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Last-modified: 2007-07-08 (日) 00:39:54

今日の僕らの晩御飯!

 

 占い師『銀の髪の乙女』は毎日全く違う場所に出没し、また自らの存在を殊更に強調することもない。そのた
め、彼女の占いの正確性に反して、その知名度はかなり低い。
 にも関わらず、その日はたまたま客が多かったために、帰りがかなり遅くなってしまった。
 「ミカヤは俺が護る」と常日頃から宣言しているサザに付き添ってもらって、彼女が楽しい我が家に帰ってき
たのは、もう空が赤く染まりつつある夕暮れ時であった。
「ごめんねサザ、こんなところまで」
「いや、別にいい。どうせ、一人暮らしだしな。遅くなったって、別に問題はない」
 いつも通り澄ました顔で答えるサザに「そう」と答えたあと、ミカヤはふと名案を思いついて手を打った。
「そうだ、今日はウチで食べていかない?」
「晩飯か? だが、こんな突然じゃ、迷惑じゃないのか?」
 無愛想な割に妙に気を遣うサザに苦笑しながら、ミカヤは気楽に手を振った。
「大丈夫よ。ウチはお客様はいつでも大歓迎だから」
 と、言ってやってもサザはまだ少し躊躇っていたが、結局は遠慮がちに頷いた。
「じゃあ、悪いが上がらせてもらう」
「ええ、どうぞ。一人暮らしじゃ、おいしいものもなかなか食べられないでしょう?」
「いや、最近のコンビニ弁当はなかなかバリエーションが豊富で」
「体に悪いわよ、そんなの。少しは健康に気を使いなさい」
 いかにもサザらしい答えに、軽く忠告しながら、ミカヤは石の門柱をくぐって玄関に続く敷石の上を歩き始め
る。後ろからついてきたサザ、ふと呆れたようにこう漏らした。
「相変わらず馬鹿でかい家だな」
 ミカヤは、楽しい我が家を見上げながら目を細めた。
「アイクが頑張ったからね」
「いろんな建築様式がごっちゃになってて全然統一感がないし」
「アイクが頑張ったからね」
 サザの指摘は全て的を得ているので、ミカヤとしては苦笑するしかない。
 彼の言うとおり、主人公家は周辺の家と比べてもかなり巨大で、その上かなりゴチャゴチャとした統一感のな
い作りである。これは、元々土地が広かったのに加えて、工務店員となったアイクが、職業訓練と称して兄弟の
望みどおりに増改築をしまくったためだ。おかげで、兄弟の数が多いにも関わらず一人一人に部屋があるし、ピ
アノやヴァイオリンの練習をするエイリークの部屋にはほぼ完璧な防音設備が施してあったりもする。他にも、
シグルドの指示でかなり離してあるアルムとセリカの部屋を直通の隠し通路が繋いでいたり、何かと災難に巻き
込まれるリーフの部屋からいくつも脱出路が伸びていたり、普通の民家のくせに厩があったり。全紋章町を見渡
しても、かなり異様な外観と構造なのである。
 なお、頑丈な作りの割に毎度毎度崩壊してはいるが、そのたびになんだかんだといろいろな人たちが協力して
くれて速やかに直っているので、兄弟が家の外でガタガタ震えながら寝泊りする、という事態も、今のところは
経験していない。
 このように、あれこれと特殊な構造の上に兄弟の数が多いので、この辺りでもかなり有名な家なのである。
「さ、それじゃ上がって」
「あ、ミカヤ」
「なに?」
 玄関の扉に手をかけたところで後ろから呼びかけられ、ミカヤは肩越しに振り返った。サザは、どことなくそ
わそわとした、気まずそうな顔で自分の道具袋を握り締めている。
「ちょっと、な」
「ちょっと、なに?」
「……いや、なんでもない」
 急に言葉を引っ込めてしまったサザに、ミカヤが首を傾げたとき、不意に彼の背後に大きな人影が現れた。
「乙女よ」
「うっ!?」
 急に背後から野太い声が聞こえてきたために、サザは慌てて飛び退る。一方、ミカヤは特に慌てることもなく、
人影に向かって微笑みかけた。
「騎士様。こんばんは」
「うむ」
 主人公家の向かいに居を構える謎の鎧男……通称「漆黒の騎士」は、鎧の上からでもどことなく満足そうな様
子で一つ頷いてみせる。ミカヤとしては親しいお向かいさんを歓迎するつもりだったのだが、彼女の前に立ちは
だかったサザは黒鎧に向かって敵意を露わにしている。
「またあんたか、何の用だ」
「……乙女に用があったのは、私ではなく貴殿の方なのではないか?」
 静かに問いかけられて、サザは言葉に詰まる。ミカヤは彼の背中を見ながら首を傾げた。
「やっぱり、何かわたしに言いたいことでもあるの、サザ」
「いや、別に」
「ところで、貴殿の道具袋がいつもよりも膨らんでいるようだが」
 サザの否定を遮るように、漆黒の騎士が再度問いかける。ミカヤがつられて袋を見ると、確かにいつもよりも
道具袋が膨らんでいるようである。
「あら、何かいつもとは違う物が入っているみたいね」
「いや、これは別に……クソッ、乗せられたか……!」
 何やら悔しそうに漏らしながら、サザは道具袋の中から何か丸い物を取り出して、振り向き様にミカヤに差し
出した。
 その丸い物体は、夕陽の光を浴びてますます赤い光沢を放つ、美しい宝玉であった。
「サザ、これは……」
「赤の宝玉、だ。一応、真っ当な手段で手に入れた物だから、気にしてくれなくていい」
「って、わたしにくれるってこと? そんな、こんな高価なもの……」
「いいから、受け取れよ。むしろ拒まれた方が、いろいろと困る」
「でも」
「……なら、今日食わせてもらう晩飯の代金ってことにしておいてくれ。いつも世話になりっぱなしってのはよ
 くないからな」
 そこまで言われては、確かに拒む方が礼儀に反するというものである。ミカヤはため息を吐いたあと、微笑ん
で宝玉を受け取った。
「ありがとう、サザ。じゃあ、今日の晩御飯は少し豪勢にしてもらえるように、エリンシアに頼むから」
「……ああ、そうしてくれると嬉しい」
 そう言いつつもどことなくふてくされたような雰囲気のサザに首を傾げながら、ミカヤは再びドアノブに手を
かける。
「それじゃ、折角ですから騎士様もどうぞ。いつもお礼ということで」

