4-42

Last-modified: 2007-07-23 (月) 00:05:39

ガイデンノーカ

 

~とある休日、兄弟家の玄関先で~

 

アルム  「じゃ、行ってくるよ」
セリカ  「マイセンおじいさまによろしくね」
アルム  「ああ。晩御飯までには帰るよ。じゃ、行ってきます」
セリカ  「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

 と、アルムをワープでどこかへ飛ばすセリカ。

 

ロイ   「あれ、今週もまた一人で出かけたんだね、アルム兄さん」
セリカ  「ええ。バレンシアのマイセンおじいさまのところへね」
ロイ   「マイセン……っていうと、アルム兄さんがいろいろお世話になってる人だっけ?」
セリカ  「そうよ。あの辺りに大きな土地を持っていてね。
      アルム、土地の一部を借りて、自分の畑を耕してるのよ」
ロイ   「へえ、あの年で、農家の息子でもないのに農業かあ」
セリカ  「他にも、バレンシアの山で動物を狩ったりとか」
ロイ   「凄いね、猟師までやってるんだ……」
セリカ  「大地の恵みを直接感じる……とても素晴らしいことよ。
      ロイも、アルム兄さんと一緒にどうかしら?」
ロイ   「え? ええと……」
セリカ  「最近は土いじりをしたことが一度もないって子も多いでしょう?
      でもそれではいけないの。人間は皆母なる大地によって生かされていることを
      よく自覚し、日々大地母神ミラへの感謝と祈りを忘れずに生きていかなければ……」
ロイ   (うわぁ、いつの間にか話が逸れてきてる……!
      姉さん、ミラ教について語り出すと恐ろしく長いんだよな……)
セリカ  「……だから、我が家にも是非食前の祈りを取り入れるべきだとわたしは常々姉さんたちに」
ロイ   「ぼ、ぼく、宿題やらなくちゃいけないから!」
セリカ  「あ、ロイ……! どうして皆、ミラ教の素晴らしさを分かってくれないのかしら……」

 

~その夜~

 

エリンシア「はい皆さん、晩御飯が出来ましたよー」
ヘクトル 「うおっ、これは……!」
アイク  「……コーンスープ、カボチャの煮物、キュウリの漬物、トマトのサラダにピーマンの炒め物……! 
      なんだこれは、野菜ばっかりじゃないか! ふざけるな、おかみを呼べ!」
ロイ   (うわ、アイク兄さん怒りのあまり微妙に意味不明になってる……!)
アイク  「肉……! 肉はどこだ! 肉をくれ、肉を!」
エリンシア「今日はお肉料理は一切なしですわ」
アイク  「な……! バカな……!」
エリンシア「アルムちゃんがたくさんお野菜を持って帰ってきてくださいましたので、
      しばらく我が家の食卓は野菜尽くしですわ」
アイク  「アルムゥゥゥゥゥ! お前の仕業かァァァァァァ!」
ロイ   「うわぁ、ラグネル抜かないでよアイク兄さん!」
アルム  「うわ、ちょ、アイク兄さん、落ち着いて!」
セリカ  「スリープ!」
アイク  「グッ……ぐぅ……ZZZZZ……」
セリカ  「……いくらアイク兄さんでも、アルムに剣を向けるのは許せないわ……」
リーフ  「怖いなセリカ……でも良かった、これで今日はアイク兄さんが暴れた余波を食らう心配はなくなった」
ロイ   「そういう心配しなくちゃいけない時点で十分悲惨だと思うけど……」
アイク  「肉……俺の肉が……」
マルス  「寝言まで……どんだけ肉好きですかアイク兄さん」
ロイ   「肉ジャンキーって感じだね、ここまでくると」
シグルド 「さあ皆、冷めない内に食べるとしよう」
全員   「いただきまーす!」
ヘクトル 「おっ……これは……」
エフラム 「なかなか……」
セリス  「おいしい! 凄いや、いつもの以上においしいよ!」
シグルド 「むう……ますます腕を上げたな、エリンシア」
エリンシア「うふふ、わたしの腕と言うよりは、アルムちゃんが持ってきてくれたお野菜がおいしいんですわ」
リーフ  「アルムの野菜?」
セリカ  「驚いた? アルム、自分の畑で採れた野菜を持ってきてくれたのよ!」
シグルド 「……それはいいが、何故お前が自慢げなんだね、セリカ?」
セリカ  「あら、兄弟が凄いことをしたんだもの、自分まで嬉しくなるのは家族なら当然でしょう?」
シグルド 「む……クッ、だが確かに文句のつけようがないほどに美味い……!」
セリス  「そうだよねえ。でも凄いなアルム兄さん、自分の畑を持ってるんだ?」
アルム  「うん。まあ、正確には自分の畑じゃなくて、マイセンのじっちゃんから借りてるんだけどね。
      でも結構広い面積借りられてるから、いろんな野菜を植えられてなかなか楽しいんだよ」
アイク  「……だが野菜尽くしというのは許せん」
ロイ   「うわ、アイク兄さんもう目が覚めたんだ」
アイク  「こうも腹が空いていては、たとえスリープを喰らっても長くは寝てられないからな。
      悪かったなアルム、肉がないという想像を絶する状況に、我を忘れてしまったようだ」
ロイ   (……想像を絶する状況なのかな、それって)
アルム  「うーん、肉かあ……あ、そうだ、忘れてた! ちょっと待っててね」
セリカ  「あ、アルム、どこへ……」
ロイ   「……庭の方へ走って行っちゃったけど……どうしたのかな?」
セリス  「また新しい野菜でも取ってくるのかな? ああ、でもアルム兄さんは凄いなあ、
      自分で野菜を育てて皆に食べさせるなんて、僕にはとても出来そうにないよ」
セリカ  「あら、セリスだって自分が大地の僕であることを自覚すればそう難しい話じゃ」
ロイ   「い、いやあ、アルム兄さんはホント凄いね、僕ら兄弟の中では一番の自然派じゃないかな!」
マルス  「ははは、ロイ、自然派と言ったらアルムよりリン姉さんだよ。
      何せ草原に行ったら馬と混じっちゃって見分けがつかないぐらいてててて!」
リン   「そこまで野性的じゃないっつーの!」
エリンシア「リンちゃん、食事中に関節技なんて行儀が悪いわよ」
リン   「あ、ごめんなさい」
セリス  「でも確かにリン姉さんも自然派だよね。姉さんは農業とかやらないの?」
リン   「わたし、農耕民族の考え方は理解できないから」
マルス  「うわ、出たよ遊牧民気取りいてっ!」
エリンシア「そうそう、食事中は一発殴る程度に済ませておきなさいね」
ロイ   「エリンシア姉さんのマナー違反の基準がよく分からない」
セリス  「ああ、でも自然っていいよねえ。僕もまた皆と一緒にピクニックに行きたいなあ」
ヘクトル 「あ? 学校の行事かなんかで行ったのか?」
セリス  「うん。バレンシアの山にハイキングに行ってね、ユリアやユリウスと一緒に
      山の景色や動物を見たりして。特に忘れられないのは、とっても可愛い野兎さんで」
アルム  「いやー、ごめんごめん、これを忘れてたよ。今日僕が仕掛けたトラップに引っかかってた」
セリス  「とっても可愛い野兎さあああぁぁぁぁん!?」
アイク  「おお、これは丸々と太っていてなかなか美味そうな兎だな」
セリカ  「この肥え具合も実り豊かなバレンシアならではね」
リン   「OK、わたしちょっとバラしてくるわ」
マルス  「うは、さすが遊牧民気取りあいてっ!」
セリス  「そ、そんな、ひどいよ! あんな可愛い兎さんを皆して食べちゃおうだなんて!」

