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Last-modified: 2011-05-30 (月) 23:31:17

「ミカヤ姉さん、ちょっと頼みたいことがあるんだけどー・・・」
と、遠慮がちに兄弟家の末っ子、ロイは尋ねた。
何かしら、とミカヤは畳んでいた洗濯物を籠に入れ、ロイの方に振り返る。
そこには、何かを案じている顔があった。
これは急を要する内容かしら、と不安に思った。

「犬を拾っちゃって・・・、少しの間、世話できないかな?」
それを聞いてから、彼女は初めてロイの足元の犬の存在に気付いた。
何の命令も出していないのに、物音ひとつ立てず大人しくしているということは、
飼い犬なのかしら。
頭の隅でそんなことを考えながら、彼女は彼に問う。
「少しの間、というのはどういうことかしら」

それを聞いたロイは眼をパチクリさせた後、一拍置いて質問の意味を理解した。
「えっと・・・この犬、多分飼い犬だと思うんだ。だから飼い主さんが見つかるまでの間、
世話をしてあげたら飼い主さんも安心かな、と思って・・・」
成る程、この子らしい。
大切に扱われていたと知ったら、飼い主もさぞ安心だろう。

「そういう理由なら、世話をすることを許します。
ただし、シグルドやアイクにも家に置いていいか聞くこと。
あの二人が実質、我が家の財政を支えているんだから。わかった?」
いろいろと細かいところまで気の利く彼に言う必要もないだろうけれど。
そんなことを思いながら聞いてみた。

返ってきたのは満面の笑みと、ありがとうの言葉。
その笑顔に心が暖かくなる。道理で何人もの女性が惚れてしまうわけだ、と。
人の感情の機微には気づきやすいのに、なぜ恋愛に関しては朴念仁なのだろうか。
しかし、これは我が家共通の問題なのだ、と諦めることにする。

「ただいまー」
と、マルスの声が聞こえた。
軽い足音とともに近付いてくる気配。
少し急いだ様子だけれど、大事な用事があるというわけではないだろう。
扉が開くとともに、声が発せられた。
「喉がカラカラだ・・よ・・・」

なぜかそこで言葉を失った弟を見やると、なぜか青ざめる表情。
マルスの視線の先にはロイ、もといロイが抱えている犬。
「う・・・うわああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
一拍置いてから、大声をあげて逃げ出すマルス。
呆気にとられる私たち。
「・・・なんで?」
ロイが私の方を向いて疑問の言葉を漏らす。無理もない。
マルスは動物が嫌いではないはずなのに、大声をあげてまで逃げるなんて・・・。
「・・・どうしたのかしら?」

「どうしたんだ、マルスは・・・」
開け放たれたままの扉から、アイクが呟きながら入ってきた。
先ほどマルスが大声をだしたせいで帰ったことに気付かなかったのだろう。
「あら、おかえりなさい、アイク」
「おかえり、アイク兄さん」
ロイが振り返った瞬間、アイクが少し冷や汗をかいたように見えた。
正確にはロイが抱えている犬を見た瞬間、だけれども。
「・・・なるほどな」
と、一人だけ合点がいった様子を見せた。
私たちは理由がさっぱりわからない。
「どういう意味なの?」
と私は尋ねた。

「ロイが抱えている犬はな・・・」
と、ちょっと時間をおいてアイクがしゃべり始めた。
その声にはいつものような張りがなかった。
二人ともそんなに苦い思い出でもあるのかしら。

「俺とマルスが出ている大会、スマブラに出てくるアシストの犬なんだ」
謎はすべて解けた。

「なんであいつ此処にいるんだああああぁぁぁ!!!
畜生! スマボが出たときにいつも出やがって!
赤ヒゲおやじに燃やされたり、電気ネズミにしびれさせられたり
どこぞのおっさんに爆撃されたり、戦車で引かれたり
流星群をぶちかまされたりする身にもなってみろおおぉぉぉ!!!」
階上から、マルスのそんな悲鳴が聞こえてきた気がした。