 

「……残念だったな」
 と声をかけられたのは、出されたお茶を不機嫌なまま飲み干しながら、居間でミカヤを待っているときであっ
た。サザが前方を睨むと、テーブルの向かい側に座って漆黒の騎士が、兜を被ったまま茶を啜っているところで
あった。
「……というか、まずその兜を外せ」
「……これを外すとまともに口が効けん」
「どれだけ対人恐怖症なんだ、あんたは……いや、その前にどうやって飲んでるんだ、それ」
「転移の粉の技術を応用すれば造作もないこと」
 要するにお茶を口の中に転移させているということらしい。
「余計な手間がかかりすぎだろう」
「喋れなくなるよりはマシだ。それよりも、残念だったな」
「……二度言わなくていい」
 漆黒の騎士の中の人が兜の下でニヤニヤ笑っているのを想像しながら、サザは舌打ちした。そんな彼の剣呑な
気配をきっぱりと無視して、漆黒の騎士は静かに指摘してくる。
「ただの贈り物だったのではあるまい。大方、あの赤の宝玉を加工して装飾品にでもしてもらおうと思っていた
 のではないか?」
「……そうだ」
「だが、自分で頼むよりは、『どんなデザインがいいかは、職人と相談しながらミカヤが決めてくれ』などと彼
 女を誘い出して、そのままデートとしゃれ込んだ方がいろいろとお得だ、などとと身の程知らずな欲を出した
 のであろう……」
 こちらの計画を正確に言い当ててくる漆黒の騎士に、サザは歯軋りする。全て事実なので、言い返しようがな
い。すると漆黒の騎士は、「甘いな」と呟きながら、おもむろに何かを取り出した。
「そ、それは」
「そう、青の宝玉だ」
 漆黒の騎士の手に握られているものは、値で言えば赤の宝玉よりもランクが一つ上の、青の宝玉であった。清
らかな湖を思わせる、深い光を放つ一品である。
「なるほど、俺のより立派だが……あんただって、考えることは一緒なんじゃないか」
 サザが呆れてそう言うと、漆黒の騎士はゆっくりと首を横に振った。
「一緒にしないでもらおう。わたしはただ、一言添えてこれを贈るだけだ」
「一言、添えて?」
「ああ。『わずかだが、ご家族の学費などの足しにしてくれ』と言ってな」
 サザは目を見開いた。何よりも家族のことを大事にするミカヤに対しては、非常に効果的な口説き文句である。
「クッ……あんたの方が一枚上手だったようだな……!」
 悔しげに呻くサザに、漆黒の騎士が兜の下で含み笑いを漏らしたとき、不意に玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はーい」
 返事をしながら、ミカヤが居間の脇を通り抜ける。数秒ほどもすると、彼女が玄関の方でで話す声が聞こえて
きた。

 

「まあペレアス、いらっしゃい、どうしたの」

 

 どうやら、知り合いの闇魔法使いが訪れようである。気弱な性格ながらも油断ならない恋敵の出現に、サザと
漆黒の騎士は顔を見合わせ、玄関の会話に耳を澄ます。

 

「こんばんは。あの、また義弟が迷惑をかけてしまったようだから、これ……」
「これは……白の宝玉じゃない」

 

