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Last-modified: 2011-06-10 (金) 00:36:37

443 :助けて!名無しさん!:2009/01/12(月) 15:54:51 ID:NYIife2Y
話題になっていた武器人格有にチャレンジ。ギャグじゃないけどよろしく。
前スレ>>109よりネタを借りました。感謝!

あたしの名前はソール・カティ。太陽の剣。弟の名前はマーニ・カティ。月の剣。
私達は二振りで一対の、精霊の剣。弟は守りを、あたしは殺めを司る。
我等姉弟、リンディス様が刃なり――持ち主の力となり、守り、戦うことこそ武器の役目。
だけど、持ち主を守れる弟と違って、あたしは宿す力故にとても重たい。だから使われない。
今日も弟がリンディス様に携えられて出掛けて行く。学校、あたしも行ってみたいな。

-太陽の心-

 此処はリンディス様のお部屋。あたし達のように、他の武器たちも持ち主の部屋にそれぞれいる。
『お帰りなさい、マーニ』
 横に立て掛けられた弟にそう語りかけると、弟は嬉しそうにあたしに答える。
『ただいま姉さん! あのね、今日はヴォルフバイルと戦ったんだよ。
持ち主のヘクトル様にリンディス様が怒ってね、それはもうすっごくてさ!』
『へぇ、そうだったの? で、勝ったんでしょうね』
『当然! ボクと怒ったリンディス様に敵う人と武器なんてそういないよ!!
あぁでも、アルマーズ相手だとどうなるかなぁ。レギンレイヴとどっちが手強いかなぁ』
 ああ、なんて嬉しそうなんだろう。あたしも戦いたい。外でリンディス様の力になりたい。でもなれない。
弟の楽しそうな話が右から左へ流れていく。いつまであたしはこの四角い風景を見ていればいいの?
コンナアタシニソンザイイギナンテアルノ?

 夕食を食べ終わって、今日は宿題が多めにあるから早めに部屋に切り上げた。
得意でも不得意でもない理科を終えて一息ついたところで、後ろから戸を叩く音がした。
入っていいわ、と言えば入ってきたのはリーフだった。
「や、リン姉さん。武器余ってない?」
「・・・えーっと、細身の剣。使いかけで捨てられてたのが二本あったから拾ってきたけど」
「じゃあ一本頂戴」
 そういうので立ち上がりクローゼットを開けて、弓や剣を立て掛けている中の細身の一振りを取り出した。
すこし刃が欠けた程度だから、まだまだ使えるのに。どうして捨てるのかしら。
振り返るとリーフのいる入り口を向く前に、いつの間に部屋に入っている当人の姿が見えた。
「ちょっと、何勝手に部屋に入ってるのよ」
「・・・・・・・・・・・・んだね」
「え?」
「リン姉さん、ソール・カティだけ使ってないでしょ」
 そこにあったのは、私だけが扱うことを許されているという二振りの剣。
確かに殆ど使わないし、最近手入れをしてなかった気もする。だけど、それが一体どうしたっていうの?
「僕はね、どんな武器にでも心があると思うんだ。
武器に限らず、どんなものにも役目を全うしたいって気持ちはあるんじゃないかな。
だから僕は使えるものを捨てる輩は嫌いだ。姉さんは逆に、今日そういった物を救った人。
でもさ、こうやって使わないなら捨てている人と同じようなものだよ」
 心に何かが突き刺さった気がした。
「そう言われても、ソール・カティは重過ぎるのよ。それに手入れだってきちんとしているわ」
「コレは武器だよ? 模造刀みたいに見た目で人を喜ばせるのが仕事じゃない。
使ってもらってこそ武器としての価値が出るのに、武器が可哀想だ」
「っでも、言ったじゃない。重いって――」
「・・・・・・・いいよね、リン姉さんは。
こうやって世界に二つとない名刀を二振りも持って、選べるなんて」
「!」
 ああ、そうだ。確かにそうなんだ。うちには沢山名器が遺されていた。
皆当たり前のように使うけど、使えない兄弟も確かにいるのに。
今目の前にいるリーフも、セリカもそうだし、セリスもティルフィングは基本的にシグルド兄さんの物だ。
「ごめん、なんか色々と言っちゃった。それじゃあ、僕は部屋に戻るよ」
 呆然としつつリーフに剣を渡し、戸を閉めたのを見てから部屋のベッドに一人腰掛けた。
皆が普段使う、レイピアを始めヴォルフバイルやレギンレイヴ、リガルソード。
それらとマーニ・カティは異なる。ソール・カティと共に、どちらも精霊の加護を受けた剣と聞いた。
そんな剣を私は選べている。当たり前だった。当たり前じゃないのに。
ソール・カティは私のための剣としてずっと傍にあったのに。

444 :助けて!名無しさん!:2009/01/12(月) 15:56:10 ID:NYIife2Y
 今日、リンディス様はあたしを部屋の外へ持ち出してくださった。嬉しいと同時に、驚いた。
昨日だってあたしのことを重い重いと仰っていたのに、一体どういうことなのだろうか。
辿り着いたのはこの家の前。外に出るなんて、一体いつが最後だっただろう。
「――――持ち上げることは出来るでしょう?」
「まあ、ね。で、どうやるの?」
 聞こえてくるのはリンディス様と、その姉君エイリーク様の御声。
エイリーク様はこれまた兄君のアイク様からラグネルを受け取り、振る動作を見せる。
ラグネルはこの家の武器たちの中でも気高く、しかし美しい方だ。
華麗に、次々と共に舞う。エイリーク様の御髪が揺れ、ラグネルの金色の刀身が美しく光る。
あたしも、彼女のように、リンディス様と共に・・・・出来るのだろうか。
『貴女が主を信ずる限り、私のように戦うことは不可能ではないよ』
『え、ら、ラグネル?』
『さぁ、もう行くようだ。ソール、いつか戦える日を楽しみに待っている』
「じゃあ、ちょっと庭で練習してくる」
 女性の優しい口調ながら、いかにも武人らしい言葉が嬉しかった。
家の横を周り庭先へ出て、抜き身になったあたしをリンディス様は振るった。
まだまだ重たさに慣れなくてぎこちないけど、共に舞えている。

『姉さん、良かったね』
 ボクは守りの刀だ。主を守るため、主の守りたいものを守るために存在する。
だけどただ守っているだけじゃ守りきれないこともあるんだ。
その分姉さんは強い力を持つから、使いこなせば何だって倒せて、何だって守れる。
だからリンディス様には、姉さんも使ってほしかった。
主のために振るわれることが、僕らの役目だ。

あたしだって不可能じゃない。リンディス様と一緒に戦える。
この方が努力をしてあたしを振るってくれるなら、あたしはどんな敵をも切り伏せてみせる。
あたしは主を信じ、共に戦おう。

私が努力をすれば不可能じゃない。ソール・カティと共に戦える。
この剣が私のために存在してくれているなら、その力を存分に使わせてもらうわ。
私はこの剣を信じ、共に戦おう。

    彼女が、自分のために在ってくれる限り。