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Last-modified: 2008-07-05 (土) 12:34:41

275 名前: 愛を取り戻せ? [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:25:21 ID:wZWgF69g
 ~とある休日、竜王家にて~

ユリウス 「……暇だなー」

 『一ヶ月前にサカの神殿からミュルグレが盗み出された事件には、今だ解決の兆しが見えず……』

ユリウス 「ニュースもなんかつまんないのしかやってないし……
      あー、適当にアインスでもいびり倒して遊ぶかな……」
ユリア  「ユリウスお兄様」
ユリウス 「ん?」
ユリア  「一緒にお出かけしませんか?」
ユリウス 「……はい? な、なんだって?」
ユリア  「ですから、お出かけです」
ユリウス 「……アインス!」
アインス 「なんですかユリウスさま」

 バキャアッ!

アインス 「ひでぶっ!? ちょ、なんでいきなり殴るんですか!?」
ユリウス 「痛かったか?」
アインス 「は!?」
ユリウス 「今のは痛かったかと聞いてるんだ!」
アインス 「痛いに決まってるでしょうが! ったく、魔法系のくせにバカ力なんだから……」
ユリウス 「ぃぃぃぃぃいよっしゃぁぁぁぁぁぁっ!」
アインス 「うわ、どうしたんですか急に」
ユリウス 「これが騒がずにいられるか! あのユリアが! 普段は僕のことを
      『ロプトウス? ナーガがあれば雑魚じゃんw』的な、
      ゴミ虫を見るような目で見るユリアが、清楚な微笑を湛えて
      『デートしませんか?』ときたもんだ!」
アインス 「ま、マジッスか!?」
ユリア  「単なるお散歩ですから誤解のなきよう」
ユリウス 「なんでもいいさ! とにかくユリアと一緒にお出かけだ!
      我が世の春が来たのだぁぁぁぁぁっ!」
アインス 「興奮しすぎッスよユリウスさま」
ユリア  「……で、一緒に出かけてくださいますか?」
ユリウス 「もちろんいいとも、行くに決まってるさ!」
ユリア  「それはよかった……ああ、護衛として十二魔将の皆様も連れてきてくださいね?」
アインス (ゲッ、災難の予感……!)
ユリウス 「えー……二人っきりの方が……」
アインス 「そ、そうッスよユリアさま、ここは双子同士水入らず」
ユリア  「嫌ならこの話はなかったことに」
ユリウス 「よーしアインス、十二魔将全員召集! 3分以内にな!」
アインス 「トホホホホ……」

フィーア 「……で、緊急招集がかかったわけですか」
アハト  「今日は非番のはずだったのに……」
アインス 「愚痴愚痴言うなよ……俺だってさ」
エルフ  「……それで、我々にユリアさまたちの護衛せよ、と?」
ドライ  「そもそも本人達が俺達より強いんだから、護衛の必要あんまりないんだがなあ」
ツヴェルフ「万一ということもあるだろう。それに、何やら今日は妙に珍走団が多いようだし」
アハト  「そんなものユリア様のブレスで一発だろうに。ああ、私の休日……」

276 名前: 愛を取り戻せ? [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:25:49 ID:wZWgF69g
ユリウス 「ふんふふふふーん♪」
イドゥン 「ご機嫌ね、ユリウス」
ユリウス 「そりゃもう、久しぶりにユリアとお出かけだからね!」
イドゥン 「そう。兄妹仲がいいのはよいことだわ」
ユリウス 「うへへへ、そうなんですよ僕達仲良し双子兄妹なんですよー」
イドゥン 「わたしもこれから出かけるのだけれど」
ユリウス 「へえ。最近外に出るようになったねイドゥン姉さん」
イドゥン 「ええ。今日は手芸友達のところへ行くの」
ユリウス 「そりゃまた乙女チックな」
ユリア  「お待たせしましたユリウスお兄様」
ユリウス 「いやいや全然待ってないよ」
イドゥン 「気をつけてね、二人とも」
ユリア  「ああ、イドゥンおねえさま、ちょっとお願いしたいことが……」
イドゥン 「なに?」
ユリア  「お兄様、先に外に行っていてもらえますか」
ユリウス 「あいよー、待ってるからねー」

