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Last-modified: 2008-02-27 (水) 19:43:21

249 名前: リーフ、届け物をする 投稿日: 2008/02/17(日) 22:03:56 ID:3ho0seWQ
ある日の午後、兄弟家にて

エフラム 「お前は武器の性能と相性を軽視しすぎだ、装備は戦局に合わせて随時変更を…」
ヘクトル 「面倒なんだよ、大体本人が強ければ相性なんてどうにでもなるだろ?」
アイク  「まあ、どちらの言うことにも一理ある。俺は今日休みだし、手合わせでもしてみるか?
      議論するのもいいが、やはり実践が一番だ」
マルス  「よくもまあ飽きもせず…それより電話鳴ってるんですけど」

実は先程から電話が鳴り響いているのだが、三人は戦闘議論に夢中で全く気付いていない
それとも単に電話を取る気が無いのか

マルス  「まったく…はい、もしも「マルスかっ!?」
      っと、びっくりした…シグルド兄さん?」
シグルド 「すまん、急いでいたものでな…確認したいんだが、居間のテーブルの上に
      ファイルが置かれていないか?」
マルス  「うーん…あ、多分あれのことかな。もしかしなくても、忘れ物ですか?」
シグルド 「ああ、今日の午後の会議で使う書類なんだが…何とかいまから十五分以内に持ってこれないか?」
マルス  「十五分ですか…それはちょっと…」
シグルド 「頼む!今回の会議にはアルヴィスも出席するんだ、奴の前で醜態を晒す訳にはいかん!
      お前の人脈で何とかならないか?」
マルス  「物には限度がありますって、今家には脳筋トリオしかいませんし、十五分以内は…」
リーフ  「ただいまー」
マルス  「…わかりました。十分で届けます」

マルス  「というわけで、シグルド兄さんのメンツを守るために協力して欲しいんですけど」
エフラム 「それはいいが、何をすればいい?というかなぜ俺たちなんだ」
ヘクトル 「お前の知り合いに向いてる奴いるんじゃねえのか?」
アイク  「まあ、何か考えがあるのだろう」
リーフ  「僕はこの面子が集まっている時点で嫌な予感するんだけど」
マルス  「流石、いい勘してるね」
リーフ  「え!?」
マルス  「いや何でもない。じゃあ作戦を教えるからちょっとこっちに…
      ああリーフは悪いけどそこにいてくれないか」

嫌な予感がして仕方が無いという様子のリーフを尻目に、四人は何やら話し合っている
時折聞こえる「なるほどな…」「その手があったか!」という台詞がリーフの不安をさらに加速させた

リーフ  「い、いったい何の話をしてるんだ…」
マルス  「お待たせ、じゃあ時間もないし、さっさと始めよう」
アイク  「ああ」
エフラム 「わかった」
ヘクトル 「じゃあ俺たちは武器取ってくるからよ。少し待っててくれ」

そう言って一旦家に入っていく三人。書類を届けるのと武器とに一体何の関連性があるのか
リーフは皆目見当がつかず、首を捻るばかりである
250 名前: リーフ、届け物をする [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 22:07:47 ID:3ho0seWQ
マルス  「リーフ、これを見てくれ」
リーフ  「これは?」
マルス  「特注の小型練成金庫さ、これに書類を入れてあるんだ。これなら多少のことでは壊れないからね
      開け方はシグルド兄さんが知ってるから…ああちょっと背中を向けてくれないか」

リーフに背を向けさせたマルスは、手にした金庫をいかにも頑丈といった太目のワイヤーで
リーフの背中に括り付ける。リーフはもう何がなんだか分からないといった様子だ

リーフ  「持っていくのはいいけど、何で背中に括り付けるのさ?」
マルス  「直接当たらないようにしてるのさ。それと万が一にも手放さないようにね」
リーフ  「……?」
アイク  「待たせたな、こっちは準備出来てるぞ」

