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Last-modified: 2011-05-31 (火) 03:14:03

390 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:43:38 ID:v4VtqQxp
断末魔の叫びがあがった。
その声の主は幾度となく意識が飛ばない程度であり且つ重い一撃を受け続けていた。
しかし、物には限度というものがある。
次第に耐えられなくなり、ついには力尽きてしまった。

いわば拷問に近い行為を行っていた数人のうちの一人が呟く。
「これで・・・少しは懲りたかしら?」
言葉を紡いだ後、他の仲間に振り替える。
彼女の周りには、魔法書を携えた少女が二人と傍観者が一人。
「まったく・・・何で私たちの気持ちが分からないんだろう、リーフは」

毎度おなじみの処刑タイムのせいだと思います。
と、断罪されたリーフ以外の家族は思うだろう。
彼女らの行為は、彼女らにとって「小学生男子が好きな女子のスカートをめくる」程度の認識なのだ。多分。
が、リーフにとっては「自分をいぢめることに対して快感を見出している」にしか成り得ない。
彼が「甚振られることに快感を見出せる」人種になれば話は変わるかもしれないが・・・。
それは到底無理な話だろう
断罪して少し落ち着いたのか飽きたのか。彼女らは各々の武器を収め、帰路についた。

391 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:44:39 ID:v4VtqQxp
「あいたたた・・・」
処刑が執行されてから数十分、身体を襲う痛みと闘いながら彼は立ち上がった。
毎度のことであるのだが、慣れることはないこの苦痛。
どうしてこんな目に遭うんだろう。そう思わない日はない。
(・・・そうだ、発想の転換だ)
今こうやって辛い目に遭っていたら将来は多分そんなに酷い有様にはならない。
と、いうか。そう考えないとやっていけない。
まだ悲鳴をあげる身体に鞭打って、帰路につこうとした。

「リーフ様ぁ!」
誰かが彼の名前を叫んだ。聞き覚えのある声に身を竦ませ、振り返る。
そこには見慣れた少女、ティニーの姿があった。走ってきたため、少し汗ばんでいる。
声に反応して少し竦んだが、自分の呼び方、そして走り寄ってきたときの表情を見て
何かしら事件が起きたということをぼんやりとだが認識できた。
どうしたの、と尋ねようとする前に彼女はリーフの胸に飛び込んだ。
悲鳴を上げている身体に突撃されたため、苦痛で一瞬顔を歪めた。
が、その苦痛はすぐに意識の外へと追いやられる。

392 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:45:49 ID:v4VtqQxp
「ナンナとサラ、ミランダが・・・山賊にさらわれました・・・!」
「・・・へ?」
リーフは一瞬耳を疑った。
先ほどまで元気に自分を甚振っていた彼女たちが何故、どうして?
彼女たちの所持品から考えると、山賊の一個小隊程度は数秒のうちに地に伏していても可笑しくないはず。
と、そこまで考えてからすぐに結論に行き着いた。
今日の折檻は普段よりも少し長いし威力が強かった気がする。
つまり、これらから考えるに。
(・・・へとへとになって抵抗できないところを誘拐されたってわけか)
そりゃ普段でさえも刑を執行した後は少し疲れてるってのに、長時間続けてたら疲労困憊にもなります。
しかし、そんなことを悠長に考えている場合でもない。
「大丈夫、なんとかする」
と、ティニーに呟いた後、リーフは丸腰のまま走り出した。

窃盗集団「緑葉」はあの兄、マルスでさえも掴みきることのできなかった賊同士の独自の繋がりがある。
しかし、それは全ての賊の間にあるものではない。
「緑葉」のリーダー、リーフが信頼を置けると、悪人以外に窃盗等犯罪を犯さないと、
そう思った集団にのみその話は伝えられる。
つまはじきにされた集団は敵対するものとみなし、アジトの位置および組織の概要をグループ内で共有する。
リーダーとしてその情報の全てを把握しているリーフは、
現在地点に最も近い敵対集団のアジトの位置をその頭にインプットしていた。
(ここらの山賊に誘拐されたとしたら、あそこしかない・・・!)
全速力に近い走りで、リーフは目的地へと急いだ。

393 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:46:34 ID:v4VtqQxp
程なく、目的地へとたどり着いた。
山の麓の洞窟に構えられたアジト。正攻法では攻めるに難く守るに易い。
入口には見張りの山賊がいる。並みの人間なら彼らを見た時点ですぐに逃げかえる。
しかし、リーフは臆することなく彼らの前に飛び出した。

「な、なにもんだ?!」
勢いよく飛び出してきた不審者に見張りは持っていた手斧を構える。
それ以上近づくな、そんな意味を持つ威嚇に構わず、リーフは見張りの方へと歩んでいった。
見張りが手斧を放った。
回転しながらリーフの方へと飛んでいく、直撃したら痛いどころではない。
しかし、リーフ飛んできた手斧の動きを見切り、その柄を掴み投げ返した。
一瞬何が起きたか分からなかった見張りは反応が一瞬鈍り、避けることができなかった。
投げ返された手斧によって倒れる。
「・・・これ、借りてくよ」
昏倒した見張りから鉄の斧を奪い、単身アジトへと乗り込んだ。

