2-155

Last-modified: 2007-06-15 (金) 22:32:07

ルネスの仮面騎士

 

 ~ルネス女学院の放課後、校舎裏~

エイリーク 「ターナ」
ターナ   「はい? どちら様……って、あー、ひょっとして、エイリーク?」
エイリーク 「そうよ……どうしてそんなことを聞くの?」
ターナ   「んー……や、何か雰囲気変わってて一瞬誰だか分からなくて。それ、演劇の衣装?」
エイリーク 「ええ」
ターナ   「男の人の格好なのね……髪も三つ編みにしてるし」
エイリーク 「遍歴の旅の途上にある騎士、という設定だから」
ターナ   「ふーん……ひょっとして、結構気障っぽい感じの騎士?」
エイリーク 「ええ、そうだけど……よく分かったわね?」
ターナ   「三つ編みだからね……無骨な騎士だったら適当に縛るか流しっぱなしにするかだと思うし」
エイリーク 「そう。だから、髪も三つ編みにしようと……本当は切った方がいいと思うんだけど」
ターナ   「駄目よそんなの、折角綺麗な髪なのに、もったいない」
エイリーク 「ふふ、ありがとう」
ターナ   「……それで、その格好のまま、何をしにこんなところまで?」
エイリーク 「ちょっと、演劇部の物置に、小道具を取りに来たの。わたしでなければ分からないものだから」
ターナ   「そうなんだ。小道具って、その仮面?」
エイリーク 「ええ。仮面はいくつもあって、似たようなデザインのものも多いから」
ターナ   「なるほどね……ん?」
エイリーク 「どうしたの……? あちらの方から声が聞こえるわね」

アメリア  「は、離して、離してったら!」
ゲブ    「ぐふふぅ……お前ルネスの新入生だなぁ」
ブラムセル 「おうおう、少々色気には欠けるがなかなか可憐な出で立ちではないか」
レイドリック「ふふふ、だが少し肉付きが足りんな……どれ、我々が連れ帰ってじきじきに調べて」
アメリア  「いやーっ! けだものーっ!」

ターナ   「……この学校の警備は一体どうなってるのかしら」
ラーチェル 「仕方ありませんわ。リワープやワープで侵入されたら防ぎようがございませんもの」
ターナ   「ラーチェル!? あなた、いつの間に!?」
ラーチェル 「ふふん、滅ぼすべき悪あるところなら、麗しの絶世美王女ラーチェル様はいつでもどこでも現れるのですわ」
ターナ   「……相変わらずよく分からない理屈……まあいいわ、とにかく、早く助けに入らないと」
エイリーク 「そうね、見過ごす訳にはいかないわ」
ラーチェル 「んー、でも、それもまた難しいお話ですわね」
ターナ   「どういうこと?」
ラーチェル 「ここは由緒正しきルネス女学院。いくら変質者相手でも、暴力事件を起こしたらいろいろと面倒なことになりますのよ」
ターナ   「そんな……それじゃ、見過ごせって言うの!? 今から警察呼んだって間に合わないし、先生呼ぶ暇だって」
エイリーク 「……考えがあります。ラーチェル、わたしをあそこにワープさせていただけますか?」
ラーチェル 「彼らのすぐ近くの……校舎の屋上ですの? 一体どうなさるおつもり?」
エイリーク 「説明している時間はありません。すぐにお願いします」

アメリア  「触るなーっ! 離せーっ! 変態ーっ!」
ゲブ    「ぐぶぅ……ええい、抵抗するなというのにぃ」
ブラムセル 「ぐふふ、なに、暴れる女を組み伏せるのもまた一興……」
レイドリック「いかにも。さて、それではさっさとリワープで逃げると」
???   「お待ちなさい!」
ゲブ    「だ、誰だぁ?」
ブラムセル 「というか、どこだ?」
レイドリック「む、あそこの屋上に……!?」
仮面の騎士 「そのレディから手を離したまえ、悪党ども!」
ゲブ    「時代錯誤な格好をぉ」
ブラムセル 「だ、誰だ、何者だ!?」
仮面の騎士 「貴様らに名乗る名はない! はっ!」
レイドリック「ば、馬鹿な、あの高さから飛び降りただと!?」
仮面の騎士 「(スタッ)さあ、その汚らわしい手を離すがいい。
         それとも、そちらのレディに私の剣の冴えを披露させてくれるのかな?」
ブラムセル 「おのれ、気障ったらしい台詞を……」
ゲブ    「やっちまうぞぉ」
レイドリック「ふん、三対一で勝てるものか、馬鹿め!」

 レイドリックの言葉どおり、三対一の戦いでは結果は見えているかに思われた。
 しかし仮面の騎士は洗練された素早い動きで三人を圧倒し、危なげなく自分への攻撃を避けながら、
 着実に敵だけに手傷を負わせていく。終いにはボロボロの三人と無傷の仮面の騎士が向き合う結果となった。

