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Last-modified: 2008-03-18 (火) 22:38:24

564 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:32:41 ID:efyndyUZ
 ~ある日の兄弟家、居間~

 http://cat.oekakist.com/FE_heros/dat/IMG_000010.png

エイリーク「……」
ロイ   (……さすがエイリーク姉さん……)
マルス  (物凄く集中してるね……)
エリンシア(素晴らしい旋律ですわ……)
ミカヤ  (心が洗われるよう……)
リン   (この空気の中じゃ、どんな人間だって何も語らずにヴァイオリンの音色に聞き入ってしまうわよね……)

 ところが、響き渡るヴァイオリンの音色を吹き飛ばすようにしてドタドタという慌しい音が響き渡り、

エフラム 「ただいま!」
ヘクトル 「腹減った!」
アイク  「飯くれ!」
リン   「少しは空気を読まんかぁぁぁぁぁぁっ!」
リーフ  「うわぁ、リン姉さんのアグレッシヴビーストモードが発動した!」
アイク  「リン……! 俺の前で剣を抜くとはな。いいだろう、相手をしてやる!
      妹と言えども手加減はしないぞ!」
ヘクトル 「ハッハァ、いくら野生化しようが、お前の力じゃ俺は倒せねえぜ!」
エフラム 「妹相手に槍を振るうのはあまり気が進まんが、その志を無碍にするわけにはいかんな」
ロイ   「しかもなんかノリノリだし……」

 そして始まる大乱闘FEブラザース。実にいつも通りの光景である。

ミカヤ  「もう……! せっかく我が家には清涼感溢れる瑞々しい雰囲気だったのに、この子たちは……!」
リーフ  「まあ、なんとなくこういう感じになるんじゃないかなって気はしてたんだけどね……」
マルス  「やれやれ、こんな中じゃエイリーク姉さんもヴァイオリンなんかやってらんない……」

 と思いきや、乱れ飛ぶ衝撃波や七色の閃光の中、
 エイリークは眉一つ動かさぬまま、静かな表情でヴァイオリンを弾き続けているではないか。

ロイ   「す、凄い集中力だ……!」
シグルド 「うむ……エイリークは、また一つ人間として成長したようだな」
エリンシア「日々の鍛錬の賜物ですわね……」
ヘクトル 「うらぁ! 避けてるだけじゃ勝てねえぞ、リン!」
リン   「……草原奥義、疾風稲妻三段返し!」
エフラム 「うおっ!?」
アイク  「かぜの剣といかずちの剣を一瞬で持ち替えることによるを三連攻撃……!
      魔法防御が低いという俺の弱点を突いたいい攻撃だ。また腕を上げたな、リン!」
リーフ  「……草原奥義ってなんだって突っ込んじゃいけないんだろうね、きっと」
マルス  「まあ、姉さんの草原厨ぶりは今に始まったことじゃないからね」
ロイ   (って言うか、混戦の中でもエイリーク姉さんには当たらないように戦ってる四人も凄いな……)
セリカ  「それにしても、美しいヴァイオリンの音色と破壊的な戦いの音が一時に響き渡るなんて……」
アルム  「ある意味、凄く我が家らしい光景だな……」
565 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:33:16 ID:efyndyUZ
 ……で、十数分後。

エイリーク「……ふう。皆さん、聞いてくださってありがとうござい……ハッ、この惨状は一体!?
      何があったんですか!?」
マルス  「この惨状はかくかくしかじか。乱闘を起こした四人はエリンシア姉さんにこってり絞られてる最中です」
エイリーク「そうなのですか……少しも気付きませんでした」
リーフ  「本気で気付いてなかったんだ……」
セリス  「凄いやエイリーク姉さん! これなら次のコンクールもきっと優勝だよ!」
ロイ   「本当、神がかった集中力だよ……そう言えば、演劇部の舞台公演も来月だったよね」
エイリーク「ええ、そろそろ本格的な練習に入る予定です」
リーフ  「姉さんなら、きっとガラスの仮面並に役に入り込むんだろうなあ……」
エイリーク「……」
リーフ  「……? どうしたの、なんか浮かない顔だけど」
エイリーク「ああいえ、何でもありません、何でも……」
ロイ   「とにかく、頑張ってね姉さん! みんな応援してるよ!」
エイリーク「……ありがとうございます」