「なんだと……!?」
「白の宝玉と言えば、宝玉の中では一番値が張るやつ、だな……」
「クッ、まさか先を越されるとは……!」
「……あんたも割と詰めが甘いんだな」
「だが、控え目な乙女が素直にあんな高価なものを受け取るはずが……」

 

「気にしなくていいのよ、義弟さんにはアイクがいつもお世話になっているし」
「でも、お詫びをしないと」
「いいのよ……それに、こんな高い物、受け取れないわ」
「あ……そ、そうだよね、これじゃ身内の恥をお金で解決しているようなものだ……」
「え? あ、いえ、そういう意味じゃ……」
「なんてことだ、自分の行動の下品さに少しも気づかなかっただなんて……」
「あの、誰もそんな風には考えない……」
「本当にごめん、ああ、やっぱり僕はダメだ……出直してくるよ……」
「い、いえ、や、やっぱりありがたくいただきます、これ!」
「え、そ、そう?」
「もちろん。ペレアスのお詫びの気持ち、しっかり受け取ります」
「そうか、良かった……それは……そうだな、弟さんや妹さんの学費の足しにでもしてくれると嬉しいな」

 

「ぐおっ……!」
「口説き文句まで取られたか……漆黒涙目だな」
「黙れ!」

 

「ふふ、ありがとう。そうだ、せっかくだから、晩御飯こちらでどうかしら?」
「え、ご馳走してくれるってこと? そんな、悪いよ……」
「うーん……それじゃ、この宝玉のお礼ってことで」
「いや、それは元々こちらのお詫びの印で」
「いいからいいから。さ、上がってちょうだい。そうだわ、アイクに連絡して義弟さんも呼びましょうか」
「いや、そこまで迷惑を……」
「いいのよ、我が家はいつだってお客様は大歓迎なんだから。さ、どうぞ、上がって上がって」

 

 そんなこんなで足音が近づいてきて、ミカヤとペレアスが顔を出した。
「あ、やあサザ……と、騎士殿。君たちも来てたのか、奇遇だね」
「……ああ」
「……うむ」
 サザと漆黒の騎士が必死に努力して感情を抑えながら答えると、ミカヤは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの、なんだか二人とも機嫌が悪いみたいだけど」
 そこのもやしのせいだよ! というのが本心ではあるが、もちろんそれを言ったらミカヤ市場でサザ株と漆黒
株が大暴落である。よって、二人としては歯噛みしながらも、この株価上昇中のもやし君を迎え入れるしかない
訳で。
「それじゃあ、三人とももう少しお待ちになってくださいね」
 そう言って、ミカヤは再び台所に戻っていく。
 ペレアスは、何かに怯えるような頼りない表情で、おそるおそるサザの隣に座った。
「な、なんか、怒ってない、二人とも?」
「……いや。怒ってはいない。ただ、あんたの腹立たしいほど上手いやり方に感心しているだけだ」
「は、はぁ?」
「……ペレアス殿」
「は、はい?」
「……今日は、衝撃波には見舞われなかったようですな」
「あ、そうですね、今日はたまたま運がよかったみたいで」
「……明日は前後左右に気を配りながら歩かれよ……」
「は、はい!?」
 こうして、ペレアスはサザと漆黒の騎士の殺気の真ん中で、とてつもない居心地の悪さを感じながら晩御飯を
待つことになったのであった。

 

