新マスターの物語

Last-modified: 2015-05-07 (木) 21:18:11

エ:エリリア
マ:ダルモア

 

エ)セビリアの路地裏
エ)ここに、猫の額ほどの空間が広がっていた
エ)店員はマスター1人。男装をし、顔に刀痕があること以外、素性を伺えるものの無い
/think 退屈そうに 頬杖をついている
エ)カラン コロン
/nod 物音 気がついた
エ)おや? 珍しいこともあるもので。一人の女性が足を踏み入れる

 

エ)これは、そんな彼女とマスターの、時重ねである
/bow "" 会場の皆様に深々とお辞儀した

 

マ:牛革 エリ:ペチコと靴

 

マ)いらっしゃい。お客かい?
エ)─ふん。なーに、この味気ないお店
マ)あはは。よく言われるよ
エ)私、リスボン1の大富豪「バルディ頭取」の一人娘よ。そんな私がわざわざ足を踏み入れたのですから
マ)へーそうかい
エ)って、驚かないの!?
マ)うん。別に誰が来てくれようとこの店はこの店
ボクの好きなようにするだけさ
エ)……で、ここはどんなものが頂けるのかしら?
マ)メニュー? そんなものないけど
エ)はあっ? 何それ?
マ)ボクの思いつくまま、気まぐれに酒を出しているのさ
エ)へえ。じゃ、早速だけど1杯頂こうかしら? ドン・ペリニヨン? アシエンダ・ラ・カピリャ?
マ)じゃ、マティーニを
エ)マティーニー? そんなありふれたお酒で私が満足するとでも?
マ)マティーニはシンプルなカクテルだけど、だからこそ作り手の力量が試される一杯なんだ
エ)つまりあなたの作るマティーニは、どんな高級なお酒よりも旨いと?
マ)ま、飲んでみて
/point エリリア 一杯のカクテルを差し出した
エ)じゃ、早速
マ)如何かい?
エ)─やるじゃない!
マ)あはは。ありがとう
じゃ、あと2口で飲んでみてね
エ)えぇ!? こんな強いお酒、あと2口で行けと!?
マ)うん。マティーニの寿命は3口なんだよ
攪拌され、粒子と粒子がグラスの中で程よい味を保てているのはその位なんだ
エ)よーくわかった。私をからかっているのね!
マ)あはは。何のことやら
エ)覚えてなさい!

 

数日後

 

エ:ゾフィードレス マ:義賊帽子とあれ

 

マ)いらっしゃい。おや、君かい
エ)うふふ。良いドレスでしょ? お父様に買っていただいたの
マ)へえ。良かったね
エ)あら? お気に召さない?
マ)まあね。ボクはどうも、ヒラヒラとした服が苦手で
エ)うふふ。可愛いところもあるじゃない
マ)そう突かないでくれよ
エ)貴女も女性の端くれ、もっとおしゃれに気を配るべきじゃなくて?
マ)……さ、今日の一杯だよ
/point エリリア 一杯のカクテルを差し出した
エ)ありがとう。ちなみにこのお酒の名前は?
マ)バカルディーさ
エ)はあっ!? バカ!? こう言う返し、酷いわよ!?
マ)まあまあ聞いて。バカルディーとは幸運という意味で
エ)ふーん。失礼したわ……あら?
マ)どうしたんだい?
エ)つまり、ラッキーだったと言いたいわけね
マ)まあね
エ)うふふ。いいわ。じゃ、私の幸運が貴女にも訪れますように
マ)ありがとう

 

数日後

 

エ)大資産家セット

 

