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Last-modified: 2008-09-15 (月) 21:24:14

697 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:48:02 ID:OfJcdDqz
 ピンポーン♪

リーフ  「はーい……おお、イドゥンさんじゃありませんか!
      いやあ、宝石の如きオッド・アイがいつにも増してお美しい」
イドゥン 「こんにちは、葉っぱさん」
リーフ  「……」
イドゥン 「? どうかしましたか、葉っぱさん」
リーフ  「いや……僕の名前……」
イドゥン 「……ヘクトルさんが『あいつは葉っぱだから』と仰っていましたが……
      ごめんなさい、何か間違いが」
リーフ  「いえ、別にいいんですよ!
      これはこれで美人のお姉さんに蔑まれてるみたいでちょっとイイし」
イドゥン 「はい?」
リーフ  「ああいや、こっちの話で……それで、今日は誰に用事ですか?
      エフラム兄さん? それともアイク兄さん?」
イドゥン 「いえ、誰に、というわけでもないのですが」
リーフ  「……? よく分からないけど、とりあえず上がってください。
      お茶ぐらいは出しますので」

 ~居間~

イドゥン 「……」
リーフ  「お待たせしました。どうぞ、粗茶ですが」
イドゥン 「ありがとうございます。……今日は、とても静かですね」
リーフ  「え? ああ、たまたまみんな出かけてるんですよ」
イドゥン 「それでは葉っぱさんはお留守番をされているのですね。いい子いい子」
リーフ  「……」
イドゥン 「……ごめんなさい、ついファやチキを相手にしているときみたいに……」
リーフ  「いや、出来ればもっと」
イドゥン 「はい?」
リーフ  「いえいえこっちの話です! ……で、一体どんなご用件で」
イドゥン 「はい、実は……」

 竜王家長女であるイドゥンは、
 つい最近まで家に閉じこもりっぱなしのもやしっ子であった。
 だがしかし、幼い妹たちの誘いや兄弟家の人々との交流のかいあって、
 徐々に外に出る楽しみを覚えつつあったのである。

イドゥン 「……それで、今まで外に出なかった分、
      世間一般の常識というものを身につけたいと思っているのですが」
リーフ  「いやいや、世間知らずのおねいさんというのもそれはそれで」
イドゥン 「?」
リーフ  「ゲフンゲフン……そ、それで、僕らに世間一般の常識を教えてもらおう、と?
      でもなあ、ウチの兄弟もいろんな意味で常識外れな連中ばっかりだし……」
イドゥン 「いえ、そうではないのです。わたしがお聞きしたかったのは、これについてで」
リーフ  「なんですかこの雑誌……こ、これは、求人雑誌!?」
イドゥン 「はい。『社会復帰の第一歩にはアルバイトが一番の近道だ』とヤアンお兄様が」
リーフ  「アルバイト!」

 ブバァァァァァァァッ!

イドゥン 「……!!」
リーフ  「……失礼。
      つい『イドゥンおねいさんのいけないアルバイト』というキーワードが頭に」
イドゥン 「よく分かりませんが……大変、こんなに血が……」
698 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:48:42 ID:OfJcdDqz
 ふきふき

 ブバァァァァァァァッ!

リーフ  「だ、大丈夫、大丈夫ですから! すぐ治りますから」
イドゥン 「そうですか……でも不思議、どうして拭き取れば拭き取るほど多くの鼻血が……」
リーフ  「そ、そんなことより、話を戻しましょう。アルバイト、でしたね?」
イドゥン 「はい。社会復帰の第一歩として」
リーフ  「ふうむ……それで、どんなのをやるか、決めたんですか?」
イドゥン 「いえ。いろいろなお仕事がありますので……ヤアンお兄様にも聞いたのですが、
      『クククッ、オススメだと? 知るわけがないだろう、
      わたしは生まれてこの方一度も賃金労働に従事したことはない!』と仰いまして」
リーフ  「あの人もニート気質か……」
イドゥン 「ニート?」
リーフ  「いえ、今のイドゥンさんにはなんの関係もないことです」
イドゥン 「そうですか」
リーフ  「とにかく、それで僕ら兄弟に、どんなアルバイトがいいか聞きにきたわけですね?」
イドゥン 「はい。わたしの家族は、皆アルバイトをしたことがない人たちばかりのようで……
リーフ  (そりゃそうだろうな……紋章町一の金持ち一族だし)
イドゥン 「葉っぱさんはこういったことには詳しいのですか?」
リーフ  「え? ええまあ、お金稼ぐためにいろいろやってますからね」
イドゥン 「そうですか。では、何かアドバイスをいただけないでしょうか」
リーフ  「!!」

 そのとき、リーフに電流走る……!