 ~翌日、ルネス女学院の教室~

エイリーク「……ふぅ」
ラーチェル「あら、どうなさいましたのエイリーク、ため息だなんて」
ターナ  「なにか、悩み事?」
エイリーク「いえ……悩み事、と言ってもいいのかどうか……」
ラーチェル「歯切れ悪いですわねー……? あら、なんだか外が想像しいようですけど」
ターナ  「今の、悲鳴じゃない!? 何が……」

 外が騒がしくなるのと同時に、教員の一人であるサレフが教室の入り口から顔を出した。

サレフ  「ああ、君たち。また賊が敷地内に侵入したようだ。安全が確認されるまで、教室を出ないように」

 それだけ言い残して、サレフは走り去る。ターナが肩を落とした。

ターナ  「またいつもの変態どもね……本当に懲りないというか何というか……」
ラーチェル「何度捕まえても、外部からの手引きで脱獄されるとかなんとか。
      全く、ベルン署のゼフィール署長というのも、大したことはありませんわね」
エイリーク「そんな風に言っては……警察の皆さんだって、真面目に頑張っていらっしゃるのですし……」
ラーチェル「……仕事といえば」

 ラーチェルがにやりと笑って、ある物を取り出した。それを受け取って、エイリークが表情を硬くする。

ターナ  「あ、その仮面……」
ラーチェル「もちろん、変装セットもロッカーの中にしまってありますわ」
ターナ  「準備いいわね、あなたも……」
ラーチェル「もっちろん。生徒会長という立場である以上、私自らが変質者を迎撃するわけには参りませんもの。
      代わりに戦うエイリークを全面的にサポートするのは当然のことですわ」
ターナ  「そんなこと言って、単純に面白がっているだけでしょうに」
ラーチェル「それも当然のことですわ」
ターナ  「全くもう……それで、どうするのエイリーク……エイリーク?」

 エイリークは手の中にある仮面を見下ろしたまま、何か気まずいような表情で黙り込んでいる。

ターナ  「どうしたの? ああ、怖くなったのなら、ゼト先生やサレフ先生たちに任せておいた方が……」
エイリーク「いえ、そういうわけではないのですが……」
ラーチェル「そうですわよね。エイリークの腕前なら、あんな変質者達なんて楽勝ですわ」
ターナ  「じゃあ、どうして?」
エイリーク「……私、最近目の前のことに没頭しすぎるあまり、周りが見えなくなることが多くて……」
ラーチェル「いいことではありませんの。高い集中力の証ですわ」
エイリーク「……」
566 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:33:45 ID:efyndyUZ
ターナ  「……あー、エイリークが心配してること、なんとなく分かったけど……」
ラーチェル「? なんですの?」
ターナ  「……まあ、あなたには分からないかもね。
      でも大丈夫よ、エイリーク。別に、周りに迷惑はかけてないから……」
エイリーク「そうでしょうか……」
ターナ  「うん。むしろ喜ぶ人たちの方が多いぐらいだし……とにかく、何も心配しなくても大丈夫。安心していってらっしゃいよ」
ラーチェル「そうですわ。さ、また新聞部の皆様に、記事のネタを提供しておあげなさいな」
ターナ  「いや、別にそれが目的じゃないでしょうに……」
ラーチェル「それなら学園の平和のためでもなんでもよろしいですわ。
      それに、どんな事情があろうとも、目の前の悪事を見逃せるようなお人ではありませんわよね、
      あなたは?」
エイリーク「……そうですね。すみません、迷っている暇などないのに……行ってきます。
      ラーチェル、屋上に転送をお願いします」
ラーチェル「はいはい、お安い御用ですわ」

