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Last-modified: 2007-07-29 (日) 23:59:12

姉弟&師弟

 

マルス 「……とまあ、魔道士の皆さんはこんな感じかな。」
ロイ  「うーん、物凄い人脈……さすがマルス兄さんだね!」
マルス 「ふふ、任せておきたまえよロイ君。君も出会いにはやたらと恵まれているようだし、
     ちょっとしたコツさえ飲み込めればどんどん人脈を広げられるはずさ」
ロイ  「ちょっとしたコツって?」
マルス 「要するに、ちょっとしたことでも自分を印象づけることだね。
     相手に覚えてもらってさえいれば、次に会ったときにさらに親密になれる可能性が生まれる訳だし」
ロイ  「ふーん……でも、僕はそういう神経使いそうなことは向いてなさそうだなあ」
マルス 「……まあ、君はセリスと同じで自然と人が寄ってくるタイプだからね。
     下手に人脈を広げる手段なんか覚えると逆効果かもしれないな」
ロイ  「よく分からないけど……でも、マルス兄さんはホント怖いものなしだよね。
    あ、前に言ってた『策を力ずくで粉砕する人種』とか『善良すぎて良心が痛む人種』とかは除くとして」
マルス 「そうだね。ま、他には怖いものなんてほとんどないかな」
ミカヤ 「あら、マルスったら嘘つきね」
ロイ  「あ、ミカヤ姉さん」
マルス 「嘘つき? なんのことですか? 心当たりは多いですけど」
ミカヤ 「……少しは生活態度を改めなさい。まあ今は小言言いに来た訳じゃないから置いておくけど。
     わたし、マルスが恐れるものだったら一つ知ってるわよ」
マルス 「……へえ。面白いですね。なんですかそれは? 僕が知ってるものかな?」
ミカヤ 「うん。多分よく知ってると思うわ」
マルス 「ほほう。じゃあ、言ってもらいましょうか?」
ミカヤ 「えーとね……これよ」
マルス 「……!」
ロイ  「何これ……アルバム?」
ミカヤ 「そう。ちなみにマルス③ね」
マルス 「ちょ、ま、な、なんてもの見せるんですか姉さん!」
ミカヤ 「ほらほら見てロイ、マルスったら子供の頃はこんなに可愛かったのよ」
ロイ  「今だって顔はいいと思うけど……確かに、今と違って完全に無邪気な感じだね」
マルス 「なんか言葉に棘がないかいロイ!?」
ミカヤ 「でねー、マルスが怖いものっていうのは、この先のページの」
マルス 「あーっ! あーっ! あーっ!」
ロイ  「……? なんか、パジャマ着たマルス兄さんが誰かの服の裾をつかんで泣いてる……?」
ミカヤ 「ふふふ……これはね……『リンねえさんといっしょにねるのーっ!』って駄々こねて泣いてるマルスの写真よ」
マルス 「ギャアアアアアアアアアッ!」
ロイ  「ま、マジッスか!?」
ミカヤ 「マジもマジの大マジ。サジマジバーツってぐらい大マジよ」
マルス 「ね、姉さん! それ以上はサジで勘弁してください!」
ロイ  「それを言うならマジでしょマルス兄さん」
マルス 「そ、そう、バーツで勘弁してください!」
ロイ  「意味不明だよ」
ミカヤ 「そんでもって、これがおねしょしてリンに慰められてるマルスで、
     これがリンに抱っこしてもらっておおはしゃぎのマルス。
     これがリンに抱きついてお昼寝中のマルスで、これがリンに……」
ロイ  「ずっとリン姉さんのターン! って感じだね」
ミカヤ 「そーよー。ちっちゃいころのマルスは本当にリンにベッタリだったんだから。
     どこ行くにも『リンねえさんと一緒じゃなきゃやだ』って駄々こねて、
     あの子の服の裾つかんでね。わたしには全然懐いてくれないのにリンだけは大好きで」
マルス 「すんませんお姉さまマジで勘弁してくださいもう許してくださいお願いしますこの通りです!」
ロイ  (うわっ、マルス兄さん顔真っ赤にしながら土下座したぞ……! 貴重な絵だ!)
ミカヤ 「あらやだどうして土下座なんかするのマルス? お姉ちゃんはただ、あなたの思い出話をしているだけなのよ?」
マルス 「そ、それが苦痛だと言うんです!」
ミカヤ 「どうして? ほらほら見ましょうよ、これがリンにエビフライ取ってもらって大喜びのマルスで
     これがリンと一緒にお手手繋いで幼稚園に行く途中のマルスで、
     これが幼稚園の門のところでリンと離れたくなくて泣いてるマルス」
マルス 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ロイ  「ま、マルス兄さんが泣きながら走り去った! こりゃあ凄い、ビデオ撮ってニコ動に上げたいぐらいだよ!」
ミカヤ 「うーん……この頃はマルスもこんなに素直にリンへの好意を表現してたのにねえ」
ロイ  「いつからあんな風になったの?」
ミカヤ 「んー……小学校の……いつぐらいからかしらねえ?
     でもほら、あの年頃の子供って、女の子と一緒に遊んだりするの、すごく恥ずかしがるじゃない?」
ロイ  「あー……まあ、そうかなあ」
ミカヤ 「マルスもその頃から、リンを『男女』だとか『太股デブ』とか『若年寄』とかからかうようになったのね。
     要するに、一緒に遊びたいけど素直にそう言うのは恥ずかしいから、
     からかって怒らせることで気を引こうという……」
ロイ  「ありがちだなあ」
ミカヤ 「まあ、そんなものでしょ」
ロイ  「……って言うか、ずいぶんいっぱい写真取ってるんだねミカヤ姉さん」
ミカヤ 「もちろんよ。兄弟全員分、平均して各50巻ぐらいずつアルバムがあるわ!」
ロイ  「多すぎるよ!」
ミカヤ 「だって、皆可愛いんだもの。特に子供の頃のは撮って撮って撮りまくって……」
ロイ  (ミカヤ姉さんって、ときどき周囲が引くぐらい家族愛強いんだよな……)
ミカヤ 「ちなみにねー、ロイのはねー」
ロイ  「い、いいよ、僕のは見せなくても!」
ミカヤ 「いいじゃない。ほら、これがトイレにたどり着く前に漏らしちゃって大泣きの」
ロイ  「イヤァァァァァァァァァァァッ!」