リーフ  (こ、これは……この状況……! イドゥンさんの澄んだ瞳、
      これは完全に僕の知識を信頼している目だ……! 
      加えてこの人は世間知らずだから、舌先三寸で割とどうとでも騙せる!
      そしてなおかつ、今日は凄まじい偶然のため家に僕一人……!
      つまり邪魔が入る確率は皆無……ッ!)

 ざわ……ざわ……

リーフ  (どうする僕、ヤッちゃうか!?
      勢いと欲望に任せてこの純情無垢なおねいさんを騙すか……ッ!)

 今、リーフの脳内で、善の心と悪の心の凄まじい戦いが巻き起こる!

悪魔リーフ(AV撮影だな)
天使リーフ(鬼畜な真似はやめるんだ! このスレをR-18指定にするつもりか!?)
悪魔リーフ(……じゃあパンチラで許す)
天使リーフ(下品すぎる! 大体にしてパンツなどただの布だ!
      それではおねいさんの魅力を味わい尽くすことなどできない!)
悪魔リーフ(じゃあどうするんだ?)
天使リーフ(決まっているじゃあないか。
      この状況で勧めるバイトと言ったら、選択肢はただ一つ……ッ!)

 こうして激しい戦いは終わりを告げた。リーフの善なる心は、悪なる心に打ち勝ったのだ!

リーフ  「……激しい戦いだった」
イドゥン 「葉っぱさん?」
リーフ  「え? あ、ああ、すみません。
      イドゥンさんに似合うアルバイトは何かと、必死に考えていました」
イドゥン 「そうですか、ありがとうございます」
リーフ  「いえいえ……そ、それで、イドゥンさんにオススメのアルバイトなんですけど……!」
イドゥン 「はい」

 真剣な瞳のイドゥンを前に、リーフは一瞬躊躇った。
699 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:49:09 ID:OfJcdDqz
リーフ  (いや、迷うな、僕。ゲッターの力……じゃない、僕自身の善なる心を信じるんだ……!)

 一息吐いて、震える声で、言う。

リーフ  「メ……メイド喫茶、なんてどうかな、と……」
イドゥン 「メイド喫茶……?」

 イドゥンは首を傾げて、ぱらぱらと求人雑誌を捲る。

イドゥン 「……そのようなバイトはどこにも書いてありませんが」
リーフ  「そりゃそうです、何せ選ばれた人間にしか出来ないバイトですからね!」
イドゥン 「選ばれた……」

 イドゥンは不安げに眉を曇らせる。

イドゥン 「そのようなアルバイト、わたしのような者に務まるでしょうか……」
リーフ  「もちろんですとも! と言うか、イドゥンさん以上に似合う人はいませんよ!」
イドゥン 「そうなのですか? それで、それはどのような……」
リーフ  「え、ええと……イドゥンさんは喫茶店に入ったことはありますか?」
イドゥン 「喫茶店……コーヒーなどを出してくださるお店ですね。
      入ったことはありませんが知っています」
リーフ  「そうですか。で、そこに店員……いや、給仕の娘さんがいますよね?」
イドゥン 「ウェイトレスさん、だったでしょうか」
リーフ  「そうです。よく勉強しておいでですね」
イドゥン 「ありがとうございます。では、わたしもウェイトレスさんに……?」
リーフ  「いえ、違います。メイド喫茶はウェイトレスではなくてメイドが接客をするのです」
イドゥン 「……何故ですか?」
リーフ  「もちろん、客が喜ぶからです!」

