、忘れないことだよ。
姫)……
マ)その素敵な純粋さを、ね
姫)……
マ)どうかしたか?
姫)あ、あああああ!!!! あり、ありが、有難う御座います!
マ)うんうん。さ、夜もふけて来たことだ。早くお帰り
姫)(ボー)
マ)お嬢さん?
姫)いっ、いえ! なんでも! それでは失礼します!

 

マ)数日後

 

マ)いらっしゃいませ。お、君か。
姫)あ、ああ、はい! こんばんわ! また来ちゃいました! 迷惑でしたか?
マ)まあまあ、そんな緊張せずに
姫)い、いえ、緊張なんて!
マ)/point 白蛇姫のおでこ でこぴんした
姫)ほええええ!?
マ)これで少しは落ち着くだろうよ
姫)むー! マスター!!!!
マ)ははははは
姫)あはっ、あはははは!
マ)さて、お姫様。
姫)はい。何でしょうか?
マ)今夜はこの一杯、如何でしょうか?
姫)あ、このカクテル、カットオレンジが添えてありますね! かわいい!
マ)プッシーキャット。可愛い猫という名のノンアルコールカクテルだよ
姫)猫!!! いいですね! 私猫大好きです!
マ)何を隠そう。私もだよ
姫)あの、ぷにぷにした肉球、甘え声
マ)ふと目を閉じたときの愛らしい表情、気まぐれな動き
姫)あーたまりません///
マ)ふふ。そしてここにも子猫が一匹
姫)ほえ? まさか、その子猫って
マ)─ま、夜はまだ長い。じっくり味わってくれたまえ
姫)あっ……はい///

 

マ)数日後

 

マ)いらっしゃいませ。はは、すっかり常連だな。
姫)こんばんわ! ねえねえマスター! 聞いてください!
マ)おっ、どうしたのかね? その満面の笑みの意味するところは?
姫)実はですね私、大金持ちになっちゃいました!
マ)ほう。それはそれは。
姫)カナリア沖で張ってましたら、お金持ちな船団を襲えたんですよ!
マ)ふむふむ。お金持ち、ね
姫)残念ながら旗艦には逃げられてしまいましたが、お金に南蛮品が一杯です!
マ)……う、うむ
姫)これで暫く、マスターのお店にかよ、い、いえ、みんなでおいしいもの食べ放題ですよ! そ、その、よかったらマスターも御一緒に

 

※ 店の入り口よりファルシオン様登場

 

フ) 見 つ け た わ よ 泥 棒 猫 !
姫)ひいっ! わわわ、こんばんわ!
マ)あぁ、やっぱり君か
フ)全く。人が寝ている隙に強襲してくるなんてヒドイじゃない!
姫)ね、寝ているほうが悪いんですよ! あそこは私の領域! そんな無防備だったなんて
フ)いっつもコテンパにしてあげてるから、ね? 蛇ちゃん?
姫)ひいい! い、いつか勝つんですから!
フ)─で、人の大事な商品だけじゃなく、男にまで手を出そうっていうの?
姫)えっ、えええええ!? まさか!?
フ)うふふ。ねーマスター?
マ)誰が君の所有物だ。馬鹿か
姫)ふっ、二人は御知り合いだったんですか!
フ)そうよ。私というスコアを幾度となく奏でたタクト
マ)その度に逃げているのだが……いい加減しつこいぞ
姫)ストーカー!?
フ)人聞きの悪いこと言わないの! 通い妻って言いなさい
マ)……拾い子を持つ、一児の母の台詞とは到底思えないのだが
フ)ちびちゃんは関係ないでしょ! 私は一人の母であるとともに、一人の女なんだから!
マ)あーはいはい
フ)さて、と。蛇ちゃん。 分 か っ て る わ よ ね ?
姫)な、何がデスカ……?
フ)決まってるでしょ! 決闘よ決闘! 貴女が奪ったもの、全部返してもらうんだから!
姫)ひいい!!! イヤです! そんな、ガッチガチに鍛えられたゲイボルグ出さないで下さい!
フ)今日は何本まで 耐 え ら れ る か し ら ね え?
姫)ひええええええええ!!!!!
フ)あら。何時もならノッてくるのに。面白くないわね
姫)そっ、それは! その、(折角のお金、ここで失ったらマスターと一緒に)
フ)じゃ、こうしましょ! マスターを賭けて一勝負ってのは?
姫)!!!!!!!
フ)うふふ。ようやくその気になったみたいね。じゃ、武器を構えなさい
姫)むー! ま、負けません! 負けませんよ! この戦い! 絶対に!
マ)あーはいはい。お二人さん
フ)何よ! 今良いところじゃない!
マ)俺は賭け事の賞品じゃない。それと、ただでさえ狭いこの店。決闘するところじゃないぞ
姫)あっ……スミマセンでした!
マ)店仕舞いだ。二人とも帰ってくれ
フ)そんなぁ! 勝利の美酒は!?
マ)あ、あと、明日で引っ越すからな。二度と来るなよファルシオン
フ)もう……/// また追いかけちゃうんだから!
マ)来るなっていっているだろうに!
フ)うふふ。恋はね、障害があるほど燃えるものよ?
マ)勝手にしてくれ……
姫)……