 ~数分後~

ユリア  「さあ、それでは参りましょうか」
ユリウス 「うむ、愛の逃避行へ!」
ユリア  「もう一回言ったら帰りますからね?」
ユリウス 「なーんて、冗談冗談! さー、どこまでお散歩に行こうか?」
ユリア  「行先はもう決まっています」
ユリウス 「そっかー。まあユリアの行きたいところならどこだって
      ついていっちゃうけどね僕は! さーて、一体どこに連れてってくれるのかなー」

 ~数十分後~

ユリウス 「……」
モヒカン1「ンだっらぁ!?」
モヒカン2「っろっぞゴルァ!」
モヒカン3「汚物は消毒だーっ!」
ユリウス 「……どこ、ここ?」
エルフ  「町外れの山、のはずなんですが……」
アインス 「ば、バイクに跨ったモヒカンたちがあんなに……!」
フィーア 「しかも何故か全員弓矢装備……」
アハト  「いつから核戦争後の世紀末になったんだこの町は……!」
ユリウス 「あ、あのー、ユリア? これは一体……」
ユリア  「黙っていてください、お兄様。じきに分かりますわ」
ユリウス 「いや、でも……」
アインス 「ああ! ユリウスさま、あれを!」

??   「おう……逃げずにようきたのお……」

ツヴァイ 「な、なんだ、あの大物オーラ漂う人影は……!?」
ツヴェルフ「凄まじいプレッシャーだ!」
ドライ  「奴は一体……!?」
ユリウス 「いや、あのひつじ髪はどう見ても……」

277 名前: 愛を取り戻せ? [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:26:37 ID:wZWgF69g
ラナ   「今日こそは引導渡したるけぇの、このトカゲ女……!」
ユリア  「フッ……ひつじ風情がよく吠えよるわ……」
ユリウス 「あのー、ユリア?」
ユリア  「なんですかお兄様」
ユリウス 「ひょっとして、最初からこのつもりで?」
ユリア  「もちろんです」
ユリウス 「僕を連れてきた意味は?」
ユリア  「相手の攻撃力半減能力で、弾除けぐらいにはなるかなって」
ユリウス 「ふ、ふふ、うふふふふふふ」
アインス 「ゆ、ユリウスさま!」
フィーア 「お気を、お気を確かに!」
ラナ   「……一騎打ちのはずだったんだけどねえ?」
ユリア  「あら、そちらこそ、罵射気裏通多亞(バイゲリッター)の皆様を全員駆り集めて……」
ラナ   「フッ、兵法とは非道なものなのよ」
ユリア  「その点に関してだけは意見が一致するみたいね」
アインス 「……よーしお前ら、気合入れろよー」
ドライ  「馬鹿馬鹿しい戦いだが、だからこそこんなところで怪我するのもな……」
エルフ  「罵射気裏通多亞の連中が一斉に弓を構えて……!」
ユリウス 「ええいチクショウ、こうなったらまとめて相手してやらぁ!
      ユリアには傷一つつけさせんぞーっ!」

 そのユリウスの叫び声が合図になったように、居並ぶ罵射気裏通多亞の皆様が一斉に矢を放つ。

アインス 「アハト!」
アハト  「うむ……!」

 アハトの放ったトルネードが、飛んでくる矢を全て弾き飛ばす。

アハト  「とは言え、これだけではそう長くは持たんぞ……!」
フュンフ 「弓や魔法で仕留めるにしても、敵の数が多すぎる……!」
ユリウス 「ええいクソッ、のっけから不利な勝負かよ!」

ラナ   「フフ……高い場所に陣取って弓矢を放ちまくる!
      地の利は我にあり、といったところかしら?」
ユリア  「それは、どうかしらね?」
ラナ   「なに……?」
マナ   「ら、ラナさま!」
ラナ   「どうしたのマナ、騒々しいわよ」
マナ   「あ、あれを……!」

 と、マナが指差す先には、突如として現れた飛竜の群に襲われている罵射気裏通多亞の一群が!