 興奮するリーフに対し、イドゥンは今ひとつ理解の出来ない顔で、

イドゥン 「確認したいのですが」
リーフ  「はい、なんですか」
イドゥン 「メイド喫茶、というのは、メイドが接客をする喫茶店なのですね?」
リーフ  「そう。お出迎えから注文取りまで……」
イドゥン 「……つまり、店に入ると『お帰りなさいませ、お嬢様』というような?」
リーフ  「よ、よく知ってますね……! ひょっとしてメイド喫茶に入ったことが?」
イドゥン 「いえ、今まではそういったお店が存在することも知りませんでしたが」
リーフ  「え、それじゃあどうして?」
イドゥン 「家ではいつもそのような感じですから」
リーフ  「……は? 家で、というと」
イドゥン 「散歩から帰ると、エプロンドレス姿のエルフやノインが
      『お帰りなさいませ、お嬢様』と」
リーフ  (しまったぁーッ! そういやこの人お金持ちだった!)
イドゥン 「そのような日常風景を喫茶店の中で繰り返されて、何故楽しいのでしょうか」
リーフ  (ど、どうするリーフ……! 何か上手い言い訳を……!)
イドゥン 「……葉っぱさん?」
700 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:49:44 ID:OfJcdDqz
リーフ  「……え、ええと……いや、今気にするべき点はそこじゃありませんよイドゥンさん!」
イドゥン 「と、仰いますと……?」
リーフ  「重要なのは、イドゥンさんがメイドとして働くということなのです!
      いいですか、先ほどイドゥンさん本人が仰ったように、
      メイドというのはイドゥンさんにとっては実に身近な存在です。
      それこそ日常風景の一部と化しているぐらいにね」
イドゥン 「そうですね」
リーフ  「ですが……いや、だからこそ、お忘れではありませんか?
      彼らもまた、今イドゥンさんが従事しようとしている賃金労働に従事する者
      ……すなわち、労働者だということに!」
イドゥン 「……!」
リーフ  「そう、つまり、メイド喫茶でメイドとしてアルバイトをするということは、
      イドゥンさんにとって最も身近な労働者……すなわち社会人の先輩でもある
      メイドさんたちの気持ちを、自分の肌で直接感じるという、
      崇高な行為でもあるのです! 今のイドゥンさんにとって、
      これ以上相応しいアルバイトがあるでしょうか! いやない、あるはずがない!
      今のイドゥンさんはメイドさんになるしかない! ないのですッッッッ!!」

 ……こうして自分の気持ちを熱弁の形で全て叩きつけたリーフは、
 震える膝に両手を突いて、肩で荒く息をする。

リーフ  (ど、どうだ……さすがに引かれたか……!?
      いや、これ以外に方法はなかったはずだ!
      僕の手で純粋無垢なおねいさんメイドを誕生させる方法は、これ以外には……!)

 リーフは祈るような気持ちで薄目を開き、おそるおそるイドゥンの表情を窺う。

イドゥン 「……」
リーフ  (!! こ、この表情は……!)

 ゴクリ、と喉を鳴らすリーフの前で、
 イドゥンはそっと胸に両手を置き、感動したように吐息を漏らした。

イドゥン 「……ありがとうございます、葉っぱさん。心、洗われました……」
リーフ  (いやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)

 リーフは心の中でガッツポーズを決める。

リーフ  (やった、僕はやったんだ! これでイドゥンさんとのドキドキメイドライフを)
イドゥン 「では早速、メイド喫茶というところに連絡を取ってみます。
      葉っぱさん、今日はありがとうございました」

 ぺこり、とお辞儀をして出て行こうとするイドゥンを、リーフは慌てて引き留める。

リーフ  「いや、ちょ、待ってください!」
イドゥン 「……? なにか……?」
リーフ  「ええと、あの……そ、そう、いきなり連絡するのはまずいですよ!」
イドゥン 「……まずい、と仰いますと……?」
リーフ  「え? それは、その、ええと……じょ、常識的じゃありません!」
イドゥン 「!! ……そうですか。わたしはまた何か常識外れのことを
      するところだったのですね。止めてくださってありがとうございます、葉っぱさん」
リーフ  (ふぅ……! 危ない危ない、こんな人が連絡取ったら
      一発採用に決まってるっつーの! それじゃ独占できないし)
イドゥン 「それで、普通はこのようなときにどうするものなのでしょうか?」
リーフ  「え? ええと……め、メイド喫茶というのは、
      メイドとして喫茶店で接客をする仕事ですので、
      当然メイドとしての技能が求められます。
      ですから、事前にある程度訓練をしなければならない、といいますか」
701 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:50:14 ID:OfJcdDqz
イドゥン 「メイドとしての技能、と言うと、掃除や洗濯等の家事全般、でしょうか」
リーフ  「そうですね。イドゥンさんはお嬢様だから、
      その辺りは不慣れではないですか? だから僕相手に」
イドゥン 「いえ、ずっと家に閉じこもりきりでしたから、家事はよく手伝っていました。
      ですので、ある程度はこなせると思います」
リーフ  「え、あ、そうですか……(ボソッ)残念、手料理を作ってもらうのは無理か」
イドゥン 「?」
リーフ  「ああ失礼……そ、それじゃあ、家事以外の技能も見てみましょう、ハイ」
イドゥン 「家事以外の……?」
リーフ  「フフ……メイドさんの仕事は、何も家事だけとは限らないのですよ……
      とりあえず、僕の部屋に行きましょう。あ、その前に……」

 ~リーフの部屋~

リーフ  「……よし、片付け終わった。さすが僕、あの散らかり放題だった部屋を5分もかからず片付けるなんて、大した器用さだよホント」

 コンコン

イドゥン 「……葉っぱさん、入ってもいいですか」
リーフ  「ああはい、どうぞ」
イドゥン 「失礼します」

 ガチャッ
 ブバァァァァァァァァッ!

