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Last-modified: 2008-10-13 (月) 22:11:12

467 名前: 猫のいる庭 [sage] 投稿日: 2008/08/11(月) 02:39:02 ID:32bdON16
セリスが猫を拾ってきた。

茶色い小さな猫。セリスは飼いたいと言った。
ミカヤ姉上とエリウッドが反対した。シグルド兄上もきっと反対するだろう。

ただでさえ大家族。猫を養う余裕はない。
それをわかっているセリスは、しぶしぶと引き下がった。

だが、マギ・ヴァル庵の影にこっそりとダンボールを置いたのを、俺は見逃さなかった。
隣でエイリークもそれを見ていた。
エイリークは何も言わなかった。だから俺も黙っていた。

その日の夜、少し気になって覗いてみると、反対していたミカヤ姉上がタオルをかけてやっていた。

次の日の朝、エリンシア姉上が餌をやっていた。

学校へ行く前、リンが優しく撫でていた。

学校から帰ってくると、ロイが一緒に遊んでいた。

部屋に行くと、マルスの話し声が聞こえた。多分電話だ。
キャットフードがどうとか言っていた。

夕飯前、エリウッドがみんなから隠れるように撫でていた。

夕飯後、アルムとセリカが膝に乗せて微笑んでいた。

夜、鍛錬していたアイク兄上にすり寄ってきた。
兄上は少し戸惑ったように、けれど優しく体を撫でていた。

就寝前、セリスがにこにこと手を振っていた。

468 名前: 猫のいる庭2 [sage] 投稿日: 2008/08/11(月) 02:39:48 ID:32bdON16
また次の日の朝、リーフが何か語りかけていた。

朝食後、シグルド兄上が「行ってきます」と家を出て、庭を見てもう一度呟いた。

夕方、ヘクトルが似合わないほど優しく抱いていた。

夜、俺がこっそり庭へ行くと、エイリークがそこにいた。
同じことを考えたようですね。と笑い、一緒にダンボールを覗き込んだ。

みんなが気付いていながら、こっそりとした猫との生活はしばらく続いた。
猫は相変わらずマギ・ヴァル庵の影で体を丸めて寝ている。

そんな生活も数週間を過ぎた時。

セリスが慌てたように家へ駆け込んできた。
俺と目が合うと、走り寄ってきた。
エフラム兄さん、エフラム兄さん、と、俺の名前を繰り返すだけで、何を言いたいのかわからない。
よほど慌てているようだから、とにかく落ち着くように言った。
数回深呼吸をしたセリスが、今度は静かに震えた声を出した。

猫がいなくなった。

確かに今まで猫はずっと庭から出なかった。
だが、猫とはよく歩き回るものなのだろう。
その内帰ってくるさと言えば、セリスはそうだよねと疑いもなく笑った。

469 名前: 猫のいる庭3 [sage] 投稿日: 2008/08/11(月) 02:40:27 ID:32bdON16
次の日の朝、校門の前の大通りで、倒れている猫を見つけた。
辺りには赤が散っている。
小さな体はさらに小さく見えた。

俺は何も言わなかった。
エリウッドは何も言わなかった。
ヘクトルは何も言わなかった。

リンは、肩を震わせていた。

俺たちが小さい頃、よく遊んだ公園の一角に、小さな墓を作った。
死んでしまった猫をどうやって埋葬すべきかなんて、俺たちにはわからない。

わからないから、精一杯祈った。
涙は出なかった。

家に帰ると、エリウッドもヘクトルもいつも通りに戻っていた。
リンも、笑顔を浮かべていた。
俺もいつものように鍛錬をして、槍を磨いていた。

本当はいつも通りではないとわかっている。

夕食後、俺は窓際に座って庭を眺めた。
シグルド兄上が静かに隣に座った。
何も言わずに俺の頭をぽんぽんと二回、優しく撫でるように叩き、そのまま黙って座っていた。
窓に映るエイリークが、俺を見ていた。

なんだか少しだけ泣きそうになった。

END