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Last-modified: 2011-06-07 (火) 23:29:30

281 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:47:07 ID:PggZw2i7
第4話 シレジア滅亡の危機(後編)

私は、兄上の部屋を出て、階段を駆け下る。
玄関のホールでは、すでに母上が支度を済ませていた。

ラーナ  「レヴィンはどうしたの?」
セティ  「逃げました」
ラーナ  「そ、そんな・・・ああ・・・」
セティ  「母上、お気を確かに。
      大丈夫です、私が時間内に必ず連れ出しますので、
      母上はお先に竜王家へ」
ラーナ  「わ、わかりました」
セティ  「ホーク、母上を竜王家へお送りしろ」
ホーク  「かしこまりました、ラーナ様、こちらへ」
セティ  「カリン、いるか!!?」
カリン  「は、はい、ここに」

―私が叫ぶと、シレジアに仕える天馬騎士、カリンが現れた。

セティ  「大至急、天馬を用意してくれ」
カリン  「既に用意はできております」
セティ  「そうか、では私たちも出発する」

―外に出て、カリンと共に彼女の天馬に乗る。

カリン  「それで、どちらに?」
セティ  「フュリーさんのアパートだ、大急ぎで頼む」
カリン  「了解、しっかりつかまっていてくださいよ!!」

―シルヴィアさんに会えない今、逃げた兄上が行くところといったら彼女の元しかない。

カリン  「セティ様、ここでよろしいですか?」

―10分後、アパートの前に到着した。

セティ  「君は少し待っていてくれ、すぐ戻る」

―天馬から降り、アパートの階段を駆け上る。
フュリー・・・シレジア四天馬騎士の1人で、兄上の恋人の「1人」である。
我々シレジア家とは幼い頃からの付き合いであり、
私やフィーにとっては姉代わり、いや、二人目の母といっても過言でない女性だ。
「っていうか、母親そのものだろ」というツッコミは勘弁して欲しい。
世代交代のあるユグドラルとエレブではどうしてもこういったズレが生じてしまうものなのだ。
目下、兄上にとっても本命と思われ、しょっちゅう彼女の家に転がり込んでいる。
もっとも、私もちょくちょく行っては愚痴を聞いてもらっているので人のことは言えないが。

セティ  「明かりはついている・・・やはりここか」

―彼女の部屋のドアの前に着いた。
ここで呼び鈴を鳴らしたら、確実に兄上は逃げるだろう。
彼女には悪いが、ここは奇襲だ。
ポケットから鍵をドアノブに差し入れ、ドアを開ける。
家族同然の我々のために、彼女がくれた合鍵だ。
一気に玄関から部屋に駆け込み、叫ぶ。

セティ  「あにうえええええええええ!!」
レヴィン 「セティ!?」
フュリー 「セティ、い、いくらなんでも、チャイムくらい・・・/////」

―予想通り、兄上はフュリーさんのところにいた。

282 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:48:28 ID:PggZw2i7
セティ  「兄上、急な仕事です。行きますよ」
レヴィン 「ま、待てって、お前・・・」
セティ  「拒否、言い訳は一切認めません」

―そういって兄上の腕を引っ張り、引きずって玄関に連れて行く。

フュリー 「セ、セティ、どういうことなの?」
セティ  「フュリーさん、申し訳ないですが、説明している時間がありません。
      これで失礼します」
フュリー 「え、ええ・・・」

―いくら家族同然の女性とはいえ、あまりに礼を欠いた振る舞いだったが、
あと30分以内に竜王家にたどり着かなければ、シレジアは滅亡するのだ。
だから、無礼を気にしている余裕はない。
そうだ、気にしてはいけない!!
私が踏み込んだ時、兄上とフュリーさんがベッドの中にいただとか、
なぜか2人とも裸だっただとか、
「あら、先に2人ではじめちゃったの?」と言いながら
姉のマーニャさんが浴室からバスタオル一枚で出てきただとか、
そんな些細なことは気にしている余裕は・・・ちきしょおおおおおおおお!!
わ、私なんて、未だにティニーの手すら握ったことないっていうのに・・・グス(涙)
今すぐこの放蕩兄貴を切り刻んでやりたいが、シレジア存続のためにこらえ、
ただただ引きずっていく。

