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Last-modified: 2007-10-10 (水) 21:08:38

フラグメイカー

 

 ~街中にて~

 

リーフ  「いやー、しかし、アイク兄さんのフラグへし折りにも困ったもんだよね」
マルス  「だねえ。昨日もレテさんが泣きながら走ってたもんね」
ロイ   「まあ、アイク兄さんも肉と鍛錬以外には興味ない人だし……ん?」

 

 不意に、屈みこんで何かを拾うロイ。 

 

マルス  「? どうしたの、ロイ」
ロイ   「落し物みたいだ……あ、あの人のかな? ちょっと届けてくるよ」

 

 タタタッ、とロイが走っていく。

 

ロイ   「あのー、すみません」
お嬢様  「? なんですの、あなたは」
護衛   「無礼な。おい小僧、こちらにおわすお方をどなたと……」
ロイ   「すみません、失礼だとは思いましたのが、そちらのお嬢様がこれを落とされたようですので」
お嬢様  「あ、そ、それは、お母様の……!」
護衛   「おお、亡くなった奥様の形見のブローチ……!」
ロイ   「やっぱり。大切な物だったんですね」
お嬢様  「あ、あなたには関係ないでしょう!?」
ロイ   「そうですね。でも、気がついてよかったです」
お嬢様  「い、いいから早く返して……!?」

 

 ロイはお嬢様の手を包み込むようにしてブローチを渡した。

 

ロイ   「どうぞ。今度は落とさないように、大切に持っていてくださいね」
お嬢様  「あ、あなたなんかに言われなくても、分かっておりますわ」
ロイ   「それじゃ、僕はこれで」
お嬢様  「あ……ま、待って!」
ロイ   「はい?」
お嬢様  「あの……い、一応、届けてもらったのですし、何かお礼をしなければなりませんね。これからお食事でも」
ロイ   「ああいえ、お構いなく。これから少し用事もありますので」
お嬢様  「そ、そうですの……」
ロイ   「それじゃ、失礼します」

 

 爽やかな笑顔を残して去るロイを、どこぞのお嬢様はほんのり紅潮した顔で見送ったのでした。

 

リーフ  「……」
マルス  「……」
ロイ   「待たせてごめん、やっぱりあの人のだったよ……? どうしたの二人とも、変な顔して」
リーフ  「……いや、別に」
マルス  「……アイク兄さんとは正反対だよね、君は」
ロイ   「??」

 

 困惑するロイを横目に、こっそり先程のお嬢様の方を窺ってみる二人。

 

リーフ  (あー、やっぱ何か護衛の人と話しこんでるよ)
マルス  (『至急あの方の素性を調査しなさい』『はっ、お嬢様』って感じだね、あれは)
ロイ   「ねえ、どうしたのさ、兄さんたち」
リーフ  (で、本人は全く気付いていない、と)
マルス  (アイク兄さんがごく自然にフラグを折る名人なら、ロイはごく自然にフラグを立てる名人ってとこかな)
リーフ  (くそぅ、僕にもこの才能があればおねいさんたちとフラグ立て放題なのに……!)
マルス  (いや、君は無理でしょ)
リーフ  (どうして?)
マルス  (だって、確かに途中で何本かフラグ立てるけど、最終的には相手が固定されてるから、
       どちらかと言うとフラグクラッシャーの系統に属するよ、君は)
リーフ  (何の話!?)

 

 ~後日、兄弟家~

 

リーフ  「いやー、でも不思議だよねー」
マルス  「何が?」
リーフ  「ロイさ。あれだけポンポンフラグ立ててたら、今頃我が家はかぐや姫みたいな大騒ぎになってそうだけど」
マルス  「まあ、確かにね。どうしてだろう」
マシュー 「その疑問には俺が答えますよ」
リーフ  「あれ、マシューさん。いらっしゃい」
マルス  「ヘクトル兄さんに用事ですか?」
マシュー 「まあね。でもちょっと留守にしてるみたいですし、若様が来るまで、
       何故ロイ君の周りが女の子で溢れないか説明しますよ」
マルス  「へえ。それじゃ、マシューさんはその理由を知ってるわけですか」
マシュー 「もちろん。なんたって、フラグが立った相手を妨害してるのは俺達ですからね」
リーフ  「……はい?」
マルス  「妨害って……どういうことです?」
マシュー 「まんまですよ。たとえばロイ君のことを調べようとしてる相手に対して偽の情報を流したり、
       直接接近しようとするのをあれやこれやの手段で妨害したり」
マルス  「なんでそんなことを!?」
マシュー 「もちろん、お嬢様のご命令です」
リーフ  (お嬢様、って言うと……)
マルス  (まあ、リリーナだろうね、普通に考えて)
二人   (正ヒロイン怖ぇーっ!)
マシュー 「まあそんな訳で、月間平均百本のフラグを立てると言われるロイ君の
       日常は、我々オスティア密偵隊の手によって平穏無事に保たれている訳で」
レイラ  「マシュー」
マシュー 「レイラ。どうした?」
レイラ  「またロイ君がフラグを立てたみたい」
マシュー 「またか。今度はどんなフラグだ?」
レイラ  「ある商家のお嬢様にしか懐かないはずの犬に、出会い頭にじゃれつかれたとか」
マルス  「それ何てフローラ?」
アストール「こっちもだ、マシュー」
マシュー 「アストールの旦那まで? 一体どんなです?」
アストール「ひったくりにあった若奥様のバッグを取り戻して、名前も告げず爽やかに去ったとか」
リーフ  「人妻とのフラグ!? 羨ましぃーっ!」
マシュー 「やれやれ、また忙しくなりそうだな……そんじゃ、俺らはこの辺で。
       若様にはまた今度来るって伝えておいてもらえますか?」
マルス  「はあ。まあ、いいですけど」
マシュー 「それじゃ失礼」

 

 来たとき同様、瞬時に跡形も残さず消える密偵三人組。

 

リーフ  「……」
マルス  「……」
ロイ   「ただいまー。あれ、どうしたの二人とも」
リーフ  「いや」
マルス  「別に?」
ロイ   「そう? いやー、大変だったよ。途中で犬に纏わりつかれたり、
      ひったくりを追っかける羽目になったり。おちおち散歩もしていられないね、これじゃ」
リーフ  (で、本人全く自覚なし……と)
マルス  (恐るべし、フラグメイカー!)