 ペレアスを残して台所に帰ってきたミカヤは、鼻歌混じりに何かを炒めているエリンシアの背中に向かって、
苦笑気味に声をかけた。
「エリンシア、また一人増えちゃったみたい」
「あら、そうですか」
 料理当番としては、人が増えれば増えるほど負担が増えるはずである。だが、エリンシアは嬉しそうに微笑み
ながら答えた。
「それでは、いつも以上に気合を入れなければいけませんね」
「そうね、お客様は全力でもてなすのが我が家のモットーだもの。それにしても」
 ミカヤは首を傾げた。
「今日は、皆遅いのね。いつもならロイ辺りはもう帰ってきてもいい頃なのに」
「ふふ。あの子もお友達が多いみたいですし、きっと遊ぶのに夢中になっているのですわ」
「それはいいことだけど……連絡ぐらいよこせばいいのにね」
「それでしたら」
 と、エリンシアが料理をする手は止めないまま、ちょっと肩越しに振り返った。
「我が家の困ったさんたちが、いつ帰ってくるか、神様にお尋ねになってはいかがですか」
「あ、それはいい考えね」
 悪戯っぽいエリンシアの声に、ミカヤもぽんと手を打った。目を閉じ、意識を集中して、心の中で呼びかける。
(ユンヌ、ユンヌ)
(はいはーい)
 どこからか、頭の中に直接声が響いてくる。と思った途端に、開いていた台所の窓から、一羽の小鳥が入って
きた。
(お待たせしました、混沌の女神ユンヌちゃんでーす。焼き鳥にしちゃ嫌よ?)
「しないわよ」
 いつも通り変にテンションが高いユンヌに苦笑を返したあと、ミカヤは小鳥を手に止まらせながら首を傾げた。
「我が家の腕白坊主たちが、いつ帰ってくるのか教えてほしいのだけど」
(えー、何それ、何それ!)
 ミカヤの手に止まった小鳥が、抗議するように羽をばたつかせた。
(わたし、仮にも神様なんだけど! 神様にお願いすることだとは思えないんだけど!)
「うーん、それはそうだけど、お客様をあまりお待たせする訳にもいかないし……ね、お願い、ユンヌ」
(もう、しょうがないなあ……じゃあね、わたしにも晩御飯食べさせてくれたらお願い聞いてあげる!)
 最近この子もずいぶん人間に馴染んできたな、と思いながら、ミカヤはエリンシアを見た。
「だって、エリンシア」
「もちろん構いませんわ。でも」
 エリンシアはどことなく面白がるように言った。
「今日のメインは鳥のから揚げなのですけど」
(共食いはイヤァッ!)
 今度は頭を羽で隠してガタガタと震え始めるユンヌを、ミカヤは苦笑混じりに指で突いた。
「何言ってるの、あなた本物の鳥じゃないでしょうに」
(あ、そう言えばそうだっけ。じゃあいいや)
「相変わらずその場のノリで行動するのね、ユンヌ」
(もちろんよ。だってわたし、混沌の女神だもの!)
 何故か誇らしげに胸を張るユンヌに「本当に相変わらずね」と笑いかけながら、ミカヤは小鳥を止まらせた手
を少し高く掲げた。
「それじゃ、お願い」
(任せて。それじゃ)
 その場で大きく羽を広げること数秒、突然、ユンヌが慌てた様子で喚き始めた。
(大変、大変よミカヤ!)
「え、どうしたの!? まさか、誰かが怪我したとか……」
 普段の兄弟の素行から考えて、あり得ない話ではない。だがユンヌは、(ちがーうっ!)と大きく体を揺すった。
(そうじゃなくてね、人数がすっごく増えるみたいなの!)
「人数って……どうして?」
(よくわかんないけど、皆がお友達を招待するみたい)
「まあまあ、それは賑やかになりそうですわ」
 それだけ料理の準備も大変になるはずなのだが、やはりエリンシアはただただ楽しそうな顔をするばかりである。
「でも」
 と、ふと困ったように首を傾げた。
「そうなると、食材が足りませんね」
「あ、それじゃあわたし、リワープで買いに行ってくるわ」
「お願いしますわ、姉様。それじゃ、ご飯もたくさん炊かなくちゃ。お鍋、お鍋」
 あくまでも楽しそうなエリンシアを見て、どうやら負担には感じていないらしいと納得し、ミカヤはほっと息
を吐く。それから、ユンヌが黙り込んでいるのに気がついて首を傾げた。何やら、不機嫌そうな気配が伝わってくる。
「どうしたの、ユンヌ」
(ぶーっ……だって、人数が増えるってことは)
「増えるってことは?」
(わたしの食べる分が減っちゃうじゃない!)
「神様がそんなみみっちいこと言わないの」
 軽く吹き出しながら、ミカヤはリワープの杖を取り出した。

 

 そうして大量の食材を買い込んだミカヤが戻ってくる頃には、料理の第一陣は出来上がりかけて、台所一杯に
食欲をそそる香ばしい匂いが漂っていた。
「うん、いつもの我が家の晩御飯ね
「ふふ、それは食べてみるまで分かりませんわ。お帰りなさい姉様、食材はそちらの方に置いておいてくださいませ」
 パンパンに膨らんだ買い物袋を床に置いた後、ミカヤは台所の窓辺に歩み寄った。
 開け放たれた窓の向こう、夕陽に赤く染まった紋章町が見える。いつも通りの、変わりない光景である。
 ミカヤは微笑みながら、一冊の魔導書を開いた。肩に乗ったユンヌが、その本を覗き込んで首を傾げる。
(なあに、これ)
「ああ、ユンヌは知らないのね。これはね」
 魔導書のページをそっと手で撫でながら、ミカヤは微笑んだ。
「我が家の腕白坊主たちが、すぐに家に帰ってきたくなる魔法なのよ」
(えー、なにそれ、なにそれ)
 興味津々のユンヌに「見ていれば分かるわ」と答えたあと、ミカヤはそっと目を閉じる。
 この魔法は、いわゆる練成を応用して作った、ミカヤ専用の魔法である。
 系統的には風魔法になるのだろうが、製作者の粋な計らいで、本来は光魔法しか扱えないミカヤにも使えるのだ。
 と言っても、その用途は、風刃によって人を傷つけることではない。
(さ、あなたたち。晩御飯の時間だから、そろそろ帰っていらっしゃい)
 家族一人一人の顔を思い浮かべて微笑みながら、ミカヤは歌うように呪文を唱え始めた。