レヴィン 「服ぐらい着せろって」
セティ  「引っ張られながら着てください」
レヴィン 「いくらなんでも無茶・・・って寒!!外めちゃくちゃ寒!!」
セティ  「火照った体と頭を冷やすのに丁度いいでしょ」
レヴィン 「凍死するわ!!」

―玄関を出て、階段を下り、カリンの元へ向かう。

カリン  「セティ様、時間がありませ・・・きゃあああああああ!!
      な、ななななな、なんて格好しているんですか、
      レヴィン様/////////////!!?」

―カリンが見たもの、それは、私に引きずられながらも、
かろうじてパンツだけは穿いた兄上だった。
風の王子もこうなると相当間抜けだが、彼女にとっては刺激が強かったらしい。

レヴィン 「だって、セティが有無を言わさず引きずるから・・・」
セティ  「兄上、残りの服を着てください、カリン、次は竜王家だ」
カリン  「は、はい///////」

―服を着た兄上と私が天馬に乗る。

セティ  「出発だ、急いでくれ」
カリン  「あ、あの、ひとつよろしいですか?」
セティ  「どうした?」
カリン  「レヴィン様、ああいう格好だったって事は、
      その、やっぱりフュリー様と・・・/////」
セティ  「カリン!!急いでるんだ!!!」
カリン  「は、はいいい!!」

―20分後、竜王家の前に到着した。

283 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:49:27 ID:PggZw2i7
セティ  「約束の時間の5分前・・・なんとか間に合ったな・・・」
ラーナ  「セティ、レヴィン、間に合ったのね」
レヴィン 「母上、聞きましたよ。またやっちゃったんですって?」
ラーナ  「う、うう・・・」
セティ  「兄上、今はそんなことを言っている場合ではありません。
      いいですか、今回の非はこちらにあります。
      徹頭徹尾、身を低くして謝罪をするのです。
      シレジアの存亡がかかっているので、
      軽率な言動は絶対に慎んでください、いいですね!」
ラーナ  「はい」
レヴィン 「へいへい」
セティ  「基本的には私が話しますので、余計なことは絶対に言わないように。
      もしも、何か軽率な言動があった場合、その都度チェックし、
      減点をしていきます」
ラーナ  「げ、減点?」
セティ  「減点1つにつき、来年の小遣い一か月分を没収、
      つまり、減点12になれば、来年のお小遣いは一切無しとなります」
ラーナ  「そ、そんな・・・」
レヴィン 「そりゃないぜ、マイブラザー」

―我が家の生活費は全て私が管理している。
妹はともかく、母や兄までそんな様で、シレジアは大丈夫なのかとも思うが、
こういうときの脅しとしては非常に有効である。

セティ  「ホークとカリンはご苦労だった、屋敷に戻って待機してくれ」
ホーク・カリン「わかりました」
セティ  「それでは参りましょう。
      いいですか、くれぐれも軽率な言動は慎んでください、
      シレジアの存亡がかかっていることを、決してお忘れなく」

―我々3人は、竜王家の門の前に立った。
そこには、竜王家に仕える12魔将の1人がいて、我々を出迎えてくれた。

アインス 「シレジア家の方ですね、本日はようこそおいでくださいました」
セティ  「いえ、こちらこそ、母の無礼な言動、誠に申し訳ありません」
アインス 「我が主がお待ちです、どうぞこちらへ」

―アインスの案内で、我々は竜王家の敷地に足を踏み入れた。
中庭から屋敷に続く道の両脇には、戦闘竜の人間形態がずらっと並んでいた。
おそらく、我々との戦争にあつめた者たちだろう。

レヴィン 「へえ~、こいつらが戦闘竜か・・・見た目は人間と変わらないんだな。
      お、結構美人もいるじゃん、お姉さん、これから俺とどう?」
セティ  「兄上、減点1」
レヴィン 「うぐ・・・」