イドゥン 「……」
リーフ  「……失礼」
イドゥン 「……葉っぱさん、大丈夫ですか?
      先ほども鼻血を流されていましたし、一度病院に……」
リーフ  「いや、そんなまともに心配しないでください! なんか心が痛くなりますので」
イドゥン 「……?」
リーフ  「そ、そんなことより、その服! 凄くよくお似合いですよハイ」
イドゥン 「……そうですか?」

 イドゥンはスカートの裾を軽く摘まんで、不思議そうに首を傾げる。
 そう、彼女の今の格好はメイド服である。しかも布地は全て高級素材を使用し、
 スタンダードなデザインにリーフ好みのアレンジを加えた、完全なオーダーメイド品であった。

リーフ  (フッ……ナンナやミランダたちに知られないようにこれを作るのは、
      実に苦労した……ああ苦労したともさ! 材料費だけでも稼ぐのに
      数ヶ月を要したこの一品! 来るべきおねいさんたちとの一線に備えて
      数着作らせておいたものの中に、たまたまイドゥンさんに似合うサイズが
      あって本当に良かった……!)
イドゥン 「……葉っぱさん?」
リーフ  「……ハッ、ああいえ、失礼、なんでもないです」
イドゥン 「やはり鼻血で意識が朦朧と」
リーフ  「いや大丈夫ですから! っていうか意識が朦朧としていようが
      絶対病院なんか行きませんから! ええ行きませんとも!
      こんな、一生に一度あるかないかの機会を逃してたまりますかってーの!」
イドゥン 「……? ごめんなさい、葉っぱさんの仰ることの意味が、わたしにはよく……」
リーフ  「あー、ダメダメ、ダメですよイドゥンさん。
      メイド喫茶で働くための特訓はもう始まっているんですから」
イドゥン 「? ……あ、そうでしたね。ごめんなさい、やり直してもいいでしょうか」
リーフ  「ええ、そりゃもう、どうぞどうぞ」
702 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:50:46 ID:OfJcdDqz
 リーフが促すと、イドゥンは少し恥ずかしげに頬を染めながら、しおらしく頭を下げた。

イドゥン 「申し訳ありません、ご主人様」

 ブバァァァァァァァァッ!

リーフ  「……ッ! ……ッッッ!」
イドゥン 「……あの……」
リーフ  「大丈夫、全然大丈夫! It's no problem! モーマンタイ!」
イドゥン 「……そうですか。ですが」

 と、イドゥンは気遣わしげな表情で、そっとリーフの手を取る。

イドゥン 「……もしもお体の具合が悪いのでしたら、すぐに申し上げてくださいね。
      わたしにとっては、ご主人様の健康が何よりも大事なのですから」
リーフ  「……ッ! イドゥンさん……! 僕はもう、今すぐ死んでしまってもいい!」
イドゥン 「……?」
リーフ  (クッ……さすが真面目なイドゥンさんだ、もうメイドという役割に
      入りきっている……! クソッ、背中に隠した僕専用アイテム、
      『常時輸血用人工血液パック』……予備も10個ほど隠してるけど、
      果たしてそれだけで持つかどうか……!?)
イドゥン 「……それで、ご主人様。何をいたしましょうか?」
リーフ  「え? ええと……」
イドゥン 「なんなりとお申し付け下さい、ご主人様」

 控え目に顔を伏せるイドゥンの表情は、まさにメイドそのものである。
 さすがに毎日本職と接している人は一味違う、とリーフは喉を鳴らした。

リーフ  「そ、それじゃあ……」
イドゥン 「はい」
リーフ  「ま、まずは……み、耳掃除、を……!」
イドゥン 「……? 耳掃除、ですか?」

 イドゥンは困惑したように眉を曇らせる。

イドゥン 「申し訳ありません、それは今までやったことが……」
リーフ  「いえ、いいんです! むしろ不慣れな方が! それはそれで!」
イドゥン 「そうですか。承知いたしました、ご主人様」
リーフ  「よろしくお願いします!
      あ、耳掻きはこれを使って、姿勢は当然、ひ、膝枕、で……!」
イドゥン 「分かりました。どうぞ、ご主人様」

 イドゥンはそっと床に正座すると、自分の膝を手で指し示した。
 ゆったりと広がるスカート越しに浮かびあがる太股の上に、リーフは全身を震わせながら頭を下ろす。

リーフ  (……! 柔らかく、そして温かい……!
      これはヤバい、気を抜いたら間違いなく昇天してしまう!)