マ)いらっしゃい。おや、また君かい
エ)ねえ、見てみてこの格好!
マ)うーん。これから仕事にでも行くの?
エ)そう! 初めての交易へ行くところなのよ!
カリカットって言って、コショウが捨て値で売られているらしいのよ!
マ)へえ
エ)お父様から頂いた船もありますし、資金は十分
さ、たっくさん積んで帰ってこなきゃ!
マ)……1つ、良いかい?
エ)かまわないわ
マ)カリカットへ行くってことは─カナリア沖を通るんだよね?
エ)ええ。そのつもりよ。それが、何か?
マ)君にはまだ、早すぎると思うんだけど
エ)はあっ!? 何それ!?
マ)それよりも近距離貿易から始めて、少しずつ手を広げて行ったほうが
エ)そんなの無駄な徒労じゃなくて?
マ)え?
エ)ちまちまやって、一体何になるって言うの?
一攫千金を目指して、一度に大きい取引を成立させていったほうが断然良いわ
マ)……
エ)何より私、欲しいものがいーっぱいあるのよ! お父様からのおこずかいだけじゃもう買いきれないほどいっぱい! だから─
マ)だからと言って、無謀なことを!?
エ)はっ? 無謀? 何言ってるのよ?
マ)無謀だから無謀と言っているんだよ! 確かに船はある、資金も十分だと思う。でも─
エ)おしゃれを楽しめるのは若いうちじゃなくて!
マ)!?
エ)今おしゃれして着飾らなくて、一体何時楽しめるというのよ!? このまま年取って皺くちゃになって。私、そんなの耐え切れないわ!
マ)そ、そう。そこまで言うなら止めないよ
エ)ええ、絶対大金持ちになって貴女を見返してあげるんだから
マ)─でも
でも、何があっても。後悔しないんだよ?
エ)ええ。私の前に開けているのは、成功への旅路ですから。後悔も何も
じゃ、行って来ます!
マ)行ってらっしゃい
……はあ
果たしてあの子は
無事に戻ってこれるかな

 

数ヵ月後

 

エ)みすぼらしい格好(古代の服など)

 

マ)いらっしゃ、!?
エ)……
マ)……
エ)あっ、あ、あああ……
マ)……
エ)わた、し、わたし
マ)……
エ)わたし、私、私!!! いやあああああああ!!!!
マ)落ち着いて! 落ち着いて!

 

数時間後

 

マ)ようやく、落ち着いたかい?
エ)─ええ、ええ。
マ)見た限り……身体は無事だったようだね
エ)無 事? 無事? どこが?
マ)……
エ)ええ。想像の通り。やられたわよ。大変"加虐癖”のある海賊に、ね
マ)そうだったんだね
エ)船員達を屠ったあと船に火をつけて、逃げ惑う私をまるで狩りでもするかのように追い回してくれたのよ
マ)うん、うん
エ)何度も体を剣で突かれ、服を引き裂かれ、仕舞いには私の身体を、私を、私を!!!!!
マ)待って! 大丈夫、大丈夫だから!
エ)最後はね、「飽きた」と言って私を海に投げ捨てたのよ! 散々弄んだ挙句にね
はは、あははは
あははははははは!!!
/laugh "" 空ろな目をしながら笑い続けた
マ)もういい。いいから落ち着け!
エ)……
マ)こうなること、うすうす感じていたよ。メリットが大きいということはその分、リスクも大きい。だから─
エ)ならどうして。どうしてもっと強く止めてくれなかったのよ!
マ)あの時の君はそれで止まっていたかい!?
止められていたなら止めていたよ! ええ!
でもそれを聞かずに飛び出したのは君じゃないか!
エ)……
マ)─見せたいものがある
エ)え?
マ)ちょっと失礼

 

ダル:スミスコート

 

