第十話「ゲッター・ロボ」

Last-modified: 2024-03-01 (金) 14:20:43

592 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 22:14:54 ID:???
なんか22レス分にも及ぶクソ長い話になりました。が、要するに世界観解説的な話です。
読み飛ばしても良いかもしれません。その場合「第十話」をNGワードすればよいと思われます。

またお読みになった場合、ゲッター読者だと違和感を感じる部分が出ると思われます。
ネタバレにならない部分は話が終わった次のレス、おそらく>>515-517辺りで言い訳をさせてください

ネタバレになる部分は11レス目のメール欄にネタバレを入れておきますので
もしメル欄が見える設定になっている場合はご注意くださいませ

10分後くらいに投下させてください。
投下量多すぎてスレ荒しともいえますが、どうかお願いいたします。

593 :第十話/ゲッター・ロボ ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:25:49 ID:???
 使徒迎撃武装都市たる第三新東京市にも夕焼けだけは普通に来る。
 いや朝焼けも普通に来るが、まあそれはおいといて、だ。
「アスカ、隼人さんは?」
「まだ寝てるわよ」
 シンジの問いにあごをやって応えるアスカ。客間の端に毛布を被った大男…もちろん神隼人…が横になっていた。
「まったく神さんともあろう人が情けないわね」
『後で話してやろう…』
 そうハヤトが言っていたのはもう6日も前の事ではあるが…
「そうは言ってもここ5日間、ずっとリツコさんと討論してたんでしょ」
「討論ねえ。まあシンジじゃ解るものも解んないか」
「悪かったね」
 言いつつごぼうをササガキに切るシンジ。今夜は鶏鍋である。
 前使徒との激戦の後、ズタズタのゲッターをケイジに格納したハヤトは「ちょいと野暮用でな」と言ったきりしばらく帰ってこなかった。
 帰ってきたのは昨日の夜も夜、深夜二時を回った頃。いつもスーツか、或いは軍服をピシっと着こなしている伊達男が
 よれよれのヨイヨイになって帰ってきたのだ。

『フッ……俺が保つかどうか』
 そう言って鉛のように居間に倒れこんで、それっきりだ。
 とりあえず毛布をかけて電気を消し、翌朝の朝食時に声をかけたが「…チェーンジ! ゲッター2!」としか返事が無い。
 仕方ないのでそのまま学校に行って帰ってひと風呂入ったその後も、やはりハヤトはそのままだった。
「一体なにを話してきたんだか」
「ミサトさんもこないだからネルフにこもりっきりだしねえ」
「葛城一尉ならあいさつ回りと書類仕事でビッチリだ」
「わ」
 ぬっと背後に現れるハヤト。シンジに水を入れてもらい美味そうに飲み干す。
「ハヤトさん大丈夫なんですか?」
「心配いらん。それより何か腹にたまるものを頼む」

594 :第十話2 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:26:23 ID:???
 さてこちらは毎度おなじみネルフ司令室である。
「碇、アダムはどうした? 早めに呑まないと成長を続けてますます呑み込みにくくなるぞ」
「カプセルに詰めさせて無事飲み込んだ。問題ない」
 何故かやや背が低く団子鼻でヒゲで元配管工で頭文字がMのイタリア人が頭に浮かんだが、まあ良しとしよう。
「…とにかくゲッターGは修復不能なのだな?」
「まあN2爆雷の直撃を喰らった機体だからな。無理も言えんよ」
 以前、ゼーレが神隼人を潰さんと派遣してきたゲッターG。神君が不意をつきN2爆雷にて処理を行ったハズだったが
 なんと機体は原形をとどめていた。そこでネルフが秘密裏に回収していた、という訳だ。
 神君がゲッターの駆動系に関する知識を持っていたのが幸いだったな。
『ゲッターGの前身にあたる初期型ゲッターも、水爆級の爆撃に耐えた実績があります』
 とは神君の弁だが、いやはやATフィールドも無しにムチャな機体だ。