―先が思いやられる・・・。

アインス 「主を呼びますので、しばらくここでお待ち下さい」

―我々は応接室に案内された。

レヴィン 「この屋敷には久しぶりに入ったけど、
      流石は紋章家一の資産家だな。
      うちの屋敷よりも豪華なんじゃないか?」
セティ  「そうですね、私も詳しくはわかりませんが、
      調度品や飾ってある絵画などは、相当高価なものでしょう」
ラーナ  「まあ、このお花、とっても綺麗。
      見たことないけど、なんてお花かしら・・・?」
セティ  「母上、無闇に触らない方が・・・」

284 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:50:34 ID:PggZw2i7
―パリーーーーーーン。
遅かった・・・母上が触った花と花瓶は床に落ち、派手な音を立てて割れてしまった。

セティ  「あーーーーーーー!!」
ラーナ  「きゃあああああああ!!」
ユリウス 「おい、なんの騒ぎだ!?」
セティ  「ユ、ユリウス・・・」
ラーナ  「えっと、あの、その・・・わ、割ってしまいました。
      も、もうしわけありません」
ユリウス 「騒ぐな、どうせ安物だ、あとで召使に始末させる」
セティ  「す、すまない・・・あとで弁償しよう、
      それと母上、減点1」
ラーナ  「ああ・・・」
ユリウス 「そんなことより、もうすぐじじい達が来る。
      あらかじめ僕達が説得しておいたから、徹頭徹尾謝ってご機嫌を取れ。
      そうすれば、少なくとも戦争は回避できるだろう」
セティ  「もとよりそのつもりだ、非はこちらにあるのだからな」
ユリウス 「特にそこの遊び人、余計な言葉は慎むんだぞ、
      じじいのご機嫌を損ねたら、もうフォローはできないからな」
レヴィン 「俺だけ名指し~?」
ユリウス 「お前が一番心配だからだ」
セティ  「何から何まですまないな、本当に感謝する」
ユリウス 「ふん、この年末に面倒なことを避けたかっただけだ、
      別にお前達のためじゃない※」

※注 ユリウス君がここまで協力的だった理由(↓)
~数時間前、竜王家~
セリス  「ユリウス、遊ぼう・・・
      って、あれ、な、なんでこんなに戦闘竜がいるの?」
ユリウス 「戦争の準備だよ」
セリス  「せ、戦争!!?ど、どこと!!?」
ユリウス 「シレジアだよ」
セリス  「レヴィンやセティのいるところと?どうして?」
ユリウス 「知らん、じじいが決めたことだ」
セリス  「ダメだよ、戦争なんかしたら。仲良くしようよ」
ユリウス 「僕には関係ない」
セリス  「そんなこと言わないでよ。
      ねえ、ユリウス、何とかして、お願いだよ!!
      (涙で潤んだ瞳、上目遣い、すがり付きの究極三連コンボ)」
ユリウス 「う・・・わ、わかった、一応じじいにかけあってやるよ」
セリス  「本当!!ユリウス、ありがとう!!」
ユリウス 「ば、ばか、抱きつくな!!!」

デギン  「そろわれているようだな」

―デギンハンザーが応接室に入ってきた。
それに続いて、ガトーとメディウスが入ってくる。

ガトー  「よくきたの、まあ、座ってくれ」

―テーブルを挟んで一方に我々シレジアの3人が、もう一方に三巨頭とユリウスが座る。
目の前に竜王家の三巨頭・・・こうしてみると圧巻だ。

レヴィン 「そういえば、竜王家の三巨頭って、まともに見たのは初めてだな。
      デギンハンザーねえ・・・確かに髪が足り・・・ぎゃあ!!」

―言葉を言い切る前に、私は兄上の尻を思いっきりつねった。

285 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:51:12 ID:PggZw2i7
デギン  「何か言いましたかな?」
セティ  「い、いえ、何も。それと兄上、減点2」
メディウス「減点?」
セティ  「こ、こちらの話しですので、お気遣いなく。
      そ、それよりも、我が母ラーナの軽率な言葉により、
      デギンハンザー様のお心を深く傷つけてしまったこと、
      深くお詫びいたします、誠に申し訳ありません」