アンドレイ「ヒーッ!」
スコピオ 「お助けーっ!」
レスター 「落ち着け、陣形を乱すな!」
ディムナ 「冷静に対処すれば、そう恐ろしい相手じゃないぞ!」

ユリア  「フフ……イドゥンお姉さまにお借りした戦闘竜軍団が役に立ちましたわ」
エルフ  「さすがユリアさま、素晴らしい先見の明です」
ユリア  「いかに弓軍団が飛行特攻を持っていようとも、竜の硬い皮膚の前では物の数ではない!
      さあ、世紀末覇者伝説に終止符が打たれる日が来たようね、ラナ!?」
ラナ   「フッ……それは、どうかしらね?」
ユリア  「なに!?」
アインス 「あ、あぁっ!?」

 アインスが悲鳴を上げると同時に、空から飛竜が一頭落下してくる。
 その体に、いくつもの矢が突き刺さっている。
278 名前: 愛を取り戻せ? [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:27:15 ID:wZWgF69g
ユリア  「そ、そんな!? 竜の皮膚がこうも容易く……!」
ラナ   「フッ……所詮はトカゲ、人類の英知にかかればこんなものよ!」
ユリア  「一体どんな手品を……!?」
ラナ   「これよ!」

 と、ラナが掲げたものは、

フィーア 「あ、あれはミュルグレ!?」
フュンフ 「……っていうと、サカ平原の神殿に安置されてるはずの神将器?」
アインス 「神将器といえば竜特攻……! そうか、それで飛竜がこうも容易く」
フュンフ 「だがあれは最近盗まれたはずでは……」
ユリウス 「要するに、これに使うためにあいつが盗ませたわけか……」
ラナ   「フフ、しかも、我がユングヴィ家の驚異の科学力により、
      ミュルグレの機能解析は着々と進みつつあるのよ!
      今回はレスターお兄様始め数名の罵射気裏通多亞に、
      量産型ミュルグレの試作品を持たせてあるのです!」
ユリウス 「りょ、量産型って……一応伝説の武器に対して、なんちゅー罰当たりな……!」
ラナ   「なんとでも言うがいい!
      このミュルグレの量産の暁には、トカゲ女如きあっという間に叩いてみせるわ!」
ユリア  「さすがラナオウ、勝つためにはなんでもするということね……!」
ユリウス 「ど、どうするの、ユリア?」
ユリア  「決まっておりますわ。質で勝るこちらと、数で勝るあちら。
      いまや戦力差はほぼ無きに等しい。となれば」
ユリウス 「となれば?」
ユリア  「ノーガードの殴り合いを演ずるのみ!」
ユリウス 「マジッスか!?」
ユリア  「総員突撃! どこかの誰かの未来のために!」
ユリウス 「って絶対お前のためだろ!? ええい、こうなりゃ自棄だ、いくぞお前ら!」
十二魔将 「おー……」

 そんなこんなで混戦が始まった。吹き荒れるブレスの嵐、飛び交う矢玉の雨、乱れ飛ぶ
悲鳴と怒号。通りすがりのリーフが巻き込まれて「この人でなしーっ!」と吹っ飛ばされ
たりしつつ、戦いはいよいよ苛烈さを増していく。

戦闘竜  「ギャオオオオオオッ!」
アインス 「おお、見ろ! あの戦闘竜、ラナオウの眼前まで迫っているぞ!」
フュンフ 「行けっ、あのひつじに炎のブレスをお見舞いしてやれ!」

 声援に答えるように、戦闘竜がその巨大な顎を開き、灼熱のブレスを吐き出す。その圧
倒的な熱量に、ラナは消し炭すら残らず焼き尽くされる、かに思えたが。

ラナ   「フンッ! (ぶぉん!)」
ドライ  「ちょ、あの女、杖の一振りで炎のブレス吹き散らしたぞ!?」
フィーア 「なんという豪腕……!」
フュンフ 「そんなレベルか!?」
アハト  「ええい、我々も追撃をかけるぞ! トルネード!」
ズィーベン「ボルガノン!」
ゼクス  「トローン!」