 仮面と衣装を持ったエイリークを、ラーチェルがワープで屋上へと飛ばす。

ラーチェル「……ちなみに、悪事を見逃せないのは正義の絶世美王女である私も同じですから、
      そこのところをお忘れなく」
ターナ  「はいはい……」

 ~ルネス女学院、中庭~

レイドリック「グハハハハハ、どうした、その程度かルネスの聖騎士殿よ!」
ゼト   「クッ、ロプトの剣を持っているだけの男が、何を偉そうに……!」
ゲブ   「そんな男にも勝てない奴がぁ、何を言っても負け犬の遠吠えでしかないわぁ」
ブラムセル「ガッハッハ、そちらの賢者殿も、我らの魔物軍団に手も足も出ないようだなあ」
サレフ  「クッ、無駄弾を撃たせて消耗させる算段か……姑息な!」
ブラムセル「何とでも言うがいい!」
レイドリック「その通りだ!」
ゲブ   「勝てばいいのだぁ、勝てばぁ」
ゼト   「おのれ……! だが、何故だ。何故貴様らはこうも容易に我が学院に侵入できる!?」
サレフ  「私とても休んでいたわけではない……! 苦心の末、外部からのワープを防ぐ
      『ワープジャマー』を、学院周辺に張り巡らしたというのに……!」
レイドリック「グハハハハハ、馬鹿め、そんなものはとっくの昔に対策済みだ!」
サレフ  「なんだと!?」
ゲブ   「この腕輪を見ろぉ」
ブラムセル「これぞ我がテロ集団ベルクローゼンの科学者、アーヴ殿が心血注いで開発した
      『ワープジャマーキャンセラー』よ!ちなみにこの魔物軍団もアーヴ殿の提供なんで、そこんとこよろしく」
ゼト   「ワープジャマーキャンセラーだと……! 
      サレフ殿、それならこちらは『ワープジャマーキャンセラージャマー』を作って」
レイドリック「それならこちらは『ワープジャマーキャンセラージャマーキャンセラー』を作ってやるわ!」
ゼト   「それならこちらは……」
サレフ  「その辺にしておけ……疲労のあまり頭が悪くなっているぞ、貴殿」
???  「全くだ。情けない限りだな」
レイドリック「む……!? 何奴!?」

 と、レイドリックが振り向いた先、塀の上に颯爽と降り立つ人影が。

ヒーニアス「待たせたな! フレリアの貴公子、ヒーニアスただいまさん」
ゲブ   「やれぇ」
567 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:34:13 ID:efyndyUZ
 バチン、とゲブが太い指を鳴らすと、空から舞い降りたガーゴイルがヒーニアスを取り囲んだ。

ヒーニアス「し、しまった……! これでは弓が撃てん……! 助けてエイリーク!」
ゼト   「何しにきたんですかあなたは!」
サレフ  「これだから弓兵は……」
ヒーニアス「ええい、私の弓が外伝仕様(射程1-3)だったらこんなことには……!」
レイドリック「グハハハハハ、聖魔と外伝が微妙に似てるからって、そこまで同じなわけなかろうが!」
ゲブ   「グフフフ、さあ、たっぷり可愛がってやるぞぉ」
ヒーニアス「やめろ、貴様に言われると何故か尻を押さえたくなる!」
レイドリック「グハハハハハハッ、貴様らを始末した後は、思う存分学院中の女子更衣室を覗きまくってやるわ!」
ブラムセル「わしは綺麗どころの女学生に踊り子のコスプレをさせて……」
ゼト   「ええい、救いようのない変態どもめ……! テロ集団とか言っておいてやることがショボすぎる……!」
サレフ  「……こんなアホどもに私の結界が破られるとは……」
ゲブ   「ぐふふふぅ……お祈りは済んだかぁ? 学院の隅で小便ちびりながらガタガタ震える準備はOK?」
ゼト   「おのれ……どこかで聞いたような台詞を……!」

 そんな絶体絶命のピンチを、程近い物陰から見守る女生徒たちが四人。

アメリア 「ああ、なんてこと……! このままじゃ先生たちが……!」
マリア  「一体どうしたら……!」
ティナ  「大丈夫よ、きっとあの人が助けに来てくれるわ!」
マリーシア「そう……我がルネス女学院の守護者……」
四人   「助けて、仮面の騎士様ーっ!」