 その瞬間、リーフはあることに気がついた。

リーフ  (ま、待てよ……今のこの姿勢……! 顔を上に向ければ、
      イドゥンさんの見事なバストを、ローアングルからたっぷり堪能できるのでは……!)

 リーフはごくり、と唾を飲み込む。しかし、
703 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:51:26 ID:OfJcdDqz
リーフ  (だ、ダメだ……! そんなことを実際にしてしまったら、
      間違いなく鼻血が噴出する! そんなことになったらイドゥンさんの
      メイド服姿を血で汚してしまうではないか!)

 リーフにとっては 自分の欲望<イドゥンのメイド服姿 なのであった。

イドゥン 「……それではご主人様、失礼いたします」
リーフ  「あ、はい、どうぞ……」

 だが、たとえローアングルからおねいさんの乳鑑賞、という男のロマンが
 実行不可能だとしても、この状況が至福のものであることには変わりない。

リーフ  (ようし、こうなったらイドゥンさんの太股の柔らかさを存分に堪能しつつ、
      丁寧かつ優しい耳掃除の感触に酔いしれるとしようか!)

 涎を垂らさんばかりに、このときのリーフは幸福であった。
 だが、次の瞬間!

 ガリィッ!

リーフ  「……! ウ……ギィッ……!?」
イドゥン 「……ご主人様、動かないで下さい……! とても大きな耳垢が……!」
リーフ  「そ、そう、です、か……!?」
イドゥン 「はい……! これは……クッ、なかなか、取れません……!」

 ガリッ、ガリッ、ゴリッ、ブチィッ!

リーフ  「ギッ、グッ、ガァッ……!」

 リーフは理解する。間違いなく、今自分の耳の中は酷い状態になっている。
 もしもイドゥンの持つ耳掻きが、巨大な耳垢を追ってさらに深く潜っていったら、
 下手をしたら鼓膜を破られるかもしれない、と……!

リーフ  (ど、どうする……! 『痛い!』と叫んで止めてもらうか……!?)

 葛藤は一瞬であった。

リーフ  (いや、 試 合 続 行 だ ! !)

 リーフにとっては、自分の命<イドゥンの太股の感触 なのであった。

イドゥン 「……ふぅ、取れました……」
リーフ  「そ、そうですか……!! い、イドゥンさん!」
イドゥン 「はい、なんですか?」
リーフ  「つ、次は左耳を掃除してもらうわけですが、
      もう少しゆっくりやってもらっても構わないですよっつーか!」
イドゥン 「はい、分かりました」

 そんなこんなでイドゥンも慣れてきたためか、左耳の掃除は先ほどに比べると
 ずいぶん優しいものだった。もっとも、そのときも右耳がじんじんと痛んだので、
 耳掃除の気持ちよさを堪能している余裕は全く無かったが。

イドゥン 「終わりました」
リーフ  「……ありがとうございます」
イドゥン 「……? ご主人様、右の耳から血が……」
リーフ  「き、気のせい、気のせいで……!」
704 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:51:59 ID:OfJcdDqz
 そのとき、リーフに電流走る……!

リーフ  (こ、この状況……! 指に血をつけて、怪我をした振りをすれば……
      アレ、が出来るんじゃなかろうか!?)

 ざわ……ざわ……!

リーフ  (やるか……いや、やるしかない! やるんだ、リーフ!)

 リーフは決意した。イドゥンに見えないように、さり気なく指先に血をつけ、

リーフ  「い、痛っ!?」
イドゥン 「!? どうなさいました、ご主人様?」
リーフ  「いや、なんか、指を切っちゃったみたいで……」
イドゥン 「ああ、本当。指先に血が……」

 血をつけた人差し指をイドゥンに向けて差し出すと、
 彼女は心配そうな表情をしながらも、不思議そうに首を傾げた。

イドゥン 「……どうして切れたのでしょうか?」
リーフ  「そ、それは……いや、そんなこと気にしてる場合じゃありませんよ!
      早く治療しないとばい菌が入って傷口が化膿してしまいます!」
イドゥン 「そうですね、すぐに絆創膏を……」
リーフ  「いや、それじゃ間に合いません!
      今すぐ、ここで、ある治療法を実践してもらいましょう!」
イドゥン 「ある治療法……? それは、どんな?」
リーフ  「こ、この指を……」

 ごくり、と唾を飲み干して、

リーフ  「口に含んで、舐めてください!」
イドゥン 「え……!?」

 さすがのイドゥンも、これには困惑したようだ。

イドゥン 「ですが、それはむしろ不衛生では……」
リーフ  「いやいや、そんなことはありませんよ!
      人間の涎には消毒作用があるのですから!
      現にアイク兄さんだって、どんな重傷を負っても『唾つけときゃ治る』と、こう」

