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Last-modified: 2007-06-19 (火) 23:34:34

りゅうせいけん

 

リーフ  「ただいまーっ。あ、エリウッド兄さん、これお土産」
エリウッド「おかえり……って、またたわしか。何でこんなたわしばっかり……」
セリス  「あ、エリウッド兄さん、これどうぞ」
エリウッド「なんだいセリス……って、またたわしか……
      何なんだ一体、どうしてこうたわしばっかりもらってくるんだ」
リーフ  「んー……」
セリス  「折角だから兄さんにも紹介しようよ、リーフ」
エリウッド「……? なんだ、たわしを配っているところでもあるのか?」
リーフ  「まあまあ。とりあえず、明日を楽しみにしててよ」

 

 ~翌日~

 

リーフ  「ほら兄さん、ここだよここ」
エリウッド「ここって……ラーメン屋じゃないか。こことたわしと一体どんな関係が……」
セリス  「まあまあ。とりあえず、ここのラーメンを食べてみてよ」
エリウッド「うーん、どうも、気が進まないなあ……」
リーフ  「本当だって、ここのラーメン屋、うまい上にすごい安いんだって」
セリス  「僕の友達のお家なんだけどね」
エリウッド「うーん、脂っぽいものはあんまり好きじゃないんだが……
      まあいいか、二人がそこまで言うなら試してみよう」

 

 ガラッ。カラーン、カラーン。

 

ロドルバン「いらっしゃいませ!」
ラドネイ 「イザークラーメンの流星軒へようこそ!」
エリウッド「うわ、元気のいい接客だなあ」
ロドルバン「おや、セリス様にリーフさんじゃないですか」
ラドネイ 「あら、いらっしゃい。今日はこちらでお食事?」
セリス  「うん、このエリウッド兄さんに体力のつくラーメンを食べさせてあげたくて」
ラドネイ 「そうでしたか。では、お三方、お席の方へご案内しますね」
エリウッド(……リーフ。なんでセリスだけ様づけなんだ?)
リーフ  (生徒会長だからじゃない?)
エリウッド(……変な学校だな)
ラドネイ 「ご注文はお決まりですか?」
エリウッド「えーと、じゃあ塩」
リーフ  「スタミナラーメン三つ」
ラドネイ 「かしこまりました。少々お待ちください。スタミナ三つーっ!」
エリウッド「……リーフ。スタミナラーメンって言うのは、このいかにも辛そうな真っ赤なスープの……」
リーフ  「体力がつくって評判なんだよ。まあ、試しに食べてみてよ」
エリウッド「まあ、僕は構わないが……セリスは甘党だろう? 大丈夫なのか?」
セリス  「大丈夫だよ、ここのは辛いけど凄くおいしいんだ」
エリウッド「セリスがそう言うのなら、期待できそうかな……」

 

 ~三十分後~

 

アイラ  「へいお待ち!(ドン! ドン! ドン!)」
エリウッド「うお、実物は写真よりも赤い……!」
アイラ  「うむ、初めての客だと言うからな。辛味をサービスしておいたぞ」
エリウッド「そ、それはどうも……」
アイラ  「我が流星軒の味、その舌で味わうがいい」
エリウッド(なんか、尊大というか男前な人だな……)
セリス  (流星軒の長女、アイラさんだよ。頼りになる人でね、
      この近辺では『流星の姉御』とか『殺人ラーメンのアイラ』とか呼ばれてるんだ)
エリウッド(物騒な人なんだな……)
リーフ  (いや、やっぱり姉って言うのはこういう凛々しいタイプが一番)
エリウッド(リーフの姉好きは異常)
アイラ  「……食べないのか?」
エリウッド「あ、ああ、そうだった。それじゃ、いただきます……うお、見た目通り辛い……!
      だがしかし、これは味覚を麻痺させない程度にピリリとした、絶妙な辛さだ……!
      そしてこのプリプリとした歯ごたえ良好な太麺……!」
アイラ  「ふふ……我ら流星軒一同の鉄の意志により茹で上げられた太麺。
      これぞ名付けて鉄の大麺!」
エリウッド「おおお……これは凄い。スープもただ脂でギトギトなだけじゃない。
      こってりした分その分素材の味がよく染み込んだ濃厚な味わいを実現している……!」
アイラ  「ふふ……選び抜かれた数々の素材で追撃連続と畳み掛ける。これぞ我が流星軒秘伝のスキルだ」
エリウッド「クッ、何てことだ。僕はまるで、今日初めてラーメンと言うものが何かということを知った気分だ……!
      これほどの美味が近所に隠されていたのに気づかなかったとは……! 不覚! 一生の不覚!」
リーフ  「す、すごいよセリス、あの食の細いエリウッド兄さんが、ラーメン一杯を完食しようとしている……!」
セリス  「さすが『どんな奴でもワンターンキル』とまで言われた流星軒だね……!」

