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Last-modified: 2007-06-14 (木) 22:51:40

オレだよオレオレ!

 

-紋章町、ミレトス街の一角-

カシム  「……母が病気で薬を買うお金がなくて……」
シグルド 「う、うぅぅぅ……」
エイリーク「ひっく……な、なんて悲劇的なお話なのでしょう……」
セリス  「えぐえぐ……ひどすぎるよ、あんまりだよ!」
シグルド 「君。これ、少ないが取っておいてくれ」
エイリーク「わたしも、わずかですが」
セリス  「僕のも、どうぞ」
カシム  「……! ほとんど物乞いに過ぎないわたしに、こんなに優しくしてくださるなんて……!」
シグルド 「いいんだよ、気にしないでくれ」
エイリーク「わたしたちも、肉親を失くす辛さはよく知っていますから……」
セリス  「お母さん、早く元気になるといいですね」
カシム  「ありがとうございます!」

カシム  「……とまあ、ざっとこんなもんかな」
リフィス 「すげえぜ!」
リカード 「さすがカシムの兄貴!」
デュー  「参考になるなあ」
カシム  「ふふふ……驚くのはまだまだ早いよ。詐欺グループ『ハンター』結成記念だ、
      今日は僕の華麗なる詐欺テクニックを思う存分披露してあげよう!」

シグルド 「……という訳で、気の毒な少年にお金を寄付してきたのだ」
エイリーク「金額的にはわずかでしたので、どれ程の助けになるかは分かりませんが」
セリス  「大丈夫だよ、きっとよくなるよ」
マルス  「……」
ロイ   「……」
シグルド 「む、どうした二人とも、何か気まずそうだぞ」
エイリーク「……確かに、お金を寄付するなど、人を見下した行為に思えるかもしれませんが……」
セリス  「でも、病気のお母さんを治すためだって、その人海賊まがいのことまでして」
マルス  「い、いや、別にその行為自体が悪いと言っている訳じゃないですよ」
ロイ   「そ、そうそう。その人のお母さんの病気、治るといいね」
セリス  「うん、お母さんには長生きしてほしいよね!」

マルス  「……ロイも、やっぱりアレだと思うかい?」
ロイ   「……うん。最近流行ってるもんね、この手の詐欺」
マルス  「やれやれ……あの三人は人が良すぎるよ。シーダも騙されたって言ってたし」
ロイ   「そうなの?」
マルス  「うん。よりにもよって純真なシーダを騙すなんて……全力で犯人を捜して報復してやるつもりさ」
ロイ   「怖いなあ……」
リン   「ちょっとマルス!」
マルス  「げぇっ、リン姉さん!」
リン   「その反応……お向かいの漆黒さんの表札を『しっこく』に取り替えたの、やっぱりあんただったのね!」
マルス  「クソッ、まさかこれほど早くバレるとは……!」
ロイ   (って言うか、怒られるほど悪いことなんだ、それって……)

 プルルル、プルルル……

ロイ   「あ、電話……」
リン   「(タタタッ、と素早く走っていって)はい、もしもし? あらトラバント先生、いつもリーフがお世話に」
マルス  「うわ、ロイ見たかい今の? あの一瞬で声の調子を切り替える手腕!
      凄いなあ、エリンシア姉さんやミカヤ姉さんだってああはいかないよ。
      さすが我が家の若年寄、おばさんくささじゃ誰にも負けないね!」
リン   「あ、ちょっと待ってくださいね……マルス!」
マルス  「ははは、ほーらまた一瞬で声が低くなったぞー」
リン   「このっ……! あ、いえいえなんでもありませんわおほほほほ……」
マルス  「ぷぷぷっ、リン姉さん必死だな」
ロイ   (ホント、マルス兄さんはリン姉さん大好きだなあ……)

カシム  「……という訳で、次はいよいよ流行の詐欺をやってみることにしよう」
デュー  「ういーっす」
リフィス 「流行っつーと、どんなんですか?」
リカード 「シルバーカードやメンバーカードの偽造とか?」
カシム  「ノンノン。オレオレ詐欺さ! 最近は振り込め詐欺とも言うね。
      携帯電話を数台使いまわして、本人には絶対に連絡がつかないようにして……とかね」
デュー  「えー、でもあれってすぐばれそうだけどなあ」
カシム  「ふふふ……そういう台詞はこれを聞いてからいいなさい。
      オホン……『あ、ばあちゃん!? オレだよ、オレオレ!』」
リフィス 「すげっ、一瞬で声が変わった!」
カシム  「『あ、おばあちゃん?! わたしよわたし、助けて!』
      『ああ、ごめんね、ごめんね、母さん取り返しのつかないことしちゃった……!』」
デュー  「おおおお、とても同一人物の声だとは思えない!」
リカード 「さすが団長、変声術もヴィジュアル的なキモさも超一流!」
カシム  「ははは、任せておきたまえ。
      ……とは言え、今日のところは君たちを仕込んでる時間もないし、
      初歩的なオレオレ詐欺でいこうかな。さ、見ておきたまえ。
      まずは適当に電話番号をプッシュして、と……」

リン   「はい、はい、それじゃまた……(ガチャッ)
      ……さて。マールースー……ってあれ?」
ロイ   「リン姉さんが電話してる内に逃げちゃったよ」
リン   「くぅぅぅぅ……またしても! あのガキ、人のことおばさんおばさんって……
      まったくもう、失礼しちゃうわ! よっこいしょ」
ロイ   (その座るときの声もおばさんくさいのは否めないなあ……)
リン   「ふう……まったくもう、どうしてあの子は……(パリッ)
ロイ   (煎餅食べながら愚痴吐き……うーん、やっぱりちょっとおばさんくさいかも……)

 プルルル、プルルル……

リン   「あら、また……(ガチャッ)はい、もしもし、どちら様……」
???  『あ、かあちゃん!? オレだよ、オレオレ!』

 ブチッ!

リン   「 そ ん な 年 じ ゃ な い わ よ ! ! 」

 ガチャッ!

リン   「まったく、どいつもこいつも……!」
ロイ   (……? 今のもマルス兄さんの悪戯か何かかな……?)

カシム  「……ば、馬鹿な、失敗した!? タリスの詐欺師と呼ばれた、この僕が……!
      な、何故だ!? あの声の甲高さと言い所帯じみた口調といい、
      間違いなく相手はおばさんだったはず……!」
リフィス 「ケッ、なんだ、使えねえ奴」
デュー  「あーあ、期待して損したなあ」
リカード 「無駄な時間を使っちまったよ。帰ろ帰ろ」
カシム  「馬鹿な……そんな、馬鹿なぁぁぁぁぁぁっ!」

 この日以降、紋章町で問題になりつつあったオレオレ詐欺はぱったりと発生しなくなったという。