 ちなみにアイクは常人ならば致命傷となる傷でも唾をつけて治す。
 実際に治る、のだが、その話はまた後日に回すとしよう。
 ともかくも、イドゥンはリーフの話を聞いて即座に決断したようであった。

イドゥン 「分かりました。それでは……」

 と、リーフの前に膝を突く。

705 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 20:52:27 ID:OfJcdDqz
リーフ  (ふう、良かった。ここでサラやミランダだったら『自分で舐めれば?』
      とか冷たく言ってるところだよ。イドゥンさんが素直なおねいさんで本当に)
イドゥン 「……ん……」

 ちゅぷっ

 ブバババババァァァァァァァァァァッ!

イドゥン 「……」
リーフ  「……」
イドゥン 「……」
リーフ  「……なんていうか、ごめんなさい……」
イドゥン 「……いえ……困りました、こうも大量の鼻血……
      さすがに鼻の中を舐めるのは困難……」
リーフ  「いえ、大丈夫。これは鼻血じゃありませんから」
イドゥン 「そうなのですか?」
リーフ  「はい。これはなんというか、極度の幸福状態に置かれたときに分泌される
      体液なのです。そうですね、言うなれば、『幸福の赤い汁』とでも言いますか」
イドゥン 「……?」
リーフ  「何故汁なのかと言うと、それはもちろんこの状況において
      『汁をぶっかけている気分になれるから』で……
      ああいやこれはこっちの話ですよハハハハハ」

 あまりの幸福感に訳の分からないことばかり喋るリーフの前で、
 イドゥンは困ったように自分の服を見下ろした。

イドゥン 「……申し訳ありません、借り物の服を汚してしまいました」
リーフ  「いや、別にいいですよ、イドゥンさんのせいじゃありませんし」
イドゥン 「ですが」
リーフ  「それに、ヤンデレメイドってのもなかなか」
イドゥン 「はい?」
リーフ  「いやいやこっちの話で……
      と、とりあえず、一旦元の服に着替えてきてもらえますか?
      その服は洗濯機の前の籠に放り込んでもらえればいいので」
イドゥン 「はい。それでは失礼致します、ご主人様」

 イドゥンが出て行ったあとで、リーフは深く息をつく。

リーフ  (さて、これからどうしようか。まずは服を洗濯してもらって……
      そうだ、それなら洗濯してもらっている最中に、お、お風呂とか……!)

 リーフが最早メイドとはあまり関係がない妄想を膨らませ始めた、そのときである。

709 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 21:01:12 ID:OfJcdDqz
サラ   「リーフ」
リーフ  「うおわぁっ!? さ、サラ……!?」
サラ   「ハァイ。……ずいぶん楽しそうね?」
リーフ  「そりゃもう……じゃなくって、ダメじゃないか、
      人の部屋にリワープで侵入しちゃあ……!」
サラ   「……全部見てたんだけど」
リーフ  「!! ……き、君だけ、だよね?」
サラ   「一応ね」
リーフ  「そ、そうかい。あのねサラ、僕は別にやましい気持ちで」
サラ   「リーフ」
リーフ  「はい?」
サラ   「今、あなたのコレクションを見せてもらったのよ。メイド服の」
リーフ  「いや、あれはコレクションじゃなくて実際に」
サラ   「……サイズはたくさんあるみたいだけど……わたしが着られそうなのは、ないわね」
リーフ  「? そりゃそうでしょ、君みたいな子供に着せたって僕的にはなんも面白くないし。
      やだなあサラ、僕をエフラム兄さんみたいな性犯罪者予備軍と
      一緒にしてもらっちゃあ困るよ。僕が好きなのはあくまでも年上のおねいさん」
サラ   「……わたしも対象者の中に入れてくれてれば、
      許してあげないこともなかったんだけど」
リーフ  「はい? どういう」

 サラは無言で指を鳴らす。するとリーフの部屋に、数人の男女が転移してきた。

ナンナ  「……さて……」
ミランダ 「覚悟は……」
エフラム 「できてるよな……?」
リーフ  「え、ちょ、み、みんな、落ち着いて話を……!
      ギャーッ、な、ナンナ、剣先でグリグリやったら血が、血がーっ!」
ナンナ  「あら、『幸福の赤い汁』なんでしょう?」
ミランダ 「だったら、これから数時間かけてたっぷり幸福な気分にしてあげるわ……!」
リーフ  「イヤーッ! 許してーっ!」
サラ   「……自業自得」