 

 ズルズルズルズル、ズズーッ……ゴトッ。

 

エリウッド「……ふーっ。ああ、おいしかった。こんなに食べたのは久しぶりだよ。ごちそうさまでした」
アイラ  「ふふ……我が流星軒の味、お気に召して頂けたかな?」
エリウッド「ええ、とてもおいしかったです」
リーフ  「僕も、ごちそうさまでした」
セリス  「相変わらずいいお味です。さすが本場イザークで修業されただけのことはありますよ」
アイラ  「ふっ……」
リーフ  「さて、それでは……」
セリス  「恒例の、アレだね」
エリウッド「……? 何かデザートでもあるのかい?」
アイラ  「そうだな……では、スキル判定タイムに移行する!」
リーフ  「よっし、今日こそ!」
セリス  「当ててみせるよ!」
エリウッド「え? なんだ、何が始まるんだ?」

 

 戸惑うエリウッド。そのとき、通路の向こうからガラガラ音を立てて何かが運ばれてくる。

 

ラクチェ 「準備できました」
アイラ  「ご苦労。さて、ではまず始めてのお客人に挑戦してもらうとしよう」
エリウッド「……って、これは……」

 

 ラクチェが運んできたものは、直系が一抱えほどもある巨大な円形の回転板である。
 円形の回転板はさらにいくつかの扇形に区切られ、それぞれに異なる色付けがされている。
 そして、その扇形には『追撃』『連続』『たわし』などと書かれていて……

 

エリウッド(どっかで見たことあるぞこれーっ!?)
スカサハ 「それではどうぞお客人」
エリウッド「は? どうぞって……」
シャナン 「このダーツを使われよ……海賊ではないぞ」
エリウッド「いやそんなことは分かってますって……えーと、つまりこのダーツを投げて当てろと」
アイラ  「分かっているなら話は早い。それでは流星軒一同、手を合わせて唱和せよ! せーの、はい!」
シャナン 「パ・ジェ・ロ!」
アイラ  「はい!」
ラドネイ 「パ・ジェ・ロ!」
アイラ  「はい!」
ロドルバン「パ・ジェ・ロ!」
アイラ  「はい!」
エリウッド(なんなんだこの店ーっ!?)
リーフ  「ほら早くしなよ兄さん」
セリス  「スキル判定しないと」
エリウッド「違うだろ、スキル判定ってのはこうじゃないだろ!?
      いや僕は本来スキルとは縁の無い人間だから詳しくは分からないけどさ!」
リーフ  「うーん、確かに独特だよね、ダーツで食後の商品決めるなんて」
セリス  「流星軒オリジナルなんだって。凄いよね」
エリウッド(嘘だ、絶対嘘だ!)
セリス  「ところでパジェロって何なんだろうね」
リーフ  「さあね。なんか、この儀式には欠かせない呪文らしいけど」
エリウッド「……」
アイラ  「どうした客人、早くダーツに意思を込めて乱数の神よりスキル判定を受けるのだ!」
エリウッド(明らかに乱数とか関係ないのに……!)
アイラ  「はい!」
ラクチェ 「パ・ジェ・ロ!」
アイラ  「はい!」
スカサハ 「パ・ジェ・ロ!」
アイラ  「はい!」
エリウッド「あーもう、分かりましたよ、投げりゃいいんでしょ投げりゃ!」