 正体不明の傍系三人組が放つ三色高位魔法が、息ぴったりにラナに向かっていく、が。

ラナ   「カァッ!」
アハト  「い、一喝で魔法をかき消した!?」
ズィーベン「本当に人間かあれは!?」
279 名前: 愛を取り戻せ? [sage] 投稿日: 2008/06/04(水) 23:27:50 ID:wZWgF69g
ラナ   「フハハハハ、貴様らのへなちょこ魔法など、いくら来たところで物の数ではないわ!」
ユリア  「どきなさいお前達、こうなればわたし自らあのひつじに引導を渡してやりますとも!」
ユリウス 「いや、さすがに危険……!」
ユリア  「ヘボ暗黒竜はすっこんでなさい!」
ユリウス 「ひ、ヒデェッ!」
ラナ   「フハハハハハ、きたわねトカゲ女! 今日こそ一刀両断にしてやるわ!」
ユリア  「お前こそとっとと天に帰りなさいな!」
ラナ   「ユリアァァァァァァッ!」
ユリア  「ラナァァァァァァァッ!」

 二人の怪物が正面からぶつかり合うかと思われた、その瞬間、

セリス  「あれー、二人とも何やってるのー?」

 唐突にのん気な声が場に響き渡り、全ての音がぴたりと止んだ。

ラナ   「セ」
ユリア  「セリスさ、ま」
ユリウス 「なんでこんなところに?」
セリス  「町の手芸サークルに参加した帰りだけど」

 セリスは首を傾げる。

セリス  「みんなしてこんなところで、なにしてるの?」
ラナ   「お、おほほほほほほ」
ユリア  「そ、それはもちろん、竜王家とユングヴィ家で親交を深め合っていたのですわ」
ラナ   「なにせ仲良しですからわたしたち」
ユリア  「そうそう。リライブの杖をあげたりあげなかったりする仲ですから」
二人   「ねー!」
ユリウス (相変わらず凄まじい転換の早さだ……!)
セリス  「そうなんだー。仲がいいのはいいことだねえ」
イドゥン 「ええ、そうね」
ユリア  「……って、い、イドゥンお姉さま? 何故セリス様と一緒に……!」
セリス  「え? だって、僕ら手芸サークルで一緒のグループだし」
ラナ   「は」
ユリア  「はいーっ!? い、一緒グループって……!」
イドゥン 「ええ。セリス君と一緒に、竜のぬいぐるみを作っているの」
ユリウス 「な、なんだってーっ!?」
セリス  「イドゥンさんがデザインしたんだ。とっても可愛いんだよ」
イドゥン 「ありがとう。セリス君のアレンジも、とても可愛らしいわ」
セリス  「あはは、ありがとうございます」
ユリウス 「……いつの間にかスゲー仲良くなってるし」
ラナ   「お、思わぬところにライバルが……!」
ユリア  「い、イドゥンお姉さま……!」
イドゥン 「? どうしたの、ユリ」
ユリア  「お姉さまなんか、大っきらいですぅぅぅぅぅぅぅっ!」
イドゥン 「……!!」

 ~竜王家~

ニニアン 「イドゥン姉さま、出てきてください……!(ドンドンドン!)」
ニルス  「……で、今度は『ユリアに嫌われたのが悲しいので引きこもります』と……」
ムルヴァ 「それならばお前も手芸サークルに参加すればいいだろうに」
ユリア  「いいえ、それにはまず邪魔者(主にラナ)を排除してからでないと……!」
ヤアン  「クククッ、難儀なものだな」

ユリウス 「……で、僕らは結局何のためにあそこに行ったんだろう」
アインス 「骨折り損のくたびれ儲けですかね」
アハト  「わたしの休日が……」