 

マ)次の日

 

姫)こんばんわ……
マ)おっ、君か。いらっしゃいませ。はは、その顔の絆創膏、手ひどくやられたようだな
姫)あっ、はい。あのあと、徹底的に絞られてしまいました
マ)ま、そんなこともあるさ。人生山あり谷あり。気にすることはない
姫)……
マ)おや? どうしたのだい?
姫)マスター昨日、今日でこのお店閉めるって
マ)ああ。そのつもりだ。私にとってファルシオン、彼女は─
姫)……
マ)ま、何でも良いか。彼女に見つかったら別の街へ行く。そう決めているのでな
姫)そう、なのですか
マ)ああ
姫)……
マ)……
姫)あ、そうだマスター!
マ)うむ。どうしたのかね?
姫)実は今日、私の誕生日なんですよ! これで晴れて20歳! お酒が飲めます!
マ)おお、そうかね。おめでとう
姫)はい! ですのでこれ─
マ)おや、何かね?
姫)マカロンです! その、子分から頂きすぎたのでおすそ分けです!
マ)ふむ
姫)よっ、よろしければどうぞ!
マ)うん。頂こう
姫)あっ、ありがとうございます!
マ)ふむ、ふむ……
姫)お味は如何ですか?
マ)うまい。繊細な甘さが、舌で踊るよ
姫)わぁ! 有難う御座います!
マ)─君のお手製だろ?
姫)えっえええええ!?
マ)荒くれ物の海賊が、こんな上品なお菓子を作るはずない。何よりマカロンは、修道院で発達した菓子だ
姫)ばれちゃいましたか。マスター、お菓子にもお詳しいんですね
マ)はは。多少は、な
姫)でしたら─食べながらで良いのでお聞き下さい
マ)ああ、いいよ
姫)マスター。私、あなたの事が好き
姫)でした
姫)初めてお会いしたときから、あなたの笑みとその手から作り出される1杯に、私の心は虜となっておりました
姫)ですが─私、気付いてしまったんです
姫)あなたにはもう、心を虜にされ、惹かれあう女性がいるということに
姫)私は勝ちたい。勝って、マスターと
姫)でも、彼女にはまだ到底……
姫)だから─
マ)さて、食べ終わったぞ
姫)は、話の途中ですよ!
マ)はは。悪かったな
姫)むー! マスターってば!
マ)そう怒りなさんな。ほれ
姫)あ、あのこれ、カクテル?
マ)ああ。ソルティドッグ。初めての酒にしてはちょっと硬派過ぎるかもしれないが、まあ飲んでみてくれたまえ
姫)え、でもこのカクテル、グラスのフチに何かキラキラしたものが……?
マ)塩だ。スノー・スタイルといってな。見た目も綺麗だし、なにより味の変化を楽しめるというわけだ
姫)そうなんですね
マ)じゃ、早速。まずはなるべく塩を舐めずに、飲んでみてくれたまえ
姫)うっ、こくっ
マ)如何かね?
姫)……甘いけど、ちょっと苦いです
マ)はは。じゃ、次はちょっと塩を舐めながら
姫)こくっ、くっ
マ)如何かね?
姫)しょっぱいです
マ)ま、そうだろうな
姫)このカクテルが、何か?
マ)ま、人生とはそういうものって意味さ
姫)……
マ)姫様。いっぱい恋をしてください。そして、いっぱい別れてください
姫)こくっ、こくっ
マ)君の心の扉は今、大きく開け放たれたのだから。
姫)……はっ、はひぃ
マ)さて、と。お味は如何かね?
姫)ぐすん。しょ、しょっぱいのと苦いのと甘いので、わけが分からなくなってしまいました
マ)ははは。左様ですか
姫)─でも、美味しいです
マ)お褒め頂き、有難う

 

姫)人は、誰しも大人になりたいもの
姫)どんなことも出来、どんなことにも教養を持ち、
姫)そして、どんなことにも耐えられる
姫)果たしてそんな人、いるのでしょうか?
姫)でも─背を伸ばし、手を伸ばし続ける
姫)どんなに届かなくても、どんなにつらくても
姫)その一つ一つがきっと、なりたい自分への扉を開いてくれることでしょう
姫)以上です。御覧頂、有難う御座いました。