エ)!?
マ)どうしてこのボクが、長袖しか着ていないか分かったかい?
エ)え、何その、タトゥー?
マ)あはは。昔ね、君と同じ経験をしたんだよ
交易品を仕入れて、加工して、売って、小銭を稼いで
それで満足していれば良かった。─でもね
エ)でも??
マ)欲が出たんだ。これだけあれば、大丈夫。この船なら、大丈夫って。
そこからはご想像の通り。
いやー。人の身体に"刻印"をつけるのが大好きな海賊でね
/laugh "" 体に刻まれた傷痕を擦りながら笑った
必死に墨で隠したけど。もう、おしゃれなんか出来ない身体さ
エ)……
マ)たった一度の過ち。ボクもその代償をこれからずっと、背負い続けていくだけ
エ)でも、そんなのって
マ)落ち着いた、かい? さ、家へ帰るんだ。ちゃんと海賊被害届も出して、もう無茶を
エ)それで貴女は癒えたの?
マ)癒えた? それはどういう意味だい?
エ)私もこれから、ずっと背負わなければならないでしょう。自分の過ち
祈りを捧げても、美味しい物を食べても、繰り返し繰り返し思い出す地獄のような日常
貴女も同じ経験をしたなら、それは癒えて?
マ)─癒えるわけ、ないさ
エ)……そっか
マ)癒えたところで何も取り戻せない。若く、自身に溢れ、着飾って、毎日が楽しかったあの日々を
エ)なら……

 

エリリア:カリブかパニャ
/shy "" おもむろに衣服を脱ぎ捨てた
マ)!? ちょ、ちょっと待った! 何故脱いだ!?
エ)私、もう男なんかイヤなの
マ)イヤってそれは……
エ)女同士なら、相手の"痛み"が分かるはず。だからきっと─
マ)だからと言って
エ)確かに、身体は満ちないかもしれないわね。でも、ね
マ)……
エ)心は、重ねられるかもしれないの。痛む傷痕を重ねて、通じ合って。だから
マ)……はあ。先に言っておく。ボクの体は墨でいっぱいだ。醜く、汚らしい
エ)いいんじゃない?  私の目に映るのは、とっても素敵で綺麗な人よ?
マ)……
/shrug "" 諦めた
─そこまで言うのなら
─おいで
/point "" エリリアの手をとった
エ)そうこなくっちゃ
/guts ダルモアの身体 強く強く抱きしめた

 

数ヶ月後

 

マ)あ、いらっしゃい
エ)うふふ。グッドニュースよ!
マ)へえ。どうしたんだい?
エ)私を散々嬲ってくれた海賊、先日討伐されたんですって!
マ)そうかい。少しは気、晴れたかい?
エ)ちっとも
マ)だろうね。
まあ─ゆっくりいこうよ
エ)うんうん! あ、そうだ─
私、また交易することにしたのよ。近距離、だけどね
マ)へえ! それはまたどうして?
エ)嫁の貰い手が無くなったんですもの。多少は稼げるようになって、お父様を支えなきゃ!
マ)……本当は?
エ)一緒に、船に乗って欲しい人がいるの。その人は、同じ痛みを抱えて、同じ苦労を味わって、慰めあえる、人
マ)へえ。そんな人が
エ)うふふ
マ)─まず、その辺の砂から砂金を集めてもいいね
 他には、水稲って交易品をひたすら調味料に変えても
エ)調べたわよ貴女の事。かつて、様々な生産技法で大きな収益を上げていた、交易商人さんだったんですってね
マ)そんな頃もあったかな
エ)じゃ、さっきの答えは?
マ)ま、その話は後にして、これを飲んでみて欲しい
/point エリリア 一杯のカクテルを差し出した
エ)ちょっと!
マ)いいからいいから
エ)……最初は優しくまとまってるのに、後味は妖しく焼けた香りでいっぱい。なんてお酒なの?
マ)サイドカー。今の君にぴったりの、お酒さ
エ)うふふ。ありがとう。
隣に座るのは、どっちかしら?
マ)道しるべも、ね
エ)これからも、宜しくね
マ)─うん、よろしく

 

エ)酒のある空間。そこには様々な人間ドラマが潜んでいる。
エ)嗜む者、救いを求める者、祝う者、別れを惜しむ者
エ)一杯の数だけ、物語が繰り広げられてゆく
エ)貴方はどんな物語を繰り広げておりますか? 例え、自分にとって無価値なものだとしても、他の人にとっては金言かもしれません
エ)私にとって─貴方たち一人一人は私を築き上げてくれる物語なのです
エ)以上です。御覧頂、有難う御座いました。