―そう言って、私は深く頭を下げた。

セティ  「さあ、2人も」
ラーナ  「何も考えず、あのような事を申して・・・
      デギンハンザー様のお心を察することができませんでした。
      今回のことはいくらお詫びをしてもしきれません・・・」
レヴィン 「申し訳ありませんでした、
      母上に悪気はないのでどうかお許しを」
メディウス「うむ、どうやら3人とも反省をしているようだな」
ガトー  「デギンハンザーよ、ラーナ殿も悪気はなかったようだし、
      こうして謝罪もした。
      そろそろ許してやったらどうだ?」
デギン  「む、むう・・・」
ユリウス 「シレジアはフォルセティの末裔、すなわち、元は竜族、我々と同胞です。
      つまらないことでいがみ合うより、両家の発展のために協力をすべきでは?」
デギン  「わ、わかった、たしかにわしも大人気なかったな。今回のことは水に流そう」
セティ  「ありがとうございます、寛大なお心に感謝します」

―はあああああああああ・・・体の力が一気に抜ける。
な、なんとか滅亡の危機は免れた・・・。

デギン  「ところで、セティ殿、少し話しに付き合ってもらえんかな
      貴殿とは以前から話しがしてみたかった」
セティ  「ええ、喜んで」
ユリア  「あら、お爺様、どなたかいらっしゃってるのですか?」

―1人の少女が応接室に入ってきた、ユリアだ。

レヴィン 「よう、ユリア」
ユリア  「レヴィン様!」
レヴィン 「久しぶりじゃないか、しばらく見ないうちに美人になったな」
ユリア  「ふふふ、レヴィン様は相変わらずですね」
ガトー  「そういえば、おぬしら2人は知り合いだったの」

―そうだった、この2人、原作では親子同然だった。な、なんか嫌な予感が・・・。

ユリア  「幼い頃、レヴィン様にはよく遊んでもらいましたし、
      それに、勉強や魔法についてもいろいろ教えていただきました」
レヴィン 「そんなこともあったなあ・・・
      よし、これだけ美人になったのだから、
      今度は色々と大人の遊びも教えてやらないとな」
ユリア  「まあ、レヴィン様ったら・・・」
ガトー  「・・・」
メディウス「・・・」
デギン  「・・・」

―ま、まずい、三巨頭が明らかに怒っている。
せっかく機嫌を直してもらったのに、このままでは・・・。

ユリウス 「怒怒怒怒怒怒怒怒怒」

―ユリウスもだ!!こっちは、ロプトウス取り出して臨戦態勢になっている。

286 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:52:52 ID:PggZw2i7
デギン  「セティ殿」
セティ  「は、はい」

―デギンハンザーが身を乗り出し、周りに聞こえないよう、小声で私に声をかけてきた。

デギン  「正直なところ、わしは貴殿のことは評価している。
      しかし、貴殿の兄、レヴィン殿については別だ。
      当主としての責務を放り出し、放蕩の限りを尽くしていると、もっぱらの噂だが・・・」
セティ  「そ、そんなことはありません」

―嘘です。実際はそんなことあります、ありまくりです。

デギン  「特に、女癖が非常に悪く、
      何人もの女子を口説いては弄んでいるらしいな」
セティ  「ソ、ソンナコトハアリマセン。
      アニハタダ、ジョセイニヤサシク、シンシテキナダケデス」