 

 ブバァァァァァァッ!

 

ミカヤ  「……リーフ……」
エリウッド「……いくらなんでも……」
リーフ  「……OK、皆の言いたいことは分かる。でも弁解のチャンスぐらいはくれてもいいと思うんだ」
ロイ   「……リーフ兄さん、あのさ……」
リーフ  「仕方ないじゃないか! この年頃の男子の頭はエロ妄想で一杯なんだよ!
      野菜と言われれば茄子やキュウリの別の使用方法が浮かび、
      兎と言われればバニーガールのお姉さんが浮かぶのが自然ってものじゃないか!?」
マルス  「いや、さすがにそれは君の妄想過剰だと思う」
エイリーク「……ヘクトル兄上、茄子やキュウリの別の使用方法とは一体……」
ヘクトル 「お、俺に聞くなよ! ほらエフラム、お前の出番だぜ」
エフラム 「……リオンにでも聞いてくれ。博学なあいつなら懇切丁寧に教えてくれるだろう」
ヘクトル (親友に丸投げしやがったなコイツ!)
エイリーク「分かりました、今度聞いてみます」
ミカヤ  「……とかやってる内に、リンとエリンシアが台所に行っちゃったわね」
セリス  「ああ、兎さん……!」
セリカ  「落ち着いてセリス。悲しいかもしれないけど、これが生きるということなのよ」
セリス  「でも、あんなに可愛いのに……」
セリカ  「セリス……生きるというのは、他の生き物を殺すという行為であると言っても過言ではないわ。
      大地は草木を生み、動物は草木を食べ、そしてわたしたち人間は動物を食べる……
      そういう命の連鎖の中で、わたしたちは生きているのよ。
      これは大地に生きる者全てに共通する掟なの」
セリス  「うう……話は、分からなくもないけど……」
リン   「みんなー、出来たわよー」
エリンシア「アイクもお腹が空いていると思いましたので、今回は豪快に」
セリス  「そのまま丸焼きにしただけ!? ビジュアル的に一番ひどいよこれ!」
アイク  「美味そうだ……! いただきます!」
セリス  「ああ、アイク兄さんが可愛いウサギさんをお尻からいただきますと」

 

 ブバァァァァァァッ!