「修復中に無茶をさせすぎたか」
「どうせゲッター線収集施設は造れん。機体、いや炉心だけでは長く使えんよ」
「ああ。炉心、そして収集施設を建造できたのは今は亡き早乙女博士だけだからな。要らぬ期待だったか」
 ゲッターロボに用いられるゲッター炉心は、無限と言われる可能性を秘めたエネルギーシステムだ。
 電気代に悩む現ネルフにとってはノドから手が出るほど欲しいが…。
「暴走でネルフ本部が丸ごと消失するようなコトになれば手に負えん」
「そうだな。よく解らぬモノを無理して使うほどに事態は切迫してはおらん」

595 :第十話3 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:27:00 ID:???
「前回の使徒についても減速が間に合わぬほどでは無かった。神大佐も無駄なスタンドプレーに過ぎん」
 どこへ行く碇?
「ドグマだ。ダミーシステムの完成を急がせる」
「待て碇……赤木君なら当分手が離せんぞ」
「何?」
「先日ゲッターシステムを見せてしまったろう? 興味深々の態で研究室に篭ってしまったよ」
 碇は憮然と鼻を鳴らす。赤木君も奴にとっては飼い犬に過ぎんハズだからな。だが
「赤木君から伝言だ。『後二日だけお願いします』とな。まあ当然だろう。研究者として心が躍らぬハズがない」
「冬月」
「もう一つ伝言だ。『もし研究の邪魔をするなら36と1通りの方法で例のアレを暴露させて頂きます』とな」
 碇は一瞬だけ真顔になると、踵を返して地下へと降りていった。まったく…誰も彼も元気がよすぎるな。
「碇。ダミーシステムも良いが、正規のエヴァシステムも今少し充実させねば勝機は無いぞ」
 使徒に対しても、ヒトに対しても、な。

596 :第十話4 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:27:53 ID:???
「いや~やっぱり食事は生命の源よね~」
 と鶏鍋をがっついているのは葛城ミサト女史である。隣では冷酒をちびちび舐めながらハヤトが砂肝を齧っている。
「ほう。シンジにも意外な特技があったな」
「だってハヤトさんもミサトさんもアスカも料理しないじゃないですか…」
「なんであたしだけさん付けじゃないのよ」
 以前「レトルト料理ばかりで困る…」と発令区メンバーに相談した際に、冬月副指令が教えてくれた料理だった。
 鶏肉とごぼうを出し汁で煮るだけの簡単な鍋だが、調味液…出し汁に酒、味噌、醤油を加えたもの…の具合次第で良い味が出せる。
『秘伝の味付けという奴だ。君が憶えていておいてくれると嬉しい』
 副司令が好々爺のように笑っていたのを憶えている。
 他にも簡単なレシピをいくつかプリントアウトして渡してくれた。

「冬月副指令がねえ…」
 ミサトからすれば、碇司令と並ぶ「はぐれネルフ陰謀派」の片割れである。まあそもそも目の前の少年からして碇司令の息子なのだが。
 小皿に残った出し汁を傾け、ついでぐぃっと缶ビールを飲み干す。
「おなかぱんぱんご馳走様! じゃ、おやすみ~」
 立ち上がった腕を引っ張られた。
「…何?」
「どうです葛城一尉。あなたも昔話を聞いていきませんか」
 ハヤトのどうという事のない一言だった。しかしその眼に宿る光を見て、ミサトは座りなおす。
 昔語りが、始まった。

