15-192

Last-modified: 2009-01-06 (火) 22:57:03

192 名前: 雨の中で [sage] 投稿日: 2008/11/25(火) 01:34:30 ID:tPO9U14A
彼女の天馬が体調を悪くし、少し離れた病院に連れて行ったこと。
検査入院ということになり、翌々日迎えに行くことになっていたこと。
彼女の姉達は午後から用事が入っていたため、帰りは徒歩になっていたこと。
傘を持っておらず、雨が降ってきたので走っていたら躓き、その時に足を捻挫したこと。
その経緯を聞いて、ヘクトルはなぜ彼女がここに一人でいるかに納得した。

数分経った。
しかし、雨の勢いは治まらず、依然としてバケツをひっくり返したかのように降っていた。
さて、どうしたものか。と彼は少し悩んだ。
このまま一人で帰ることもできるが、フロリーナを置いて帰ることはできない。
かといって、彼女は今歩くことができない、というか歩かせるわけにはいかない。
思いつく限りで最善の方法は恐らくこれしかない、そう判断したヘクトルは突然立ち上がり、フロリーナに傘を手渡す。
そして、彼女に背を向けて座り込む。
「背負ってやっから、早く乗れ。・・・送ってやる。」
不器用な、でも力強い優しさ。
フロリーナは一瞬動きが止まった。戸惑ったのだろう。
そのあと、顔を微笑ませて、彼に応じた。
「よろしく・・・お願いします。」

ヘクトルがフロリーナを背負い、フロリーナは彼の背中にしがみ付きながら傘を持っていた。
そんな彼達の前方から一人の男が歩いてきた。
その男はヘクトルに気がついたのか、ヘクトル達に近づいてきた。
(ったく、何でこんなタイミングで・・・)
と、ヘクトルは内心毒づいた。今の状況は見られたくないのだろう、恥ずかしくて。
「あれ? 若様じゃないッスか、どしたんですか・・・そのお嬢さん。」
情報収集から鍵開けまでなんでもござれ、がモットーとか言っているが、
本編では力や守備が伸びにくくおじさんに鞍替えされるくせに
無駄にかっこいい場面が用意されている男、マシューだ。
しかし、前述したように情報収集能力は高く、
弱みを握られてしまったらあまり逆らいたくはない相手でもある。
(それでもマルスに比べたら怖くねェけどな・・・。)
そこで、ヘクトルはふと気がついた。
マシューはいろいろな物事に精通している。事情を話せば手伝ってくれるだろう、と。
「マシュー、ちょっとひとつ頼まれてくれ。」
「いいッスけど・・・なんすか?」
ヘクトルがいきなり頼みごとをしたからか、マシューは少し驚いた表情を見せた。
しかし、すぐに真剣な表情になった。頼まれごとは完遂したい主義なのだろう、とヘクトルは思った。

193 名前: 雨の中で [sage] 投稿日: 2008/11/25(火) 01:36:23 ID:tPO9U14A
時は初冬。冷え込みが厳しくなってくる時期。
「ついてねぇな・・・ったく」
主人公一家の一人、ヘクトルが呟くが、そう落ち込むのも無理はない。
彼の姉エリンシアが兄アイクの忘れ物を、珍しく一人だけ家にいた彼に届けに行かせた帰り、
これはまた珍しく雨が降ってきたのである。
一応エリンシアに傘を持っていくよう言われたので防ぐことはできる、が。
「んだよこれ、雨だけだったら台風なんじゃね? マジで・・・。」
そう、雨の勢いが半端ではなかった。
出かけついで、家から工務店の直線上の遠く離れたゲームセンターに行っていたのが敗因だ、と思った。
彼が格闘ゲームに熱中している間にかなりの時間が経っていたようである。
ふと時計を見ると、アイクの仕事がそろそろ終わるころだった。
しかし、雨は店の窓に叩きつけるように降っていたが、風はそれほど強くはなかった。
これ以上ひどくなる前にさっさと帰ろう。彼はそう思い、家路につく。

彼がしばらく歩いていると歩道橋に差し掛かった。
と言っても使うことはなく、風景と同等のそれをいつものように通り過ぎようとしていた。
が、今回は少し違った。
歩道橋の階段の陰にあるベンチに、見知った人物が座り込んでいた。
「あれ・・・フロリーナか。何やってんだ?」
フロリーナと呼ばれた少女は一瞬肩を震わせた後、ヘクトルの方を見やった。
その表情はいつもと違い、少し困惑しているようだった。
「ヘクトル・・さま?」
ヘクトルは力なく声を返す彼女を少し心配し、彼女に近づいた。
傘をたたみ、彼女の隣に座り込むヘクトル。