 

ミカヤ  「……リーフ……」
エリウッド「……いくらなんでも……」
リーフ  「……OK、皆の言いたいことは分かる。でもこの年頃の男子の頭は」
マルス  「はいはい、言い訳はもういいから」
シグルド 「うむ、しかしなかなか美味だな、これは」
ミカヤ  「そうね、たまにはこういう野性的なのもいいかも」
ヘクトル 「兎の肉なんて滅多に食う機会ないが、なかなかうまいもんだな」
エイリーク「そうですね。見た目は少々悪いですが」
セリス  「うう……どうして皆平気で……」
ヘクトル 「……セリスよ。お前だって、牛肉やら豚肉やらは平気で食べるじゃねえか?」
セリス  「うっ……それはそうだけど……」
セリカ  「そうよセリス。こういうときは、むしろ食べない方が失礼に当たるというものなのよ」
セリス  「……うう……ごめんね兎さん……!」
セリカ  「違うわ。謝るんじゃなくて、感謝しながら食べるのが大地に生きる者の義務というものよ」
セリス  「そ、そうだね……ありがとう兎さん! いただきます……!」
セリカ  「ふふ、そうそう、よく出来ました」
マルス  (……怪しい宗教の洗脳シーンを見ているみたいだな……)
セリス  「うう……あんなに可愛かった兎さんを食べなくちゃならないなんてくやしい……! でもおいしい……!」
ロイ   「泣きながら食べてるよ……」
リン   「さすがにちょっと可哀想かも……」
ヘクトル 「バーカ、甘やかすんじゃねえよ。男がこのぐらいで泣いてちゃ、この先やっていけないぜ?」
セリス  「ありがとう兎さん、僕、君の分まで精一杯生きていくからね……!」
ロイ   (兎食べるのにこれだけ大騒ぎする人も珍しいなあ……)

 

アルム  「いやあ、皆満足してくれたみたいで良かった良かった」
ミカヤ  「そうね」
アルム  「こういう部分でなら僕も皆の役に立てるからね。嬉しいなあホント」
ミカヤ  「……でもアルム、わたし、一つだけ気になってることがあるんだけど……」
アルム  「え、なに? ミカヤ姉さん」
ミカヤ  「さっき、トラップがどうとか言ってたけど……畑に害獣でも出るの?」
アルム  「……うん。実はそうなんだ」
ミカヤ  「猪とか、猿とか?」
アルム  「そんな生易しいもんじゃないよ! 何せ野菜だけをピンポイントで狙っては食べていく、
      迷惑極まりない生物だからね!」
ミカヤ  「……そんな極めて特殊な生き物が本当にいるの?」
アルム  「うん……多分、バレンシアに生息する魔物の一種なんじゃないかな?」
ミカヤ  「ま、魔物!?」
アルム  「そう。他の場所じゃ見ないし、動物とも言い難い外見だからね。
      毎日山からやってきては、僕の畑を荒らし回って帰っていくんだよ」
ミカヤ  「で、でも、それは凄く危険なんじゃ……」
アルム  「ところが、野菜にしか興味がないみたいでね。実際、その魔物に人が襲われたっていう例は聞かないし」
ミカヤ  「そうなんだ。良かった、心配になっちゃったわ」
アルム  「あはは、大丈夫だよ……でも、そんな風に危険じゃない上になかなか可愛い外見だから、
      動物愛護団体から殺すなっていう命令が来てるらしくて……
      仕方なく、トラップで撃退して追い返す毎日が続いてるんだ」
ミカヤ  「なるほど、そのトラップに野兎が引っかかっちゃったのね」
アルム  「うん。トラバサミにね。ほかにもいろんな罠をしかけてるよ。
      落とし穴とか捕獲用のカゴとかジャンプ台とかビリビリマシンとか冷水ぶっかけ装置とか」
ミカヤ  「……なんか途中から物騒な単語がちらほらと……」
アルム  「連中頭がいいからね、毎日いろんなパターンのトラップ配置を考えないと、
      あっという間に畑に侵入されちゃうんだ」
ミカヤ  「……どんな生き物なの、それ?」
アルム  「だから、野菜を狙う怪物だよ。そう言えば、ちょうど品種改良を始めた頃だったかなあ、
      あの怪物たちが僕の畑に現れるようになったのって」
ミカヤ  「トラップバトルの次は品種改良……ずいぶんいろんなことをやってるのね?」
アルム  「うん。最初は普通の野菜を栽培してるだけだったんだけど、
      通りすがりの旅人さんに、『君には村人……いや農夫としての才能がある!
      是非とももっといい野菜作りを目指すべきだ!』みたいに説得されちゃって、やる気がこうメラメラと」
ミカヤ  「農夫の才能って……なんか、ずいぶん変な人みたいね?」
アルム  「面白い人だったよ。元軍師で、今は世界中を旅して回ってるんだって。
      確か、名前はマークさんとか言ったかなあ」
ミカヤ  「……どっかで聞いたことがあるような……」
アルム  「ともかく、そのマークさんに励まされてね。いろんな人たちの協力を得て、
      皆がビックリするような野菜を開発中なんだ! もうすぐこの食卓に届けられると思うよ」
ミカヤ  「……なんか、嫌な予感が……アルム、その、協力者っていうのは……」
セリカ  「アルム、こっち来て一緒にご飯食べましょ!」
アルム  「うん、分かってるよセリカ。じゃあミカヤ姉さん、僕のスーパー野菜を楽しみにしててね!」
ミカヤ  「あ、アルム……! うーん、たかが野菜なのに、どうしてこう不安になるのかしら……?」