597 :第十話5 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:28:29 ID:???
 セカンド・インパクト。
 葛城探検隊が見つけた南極の巨人。すなわち「アダム」が起こした、巨大な…そう「波」だ。それは世界を嘗め尽くし、破壊した。
 そんな中、比較的素早く復興を遂げつつある国があった。
 日本である。
 耐震建築と対水害の技術を積み上げた島国は、酷い被害を負いながらも手馴れたようにそれから復興を始めた。
 技術は、それだけではない。
 日本独自の技術。そうロボット工学だ。
 いかなる荒地をも走破可能な二本の足と巨大な腕を備えた巨人達は、復興の為の大きな「力」となった。
 その結実の一つ。
 その最高峰として知られていたロボットがあった。
 それが当時最新のエネルギー機関を搭載し、地形に応じた3つの形態へと可変可能なロボット…ゲッター・ロボである。
「憶えているわ…父は常々言っていたもの。"この世紀の探検が出来たのも、ゲッターロボのおかげだ”って」
「ふぅん。要するにゲッターロボが無ければ葛城探検隊は最初の使徒を見つけられなかった」
 想い出に耽ったミサトへアスカが容赦なく言う。
「だからゲッターロボは悲劇の原因。悪者ってワケ?」
「アスカ!」
「だってそうじゃないのよ! ………まあセカンドインパクトが無ければ今の私も無い訳だけどね」
「………」
 ミサトは応えない。一応アスカ流のフォローのつもりではあったようだが。
 だいたいアスカにしてみれば、彼女が「選ばれた子供」となれた遠因…恩人でもあるのだ。ミサトの父親は。

598 :第十話6 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:29:07 ID:???
「話を戻すぞ」
 当然世界各国はそれらの技術を、特に無限エネルギー機関「ゲッター炉心」の技術を欲しがった。
 しかし当然ながら日本はそれを拒否した。
「勿論利権もある。日本が官民を挙げて馬鹿馬鹿しいほど金をつぎ込んでようやく得た技術なのだからな」
「まあ、ボランティアじゃあ無いものね」
 それに当時から既に資源が無い「技術のみで生きる」国だったのだ。
 その技術を(限りなく無償で)解放しろ、というのは、死ねと言われるに等しい。
「だが話はそれだけではない。考えてもみろ「無公害で無限のエネルギー」などという都合の良いモノがあると思うか?」
「無かったの?」
「さあな」
 結局、発見者にして第一人者であった早乙女博士その人でさえ、その全てを知るコトは無かった。
 彼はとある偶然から見つけたこのエネルギーを「人類がサルから人間へ進化する為の一因となった」という大胆な仮説を立てて発表したが
 当然、学会では冷笑されるばかりだった。転換期となったのはこれがエネルギーとして計り知れない価値があると解ってからだ……。
「進化の一因になった?」
「俺も知らんよ。ともかくエネルギーとして価値があるコトが判った後もしばらく冷遇は続いた」
 その扱いがあまりにデリケートだったからだ。
 だが博士は諦めなかった。
「その執念の形がゲッターロボ、か」
「そうだな。そしてセカンドインパクトが更なる転換期となった…悪い意味のな」

599 :第十話7 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:29:57 ID:???
 その執念が実るまでどれだけの労苦が続いたか。そんなもの、他人からすれば意味は無い。
 結局ロボット製造技術は、その多くが様々な経路で流出していった。
 しかしゲッターロボだけはそうはならなかった。
 さっき言ったように非常にデリケートな、運用不安が多い機体に過ぎないからだ。
 葛城探検隊に貸し出したのも、逆に言えばそれだけ葛城探検隊の成功率が低かった。というコトが言える。
 だが他国からすれば、大事なコトは「あらゆる領域で活動可能な」「新型機関をもつロボットを」「日本が所有している」コトだけだ。
 遂にとある国が暴発し、日本との戦争状態に入った。
 
「それが日本海戦争」
 そう、第二の悲劇だ。
 その戦争で俺は友をひとり失った。
 お前達も見ただろう? ゲッターロボは3機に分離する機能を持っている。
 1機につき1人のパイロットが必要なんだ。本来はな。
「あ。それ知ってる。私が日本を離れようとした当時アニメにもなってたのよね「3つの心が一つになれ~ば~♪」ってテーマの」
 葛城一尉も、随分気恥ずかしい事を憶えていますな。まあいわゆるプロパガンダアニメの一種だったんですが、ね。
 ともかく3つの力を1つに束ねる。それが俺達ゲッターチームのチームワークだった。
 ゲッターロボはこの戦争に駆りだされ、そりゃあ大変な武勲をあげたさ。
 その時の俺達は、まさしく英雄だった。
 が…1人が死んだ。
 特攻、だった。