 

「ねえロイ」
 と声をかけられたとき、ロイは校庭にいた。親友のウォルト相手に、サッカーボールをパスし合って遊んでい
たところである。振り向くと、夕暮れの赤い光に浮かび上がる校舎を背にして、リリーナが立っている。鞄を後
ろ手に持ち、何やらもじもじした様子である。
「どうしたの、リリーナ」
 彼女の態度を不思議に思いながらロイが問うと、リリーナは恥ずかしげに目をそらしながら答えた。
「うん。あのね、今日、一緒に帰らない?」
「別にいいけど」
 あっさり答えると、リリーナは安堵したように深く息を吐き出した。何をそんなに緊張しているのかと訝った
あと、ロイはふともう一つ、疑問を覚えた。
「でもリリーナの家って、ウチとは反対側なんじゃ」
「きょ、今日はちょっと、散歩して帰りたい気分なのよ」
 よく分からない理由だったが、「そんなこともあるのかなあ」と適当に納得して、ロイは頷いた。
「分かったよ。それじゃウォルト、今日はこれで」
 とロイがウォルトに別れを告げようとした瞬間、突如頭上から声が降ってきた。
「ロイくーんっ!」
 見上げると、天馬の腹部が迫ってくるところだった。慌てて避けたロイの横に、砂埃を上げて天馬が着地する。
「よっし、着地成功!」
「危ないよシャニー!」
「えへへっ、ごめんごめん」
 自分の頭を軽く叩きながら天馬から下りてきたのは、ロイのクラスメイトのシャニーである。シャニーは降り
てきたときの勢いそのまま、「ね、ね」とロイに駆け寄ってきた。
「ロイ君、今日一緒に帰らない? 天馬で空の散歩を楽しみながら」
「え、でも今日はリリーナと」
「……あの、ロイさま」
「うわぁっ!?」
 急に後ろからか細い声をかけられて、驚きと共に振り返った。見るとそこに、長い髪の華奢な少女が立ってい
る。ソフィーヤという少女である。
「そ、ソフィーヤか。ああ、びっくりした。全然気がつかなかったよ」
「……ごめんなさい……」
「ああいや、別に気にしなくても……それより、何か僕に用?」
「……はい。あの、今日、わたしと……」
 と、ソフィーヤが何やら必死な様子でここまで言ったところで、校庭の隅から濛々と砂埃を巻き上げながら、
低い蹄の音が近づいてきた。その音の主である駿馬は、こちらに近づくに連れてじょじょに速度を落とし、ぴた
りとロイの横に立ち止まった。
「ロイ」
「今度はスーか。なんだか今日はずいぶん皆に声をかけられるな」
「疲れているみたい」
「はい?」
「わたしの馬で家まで送っていくから、後ろに乗って」
「いや、僕は」
 と、ロイがどう断ろうかと悩んだとき、今度は目の前の空中に魔方陣が描かれて、そこから一人の女性が姿を
現した。
「ロイ、今日あなたの保護者の方に相談したいことがあるのだけれど」
「セシリア先生……」
「ロイくーんっ、疲れてるって聞いたから踊り見せにきたわーっ!」
「って今度はララムさんまで! 一体今日はどうなってるんだ……」

 

 そんな騒ぎからぽつんと外れる形で立ち尽くすのは、一番最初に声をかけたはずのリリーナである。
「……どうしていつもいつも、上手くいったと思った途端にこんなことに……!」
「詰めが甘いんじゃないですかね」
 そう言って近づいてきたのはウォルトである。サッカーボールを抱えた彼は、数人の女性に囲まれて困り果て
ているロイを見ながら肩を竦める。
「まあ、焦ることはないですよ、ロイは皆さんの行為に全然気づいてませんし」
「……わたしの気持ちを知ってるんだったら、ウォルトにも協力してほしいんだけど……」
「いやあ、僕はロイを気に入ってるマーカス先生に『よいか、お前は逐一見守るだけで手出しをしてはいかん
 ぞ!』と言われているもので……」
「何なのそれ!?」
「ご老人の楽しみを奪うのはいかがなものかと……そんな訳で、独力で頑張ってください、リリーナ様」
「うぅ……道は険しいのね……と、とにかく、わたしも近くに行かないと……!」

 

