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Last-modified: 2008-03-18 (火) 22:40:39

598 名前: しっこくさんとふらぐくらっしゃ [sage] 投稿日: 2008/02/29(金) 23:10:57 ID:RVSyE2VC
「蝶☆サイコー!」
「のっけから壊れてるね……」

まぁ無理も無いか、とリーフは一人ごちる。
目の前ではアイクと漆黒の騎士が激しく剣を交えている。
もちろん両者の獲物は神剣だ。
つまり衝撃波で周りの建物とかが酷い有様です。

「どうしてこうなったんだっけ……?」

隣で「アハハウフフ」などと呟いているエリウッドの肩を支えながら、リーフは思い返す。

「……エリウッド兄さんと、僕?」
「ああ、そうだ」

何でまた僕らなの? という疑問を顔に浮かべるリーフ。
隣にいるエリウッドもまた同じ顔をしていた。
そんな疑問に答えるべく、アイクは口を開く。

「普段、お前達には苦労させているからな」
「いや、まあ、苦労っちゃ苦労してるけどさ……具体的にはブラザーアーチとか……」
「今更な気もするけどね……具体的には修理費とか近所の目とか……」

ユンヌさんの加護受けようかな、とか呟くリーフとご近所さんの生暖かい目も慣れてきたなぁとか呟くエリウッド。
アイク曰く、そんな苦労をかけてる二人をねぎらいたいとの事だ。

「俺の奢りだ、何か食べに行くぞ」
「まぁ、そういう事なら断る理由は無いよ」
「ヒャッホウ、兄さん太っ腹!」

そんな訳で割と珍しい三人で散歩、食事と洒落込んだのであった。
599 名前: しっこくさんとふらぐくらっしゃ [sage] 投稿日: 2008/02/29(金) 23:13:07 ID:RVSyE2VC
「そんで、アイク兄さんの食欲とエリウッド兄さんの胃を考慮して、融通が利くしっこくハウスに行こうって話になって……」
「店の近くに来たら何故か漆黒さんがのっそり出てきて襲ってきたんだよね……。ん? なら家の責任じゃないのかな……」
「あ、回復したんだ兄さん」
「まあね……」

二人からちょっと離れた所では、相変わらず常人離れした二人の戦いが続いている。
現状では全くの互角。まだまだ長引きそうである。

「にしても、どうして突然襲ってきたんだろ?」
「漆黒さん、普通に理性的だった筈なのに……」

理由も無くこんな事をする人ではない、というのが漆黒の騎士に対する二人の共通の見解だ。
なんだかんだで漆黒の騎士は紳士的な人物なのだ。
例え黒い全身鎧に身を包んだ顔も見えない不審人物であろうとも、その態度と慣れでご近所の評判は悪くない。

「そんなしっこくさんがどうしてまた……」
「ああ、よく見たら兄さんが壊してる建物のほうが多い……胃が……」

唐突にネガティブモードに移行したエリウッドを見ないフリしながら、リーフは目の前の戦闘に集中する事にした。
結局、理由は漆黒の騎士本人しか分からないと判断したからだ。

「むぅん!」
「はぁあ!」

剣と剣がぶつかり合う。
鍔迫り合いに移りながら、アイクは目の前の騎士に語りかける。

「どうして何も言わない!」
「……」

申し合わせたかのように同時に剣を引き、距離を取る。
そのまま、同じ動きで剣を振りぬき、衝撃波を放つ。
相殺。

「あんたほどの人物が、理由も無く襲ってくるはずが無い」
「……」

振りぬいた剣の勢いを利用し、一回転。
その回転の勢いをさらに利用し、再び衝撃波を放つ。
アイクも漆黒の騎士も、全く同じ動きでそれをやっている。

「そのくらい、俺でも分かる!」
「……」

何度問いかけても沈黙を破らない漆黒の騎士に、アイクは苛立ちを隠し切れない。
再び接近し、切りつける。
師直伝のその剣は、やはり同じ動きで受け止められる。

「答えろ!」
「……」
600 名前: しっこくさんとふらぐくらっしゃ [sage] 投稿日: 2008/02/29(金) 23:14:49 ID:RVSyE2VC
幾度となく剣を重ねながら、アイクはこの無駄な争いを鎮めるべく、必死に言葉を紡ぐ。

