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Last-modified: 2008-12-07 (日) 23:41:52

370 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2008/10/27(月) 12:35:39 ID:eApyrE85
まどろみの中、ミカヤは思い出す。
―――「おい、こいつ印付きじゃねーか!」
―――「気持ち悪い、近寄るな!」
あの下卑た声を。殺されてしまうかと思った、あの恐怖を思う。
そして、雲霞のごとく投げられ続ける石の前に、立ちはだかった己の弟のよわよわしい後ろ姿を思う。
―――「やめろ! やめろよ! 姉さんを虐めるな!」
いまではその面影も消え失せた昔の姿で、私を守ろうとして殴られてしまう。
体は動かず、光精も集まってこない。
あのどうしようもない悪意の渦の中で、私たち二人は、自分の力無さゆえに蹲って耐えることしかできなかった。
そんなとき、現じた救いは黒い鎧を着ていた。
―――「やぁ(´・ω・)、私の同胞を傷つける貴殿らは身の程をわきまえよ!」
消えゆく意識の中で、彼の黒鎧の剣が月の光を放っていたことが、ひどく印象に残っていた。
371 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2008/10/27(月) 12:44:47 ID:eApyrE85
その出来事から数日経ったとき、弟は言った。
―――「姉さん、俺は修行の旅に出ることにした」
何故、と問おうとして、すぐに理由は思い立った。
あの事か、と。結果的に何とかなったものの、自分の手によるものではなかったのだから。
悔しいと思っただろう。力及ばず、自分の身内が傷つけられるなど、幼いながらに熱血漢の片鱗を見せ始めていた彼は。
だから、思わず言ってしまった。
―――「気を付けて。ちゃんと、帰ってきなさい」
反対を受けると思っていたのだろう。だからか、彼は一瞬面くらったような顔をした。
そして、すぐに頬を緩めて言った。
―――「行って来る」
夏の晴れ空のような蒼い髪に、スターサファイアのような蒼い瞳をもった少年は、金色の光を放つ神剣を担いで、外に飛び出して行った。
372 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2008/10/27(月) 12:50:30 ID:eApyrE85
そして、帰ってきたとき、確かに彼は変わっていた。
10年に及ぶ修行の旅が彼に何をもたらしたかは分からない。
けれど、10年の年月は今までの幼かった彼に大切な何かを与えた。
それは力か、それとも老成された精神か。
しかし、私にはわかった。
根本の部分で、彼は変わってはいなかった。
大切なもの、大切なものを守りたいと思う心。
その芯の部分だけは、愚直なまでに変わってなどいなかった。
だから、安心して歓迎することができた。
―――「おかえりなさい」
と、そう言って。