 ~一方その頃~

イドゥン 「……? なんだか二階が騒がしいわ……」
ミカヤ  「ただいまー……あら、イドゥンさん?」
アイク  「来てたのか」
イドゥン 「はい、お邪魔してます」
ミカヤ  「今日はどのようなご用件で……?」

 イドゥンはミカヤにアルバイト探しのことと、
 リーフにメイド喫茶を勧められたことを説明した。

ミカヤ  「……あの子は……」
イドゥン 「……ミカヤさん、頭が痛いのですか……?」
ミカヤ  「ええ、そりゃもう……あのねイドゥンさん。
      メイド喫茶、正直あなたには向いてないと思うわ……」
イドゥン 「……そうですか。やはり、主人に鼻血を流させるようなメイドは要らないと」
ミカヤ  「いや、そういう意味じゃ……まあいいか、説明するのも面倒だし」
アイク  「……あんた、バイトを探してるのか」
イドゥン 「はい。初めてのことですから、勝手がよく分からないのですが……」
アイク  「それなら、俺の知り合いの店を手伝ってくれないか?
      別に面倒な技術は必要じゃないらしいぞ」
イドゥン 「……! 是非とも、お願いします」

710 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 21:01:38 ID:OfJcdDqz
 ~で、数日後、竜王家リビング~

エルフ  「ほらユリウス様、どいてください!」
ノイン  「そんなところに寝転がられたら、掃除が出来ないじゃないですか!」
ユリウス 「いてぇっ! ちょ、掃除機の先で頭叩くなお前ら!」
エルフ  「そんなところに寝てるのが悪いんですよ」
ノイン  「ほら、邪魔だからどっか行って下さい。追撃と連続で自前流星剣かましますよ?」
ユリウス 「お、お前らな、仮にも主人に向かってそういう態度は……」
エルフ  「あら、いいんですか?」
ノイン  「ユリア様に言いつけますよ?
      『ユリウス様が主人という立場を利用してパワハラをしてきます』って」
エルフ  「最近、ユリア様のナーガにも更に磨きがかかってきましたからねえ」
ノイン  「勝てないでしょうねえ、ユリウス様じゃ。ロプトウス(笑)ですもんねえ」
ユリウス 「こ、この糞メイドどもが……!」
イドゥン 「……ただいま」
エルフ  「あ、お帰りなさいませ、イドゥンお嬢様」
ノイン  「ご連絡いただければお迎えに上がりましたのに……」
イドゥン 「ありがとう。大丈夫よ、近所でアルバイトしているだけだから」
エルフ  「お労しい……労働など私達に任せてくださればよろしいのに」
ノイン  「そうですわ、イドゥン様のお手が汗で汚れるなどと考えただけで、ああ、もう……」
ユリウス 「……なんで僕のときとそんなに扱いが違うんだよ……」
エルフ  「あら、メイドにだって主人を選ぶ権利はございましてよ?」
ノイン  「職業選択の自由って言葉をご存知ないんですか?」
エルフ  「仕方ないわノイン、ユリウス様は授業中にセリス様を視姦するのに夢中なのだから」
ノイン  「ああ嫌だわ、仮にも主人がこんなHENTAIだなんて」
ユリウス 「マジで殴るぞお前ら!?」
エルフ  「キャーッ!」
ノイン  「ユリア様、ユリウス様がいじめますぅーっ!」
ユリア  「(ガラッ)また使用人いじめですかお兄様!? 今日という今日は……」
ユリウス 「ちょ、ちがっ、な、ナーガは止めてくれユリアーッ!」

 そんな騒ぎを静かに見ていたイドゥンが、ぽつりと呟く。

イドゥン 「エルフ、ノイン。あなたたちも大変ね」
エルフ  「は、はい?」
ノイン  「なにがですか?」
イドゥン 「いえ……わたしも、数日前にメイドという仕事の大変さを知ったの」
エルフ  「? よく分かりませんけど……確かに大変ですねー」
ノイン  「特にユリウス様のお守りがねー」
ユリウス 「お前らなぁ……」
イドゥン 「そうね、日常的にあんなことをするのは、大変かもしれないわね」
エルフ  「へ?」
ノイン  「あんなこと、って言うと……」

 困惑して顔を見合わせる二人を前に、イドゥンは静かに、

イドゥン 「汁をぶっかけられたり、体を舐めたり……本当に、大変な仕事だと思います」

 そのとき、竜王家リビングに沈黙走る……!