600 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 22:30:43 ID:???
しえん

601 :第十話8 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:30:50 ID:???
「巴武蔵。ちょいと頭は悪いが良い男だったよ」
 ゲッターは圧倒的な強さを誇ったが所詮寡兵に過ぎん。
 度重なる攻撃にゲッターは傷つけられ、ついにでくの坊にされちまった。
 早乙女博士は新型のゲッターを開発中だったが、完成まであと僅かな時間が必要だったんだ。
 兵の絶対数に劣る日本は劣勢に追い込まれ、奴は独り、でくの坊と化したゲッターロボと共に出撃し、そして特攻した。
 ゲッター炉心の人為暴走…だがそれが悲劇となった。

『国軍…日本海を埋め尽くしている……ザザ…海が3分、敵が7分だ…』
『クソッタレども! 俺たちをなめるなよ!』
 ゲットマシンが出撃してゆく。俺も竜馬も乗っていないのに。
「やめろ! やめろ武蔵! 一人で行ってなんになる! 死ぬだけだ、戻れ、戻れ!」
「行かせてやれ。隼人君」
「博士、じゃああなたがムサシを一人で行かせたのですか…なんで俺も一緒に誘ってくれない! 何故俺も一緒に」
「甘ったれるな! 君たちにはもっと残酷な未来がある! その為にムサシ君は行ったのだよ!」
 そのとき俺は、博士が何を言ってるのかすら解らなかった。ただ、ムサシが死にに行くコトだけは理解できた。
 何故、俺も死なせてくれなかったのか、と、それだけを考えていた
『リョウ、ハヤト、さらば…後のコトは頼むよ……』
 …爆発。

602 :第十話9 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 22:31:33 ID:???
 炉心の暴走は、それが地上なら地図に書かなきゃいけないくらい巨大なクレーターを造っちまった。
 あくまで奴は時間稼ぎのつもりだった。完成間際の新型ゲッター完成までのな。だがその特攻は戦争そのものを終わらせるほどだった。
 第一人者であるハズの早乙女博士にすら予想外の、絶大な威力だったよ。
 それからが大変だった。
 ゲッターは一夜で世界最悪の爆薬扱いになっちまったのさ。
 幸い、この特攻で戦争は事実上終わったとはいえ、日本政府は『犯人を捕らえよ』と必死になった。
 国際社会って奴に舞い戻る為にいけにえが必要だった。
 
『アバヨ、ダチ公!』
『先輩、後は頼みます!』
 日本政府だけじゃない。
 国連軍が「調停」と言って、ゲッターロボを止める為に一体の試作兵器を派遣した。
 実際、そいつは強かったが大した敵じゃなかった。新型ゲッターが予想を超えるほどの化け物だったからな。
 だがそいつは自爆を始めやがった。
 黒い海が広がり、ゲッターさえ飲み込まれそうになった時…奴らは言いやがった。
『お前はこの後の時代の為に必要な人間だ……』とな!
 なにがアバヨだ! バカ竜馬が!
 ハヤトが拳で壁を叩く。さして古くもないハズのマンションの壁が、とうきび細工のように崩落した。

603 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 22:38:39 ID:???
しえん

604 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 22:44:00 ID:???
まさかのさるさん?

605 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 22:45:42 ID:???
ゲッター支援!