―あまりに本音と違うため、口調も棒読みになってしまう。

デギン  「まさか、うちの孫娘もたぶらかそうと・・・」
セティ  「だ、断じてそんなことはありません。それは私が保証します」

―いくら兄上でも、妹(というより娘)同然のユリアに手を出したりはしないだろう。
し、しかし、この状況はまずい、非常にまずい。

セティ  「あ、あの、お手洗いをお借りしたいのですが・・・」
ユリウス 「部屋を出て、右の廊下をまっすぐだ」
セティ  「は、はい、では兄上、参りましょう」
レヴィン 「何だよ?男のトイレに付き合う趣味はないぞ」
セティ  「こなかったら減点10」
レヴィン 「お、お兄ちゃんも行きたくなっちゃったな~」

―応接室を出て、ドアを閉めると、私は兄上を睨み付けた。

セティ  「兄上、あなたは何を考えているのですか?」
レヴィン 「シレジアの未来のために、当主として何ができるかついて」
セティ  「嘘つけ!!あんた一回もそんなこと考えたことないだろ!!」
レヴィン 「ソンナコトナイヨ~イツモシレジアノコトデ、アタマガイッパイダヨ~」
セティ  「台詞が棒読みですよ、ってそんな場合じゃなかった。
      兄上、折角先方が機嫌を直したというのに、
      それをぶち壊すようなことは控えてください」
レヴィン 「え、俺、なんかした?」
セティ  「ユリアを口説いていたでしょう」
レヴィン 「馬鹿、ユリアは妹みたいなもんだぞ、フィーと一緒だよ」
セティ  「しかし先方はそうは思っていないのです。
      兄上のような人が女性に『大人の遊びを教える』なんて言ったら、
      誰だって不安になります」
レヴィン 「信用ねえな、俺。
      真面目に、一途に、誠実に、が俺のモットーなのに・・・」
セティ  「どの口がいうか!!どの口が!!」

―ほんの一時間前に裸の姉妹を侍らせてたくせに・・・。

レヴィン 「大体な、俺はガキには興味ないんだって」
セティ  「シルヴィアさんに手出したくせに」
レヴィン 「お前、それ、あいつの前で言ったら殺されるぞ」
セティ  「でも、実際、かなり年下の女性にも手を出してるでしょう?」
レヴィン 「そうでもないって。俺の好みはもっと、こう・・・」
???? 「もっと、こう・・・何ですか?」
セティ・レヴィン「!!!!!!」

287 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:54:11 ID:PggZw2i7
―突如、我々の後ろから声がした。
私と兄上が後ろを振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
ビロードの様な、くせのない紫色の長い髪、
一点の穢れもない純白の肌、
エメラルドとルビーを埋め込んだかのような、色の違う瞳、
この世のものと思えない美しさに、私も兄上も息を呑んだ。

???? 「あ、あの、すみません、驚かせてしまいましたか?」
セティ  「い、いえ、そ、そんなことはありません。
      あ、あの、失礼ですが、竜王家の方ですか?」
イドゥン 「はい、私、竜王家の次女、イドゥンと申します」
セティ  「これは失礼しました。
      私はシレジアのセティ、こちらは兄のレヴィンです」
レヴィン 「レヴィンだ、よろしくな」
イドゥン 「シレジア・・・確か紋章町の中でも最北端の地区でしたね」
セティ  「ええ」
イドゥン 「私、一度も行ったことがないんです。
      何でもこの季節は見事な銀世界だそうですね」
レヴィン 「同じ町だからたいした距離じゃないぜ。
      それなのに一度も行ったことないのか?」
イドゥン 「私、ずっとこの屋敷の中で育ちましたから、
      外の世界のことがほとんどわからないのです」
レヴィン 「ずいぶんな箱入だな・・・よし」

―兄上がイドゥンさんに近づいた。とてつもなく、嫌な予感がする。

レヴィン 「なあ、イドゥン、外の世界、見てみたいか?」
イドゥン 「え、あ、はい」
レヴィン 「よし、じゃあ、俺についてこいよ。
      今から色々と見に行こうぜ」

―やっぱり!!