レイドリック「グハハハハハ、死ぬがいい!」
???  「待てっ!」
ゲブ   「だ、誰だぁ? どこだぁ?」
ブラムセル「ああ、見ろ、屋上だ!」

 三人が見上げる先、屋上の縁に立つ人影が一つ。
 
???  「……彼らを解放してもらおうか」

 華奢と表現できるほどに細い人影が、静かながらも威圧感のある言葉を放つ。
 人影は己の身を包むマントを払い、スラリと剣を抜き放った。

???  「さもなくば、君たちの顔がさらに醜い顔がさらに醜悪になろう」

 切っ先を眼下に突きつけるその人物、目元は仮面に隠されているが、口元には涼しげな微笑が浮かんでいる。
 そう、彼こそ噂の仮面の騎士。凄まじい腕前を誇る刺突剣の使い手にして、このルネス女学院の守護神と名高
い、謎の人物である!

レイドリック「ええい、またしても貴様か!」
ゲブ   「グブゥ。今度はこの間のようにはいかないぞぉ」
ブラムセル「そうだ。ものども、やってしまえ!」

 ブラムセルの号令に従って、周囲に群がっていた魔物たちが一斉に仮面の騎士に向かっていく。
 仮面の騎士は微笑を崩さぬまま、静かな口調で呟いた。

仮面の騎士「言っても分からぬ馬鹿ばかり、か……よろしい、ならばその体で学習してもらうとしよう!」

 フッ、と彼の姿が屋上から掻き消える。誰もが一瞬、その姿を見失った。
568 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:34:38 ID:efyndyUZ
レイドリック「ど、どこだ、どこに……!」
ブラムセル「あ、あそこだ!」

 ブラムセルが指差す先には、一匹のガーゴイルが飛んでいた。その背に深く剣を突き立てる仮面の騎士の姿が。
 悲鳴を上げるガーゴイルの背から、仮面の騎士は剣を引き抜いて跳躍する。
 彼の体がひらりひらりと宙を舞うたび、一匹、また一匹とガーゴイルが地に落とされていく。

ゼト   「圧倒的ではないか……!」
サレフ  「悔しいが、見惚れるほど華麗な身のこなしだな」
ティナ  「キャーッ!」
マリア  「騎士様ーっ!」
マリーシア「素敵ーっ!」
アメリア 「ああ、ダメだよみんな、騒いだら、わたしたちがここにいるってばれて……!」

 アメリアの危惧は的中した。気付くと、彼女らの背後に巨大なバールが迫っていたのである。

マリア  「イヤーッ!」
マリーシア「蜘蛛嫌いーっ!」
ティナ  「毛虫よりはマシだけどーっ!」
アメリア 「だ、誰かーっ!」

 口々に悲鳴を上げる彼女たち。
 だが、バールはいつまで経ってもその巨大な脚を振るおうとはしない。
 その巨体が唐突に崩れ落ちる。ひらりとそれを乗り越えて、仮面の騎士が現れた。

仮面の騎士「お怪我はありませんか、レディ?」
マリア  「イヤーッ!」
マリーシア「騎士様がこんなに近くにーっ!」
ティナ  「素敵ーっ!」
アメリア 「だだだ、大丈夫、全然、かすり傷もありません!」
仮面の騎士「そうですか……それは良かった」

 騎士は口元に微笑を浮かべた。先程変態たちに向けられていたものと違って、温かみのある微笑だった。

仮面の騎士「私を応援してくださるお気持ちはありがたいが、どうか安全な場所に隠れていてください、レディ。
      あなた方の可愛らしいお顔に傷でもついたら、私は今日という日を永遠に呪って生きていかなくて
      はなりません。さ、どうか、安全な場所まで……」
四人   「はいぃ……」
仮面の騎士「ゼト!」