五分くらい経っただろうか、不意に彼は口を開いた。
「右足、捻挫してんだろ?」
フロリーナは驚いた顔を見せる。どうやら彼の言ったことは当たっているらしい。
それからまた少し経ったあと、彼女は。
「あの・・・、ヒューイが・・・。」
194 名前: 雨の中で [sage] 投稿日: 2008/11/25(火) 01:37:14 ID:tPO9U14A
彼女の天馬が体調を悪くし、少し離れた病院に連れて行ったこと。
検査入院ということになり、翌々日迎えに行くことになっていたこと。
彼女の姉達は午後から用事が入っていたため、帰りは徒歩になっていたこと。
傘を持っておらず、雨が降ってきたので走っていたら躓き、その時に足を捻挫したこと。
その経緯を聞いて、ヘクトルはなぜ彼女がここに一人でいるかに納得した。

数分経った。
しかし、雨の勢いは治まらず、依然としてバケツをひっくり返したかのように降っていた。
さて、どうしたものか。と彼は少し悩んだ。
このまま一人で帰ることもできるが、フロリーナを置いて帰ることはできない。
かといって、彼女は今歩くことができない、というか歩かせるわけにはいかない。
思いつく限りで最善の方法は恐らくこれしかない、そう判断したヘクトルは突然立ち上がり、フロリーナに傘を手渡す。
そして、彼女に背を向けて座り込む。
「背負ってやっから、早く乗れ。・・・送ってやる。」
不器用な、でも力強い優しさ。
フロリーナは一瞬動きが止まった。戸惑ったのだろう。
そのあと、顔を微笑ませて、彼に応じた。
「よろしく・・・お願いします。」

ヘクトルがフロリーナを背負い、フロリーナは彼の背中にしがみ付きながら傘を持っていた。
そんな彼達の前方から一人の男が歩いてきた。
その男はヘクトルに気がついたのか、ヘクトル達に近づいてきた。
(ったく、何でこんなタイミングで・・・)
と、ヘクトルは内心毒づいた。今の状況は見られたくないのだろう、恥ずかしくて。
「あれ? 若様じゃないッスか、どしたんですか・・・そのお嬢さん。」
情報収集から鍵開けまでなんでもござれ、がモットーとか言っているが、
本編では力や守備が伸びにくくおじさんに鞍替えされるくせに
無駄にかっこいい場面が用意されている男、マシューだ。
しかし、前述したように情報収集能力は高く、
弱みを握られてしまったらあまり逆らいたくはない相手でもある。
(それでもマルスに比べたら怖くねェけどな・・・。)
そこで、ヘクトルはふと気がついた。
マシューはいろいろな物事に精通している。事情を話せば手伝ってくれるだろう、と。
「マシュー、ちょっとひとつ頼まれてくれ。」
「いいッスけど・・・なんすか?」
ヘクトルがいきなり頼みごとをしたからか、マシューは少し驚いた表情を見せた。
しかし、すぐに真剣な表情になった。頼まれごとは完遂したい主義なのだろう、とヘクトルは思った。

195 名前: 雨の中で [sage] 投稿日: 2008/11/25(火) 01:37:57 ID:tPO9U14A

「こいつ・・・フロリーナが捻挫しててな。応急手当くらいならできるだろ?」
いつも喧嘩騒ぎばかりするヘクトルが、こんなことを頼むとは思わなかったのだろうか。
少し呆けた反応をした、がすぐにいつもの調子に戻った。
「了解っ! じゃ、ちょっと雨宿りできるところに行きましょうよ。」