セティ  「ちょ、ちょっと兄上」
イドゥン 「え、本当ですか!!?」
レヴィン 「ああ、シレジアだけじゃなく、
      色々と面白いものを見せてやるよ」
イドゥン 「嬉しいです」
レヴィン 「お、笑ったな。
      すました顔より、よっぽど可愛いぜ」
イドゥン 「レヴィン様・・・」
レヴィン 「レヴィンでいいって」
イドゥン 「はい、ではレヴィン、私を外の世界に連れて行ってください」
レヴィン 「ようし、早速出発だ!!」
セティ  「待ってください、兄上!!」
レヴィン 「セティ・・・」

―急に兄上が真剣な表情をする。

セティ  「な、なんですか、急に・・・?」
レヴィン 「俺の好みって言うのは、こういう人の事をいうんだ。
      ということで後は頼んだよ~」

―そういって、兄上はどこかから杖を取り出し、イドゥンさんにかざした。
すると、イドゥンさんは光に包まれ、その場から消えた。
間伐入れずに兄上は手を上にかざすと、兄上も光に包まれ、その場から消えた。
しまった、リターンの杖とリターンリングだ!!
こういうときだけ用意周到に立ち回りやがって・・・・。

288 :シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/30(火) 22:55:42 ID:PggZw2i7
???? 「・・・・・・イドゥンは、どこに行ったのじゃ?」
セティ  「・・・」

―不意に背中の方から声がするので、恐る恐る振り返ると、
そこにはこの世のものとは思えない闘気をまとった三巨頭が立っていた。

セティ  ( ゚Д゚)
ガトー  「レヴィンという男、紋章町でも指折りの女たらしだと聞いたが・・・」
メディウス「その男がイドゥンをたぶらかしたとは・・・」
デギン  「セティ殿、これはどういうことですかな?」
セティ  「え、いや、あの、これは・・・」
ラーナ  「もうレヴィンったら本当に手が早いんだから。
      この前もグランベルのお嬢さんに同じようなことを言って、
      結局朝まで帰ってこなかったのよねえ・・・」
セティ  「ははうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

―あ、あなたは、火に油を注ぐようなことを・・・!!

ガトー  「ほう・・・」
メディウス「そうか・・・」
デギン  「よくわかった・・・」
セティ  「あ、あの、こ、今回はそんなことはないので、ええっと・・・」
ユリウス 「はぁ~~~、セティ、あきらめろ。
      じじいどもの爺馬鹿ぶりは筋金入りだ。
      とくにイドゥン姉さんについてはな」
セティ  「ユリウス!!」
デギン  「セティ殿、我が竜王家は、只今を持ち、
      シ レ ジ ア へ 戦 線 を 布 告 す る !!」
セティ  「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

―そこから先は地獄だった。
まず、私は三巨頭を必死で説得し、イドゥンさん捜索のために紋章町中を駆け回った。
数時間後、エレブグランドホテルで兄上とイドゥンさんを発見、
幸い、まだレストランで食事中だったため、イドゥンさんの貞操は守ることができた。
ただし、兄上のポケットからはスイートルームの鍵が出てきたので、
間一髪であったのは間違いない。
シルヴィアさんに連絡し、兄上の身柄を引き渡した後、イドゥンさんを竜王家に送った。
イドゥンさんが無事だったこともあり、シレジアが多額の賠償金を支払うことを条件に、
なんとか三巨頭に許してもらい、宣戦布告は取消された。

セティ  「うう、なんでこんなことで、出費をしなければならない・・・」

―払えぬ額ではないが、会社に対して説明しなければならない。
なんと説明すればいい?
兄がナンパをした慰謝料ですと言えというのか?
ああ、もう、どうしよう・・・。
兄上と母上は一生小遣いゼロということだけは確実だが、
ほかの事は本当に頭が痛い。
会社への説明を考えなければならないし、
会計を修正しなければならないし、
地位を狙う親戚達にも、格好の材料を与えてしまったので
その対処も考えなければならない・・・。

セティ  「これは当分徹夜だな・・・」

とぼとぼと我が家に帰りながら途方にくれる私の頬を、
シレジアの北風が通り抜けた。
嗚呼、今日もシレジアの風が涙に沁みる・・・。

最終話に続く