ユリア  「……お兄様? どういう、ことですか……?」
ユリウス 「ちょ、落ち着けユリア、誤解だ! お、お前ら、ちゃんと説明を……!」
エルフ  「……わたしたち、知らない間にそんなことされてたの……?」
ノイン  「……闇魔法って、記憶奪ったり精神操ったり、いろいろえげつないし……」
エルフ  「まさか、いつの間にかユリウス様抜きでは生きていけない体に改造されて……」
ノイン  「最終的には妊娠とかさせられちゃったりして……」
二人   「イヤーッ! お嫁にいけなくなっちゃうーっ!」
ユリア  「……クククッ、イエノハジヲサラスモノ、ミナコロス……!!」
ユリウス 「ちょ、ユリア、ちがっ……! あ、やめっ、ナーガは……イヤーッ!!」

711 名前: イドゥンと葉っぱとメイドのお仕事 [sage] 投稿日: 2008/07/05(土) 21:02:38 ID:OfJcdDqz
ファ   「あれー、また喧嘩してるー」
チキ   「いけないんだー」
イドゥン 「そうね……二人とも、離れていなくてはダメよ」
二人   「はーい!」
イドゥン 「……そうだ、耳掃除をしてあげるわ。こっちにいらっしゃい」
チキ   「わーい」
ファ   「あー、ずるーい! ファもやるの、ファもやるのー!」
イドゥン 「ふふ……順番に、ね」
エルフ  「……イドゥンお嬢様が耳掃除、だなんて……」
ノイン  「……ひょっとしてわたしたち、リストラの危機?」
イドゥン 「ううん……わたしも、働くということを学びたいのです」
エルフ  「はあ……」
ノイン  「そう言えば、アルバイトをなさっているとか」
イドゥン 「ええ、そうよ」
チキ   「くんくん……あれー、この匂い……」
ファ   「お豆腐の匂いがするー!」

 ~兄弟家~

ミカヤ  「……どうだって、イドゥンさんは?」
アイク  「ああ、ボーレは喜んでるみたいだ。イドゥンを看板娘として雇ってから、
      豆腐が飛ぶように売れているらしい。
      『いい男にいい女、これに勝るコンビはないぜ!』とか言っていたな」
ミカヤ  「ハハ……まあ、みんな幸せみたいだし、いっか」
リーフ  「ちっともよくないよ!」
ミカヤ  「……リーフ……」
リーフ  「この間の一件で、僕が必死に集めた対おねいさん用のアイテムは
      ほとんど焼却されるわ、未だにサラやナンナやミランダからメイドとして
      コキ使われるわ! なにが悲しくて自分でメイド服なんか着なくちゃならないんだ!」
アイク  「……似合ってるぞ」
リーフ  「そうでしょうとも! せめて見苦しくないようにって、
      ウィッグも調達して化粧のやり方まで覚えたからね!
      最近じゃナンナやミランダの舐めるような視線に怖気を感じるほどですともさ!」
ミカヤ  「割と凝り性よね、あなたって……」
サラ   「ハァイ」
ミカヤ  「あらサラちゃん、こんばんは」
リーフ  「来たなクルクル電波め……! 今日は何の用だ!」
サラ   「その前に……その服、とってもよく似合ってるわ、リーフ」
リーフ  「ちくしょう、いい笑顔で言いやがって!」
サラ   「でも用事はそのことじゃないわ。あなたに会いたいって人がいてね」
リーフ  「はい? 誰?」
サラ   「みんなご存知、竜王家の……」
リーフ  「え、まさか、イドゥンさん……!」
ユリウス 「俺じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リーフ  「ひでぶっ! ちょ、なんで登場早々蹴りかますの君は!?」
ユリウス 「うるさい! 今回はマジで無実だったんだぞ!? なのに貴様のせいでナーガフルボッコに加えて、
      使用人に手を出すHENTAI扱いされた僕の気持ちが分かるか!?」
リーフ  「……いつものことじゃん。セリス狙いのHENTAIなのも事実だし」
ユリウス 「(ブチッ)……すみませーんお姉さん、こいつヤッちゃってもいいッスかー?」
ミカヤ  「あら、わざわざ許可を取るなんて礼儀正しいのねー。もちろんOKよ」
リーフ  「ちょ、ミカヤねえ……あ、さてはユンヌさんだな!?」
ユンヌ  「せいかーい☆ おほほほほ、さ、お二人様、魔空空間にごあんなーい♪」
リーフ  「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
ユリウス 「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ……!」
ユンヌ  「……ま、明日には戻ってくるでしょう」
ミカヤ  「……可哀想だけど、今回ばかりはわたしもフォローしかねるわね……」
アイク  「攻撃半減のロプトウス相手に一日中、か……いい修行だな」
ミカヤ  「この状況でそんな感想を漏らせるアイクって本当に凄いと思うわ」

 終われ。