 十数匹の魔物相手に奮闘していたゼトが、呼びつけられて駆け寄ってくる。

ゼト   「なにか?」
仮面の騎士「あの連中の相手は私に任せたまえ」
ゼト   「しかし」
仮面の騎士「生徒を守るのが教員の仕事だろう。安心したまえ、誰よりも早く現場に駆けつけた君の勇敢さは、
      誰もが知っているさ。誰も君のことを臆病者と嘲笑いはしない」
ゼト   「そんなことを心配しているのではない。貴殿の腕は多少知っているつもりだが、あの数相手に一人では……」
仮面の騎士「フッ……心配は無用。守るべき者が後ろにいる限り、わたしはどこまででも強くなれる」
ゼト   「……なるほどな。では、頼む。わたしは彼女らを校舎まで退避させよう」
マリア  「騎士様……!」
マリーシア「気をつけて!」
ティナ  「あんな奴ら、やっつけっちゃってください!」
アメリア 「お怪我、しないでくださいね!」
仮面の騎士「フッ……ありがとう、あなた方のおかげで、また戦う活力が湧いてきたようだ。では失礼」

 サッと身を翻し、仮面の騎士は戦場の中心へと向かう。
569 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:35:14 ID:efyndyUZ
仮面の騎士「サレフ、ヒーニアス!」
サレフ  「む……?」
ヒーニアス「……フン、正体不明の男が、わたしの名を呼び捨てとは……」
仮面の騎士「すまないが、おしゃべりをしている暇はないようだ。君たちの力を貸してもらいたい」
サレフ  「ほう」
ヒーニアス「策があると?」
仮面の騎士「フッ……それほど上等なものではない。君たちの援護により敵陣に穴を開けてもらい、わたしが単
      騎で突撃する……それだけだ。見たところ、例の三人組が指揮官らしいからな。奴らを倒せば、魔
      物も撤退するだろう」
サレフ  「合理的だ。だが危険ではないのか。下手を打てば敵陣に一人取り残されることになるぞ」
仮面の騎士「心配は無用だ。それに、危険なのは君たちとて同じことだ。打たれ弱い魔導士と近づかれれば終わ
      りの弓兵だけになるのだからな」
ヒーニアス「フン……誰に向かって口を利いている。不意打ちを喰らいさえしなければ、敵が近づく前にみな撃
      ち落してみせよう」
サレフ  「わたしとて、化け物どもから一撃でももらうつもりはない」
仮面の騎士「さすが、頼もしいお言葉だ……では行くぞ、単なるお笑い要員ではないということを、証明してみ
      せてくれ!」
ヒーニアス「みなまで言うな」

 ヒーニアスが神速で放つ弓の嵐と、サレフの手から生み出される無数の炎弾により、魔物たちの戦陣に穴が開
く。その隙を見逃さず、仮面の騎士は素早く駆けた。

仮面の騎士「さすがの手並みだな、二人とも!」
サレフ  「こちらのことは気にするな」
ヒーニアス「返り討ちに遭わんように、せいぜい注意しろ」
仮面の騎士「ああ、分かっている!」

 仮面の騎士は高々と跳躍し、魔物の壁に守られて油断しきっていた変態どもに襲い掛かった。

仮面の騎士「まず一人!」
ゲブ   「げぶぅ!?」
ブラムセル「あ、ああ、ゲブが名前そのまんまの悲鳴を上げてやられた!」
レイドリック「この人でなしーっ!」
仮面の騎士「二人目!」
ブラムセル「ぐおっ……ちょ、魔物よりもあっさり片付けられるってひどくね!?」
レイドリック「この人でなしーっ! ……って、もうワシ一人かい!」
仮面の騎士「観念するのだな、男の風上にも置けぬ変態めが」
レイドリック「く、くぅっ……! ま、負けるものか! ワシにはこの学院を占領し、黒髪の美少女の着替えを
       思う存分視姦するという遠大な野望があるのだ! ふふ、このロプトの剣ある限り、貴様の攻撃
       などワシには通用……ってあれ、ロプトの剣がない!?」
ティナ  「探してるのはこの剣かしらーっ!?」
レイドリック「ゲッ、な、なんだあの小娘、いつの間に……!」
マリーシア「シーフの杖(トラキア版)って便利ねえ」
マリア  「紋章版は宝箱開けるだけですものね」
アメリア 「さあ、仮面の騎士様……!」
仮面の騎士「 成 敗 ! ! 」
レイドリック「ぐはぁ……っ! お、おのれーっ! 覚えておれよ!」
ゲブ   「ぶふぅ、撤退、撤退だぁ!」
ブラムセル「テロ集団ベルクローゼンを敵に回したこと、後悔させてやるぞーっ!」