 唐突に取り囲まれて困り果てていたロイは、ふと嗅ぎ慣れた匂いを感じて鼻をひくつかせた。
(僕の家のから揚げの匂いだ……)
 家からはずいぶん離れているのに、とロイは首を傾げる。とは言え、こういうことは今日が初めてではない。帰りが遅くなった日、たまにこんな風に、どこからか我が家の晩御飯の匂いが漂ってくることがあるのだ。
 周囲の女性達もそれに気づいたようで、それぞれに怪訝そうな顔をしながら周囲を見回し始める。
「この匂い……」
「不思議ね、一体どこから……」
「でも、すごくおいしそう……」
「それに、なんだか懐かしいです……」
 そのとき、不意に低い唸り声のようなものが響き渡った。皆がその方向を見ると、照れ笑いを浮かべながら頭
を掻いているシャニーの姿が。
「あはは、ご、ごめん、なんかすっごいお腹空いてきちゃって」
「そうよねえ、そんな時間よねえ。よっし、じゃ、このララムがおいしい料理を作って」
「み、みんな!」
 ララムの言葉が終わるか終わらないかの内に、ロイは咄嗟に声を張り上げていた。
「そ、それなら、今から僕の家に晩御飯を食べにきませんか!?」
「今から? それはご迷惑じゃないかしら」
 首を傾げるセシリアの横で、ララムが真面目な顔で頷いた。
「そうよね、ここはやっぱりララムのおいしい料理」
「い、いえ、ウチはいつでもお客様大歓迎ですから! ささ、どうぞどうぞ。ウォルト!
 それに、リリーナも来るよね!?」
 ロイが必死に問いかけると、リリーナは一瞬面食らったような顔をしたあと、凄い勢いで頷き始めた。
「行くわ、もちろん! 皆が行かないって言っても!」
「あ、ずるい! わたしももちろん行くもんね!」
「……ご迷惑でなければ……」
「食事に誘われたときは断らない、それがサカの掟」
「そうね、それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
 全員が割とすんなり受け入れてくれたので、ロイはほっと息を吐いた。
(セシリア先生辺りはもっと遠慮するかと思ったけど……それだけ我が家のから揚げがいい匂いだったってことかな)
 もしくは単にお腹がすき過ぎていただけかもしれないが。
 不満げに唇を尖らせるララムを見ながら、ともかく皆の胃袋を護ることができて本当に良かったと、ロイは深
く安堵の息を吐いたのだった。

 

 マルスは、その日もいつもの通り、放課後の教室に残ってマリク、シーダと談笑していた。
 その集まりが解散になったのも、やはりいつも通り廊下から顔を覗かせたエリス先生にやんわり注意されたた
めであった。
「ほら、あなたたち、そろそろ帰らないとご家族が心配なさいますよ」
 我が家に限ってはそれはないんじゃないかと思うマルスだったが、エリス先生の注意に即座に反応したのは彼
ではなくマリクであった。
「はい、申し訳ありません先生、今すぐ帰宅しますので」
「そう。気をつけて帰ってね。さようなら」
「さようなら!」
 柔らかい微笑を浮かべて去っていくエリス先生に向かって、マリクが勢いよく何度も頭を下げている。マルス
とシーダは顔を見合わせて苦笑した。
「相変わらずだねえ、マリクも」
「それだけエリス先生を慕ってるんですよ」
「まあ先生も美人で優しいから、分からないでもないんだけど」
「お、お二人とも、僕はそういった不純な感情では」
 マリクがあたふたと弁解を始めたことにもう一度笑いながら、マルスは席を立って大きく伸びをした。
「さて、それじゃ先生の言いつけどおりそろそろ帰るとしようか」
「はい。あ、それじゃあわたし、窓の鍵を閉めますね」
「ああ、悪いねシーダ」
「いえ……あら」
 窓辺に歩み寄ったシーダが、窓枠に手をかけたまま動きを止めた。
「どうしたんだい」
「あ、いえ、何か……いい匂いがしたものですから」
「いい匂い? おかしいな、今日は料理部の活動なんかなかったはずだけど」
 日頃の情報収集の成果を頭に思い浮かべながら、マルスは首を傾げる。無論シーダが嘘を吐くはずもないので、
とりあえず自分も窓辺に寄ってみる。確かに、どこからかいい匂いが漂ってきている。
「やあ、これは我が家のから揚げの匂いじゃないか」
「我が家って、マルス様のご自宅ですか?」
 きょとんとした表情で、シーダが言う。マルスは笑って頷いた。
「そう。たまにあるんだよ、こういうこと。我が家の姉さんたちは家族思いだからね。こうやって、僕らが家に
 帰るのを忘れないようにと取り計らってくれているんだろうね」
「そうなんですか」
 驚きつつ感心しているシーダの顔を間近で見ていると、マルスの頭の中に名案が浮かんできた。
「そうだ。これから、僕の家に来ないかい」
「え、マルス様のお家、ですか」
 何を想像したものか、シーダはかすかに頬を赤らめる。マルスは笑って手を振った。
「ははは、もちろんマリクも一緒にさ」
「え、ですが、それはいろいろとご迷惑なのでは」
 妙な気遣いをするマリクに、マルスは首を振った。
「あのね、我が家の夜は実に騒々しいんだ。たとえシーダと二人で帰ったって、いいムードなんかには到底な
 りっこないんだよ」
「まあマルス様、いいムード、だなんて」
 シーダが困ったように目を伏せる。マルスは窓を閉めて鍵をかけながら、「まあ、そんな訳だから」と話を続けた。
「今日の晩御飯は、僕ら三人一緒に食べようじゃないか」