 

 ヤケクソ気味に投げたエリウッドのダーツは、回転板の緑に塗られた部分に命中し……

 

全員   「!!」
エリウッド「……? なんだ、何て書いて……『流星券?』」
アイラ  「は、発動した……! 発動してしまったぞ、我らが奥義、流星券が!」
ラクチェ 「クッ、こうしてはいられない……! いくわよスカサハ、すぐに流星券の準備!」
スカサハ 「合点だ!」
シャナン 「ふふ、楽しくなってきたな……!」
エリウッド「え、なに、何がどうなって……?」
ラドネイ 「おめでとうございますお客様! 流星券プレゼントです!」
ロドルバン「凄いなあ、流星券が発動したお客様は久しぶりですよ」
エリウッド「……あの、一体何がどうなって……」
リーフ  「くそぅ、兄さんは運がいいなあ」
セリス  「僕らはいっつもたわしなのにね」
エリウッド「ああそうか、あのたわしはいつもここから……じゃなくって、
      説明してくれないか。一体何がどう」

 

 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!

 

エリウッド「……」
スカサハ 「フーッ、お待ちどうさま」
ラクチェ 「当店名物のイザークスタミナラーメンの五連発……」
シャナン 「それが、奥義・流星券……」
アイラ  「さあお客人、その舌でとくと味わうがいい!」
エリウッド(そんなに食えるもんかーっ!)

 

 ~二時間後~

 

エリウッド「う……うぷっ……さ、さすがにおいしいラーメンでも五杯連続はキツい……!
      頑張ってくれた相手に悪いからと無理矢理完食した自分を褒めてあげたい……!」
リーフ  「あーあ、僕またたわしだったよ……」
セリス  「えへへ、僕は『追撃』が出たからもう一杯ただでもらっちゃった」
リーフ  「くそう、次こそは『連続』を出してみせるぞ」
エリウッド(……変な店だった……正直、しばらくは近寄りたくもないな……)
ホリン  「客人よ」
エリウッド「……あなたは?」
ホリン  「名乗るほどの者ではない。ただ、あそこの店の女と縁があってな」
エリウッド「はあ……」
ホリン  「この券をお前にやろう」
エリウッド「……これは……」

 

 勇者の券を手に入れた!

 

エリウッド「……」
ホリン  「これを使えば流星軒のラーメンが一杯分の値段で二杯食べられる。
      その上スキル判定で流星券が発動すれば五杯でなく十杯連続の大サービスが」
エリウッド「うぷっ……! 想像しただけで胃がもたれる……!」
リーフ  「すごいね兄さん!」
セリス  「やったね! でも、あなたはどうしてこんないいものを僕らに……?」
ホリン  「フッ……言っただろう、あの店の女に縁があってな……
      こうして客を増やすことで贈り物としたいのだ」
エリウッド「はあ……」
ホリン  「ではな。流星軒とアイラによろしく」
エリウッド「……行っちゃったな……」
リーフ  「うーん、これはまた近い内に来ないとね」
セリス  「兄さんならまた流星券発動間違いなしだよ」
エリウッド「勘弁してくれよ……」
レックス 「よう兄さん」
エリウッド「ん?」
レックス 「この券、やらないか……じゃなくて、やるよ」

 

 勇者の券を手に入れた!

 

エリウッド「……」
レックス 「なに、あの店の女とはちょっとした縁が」
エリウッド「いやもういらないですから本当に」

 

 おしまい