声のした方向を見ると、三人がそれぞれの得物を持って待機している
何故か臨戦態勢の様にも見て取れるが、その真意を確かめる術は今のリーフには無い

マルス  「じゃあエフラム兄さん、ヘクトル兄さん。予定通り
      僕が声をかけるまでひたすらリーフを攻撃してください」
リーフ  「ちょ!!!?なにそれ!?」
エフラム 「そういうことだ」
ヘクトル 「まあ観念しろよ」
リーフ  「いや全然意味わかんないし!待った!暴力反対!話し合おう!」
エフラム 「話し合った結果がこれなんだ、リーフ」
へクトル 「シグルド兄貴のためだ、諦めな」
リーフ  「いや本当に勘弁して下さいってアッー!!」

バキッ、ドガ、ズシャ、ドゴ、ズバァン
閑静な住宅街に響いてはいけない音が響き渡る中で
アイクとマルスは『作戦』を確認していた

マルス  「方角はこっちです、方向さえ間違えなければそれで成功ですから」
アイク  「距離はどうなんだ?」
マルス  「それも大丈夫です。ちゃんと計算してますから、それでも全力だと過剰なんで
      『本番』の七割くらいのでお願いします」
アイク  「わかった、お前の計算を信じよう」
マルス  「さて、リーフのダメージは…適量だな…よし、もういいですよ」

マルスの声で、リーフをボロ雑巾にする勢いで攻撃していた二人の手が止まる
肝心のリーフは、無惨という言葉を体現したかのようにズタボロだ
それでも意識を失わないのは、流石、しぶとさに定評のあるリーフと言ったところか

リーフ  「うう…何でこんな目にあわなきゃいけないんだ…」
マルス  「それは、よく飛ぶようにするためだよ」
リーフ  「え?」
マルス  「ほら、次はアイク兄さんの前に立って」
リーフ  「…なんでアイク兄さんの前に立たなきゃいけないの?」
マルス  「それは、その方がアイク兄さんが当てやすいからだよ」

眼前に立つアイクの様子を見てみると、神剣ラグネルを今にも振り下ろさんと
上段に構え、集中しているアイクが目に入った

リーフ  「何でラグネルを構えてらっしゃるんですかあッー!?」
マルス  「それは…」
アイク  「ぬぅん!」
マルス  「お前を飛ばすためだよ!」

アイクのラグネルがリーフに炸裂する瞬間、大気が震え、空間が軋み、時が止まった
そう錯覚するほどの凄まじい一撃だった。そして次の瞬間
リーフは、風になった
251 名前: リーフ、届け物をする [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 22:09:39 ID:3ho0seWQ
一方、シグルドはグランベル商社前で『届け物』を待っていた

シグルド 「そろそろのはずだが…」
ノイッシュ「あ、係長。お疲れ様です」
アレク  「どうしたんです?こんなところで」
アーダン 「何かあったんですか?」
シグルド 「ああお前たちか、外回りは終わったのか?」
ノイッシュ「はい、先程終わりました」
アーダン 「私は備品の買出しに…」
アレク  「係長こそ、会議じゃなかったんですか?」
シグルド 「いや、弟が忘れ物を届けに来てくれるはずなのだが…この短時間で届けろというのは無茶だったか…ん?」

諦念に心を支配され、やはり無理だったかと天を仰ぐシグルドの目に
何か小さな点の様なものが映った。しかも次第に大きくなっているような感覚を覚えた
部下三人も空を見るシグルドの目線を追い、その『何か』を確認する

アレク  「あれは…」
ノイッシュ「なんだろうな、鳥か?」
アーダン 「飛竜じゃないか?鳥にしては大きい気がするぞ」
シグルド 「あれは…みんな気をつけろ!何か飛んでくるッ!」
ノイッシュ「え!?何でこっちにくるって分かるんです?」
シグルド 「私は自分に危険物が飛来してくるかどうかが判別できるのだ!」
アーダン 「なんでそんなに自信たっぷりなんですか…」
アレク  「何か嫌な思い出でもあるんじゃないの?」
シグルド 「いいから下がれ!」

ゴオオオォォ…ドガアァン!!ガゴッ、ドガッ、ギャリギャリギャリ!ガッ、ドグシァッ!