 

 その日もいつも通り、リーフは得物を持ったナンナ、ミランダ、サラの三人娘に追い詰められていた。
 背には校舎の壁があり、もはや逃げるスペースなどどこにもない。
「さて、リーフ様」
「もう逃げられないわよ」
「弁解は聞いてあげる。許さないけど」
 と、それぞれに腕組みしたり腰に手を当てたり瞳に殺気を滲ませたりしつつ、三人娘はリーフを睨んでいる。
 リーフは無駄と知りつつも両手の平を上げて「まあまあ」と三人娘をなだめようとした。
「皆、落ち着こうよ。何をそんなに怒ってるんだい?」
「アルテナ先輩に『今日こそ僕の姐上になっていただきます』とか言ってましたよね」
「セルフィナ先生に『すみません、ちょっと具合が悪いのでおでこで熱を計ってくれませんか』とかほざいてた
 わよね」
「『保険医のエスリン先生は、僕の母になってくれたかもしれん女性だ!』とか喚いてた」
 全部本当のことだった。
「な、何故それを……い、いや、誤解だよ、誤解! ほら、見方を変えれば別段どうってことない場面に」
「なるわけ」
「ないでしょうが!」
「往生際が悪いリーフ、嫌いじゃないけど……今回はダメ」
 じりじりと距離を詰めてくる三人娘。夕陽を背負っているせいで顔には影が落ちているが、それぞれの瞳がそ
れぞれの怒りでそれぞれ違った光を放っている。リーフの背中を一筋の汗が流れ落ちた。
(なんてことだ。毎度毎度のことながら、人生最大のピンチ……! これは自業自得か!? いや、そうじゃな
 いはずだ、僕にだって、自分の快楽……いや幸せを思う存分追求する権利はある!)
 などと心の中で演説してみても、三人娘の怒りが収まるはずもない。ともかくこの場を切り抜けねばと、リー
フは自慢の言い訳回路になけなしのエネルギーを注ぎ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、三人とも」
 それを聞いて、三人娘が一応動きを止める。それぞれ手に得物を持っているのは相変わらずだったが。リーフ
は緊張に胃が縮むのを感じながら、一つ咳払いをして言い訳を始める。
「そもそもだよ、この状況はおかしいと思う訳だよ」
「何がおかしいと?」
「いやほら、僕は誰のものでもない訳だし……それに、君たちとはいい友達であって、別に恋人とかそういうのでは」
『なんですって!?』
 と激しく反応したのはナンナとミランダである。
 どうやら、さっきの言葉は墓穴を掘るスコップのようなものだったらしい。まずナンナが瞳に涙をためながら、
両手を胸の前で組んで激しく首を振り始めた。
「ひどいですリーフ様、『僕は君のご家族にはっきりと言うつもりだ、大好きなナンナを……僕にくださいっ
 て』と仰ってくださったのに!」
「あー……そう言えば、場の流れでそんなことを言ったような気もする、かな……」
「リーフ、あんたわたしには『ごめん、今はまだ誰が好きとか嫌いとか言ってる余裕はないんだ』とか言ってたわよね?
 って、違うのよ、あんたみたいな貧乏臭い男なんてこっちから願い下げだけど、わたしにもプライドってものがあるし、
 その辺今この場ではっきりさせてほしいっていうか……と、とにかく、あの言葉は何だったのよ!?」
「う……だって、そのときはまだ本命を決めかねてて……いや今もいろいろと目移り……じゃなくて悩んでるけど」
「……リーフ、わたしの耳元で『君には愛人として末永く僕のそばにいてもらいたいな』ってよく囁くわ」
「ちょ、それはさすがに嘘……!」
 だが、今となってはどれが嘘だとかどれが本当だとかは関係ないらしかった。
(こ、これはまずい、実にまずいぞ……! っつーか、僕言い訳下手すぎじゃね!?)
 自分で自分に突っ込みを入れながら、リーフは愛想笑いでこの場を切り抜けようとした。しかしその笑みは明
らかに引きつっていたし、何より涙目のナンナと怒り発動五秒前のミランダの前に、愛想笑いなど何の意味もな
さないのである。唯一、サラだけは先程まで怒っていたのが嘘だったかのように、あからさまに愉快そうな微笑
というか邪笑を浮かべてこの状況を楽しんでいるようである。
(おのれ、謀ったなクルクル電波!)
(わたしの趣味は、リーフがいじめられてるのを見ることだから)
「あ、今サラと目で通じ合いましたね、リーフ様!」
「……リーフ、あんたって見た目とは裏腹に物凄くいい根性してるわよね」
「い、いや、違うよ二人とも、確かに目と目で通じ合ったけど、内容はそんな色気のあるもんじゃ……!」
 しかし、もはやそんな弁解などには何の意味もないのである。
「リーフ様」
「覚悟!」
 大地の剣が燃える夕陽を照り返し、トローンの魔導書が晴れ上がった空の下に雷音を轟かせる。
(ダメだ、ゲームオーバーだ!)
 リーフは半ば死を覚悟して目を閉じる。だがそのとき、不意に鼻をひくつかせたサラが、「あ」と小さな声を上げた。
「いい匂い」
 その言葉があまりにも状況にそぐわなかったために虚を突かれたのか、ナンナとミランダがきょとんとした表
情でサラを振り返る。
「え?」
「なに?」
「から揚げの匂いがする……お腹すいた」
 正直すぎるサラの感想を聞いて、他の三人も同様に周囲の匂いをかぎ始める。すると、確かに香ばしいから揚
げの匂いを感じ取ることができた。
「え、どうしてこんなところで……」
「不思議ね……ああでも、確かにお腹すいたかも……」
 ミランダがそっとお腹を押さえたのを見て、リーフはこれが生き残るための最後の好機であると確信した。
「そ、そう言えば!」
 出せる限りの大声で叫ぶと、ナンナとミランダがびくりと震えて振り向いた。さっきまでの怒りが抜けつつあ
るのを確信しながら、リーフは必死に捲くし立てる。
「今日は、から揚げを作るとかエリンシア姉さんが言ってたっけかな。姉さんが心配するといけないから、僕は
 そろそろ帰らないと」
 が、さすがに少々強引すぎたらしい。
「リーフ様?」
「ちょっとリーフ、なに誤魔化そうとしてんの、あんた」
 話の流れがまずい方向に向かいつつあるのを悟り、リーフは精一杯の作り笑いを浮かべた。
「誤魔化すって、何のことかな。僕は本当に、早く帰ってエリンシア姉さんのから揚げが食べたいんだ。いやー、
 ホントおいしいんだよ、姉さんのから揚げは。こう、衣がカリッとしてるし肉はジューシーで甘めの味付けが
 絶妙で」
 必死の誤魔化しは、予想外の効果をもたらした。周囲に漂うから揚げの匂いも相まって、リーフの説明が目の
前の三人娘の食欲を大いに刺激したらしい。
「リーフ」
 と、まずサラがリーフの服の裾をつかんできた。
「どうしたんだい、サラ」
「わたし、リーフのお家のから揚げ、食べたい」
「え」
 さすがにその申し出は予想外だったが、ともかくこの場を逃れる好機である。リーフは何度も頷いた。
「ああもちろん大歓迎だよ、おいでよサラ、一緒に我が家のから揚げを堪能しようじゃないか」
「うん……それに」
 と、サラはそこで、ナンナとミランダの方をちらりと見やった。
「リーフのお家の人たちとも、一度ゆっくりお話ししたい」
 その、ぼそりとした呟きを聞いたナンナとミランダの反応は劇的であった。
 二人は、ほんの一瞬だけ顔を見合わせ、空中で激しく視線をぶつかり合わせたのである。そしてすぐに相手か
ら視線を剥がすと、勢いよくリーフに詰め寄ってきた。
「リーフ様! 失礼だとは思いますけど!」
「わたしたちも、あなたのお宅のディナーにお招きいただきたいのだけれど!?」
「え、あ、うん、別にいい、と思うけど……」
 どうして急に彼女らが食いついてきたのかさっぱり理解できないまま、リーフはとりあえず頷いたのであった。