アジトの内部では困惑が発生していた。
襲撃があった。ガキが一人だ。すでに何人かやられている。
突然の襲撃に紛糾する山賊団。
今こうやって焦っている間にも、確実に団員が悲鳴をあげ、倒されている。
身代金目当てに誘拐した少女らの牢の前、そこに全勢力を集結させるよう、山賊頭は命じた。

394 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:47:36 ID:v4VtqQxp
「っナンナ!サラ!ミランダ!」
汗にまみれた状態で、リーフは叫んだ。
アジトを虱潰しに探して回ってみようとしたところ、比較的早くに発見することができた。
だが、スリープ状態にでもあるのだろうか、彼女たちは昏倒している。
そして、彼女たちが入れられている牢の前には臨戦態勢にある山賊がざっと十人ほどいる。
自然と斧を握る手に力がこもる。

山賊たちの中で、頭と思われる男が声を上げた。
「野郎ども!やっちめぇ!」
その声を聞いた山賊は前から、右から、左からと、一斉にリーフに飛びかかった。
しかし、そんな人海戦術は今のリーフには何の功も為し得なかった。
山賊たちが一斉に斬りかかったと思った瞬間に、彼らの目前からリーフの姿が掻き消えた。
と、同時に瞬く間に崩れ落ちていく山賊。
目で捉えきれないほどのスピードで攻撃を避けながら、山賊たちに重い一撃を加えていたようだ。
自分よりもずいぶんと若い、年端のゆかない少年の動きに呆気にとられた頭に、
リーフは鋭い目と、奪った鉄の斧を向ける。
「後は、アンタだけだよ」

しんと、静けさが広がった。部屋のほぼ端と端で向かい合う両雄。
だが、両者には精神面で圧倒的な差があった。
一人は自分の集まりがたかがガキ一人にのされてしまったという恐怖を持ち、
もう一人は知り合いをその集まりに攫われたという怒りを持っている。
頭である大男の顔を、冷汗が伝う。
その汗は、頬を伝い、顎に伝い、一滴の雫となり、落ちた。
それを口火にか、両者共に地を蹴った。
ギィン、と激しくぶつかり合う金属音が響く。
「てめぇの正体・・・ようやくわかったぜ・・・っ!リーフだな・・・?」
鍔迫り合いの中、振り下ろしの形で入った大男には幾分かの余裕があった。
「だとしたら・・・どうだっていうんだっ?!」
打ち上げる形になったリーフは攻撃を横にいなし、間合いを取る。
大男も同様に間合いを取った。

395 :護る意志、揺るがぬ思い:2009/08/26(水) 22:48:38 ID:v4VtqQxp
「てめぇはあの娘どもにいつもひでぇ目にあわされてんだろ?なぜ助けようとする?!」
大男はキラーアクスを振りかぶり、リーフに斬りかかった。
大きく横に薙ぐ一閃。
リーフはそれをバク転でかわし、さらに間合いをとった。
「確かに、彼女たちはいつも僕を虐げる。度が過ぎるほどにね」
そう呟いた瞬間、鉄の斧を手斧のように投げつけ、同時に間合いを詰める。
思いがけない攻撃に大男は思わずキラーアクスでこれを受ける。
不可解な攻撃を弾いた、そう思った、と同時に大男は首に違和感を感じた。
(これは・・・足・・・?まさか?!)
そこまで考えた直後、大男の意識は暗転した。

自分の武器を囮に自分から意識を逸らせ、相手を飛び越えながら足で首を挟み、相手の頭を地面に叩きつけた。
リーフ自身、こんな動きができるとは正直思っていなかった。結果オーライ。
立ち上がり、服についたほこりを払う。
「でもね、どんなことがあろうと、僕は友を、知り合いを、幼馴染を傷つけるもの誰であろうとは許さない」
地に臥す大男を見下し、力のこもった口調で言い捨てた。

後日。
テレビにひとつのニュースが流れた。
少女三人が山賊に連れ去られた、とベルン警察署に匿名の連絡が入った。
署長ゼフィールはこれは一大事だとすぐに連絡にあった場所に向かったが、
そこに居た山賊たちは何者かの襲撃に遭っており、全員が気を失っていた。
しかも、ご丁寧に縄に縛られた状態だった。
山賊たちは口をそろえて「ガキにやられた」と証言しており、
頭であると目される男は頭を強打したためか、襲撃に遭った当時の記憶を失っている模様である、と。

「可笑しなこともあるもんだなぁ・・・」
長兄、シグルドは呟く。
このニュースの主役は、彼の目の前でのんびりと煎餅を咥えているのだが、
誰一人としてそれに気付く者は居ない。