ゲブ    「ぐ、ぐぶぅ……」
ブラムセル 「つ、強い……」
レイドリック「ええい、今日のところは退散だ! 覚えておれよ!」
仮面の騎士 「ふっ、品性に欠ける連中だ……」
アメリア  「あ、あの……」
仮面の騎士 「ああ、これは失礼。お怪我はありませんか」
アメリア  「は、はい、おかげさまで」
仮面の騎士 「そうですか、それは何よりです。万一、あなたの可憐なお顔に傷でもつこうものなら、
       私は彼らを絶対に許さなかったでしょう」
アメリア  「か、可憐だなんて……あの、ありがとうございました、危ないところを助けていただいて」
仮面の騎士 「お気になさらず。騎士として当然のことをしたまで」
アメリア  「じゃ、じゃあ、せめてお名前だけでも……!」
仮面の騎士 「(アメリアの耳元で)申し訳ありません、故あって名を明かすことは出来ないのです、レディ」
アメリア  「はう……」
仮面の騎士 「ですが、そうですね……リゲル、とでも名乗っておきましょうか」
アメリア  「リゲルさま……」
仮面の騎士 「ええ。お困りであればいつでもお呼びください。では失礼、レディ(消える)」

エイリーク 「……ふう、何とかなりましたね。ラーチェル、お手数おかけしました、レスキューまで使って頂いて」
ラーチェル 「……いえ、それは別に構いませんけれど……」
ターナ   「……エイリーク、ちょっとニ、三聞きたいんだけど。まず、何であんな派手な登場を?」
エイリーク 「あの子が人質に取られては困ると思って……あれだけ目立つ登場をすれば、自然とこちらにだけ意識が向くでしょう?」
ターナ   「なるほど。リゲルって言うのは?」
エイリーク 「仮面の騎士は星の名前を名乗るのが決まりなのだと、以前マルスから力説されて……」
ターナ   「何それ……まあいいわ。じゃ、最後。あの気取った台詞回しはなに?」
エイリーク 「あ……衣装を着ているせいかしら、つい役柄が出てしまったようで……
       以前セリスと一緒にアニメを視聴したときに、同じような性格の騎士が登場していたので、それを参考に」
ラーチェル (……役にのめりこみすぎじゃございませんこと?)
ターナ   (まあね……って言うか、さっきのはいくらなんでも気障すぎ……わたしだったら笑ってたかも)
ラーチェル (でもほら、さっきの子をご覧なさいな)

アメリア  「……」

ターナ   (……わっ、まだあそこに立ち尽くしたままぽわーんとしてる)
ラーチェル (あれは完璧にハートを撃ち抜かれてますわね……)
ターナ   (古風な少女漫画みたいなシチュエーションに弱い子なのかもね……)
エイリーク 「あの……二人とも?」
ラーチェル 「ん……ま、まあ、ともかくよかったですわね、学院の平和が守られて」
エイリーク 「はい……と言っても、正体がばれては困りますから、この衣装と髪型はもう使えませんが」
ターナ   「そうねー……確かに、演劇部では使えないかもね」
エイリーク 「? 他に使う機会などないでしょう?」
ラーチェル 「……いえ、多分、また使う機会が巡ってくると思いますわ。それも何度も」
エイリーク 「??」
ターナ   (……しっかし、声とか変えてないのにばれないとはね)
ラーチェル (仕方ありませんわ。エイリークは少々その、起伏に欠ける体つきですもの……)
エイリーク 「……? 二人とも、何の話を……」
ターナ   「なんでもない、なんでもない。さ、帰りましょ」

 ~翌日、ルネス女学院生徒会室にて~

ラーチェル 「……やっぱり載ってますわね、学院新聞に……いつもながら仕事が早いものですわ」

 やたらと豪華な執務机の上に広げられた新聞部発行の新聞には、
 「仮面の騎士現る!?」という見出しが躍っていたりする。

ラーチェル 「……この麗しの絶世美王女を差し置いて……と言いたいところですけれど、今回ばかりはエイリークに同情ですわね。
       『困ったことがあればいつでもお呼びください』ですもの、この妙に事件が多い学院、きっと大忙しですわ」

 言葉の割にラーチェルの口調は楽しげであり、その顔には上機嫌な笑みが浮かんでいる。

ラーチェル 「ふふ、これでまた一層学院生活が楽しくなりそうですわね。
       そうと決まれば、またワープとレスキューの杖をたくさん用意しておきませんと。
       あ、事件が起きたのをすぐに察知するために、精霊で学院中を常時監視させるのもいいかもしれませんわ」

 こうしてこの日以来、「仮面騎士リゲル」は、学院七不思議の一つとして数えられることになったのである。
 懲りずに侵入してくる変質者と戦いを繰り広げたり、エイリーク目当てで学院を訪れたヒーニアスと決闘する羽目になったりと
 大忙しだったが、エイリークが卒業するまで、その正体がばれることはなかったそうな。

<おしまい>