「あんたが、俺と同じ動きをしている事に理由があるのか!?」
「……ッ!」

初めて反応らしい反応を示し、漆黒の騎士はアイクを大きく吹き飛ばす。
ようやく状況を動かすことに成功したアイクは、若干の安堵と今まで以上の警戒をもって漆黒の騎士と相対する。
その警戒に応えたのか、漆黒の騎士はエタルドを構えた。
必殺の奥義を放つそれへと。

「で、出るぞ……! しっこくさんの奥義、エターナルフォースムーンライトが……!」
「いくら兄さんでも直撃したら……」

対するアイクもラグネルを構える。
同じく、必殺の奥義を放つそれへと。

「やっぱりスカイハイだ!」
「さっきと言い、その名称は何?」

構えた二人はそのまま動かない。
じりじりと、ただ神経をすり減らして行く。
リーフとエリウッドも、この見切り合いを固唾を呑んで見守っている。

「…………」
「…………」

唐突に、リーフは懐からコインを一枚取り出した。
それを指で弾き、天高く飛ばす。

『……!』

コインが地面に落ち……

「天ッ!空ゥ!」
「ぉぉおおお!」
601 名前: しっこくさんとふらぐくらっしゃ [sage] 投稿日: 2008/02/29(金) 23:17:17 ID:RVSyE2VC
「……で、結局どうして兄さんに襲い掛かったんですか?」

勝負はアイクの勝ちであった。
漆黒の騎士は壁にもたれかかり、アイクはその傍らで膝をついている。
二人に傷薬を渡しながら、エリウッドは問いかけた。

「羨ましかったのだ」
「羨ましい?」

そうだ、と漆黒の騎士は兜を脱ぐ。
うろたえるリーフとエリウッドだが、漆黒の騎士……ゼルギウスは気にした風も無く話を続ける。

「私が、グレイル殿から剣の指南を受けていた事は……」
「知っている」
「グレイルさんが仕事で利き腕を痛めて、教えることが出来なくなった事も知っています」
「話が早くて助かる」

自嘲気味な笑いを浮かべながら、ゼルギウスは語りだした。

曰く、しばらくその事を信じることが出来ず、何度も挑み続けたと。
曰く、あまりの手応えの無さにようやく師の負傷を認めたと。
曰く、師を超えるという目標を失い、何もかも虚しくなってしまったと。

「そのまま我武者羅に剣を振るい、気付けば私の剣は師のそれとまるで違う物となっていた」
「だからあそこまで動きが違ったんだ……」

同じ師の筈なのに、動きや奥義が違ったアイクと漆黒の騎士。
その謎がやっと解けた、とリーフは満足気に頷いた。

「あれ、でもさっきはほとんど同じ動きだったような……」
「しばらくして、アイク殿が工務店へ勤めた。同時に、剣を学び始めた事も聞いた」
「……ああ、3年ほど前の話だな」
「無視!?」

「その時は、ひどく醜い感情を抱いたものだ。何故私ではなく、あんな小僧に剣を教えるのだと」
「俺も、不思議だった。負傷してから誰にも教えたことが無いと聞いた剣技を、何故俺に教えたのか」
「だがそれも、アイク殿と対面した時に納得した」
「……」
「綺麗な目をしていたのだ。頂を見据え、そこに至ろうとする意思が宿っていた」

私が無くしたものだな、と沈んだ表情で呟くゼルギウス。
静かに聞くアイクとエリウッド。
普段のネタキャラな扱いとは違うシリアスぶりに度肝を抜かれるリーフ。
602 名前: しっこくさんとふらぐくらっしゃ [sage] 投稿日: 2008/02/29(金) 23:20:35 ID:RVSyE2VC
「あの時の目を見て、アイク殿ならその頂に至れると確信できた」
「実際至ったどころか通り過ぎちゃったからね……」
「そして、その兄さんをグレイルさんの剣技で倒すことで、師を超えようとしたって所ですか」
「そうだ」

結局叶わなかったが、と笑うゼルギウスの表情は、先程までとは違い晴れやかなものだった。
兜を被りなおし、店へと向かう漆黒の騎士。

「侘びだ。馳走しよう」
「すまんな、助かる」
「ヒャッホウ!」
「リーフ自重」

「結局、羨ましかったってのは?」
「醜い感情を抱いた、という話をしただろう?」
「ええ」
「……その時を思い出し、つい感情的になってしまったのだ」
「……」
「……しっこくさんも人の子だね」
「何だと思っていたのだ?」

「……あれ? おかしいな、僕酷い目に合ってないぞ。この人でなしーってまだ叫んでないよ?」
「リーフ……」