 

~で、一ヵ月後の昼下がり~

 

アルム  「皆! ちょっと庭に来てくれないかな!」
エリンシア「あらどうしたのアルムちゃん、そんなに嬉しそうな顔して」
アルム  「うん、やっと僕が育てたスーパー野菜を皆に見せられそうなんだよ!」
ヘクトル 「スーパー野菜?」
エフラム 「なんだその怪しげな単語は」
アルム  「まあまあ、いいから庭に来てみてよ!」

 

ヘクトル 「……? なんか、今日庭ずいぶん暗くねえか?」
エイリーク「そうですね。まるで何か巨大なものに日差しが遮られているかのような……」
アルム  「おーい皆、こっちこっち! ほら見てよ、僕が作ったスーパー野菜!」
シグルド 「おお、これはなかなか大量に採れたものだな」
エリウッド「これならしばらく野菜は買わなくて済みそうだね」
アイク  「……またも野菜尽くしの布石……! アルム、お前という奴は……!」
ロイ   「兄さん、抑えて抑えて」
リーフ  「へえ、でも実際凄い数だね。それに種類もたくさんあるみたいだし」
エフラム 「……さっきから気になっているんだが、そこにある布のかかった大きな物体は何だ?」
アルム  「これ? これも僕のスーパー野菜の一つだよ」
リーフ  「……ほとんど人と同じ大きなみたいだけど。こんな大きな野菜は今まで見たことがないな……」
アルム  「でも野菜なんだよ。そっちの方は後で見せるからさ」
エフラム 「うむ……だが何だろうな」
リーフ  「妙に気になるよね、エフラム兄さん……」
アルム  「……やっぱりあの二人はあの野菜を気にしてきたか……予想通りだな」
セリカ  「それじゃアルム、『第一回アルムのスーパー野菜展覧会』を始めましょうよ」
アルム  「そうだね。じゃ、まずはこれ」
アイク  「……台に乗せられた……ジャガイモか?」
リン   「……特にこれといって変わったところもない、普通のジャガイモに見えるけど」
アルム  「そう思う? じゃあ……リーフ兄さん、これ持ってみて」
リーフ  「えー、なに? 実はジャガイモに見せかけてぐにゃっと柔らかかったりするのかい?」
アルム  「いいからいいから。さ、どうぞ」
ミカヤ  (……良かった。なんだか不安だったけど、普通の野菜ばっかりみたいだし……)
リーフ  「ははは、なんだい、こんなジャガイモ、持ったって何とも……? なんか、ずいぶんと、おも……」

 

 ズドム

 

リーフ  「あんぅ」
ミカヤ  「ブッ!」
ロイ   「うわぁぁぁぁぁぁ! ジャガイモを持ったリーフ兄さんの手が地面にめり込んだぁぁぁぁ!?」
リーフ  「お、重い! なんだこの重さ、尋常じゃないって言うかアイタタタタタ! 手、手が潰れるぅぅぅ!」
アイク  「どれ、貸してみろ……! ムゥ、これは確かに凄い重さだな……!」
セリス  「あのアイク兄さんが顔をしかめるなんて……!」
マルス  「それだけ凄い重さってことか……! 大きさは手の平大なのに!」
アルム  「ふふふ……これぞ僕の品種改良第一弾、『ゾウより重いジャガイモ』だよ!」
ヘクトル 「持てねーよ!」
リン   「と言うか、何のためにこんな物を……」
アルム  「うーん、これはまあ、ほとんどお試し品なんだよね。
      野菜の種類によって、弄れる要素は決まってるみたいでさ。
      ジャガイモの場合は重くしたり軽くしたりできるみたいなんだ」
リーフ  「だったら軽くしてくれれば良かったのに……あいたたた、まだ手が痛いよ……」
アルム  「ははは、ごめんごめん」
ミカヤ  「……参考までに聞いておきたいんだけど、これ、どうやって作ったの……?」
アルム  「品種改良だよ。えーとね、この人たちに協力してもらって、種を交配する装置を作ったんだ」

 

・協力者一覧

 

 優秀なルーテ
 マニアックなノール
 電気屋なグローメル
 超天才なリオン
 闇魔術なネルガル

 

ミカヤ  「あ、ある種豪華すぎる面子……!」
アルム  「ルーテさんが原案作ってリオンさんが設計して、ノールさんがそれに修正加えて、
      グローメルさんが実際に装置を組み立てたんだ。
      あ、ちなみにネルガルさんは僕がいない間畑を世話する、『万能農作業用モルフ君』を作ってくれたよ」
ミカヤ  「皆暇なのね……」
アルム  「それだけおいしい野菜が作りたいってことさ!」
ロイ   「……でもさ、この重すぎるジャガイモはどう考えても使い道が……」
アイク  「……! いや、使い道を思いついたぞ……! こうだ!」

 

 ニア そうび

 

   ラグネル     --/--
 ニア ベジタボーアーチ  1/1

 

アイク  「ぬぅん!」
リーフ  「おお、あのジャガイモが綺麗なアーチを描いて飛んでいく……!」
マルス  「そうか、あの凄まじい重さなら十分な武器に……! 考えたなアイク兄さん!」

 

 ガチャーン!