 

 ~紋章町内、某ボロアパート『配管荘』~

 

リーフ 「……という騒動があったそうで」
サザ  「そのアルバムなら俺も持ってるが」
リーフ 「なんで!?」
サザ  「ミカヤが寄越すんだよ……焼き増ししてな。『ほらサザ、マルスったらこんなに可愛いのよ見て見て!』って
     具合でな……。と言うか、ミカヤと俺の会話内容はほぼ八割方ミカヤの弟・妹自慢だ」
リーフ 「我が姉ながらなんて迷惑な……」
サザ  「まあ、俺だけじゃなくていろんな人に配って回ってるみたいだが」
リーフ 「UZEEEEEEEEEEEE!」
サザ  「出会った当初は、ミカヤがあまりにも嬉しそうにお前達のことを話すものだから、ちょっと嫉妬したりもしたな」
リーフ 「なるほど、その頃から涙目だった訳ですね」
サザ  「涙目とか言うな」
リーフ 「……でも、そうやってマルス兄さんの弱味を握ってるのに、
     前囲まれて歌聞かされたときとかは全然そんな素振りを見せませんでしたね?
     『この姉萌えツンデレ野郎が!』とか言って秘密ばらしちゃえば良かったのに」
サザ  「その罵倒は正直どうかと思うが……まあ、そうだな。
     弱味……になるらしいことを握ってたのに、俺が何も言わなかったのは……」
リーフ 「言わなかったのは?」
サザ  「……家族を愛していることの何が恥ずかしいんだか、俺にはよく分からないから、だな」
リーフ 「……」
サザ  「……兄弟どころか親の顔も知らないような男には、理解しがたい感情なんだ」
リーフ 「はあ……ええと……」
サザ  「……そんなに反応に困ることを言った覚えはないぞ」
リーフ 「……いや、意外なほど重い答えが返ってきたので、何というかこう……」
サザ  「気にするな。お前達の姉さんが親代わりをやってくれたからな。
     孤独感なんてもう忘れてしまったし、自分の境遇を恨んだりしたのも、もう思い出せないぐらい昔の話だ」
リーフ 「サザさん……! 僕は、今まであなたのことを誤解していたのかもしれない!
     『何の役にも立たない緑野郎!』とか思っててごめんなさい!」
サザ  「……ホントに謝る気あるのか?」
リーフ 「いやいやいやいや。マルス兄さんは、どうやらシーダさんと似たところのあるペレアスさん派らしいですけどね、
     僕はミカヤ姉さんのオトコには断然サザさんを推しますよ、もうホントに。早く結婚してくださいよ」
サザ  「ミカヤが決めることだろ、それは……しかし、ずいぶん急な心変わりだな?」
リーフ 「ええ。最近、気づいたんですよ」
サザ  「何に?」
リーフ 「こう……僕とサザさんは、漂う雰囲気と言うか空気に似たところがあるんですよ。ヘタレ臭、と言うか」
サザ  (……ミカヤが『リーフは自分に自信がないのよ。心配だわ』なんて言ってたが……
     自分でヘタレとか言ってる辺り、相当なものだなこれは……)
リーフ 「まあそんな訳で、サザさんが義兄さんになってくれれば凄く心強いんですよ!
     一緒に吹っ飛ばされて二人で『この人でなしーっ!』って叫びましょうよ!」
サザ  「それは心の底から断りたいところだが……まあ、恩人の弟なんだ、
     何か相談事でもあったらいつでも言ってくれ。……もっとも、俺は知っての通りあまり強くないから、
     助けになれないことの方が多いかもしれないが。出来る限り、努力はするつもりだ」
リーフ 「マジッスか!? よっしゃ、じゃあ早速頼みたいことがあるんですが!」
サザ  「なんだ? 戦闘の訓練とか……」
リーフ 「いやいや、そういうのじゃなくて」

 

~一時間後、トラキア地区~

 

ツァイス「待てコラァッ!」
ゲイル 「止まれ、そこの二人!」
ゼフィール「止まらんと回転するぞ!」
サザ  「……で、俺は何故警官に追われる羽目になっているんだ……?」
リーフ 「いいじゃないですか。うひょーっ、見てくださいよこれ、アイテムガッポガッポッスよ! やっぱ盗賊っていいなあ!」
サザ  (ヘタレだのなんだの言ってて意外にたくましいなコイツ……)
リーフ 「ヘタレ強盗王子とヘタレ盗賊! まさに最強のコンビですね僕ら!」
サザ  「……せめてヘタレは外してくれ……」

 

 ちなみに一応逃げ切ったけどアイテムは返還させられたそうです。

 
 
 

リーフ 「……ところでサザさん?」
サザ  「なんだ?」
リーフ 「親代わりのミカヤ姉さんにアプローチ……それってつまりマザコンですか?」
サザ  「……否定はしない」
リーフ 「しないんだ……」

 

 終わり。