近くにあった屋根付きのバス停の下に行き、ヘクトルはフロリーナをベンチに座らせ、自身も隣に座った。
フロリーナは傘をたたんでベンチに立て掛けた、マシューもそれに倣った。
「さてと・・・若様、ハンカチとか持ってないっすか?」
「持ってるぜ。いつもなら持ってねぇけど、今日は姉貴がうるさかったからな。」
「じゃ、それ貸してください。」
マシューはヘクトルからハンカチを受け取り、フロリーナの前に座り込んだ。
靴、脱いでくださいね。とマシューは言い、その間にハンカチを細長くたたんだ。
「それじゃ、フロリーナさん。ちょっと失礼しますよ」
「ひっ・・・。」
と、マシューが手を伸ばしたとたん、身体を強張らせるフロリーナ。
彼は疑問符を頭に浮かべ、ヘクトルのほうに振り向いた。
「・・・男性恐怖症ってリンが言ってたぜ。」
「じゃ何で若様にはべったりなんですか? ・・・まぁ、我慢してくださいよっと。」
答えが分かった問題を聞くまでもない、そう思ったマシューは手当を始める。
先ほどたたんだハンカチを、フロリーナの捻挫した足首を固定するようにあてがった。
保健の教科書に載っているような方法で応急処置を続けるマシュー。
実技テストだと高得点を貰えるだろう。
「・・・これでよし、と。これである程度は歩けると思いますよ?」
応急手当を終えたマシューは得意満面といった笑みを見せた。

「サンキュな、マシュー。」
「構いませんよ、若様。また困ったことがあったら是非言ってください。」
マシューはヘクトルに軽く頭を下げた後、傘を広げ立ち去って行った。
天気は相変わらずの土砂降り。収まることを知らないようである。
ヘクトルは変わらない雨模様にあきれ顔をしてガシガシと後頭部を掻いたあと、フロリーナに手を伸ばす。
「雨がもっと酷くなる前に、さっさと帰ろうぜ。」
目の前に差しのべられた大きな手をしっかりと握り、彼女は立ち上がった。
キツくなったら言えよ、と彼女の足を気遣いながら、彼はベンチに立て掛けていた傘を手に取る。

196 名前: 雨の中で [sage] 投稿日: 2008/11/25(火) 01:39:30 ID:tPO9U14A

が、彼は何かを思い出したか。焦りの表情を浮かべる。
「フロリーナっ! 今何時かわかるか?!」
切羽詰まった彼の様子に圧倒されかけたが、なんとか耐えきったフロリーナは
彼に自分が持っていた時計を見せる。
「やっべぇ! シグルド兄貴が帰るころだ! 急いで帰らねぇと間に合わねぇ!」
時間を確認したヘクトルは更に焦る。
尋常ではない焦りようにフロリーナは何事か、と頭の中が疑問符でいっぱいだった。
「ど、どうしたんですか、ヘクトル様?!」
「どうしたもこうしたもねぇよ! 今日はシグルド兄貴が焼き肉を喰いにに行くだとかで先週からアイク兄貴が殺気立ってんだ!
 ちょっとでも刻限に間に合わねぇと殺される!」
それを聞いた彼女は納得する。

グレイル工務店のアイクと言えば、泣く子も黙る(?)と言うほど肉が好きだということは周知のことだ。
焼き肉を食べに行く予定が少しでも遅れたら恐らくアシュナードやグレイルを圧倒するほどの戦闘力を発揮するだろう。
そんなアイクを相手にするというのはレベル1のウォルトがモルフウハイに挑戦するのと同じ、
いや、それ以上に無謀なことなのは一から十を数えることよりも簡単でわかりやすい。
「じゃ、じゃぁヘクトル様・・・早く帰ったほうが・・・。」
フロリーナは彼の身を案じ、早く帰るように促した。
本当は一緒に帰りたかったが、そんなことをしている場合じゃない。
そう感じた彼女なりの気遣いだった。
だが、ヘクトルはそれを聞いて困った顔をした。
ひどい土砂降りの中、傘を持っていない女性を一人置いていくことは薄情だと思ったからだ。
けど急いで帰らなければ自分の命が危うい。ルナ持ちドルイドを大勢相手にするよりも危険だ。
フロリーナを雨から守り且つ自分が生き残る方法。キーアイテムは傘。
一つの選択肢を見出したヘクトルは傘をフロリーナに手渡す。
「これ、貸しといてやるよ。心配すんな、俺は頑丈に出来てっからよ。じゃ、またな!」
フロリーナが口をはさむ間もないほど立て続けに話したあと、ヘクトルは走り去って行った。

彼女はポカンとした表情をしていた。
しかし、ヘクトルの背中が見えなくなったころ、
手渡された傘を見みるその表情はいつもより柔らかい笑みが浮かんでいた。