 

アイク  「……」
ロイ   「……思いっきり漆黒さん家に直撃したんだけど……」
ミカヤ  「……後で謝りに行かないと……」
エリンシア「……その前に、食べ物を粗末にするアイクをぶっ飛ばして差し上げないと」
アイク  「……! ま、待てエリンシア、今のはちょっとした……」
エリンシア「問答無用です! 家の裏で思う存分叫喚を連発して差し上げますわ!」
アイク  「クッ、だが俺には見切りが……!? しまった、今日は神使があまりにせがむものだから
      大盾につけかえていたんだった……!」
リーフ  「兄さんオワタ」
ロイ   「ああ、あのアイク兄さんが成す術もなく引き摺られていく……!」
マルス  「食べ物の恨みは怖いなあ……いやこの場合はちょっと違うか」
アルム  「さて、そんなこんなで次の野菜だよ! 次はこれ!」
エリウッド「……これは……普通のニンジンみたいだけど……?」
アルム  「見かけはね。これはエリウッド兄さんにお勧めなんだよ!」
エリウッド「僕にかい? ああそうか、栄養たっぷりなんだね?」
アルム  「そう。栄養価かなり高いよ。きっとこれでエリウッド兄さんの体調もバッチリ快癒さ!」
エリウッド「アルム……! ああ、僕はいい弟を持ったな……!」
セリカ  「はい兄さん、これどうぞ」
エリウッド「ん、何だセリカ……コンソメスープかい?」
セリカ  「そう。このニンジンを煮込んで作ったのよ。召し上がれ」
エリウッド「そうか。よし、それじゃいただくとしようかな(ズズズッ)お、これは味の方もなかなか……!?」
ヘクトル 「な、なんだこりゃ!? エリウッドの体がどんどん膨張して……!」
リン   「ああ、凄まじいバンプアップによって服が破れる……!?」
エリウッド「うぉぉぉぉぉぉ! (ビリビリビリビリィッ!)」

 

 ゴシカァン!

 