シグルドが部下に注意を促した数瞬後、シグルド達の数メートル先に轟音と共に飛来した
『何か』は、凄まじい勢いで地面に激突し、さらに数回バウンド。
そしてその勢いのまま地面を、金属製の何かがあるのか派手な火花を散らしながら滑走し
何かの出っ張りに引っかかってさらにもう一度跳ね、グランベル商社の壁に激突した後にようやく静止した

アレク  「…なんですかね、アレ?」
ノイッシュ「ちょっと確認し…うわっ…」
アーダン 「こいつはひでぇ…」

一同の目に入ったのは、人間であった。それもかなりひどい有様の
思わず目を背けたので断言は出来ないが、全ての間接が曲がってはいけない方向に曲がっていたような気がする
瞳孔も開いていたような気がしないでもない
三人はなぜこんなひどい事が…目の前の惨状に心を痛めていた。と、次の瞬間!
252 名前: リーフ、届け物をする [sage] 投稿日: 2008/02/17(日) 22:12:04 ID:3ho0seWQ
リーフ  「あ~酷い目にあった…」
     「「「うわっ!!?」」」
シグルド 「おおリーフ、お前が届けてくれたのか」
リーフ  「あ、シグルド兄さん。はいこれ書類」
ノイッシュ「あの…君…大丈夫なのかい?」
リーフ  「え?ああ別に大丈夫ですよ。飛んでる間に心の準備できたから受け身も取れたし
      兄さんたちも本気じゃなかったですし、これなら何の準備も無しに
      戦闘竜の群れの中に放り込まれるより断然マシですって」
ノイッシュ「そ、そうか…」

受け身ってさっきの激突のことかとかその兄さんが本気だったらどうなってたんだとか
そもそもなんでそんなに元気なんだ、全ての骨がバラバラになっても不思議ではないのに
というか死んでなかったか?といった全ての疑問は、目の前で元気にシグルドと会話するリーフを見て
どうでも良くなった、と言うよりも深く考えないようにした。きっとさっきの惨状は気のせいだったんだろう
…でなければあの少年はゾンビか何かということになってしまうから
三人は自身の精神衛生のためにこれ以上考えるのを止めた

リーフ  「兄さんしっかりしてよね、僕はもうこんな役回りはこりごりだよ」
シグルド 「ああ、私ももう二度と忘れ物なんてしないよ。…そうだ、お前には迷惑をかけたし
      礼をしなきゃな、これをとっておきなさい」

そう言いつつ、リーフに何かを握らせるシグルド

リーフ  「なになに?え!?1000ゴールドも!?くれるの?イヤッホウ!」
シグルド 「今回は本当に助かったよ、すまなかったな」
リーフ  「いいっていいって!こんなの1000ゴールドで十分お釣りがくるから!」
アレク  「…なんとまあ」
ノイッシュ「……………」
アーダン 「どうやったらあんなに頑健になれるんだろうな…」

あんな目にあったのに1000ゴールドでお釣りが来るとは、あの少年は普段一体どんな生活をしているのだろうか
リーフの常識を疑う発言にシグルドの部下三人は思わず苦笑い

アイク  「…まさかホームランコンテストで培った技術がこんなところで役に立つとはな」
ヘクトル 「手加減してあれなら、本気でやったらどこまで行くんだろうな?」
エフラム 「それより、あんな役回りをさせてリーフは怒らないか?」
マルス  「大丈夫でしょう、今頃シグルド兄さんに小遣いもらって小躍りしてますよ」
エフラム 「扱いやすい…いや、幸せな奴だな。あいつが一番人生楽しんでるのかもしれん」

  終わり