 それぞれに捨て台詞を残して、その場から掻き消える変態たち。

仮面の騎士「ふむ……リターンリングを持っていたようだな」
ティナ  「見て、魔物が消えていく!」
アメリア 「学院の平和は守られたのね……!」
570 名前: 集中姉さん [sage] 投稿日: 2008/02/28(木) 00:35:39 ID:efyndyUZ
仮面の騎士「……さて、レディ。何故この場に戻られたのか、ご説明いただきたいのですが」
マリーシア「あ……」
マリア  「ご、ごめんなさい……どうしても、騎士さまのことが心配で……」
ゼト   「彼女らを責めないでやってほしい。許可を出したのはわたしなのだからな」
仮面の騎士「フッ……ゼト、君もレディたちも……なにか、勘違いをしているようだ」
ティナ  「え?」
仮面の騎士「危険を冒してまでわたしの救援に来てくださったその勇気……感服いたしました、レディ。
      あなたの助けがなければ、わたしは今ここに立っていなかったかもしれません」
ティナ  「そ、そんなあ……えへへ……」
仮面の騎士「あなたの勇気に最大限の賛辞と心よりの感謝を……レディ」

 仮面の騎士はその場に跪き、ティナの手の平にそっと口づけする。

ティナ  「……」
仮面の騎士「……さて、それでは失礼、皆様方」
マリア  「あ、あの!」
マリーシア「お名前、聞かせてください!」
仮面の騎士「カペラ……とでもお呼び下さい、レディ」
アメリア 「あ、あれ? 前はリゲルって……」
仮面の騎士「夜空の星が一つでないように、わたしの名もまた一つではないのですよ、レディ……では」

 一礼し、マントを大きく翻したと思いきや、仮面の騎士の姿はもうどこにもない。

ヒーニアス「……フン、気障な男だな」
サレフ  「貴公に言われるようではお終いだな、あの仮面の騎士も」
ゼト   「……しかし、一体彼はどこの誰なのか……結局、今回も分からずじまいか」
ティナ  「いいじゃないですか、どこの誰でも!」
マリア  「ああ、騎士様……!」
マリーシア「うっとりしちゃう……!」
アメリア 「騎士様……! また、会えますよね?」

 思い思いに手を組んで、空を見上げる少女たち。
 彼女らの想いを一身に受ける仮面の騎士が、そのとき何をしていたのかと言うと……

エイリーク「……」
ラーチェル「……帰ってきてからずーっとあの調子ですわね、エイリーク」
ターナ  「無理もないでしょ……えーと、とりあえずお疲れ様、エイリーク」
エイリーク「ターナ……ああ、わたしはまたやってしまいました……!
      ゼト先生やサレフ先生、ヒーニアス様にとても失礼なことを……!」
ターナ  「いや、別に気にする必要ないと思うけど……」
ラーチェル「そうですわ。こんなにウケてますのに」

仮面の騎士『お怪我はありませんか、レディ?』
マリア  『イヤーッ!』
マリーシア『騎士様がこんなに近くにーっ!』

エイリーク「ら、ラーチェル! 何故録画しているのですか!?」
ラーチェル「それはもちろん、貴重な資料だからですわ。あ、ほしいのでしたら後でコピーして差し上げましてよ」
エイリーク「い、いりません! と言うか、今すぐ消去してください、それ!」
ラーチェル「おっほっほ、捕まえてごらんなさーい!」
ターナ  「あらら……それにしても、仮面を被った途端にあそこまで没頭しちゃうんだもの、
      集中力が高すぎるのも考え物よね……」

 その抜群の集中力を発揮したエイリークは、翌月の舞台公演でも大成功を収めたそうな。

 おしまい。