マルス  「あ、あのデブ剣に振り回されていた貧弱なエリウッド兄さんが、
      コンソメスープの入った器を片手で握りつぶした!?」
ロイ   (……って言うか、何だ今の変な効果音……?)
エリウッド「フゥーフゥー……クワッ! ドーピングコンソメスープだ……!」
ロイ   「何か意味不明なこと言ってる!?」
エリウッド「さあ諸君、貧弱なボーヤと呼ばれていた僕が、ガチムチになるのを止められるかな……?」
ロイ   「いやもう十分ガチムチだから」
アルム  「ふふ。これぞ品種改良の末に生み出された、『体力全快ニンジン』さ!」
ロイ   「体力全快ってレベルじゃないよこれ」
エリンシア「ガチムチ量産スープが出来たと聞いて飛んできました」
ロイ   「自重してくださいエリンシア姉さん」
セリス  「でも凄いなあ、これ僕も食べてみていい?」
ミカヤ? 「いけません、セリス様!」
セリス  「……ミカヤ姉さん?」
ミカヤ  「……いや、今のはわたしじゃなくて……」
ロイ   (ユリアさんか……やっぱりムキムキなセリス兄さんは嫌なんだな……)
アルム  「うーん、でも残念ながらそれは無理だと思うよセリス。
      このニンジン、栄養価が高すぎてね。元々虚弱で栄養が足りてない……
      それこそエリウッド兄さんみたいな人でないと、高すぎる栄養価故に体の方が壊れてしまうんだ」
マルス  「行き過ぎた回復力が体の破壊をもたらす……! マホイミの理論か……!」
エリンシア「……ということは、病人食にこのニンジンを混ぜれば、病院がガチムチな殿方の天国に……!」
ロイ   「重ね重ね自重してくださいエリンシア姉さん」
セリス  「そうか……残念だな、これで僕もたくましい男になれると思ったのに……」
ヘクトル 「バーカ、男の肉体ってのは、日々のたゆまぬ鍛錬によって身につけていくものなんだぜ?
      薬やら健康食品に頼るなんざ邪道だ、邪道。それにな」
エリウッド「こんなこともあろうかと、鍛え続けたこの体! デュランダルなんて軽い軽い!
      くーっ、一度言ってみたかったんだこの台詞! 最高にハイな気分って奴だァーッ! 蝶サイコー!」
リン   「ちょ、エリウッド興奮しすぎ! 落ち着いて!」
ヘクトル 「……あんな風にはなりたくねえだろ」
セリス  「……凄い喜んでるね、エリウッド兄さん」
リーフ  「最近のエリウッド兄さんのはっちゃけ具合は異常」
マルス  「……あ、でも縮み始めたねエリウッド兄さん」
アルム  「ふむ……効果は持って三分ってところか……まだまだ改良が必要だな」
ロイ   「いや、ここまで来ればもう十分だと思う」
エリウッド「……ふう。儚い夢だったか……でも、いざというときにはこれで皆を守れそうだな……」
リン   「……って言うかエリウッド、服着たら?」
エリウッド「え? あ、ああ! しまった、バンプアップで服が破けて……! また服代が……」
ニニアン 「エリウッドさまの裸体が拝めると聞いて飛んできました」
ニルス  「ニニアン自重して」
ユリア  「セリスさまのガチムチ化を阻止するために」
ラナ   「走ってここまできました」
ユリウス 「お前らマジ自重」
セリス  「やあいらっしゃい皆」
エイリーク「なんだか賑やかになってきましたね」
アルム  「ちょうどいいや、折角だから皆に僕のスーパー野菜を味わってもらうことにしよう!」
ロイ   「味わうとかそういうレベルじゃないような」
アルム  「次はこれ。リン姉さんにお勧めの一品だよ」
リン   「カボチャ? わたし、カボチャはそんなに好きじゃないんだけど……」
アルム  「まあまあ。ちょっと、そのカボチャの表面を軽く叩いてみて」
リン   「叩く? ……こう?(ポコッ)」
ロイ   「あ、なんか音がし始めた……」
マルス  「和風な弦楽器の音……みたいだけど……」
リン   「……ッ!」
マルス  「な、なんだ!? リン姉さんが泣いている……!?」
リン   「……ゴメン皆、わたし、ちょっと草原に行ってくる……!」
マルス  「え、ちょ、リン姉さん……!」
ロイ   「……馬に乗って行っちゃったね。急にどうしたんだろう……?」
アルム  「ふふ……これぞ品種改良の末に生み出された、『感動音楽カボチャ』さ!
      ちなみにさっきの弦楽器の音は馬頭琴の音ね」
ロイ   「あー、遊牧民の楽器か……それで草原を思い出しちゃったんだな、リン姉さん」
マルス  「……フン、リン姉さんにとっては家族よりも草原の方が大事ってことか」
ロイ   (マルス兄さんが露骨にイジケてる……)
アルム  「そんなマルス兄さんの不機嫌顔を直す野菜が、これさ!」
マルス  「……? なんだいこれ、スイカ……? 特に変わったところもないみたいだけど……」
アルム  「ひっくり返して反対側を見てみなよ」
マルス  「反対側……!?」
ロイ   「うわ、マルス兄さんの全身にジンマシンが……!?」
マルス  「う、ウワァァァァァァァァァァァッ!(逃走)」
セリス  「わ、危ない、スイカが落ちる……! ふう、危ない危ない、キャッチ成功……!? こ、これは!?」
ロイ   「……! ス、スイカの模様が変わってる……!?」
アルム  「ふふ……これぞ品種改良の末に生み出された、『アートな模様スイカ』さ!」
ロイ   「なるほど……で、これ何が描かれてるの?」
アルム  「子供に人気のヒーローたちさ。ピカチュウとか星のカービィとかマリオとか……」
ロイ   (……マルス兄さんのトラウマ直撃か……)
セリス  「可愛いなあ……! アルム兄さん、これもらってもいい?」
アルム  「うんいいよ、どうぞどうぞ」
セリス  「ありがとう! 大事に部屋に飾っておくよ!」
ロイ   「いや、食べないと腐っちゃうから」
エフラム 「……で、アルム」
リーフ  「……あの布がかかった野菜は、いつ披露してくれるんだい?」
エフラム 「さっきも言ったが、何故か気になって気になってしょうがないんだが……」
アルム  「あ、そうだね。そろそろいいかな。それじゃお披露目でーす。ジャン!」

 

 バッ、と布が取り払われた先にあったものは!

 

エフラム 「……! こ、これは……!」
リーフ  「……! あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ブバァァァァァァァッ!

 