「まずはエリンシアさまのお手伝いをして、家庭的なところをアピールして……」
「リーフは頼りないから、それを支えられるしっかりしたところをミカヤさんに見せ付ければ好感度もアップ……」
 前方を歩く二人がぶつぶつと呟いているのを聞きながら、サラは横目でリーフの顔を窺う。やや小柄とは言え、
それでもサラよりは高い位置にあるリーフの横顔には、すっかり安堵しきった上機嫌な笑みが浮かんでいる。
「いやー、なんだかよく分からないけど、とりあえず窮地を脱出できたみたいでよかったなあ」
(のん気なリーフ……)
 サラが見る限り、状況はむしろますます複雑な方へ向かっている。
 普段は持ち前の二枚舌でその場限りのナンパを繰り返しているリーフが、女の子を連れ帰ったとなると、彼の
姉たちは当然、「ついにリーフにも決まった相手が」と考えるであろう。で、ナンナとミランダが狙っていると
おり、おそらくエリンシアはナンナを気に入るだろうし、ミカヤはミランダを気に入るだろうと推測される。と
なると、
(『どっちにするか早く決めなさい』とせっつかれるリーフは、ますます余裕を失くしていくことに……)
 泣き喚くリーフの姿を想像して、サラもまた上機嫌な含み笑いを漏らすのであった。

 

<つづく>