ロイ   「うわぁ、リーフ兄さんの鼻から火山噴火のような血が!」
リーフ  「こ、これ、これは……凄い、凄すぎる!」
ヘクトル 「オイオイ何騒いで……うおっ、これは……!」
エイリーク「……! 素晴らしいです、まるで芸術家の作った彫像のような……!」
アルム  「ふふ……これぞ品種改良の末に生み出された、『神秘の形状ゴボウ』さ!」
ロイ   「……リーフ兄さんを興奮させたのは超絶美形なお姉さんの形で、
      エフラム兄さんを青ざめさせているのはどこかで見たような幼女の形か……」
ヘクトル 「……エフラムの幼女レーダーがこれに反応したのか……
      っつーか……なあ、野菜ってこういうもんだったか?」
エイリーク「……わたしたちの常識からはかなり離れている、と思いますが……」
アルム  「いやー、この形崩さないように収穫するのは苦労したよ」
リーフ  「凄い……! なんて素晴らしいんだ……! この尻のライン、神の御業としか思えない……!」
アルム  「気に入ってくれたみたいだねリーフ兄さん。ちなみにモデルはアルテナさんね」
リーフ  「あ、アルテナさん……!? クッ、アルム……この人でなしーっ!」
ロイ   「あれ、不評?」
リーフ  「そうだ、こんな素晴らしい物を作るのが人間であるものか……!
      あんた神や、野菜作りの神様なんやぁーっ!」
ミカヤ  「……じゃなかったみたいね」
ロイ   「むしろ大絶賛か……」
アルム  「人でなし? 野菜作りの神様? 何のことかな?」
リーフ  「か、神だ……! やっと神と……!」
アルム  「とりあえずこれはリーフ兄さんにプレゼントするよ。さあ、お好きなように召し上がれ」

 

 ブバァァァァァァァッ!

 

ロイ   「うわぁ、リーフ兄さんの鼻から台風のような量の血が!」
リーフ  「こ、ここ、こんな素敵なお姉さんを僕がお好きなように召し上がれ……!」
アルム  「うん。生でもいけるよ」
リーフ  「ななななななな、生ぁぁぁぁぁっ!」

 

 ブバァァァァァァァッ!

 

ロイ   「うわぁ、リーフ兄さんの鼻からもはや形容することすら不可能な勢いで血が!」
リーフ  「いいいいいいいいい、いただきまーすっ!」
ヘクトル 「うお、マジで生でかじりつきやがったぜあいつ……!」
エイリーク「……絶え間なく流れ落ちる血が、まるでトッピングのようですね……」
ミカヤ  「もう止めてリーフ! あなたの血液残量は、とっくにゼロになってるわ!」
リーフ  「HA☆NA☆SE! お姉さん、僕だけのお姉さーっん!」
ロイ   「……今日は皆はっちゃけすぎだよ……」
ヘクトル 「野菜の魔力恐るべし、だな……」
ロイ   「もはや野菜ってレベルじゃないけどね」
エフラム 「……で、アルム、こっちのゴボウだが……」
アルム  「ああ、幼女形状ね。そっちもその形にするのに苦労」
エフラム 「……これ、明らかに、ミルラ、に見えるんだが……」
ミルラ  「エフラムがわたしの形をしたゴボウを食べると聞いて飛んできました」
エフラム 「……自重してくれミルラ」
ミルラ  「エフラム……わたしを食べてくれないのですか……?」
エフラム 「いや、食べるのはゴボウであってお前では……」
ミルラ  「……わたしの形をした野菜は不味そうだから食べられないんですね……
      分かりました、ごめんなさい、もういいです……」
エフラム 「い、いや、食べる食べる、今すぐ全部食らい尽くしてやるぞ!」
ミルラ  「……本当ですか? じゃあわたし、エフラムがわたしを食べるのを隣で見てます……」
エフラム 「あ、ああ……」
ヘクトル 「……鼻血を噴出す奴が不在だと、いちいち突っ込み入れなくていいから楽でいいな」
ロイ   「……そういう感想を抱く辺りがもう末期的だけどね」
アルム  「……さて、と。いよいよメインの野菜は残すところあと一つかな」
ヘクトル 「なに? まだあんのか?」
ロイ   「……って言っても、見た感じ今までのと同じ野菜しかないみたいだけど……」
エイリーク「アルム、その野菜は、一体どこに……?」
アルム  「フフ……甘いね皆。今回一番の傑作野菜は、最初から皆の目の前にあったんだよ!」
ロイ   「え?」
ヘクトル 「どこだ?」
エイリーク「……それらしきものは、どこにも見当たりませんが……?」
アルム  「……気づかなかったかい? まだ日は落ちていないというのに、この庭がやたらと暗いことに……!」
ヘクトル 「……そう言えば」
エイリーク「……何か、巨大なもので日差しが遮られているような感じはしていましたが……」
ロイ   「……ひょっとして……」

 

 と、三人が振り返った先、家の向こう側にやたらと巨大な白い物体が聳え立っているではないか!

 

ヘクトル 「デケェェェェェェェェッ!?」
ロイ   「何じゃこりゃぁぁぁぁぁ!?」
エイリーク「こ、これは……凄まじい大きさですね……!」
アルム  「ふふ……これぞ今の僕が持てる力を全て結集して作り上げた
      スーパー野菜、『家ほどもある大根』さ!」
ヘクトル 「いや、明らかに家より数段デケェだろこれ!」
ロイ   「凄い、ちょっとしたビル並の大きさだ……!」
アルム  「いやー、ここまで運んでくるの苦労したよ」
セリカ  「ふふ、わたし頑張っちゃった!」
アルム  「そうだね、セリカのワープがなければどうなっていたことか」
セリカ  「アルム……」
アルム  「セリカ……」
シグルド 「こんな日でもいつかイチャイチャするだろうと思って、ずっと息を潜めて待っていました」
アルム  「シグルド兄さんの執念は異常」
セリカ  「もう、今日はずっと静かだから大丈夫だと思ったのにぃぃぃぃ!」
シグルド 「ふはははは、甘いぞセリカ、兄さんは許さないからなぁぁぁぁ!」
ヘクトル 「……アルム、取り込み中悪いんだが」
アルム  「え、何ヘクトル兄さん?」
ロイ   「……一つ、単純な疑問があるんだけど」
アルム  「? どうしたの、ロイまで」
エイリーク「……アルム。これ……」
ヘクトル 「……誰が、食べるんだ?」
アルム  「……」
三人   「……」
アルム  「ああっ!? しまった、大きくすることに夢中で、育てた後どうするか全然考えてなかった!」
ヘクトル 「マジかよ!?」
ロイ   「アルム兄さんも熱中すると周りが見えなくなるタイプなんだね……」
アルム  「クッ、どうしたらいいんだ、さすがにただ放置しておくだけだと腐ってしまうし……!」
エイリーク「……こんな巨大な物体が腐ってしまったら、その悪臭はちょっとした公害レベル……!」
アルム  「ど、どうしよう、どうやって処分したら……!」

 

 と、そのとき、アルムの肩を叩く者が二人。

 

アルム  「……? アイク兄さんに、ミカヤ姉さん?」
アイク  「……一人だけ……」
ミカヤ  「……これを何とかできる人を、知っているわ」

 

 ~三十分後~

 

イレース 「……ごちそうさまでした」
ロイ   「……」
エイリーク「……」
ヘクトル 「……悪い夢でも見てんのか、俺は……」
アルム  「あのサイズの大根をわずか三十分で完食……!」
ミカヤ  「……もはや人間じゃないわ……! ユンヌが言っている、
      イレースさんの食欲は神のレベルをも超えていると……!」
アイク  「……今まで、どんな強敵をも恐れず立ち向かってきた俺だが……この女にだけは、勝てる気がせん……!」
イレース 「……あの……」
アルム  「は、はい!? 何でしょうか!?」
イレース 「……おかわり、ないんですか?」
全員   (それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?)
アルム  「いや、えーと、野菜はあれで打ち止め、です……」
イレース 「そうなんですか……残念です、久しぶりに少しはボリュームのあるものを食べられると思ったのに……」
ロイ   「……あの大根が、少しはボリュームのあるもの……」
アイク  「これが……俺の、限界なのか……!」
アルム  「イレースさん……! 僕は今猛烈に感動している!
      まさか、あのサイズの大根を完食してくれる人が、この世に存在しているだなんて……!
      イレースさん、是非僕と専属契約を結んでください! 
      これからももっと巨大な大根を作りますから、これからもずっと食べ続けてくれませんか!?」
イレース 「……それは、こちらとしても望むところです……! よろしくお願いします……!」
セリカ  「くぅーっ! 何よアルムったら、手なんか握っちゃって! わたしというものがありながら!」
ロイ   「……よくあの光景をそんな目で見られるね、セリカ姉さん……」
ヘクトル 「ああ……正直、会話の内容が異次元すぎてもうついていけないぜ……」
セリカ  「兄さん、アイク兄さん! ボーッとしてないで、あのフラグもいつもみたいに叩き折っちゃって!」
アイク  「……いや、どうやら認めなくてはならないらしい。
      頑張れイレース、お前がナンバーワンだ」
ヘクトル 「いや……あれ以上頑張られちゃ困るだろ、常識的に考えて」
イレース (アルムさん、アルムさん……おいしくて大きな野菜を食べさせてくれる人なんだから、
      ちゃんと覚えておかなくちゃ……アルムさんアルムさんアルムさん……)

 

 そんなこんなで、『第一回アルムのスーパー野菜展覧会』は幕を閉じた。
 アルムはこの後も常識外れの大きさの野菜を作り続け、それらはイレースの腹を満たし、
 ツイハークやモウディらの財布をほんの少しだけ重くしたそうである。
 なお、紋章町の歴史を記録している大賢者ガトー氏は、この出来事を耳にしたとき、顔をしかめて

 

ガトー  「こんなアホウな話を紋章町の正史と認める訳にはいかん。
      そうじゃな、これはいわば……そう、外伝、とでも言ったところかのう」

 

 と、発言したそうである。
 これが元で、アルムは紋章町内で『ガイデンノーカ』と呼ばれるようになったとかならないとか。

 

 なお、蛇足ではあるが、この『第一回アルムのスーパー野菜展覧会』の後片付けの最中、

 

「あの、アルム」
「なに、姉さん?」
「あなたの野菜に、胸だけに栄養がいくとかそういった類のものは……!」
「……いや、さすがにそこまで突飛なものは……」

 

 といった会話が誰かと誰かの間に交わされたとのことだ。
 その会話の主が果たして誰と誰だったのかは、永遠の謎なのである。

 

<おしまい>