606 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/30(木) 23:15:14 ID:???
どぉぉぉぉすんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ

607 :第十話10 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:40:17 ID:???
 今でも昨日の事より鮮明に思い出せる。最強だと思ったハズの機体が黒い海に呑まれたあの時を
『ヤバイぜリョウ! ゲッターの出力が上がらねえ!』
『へ、さっきまであんなにご機嫌だったくせに何ヘソまげてんだコイツは!』
『先輩、もうこ、腰……アーまで…』
『おいベンケイ! やべえリョウ、これじゃ新入りが持たねえぞ!』
 既にゲッターは腰まで黒い海に呑まれ…徐々に、徐々に、沈みこみ始めていた。
『…ハヤト、手に乗り移れ』
 ゲッターの手が、中央にあるゲットマシン2号機コクピットへと掌を伸ばす。
『もう胴から下は…駄目だ。上半身だけ離脱する』
『それじゃリョウマ、テメェ新入りを、ベンケイをどうするつもりだ!』
『手前が先に乗らなきゃ3号機に手がやれねえだろ!?』
『そ、そうです、先輩、い、急いで』
『ベンケイ!?』
 急遽ムサシの代役として選ばれた男、3号機パイロット車弁慶の声が聞こえる。
『こういうのは年齢順ってね…さ、は、早く』
『ベンケイ、てめえ!』
『もういいから黙ってやがれハヤト!』
『ウホッ!?』
 ゲッターが自らの腹部に拳をブチ当てる。さすがの衝撃にハヤトも意識が遠くなりかけた…その隙にだ
 ゲットマシン1号機が遠隔操作で2号機のハッチを解放。
 ハヤトを、掴み出す。
『て、て、め、え、ら』
『…へ。悪いがお前はこの後の時代の為に必要な人間だ……』
 拳がゲッターの顔まで持ち上がる。薄れ行くハヤトの意識に、コクピットの男の顔が、見えた気がした。
『バカな……俺を、俺を置いていく…つもり、か……』
 コクピットの先の、笑顔までもが見えた、気がした。
『アバヨ、ダチ公!』
『先輩、後は頼みます!』
 ゲッターが隼人を放り投げた瞬間、黒い海が爆発的に広がり…そして唐突にゲッターロボと共に姿を消した。
 遥か彼方に放り投げられた隼人と、そして…崖の上から一部始終を見ていた二つの影を残して。
 彼らは、消えた。

608 :第十話11 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:41:45 ID:???

603-606様
済みませんこれに引っかかってました ttp://info.2ch.net/wiki/index.php?Good-By_Monkey

「…なにが、アバヨ、だ…」
「そして最後にようやく首謀者が現れた。それがゼーレだ」
 男が、隼人の言葉を継ぐ。
「…ふん。ようやく来たか」
「加持さん!」
「げ。加持」
 ビールを片手に現れたのは、ネルフ所属であり日本政府の密偵であり、そしてゼーレの走狗でもある男…加持リョウジであった。
 
「ゼーレが直接乗り出したのが、そもそも失敗だったのだろう」
 誰も居ない司令室で、冬月はひとりごちる。
「だが思わずそうしたくなるほどに、それほどまでに強烈なモノがゲッターロボには、ゲッター線にはあったのだろうな」
 手元の古い記録を辿るたびそう思う。それはゼーレとネルフが結びついていた頃の最後の記録だ。
「早乙女研を追い詰め、その手足を一本ずつもぎとっていった…その最後の仕上げの場面か」
 流竜馬とゲッターから弾き出されたその足で駆け戻った神君の目の前で、早乙女研究所は消失したという。
 最後を悟った早乙女研は侵攻してきたゼーレの手勢諸共に研究所の炉心を暴走させた。
 まさに「地獄の釜のフタが開いた」としか、言いようが無い光景だったと聞く。

 しかしそれはゼーレにとっても地獄の釜のフタだった。
 その後一年を待たずして復讐鬼と化した神君がゼーレの中枢を探り、その事如くを叩き潰したのだからな。

 そもそもゼーレと言う組織は、国連の更に上位の組織、影の組織だ。
 その正体どころか名前すら知るものは少なく、多少なりとも知るだけで「戦おう」と考えるほど馬鹿馬鹿しい権力があった。
 だが神君の怒りはそれすらも凌駕したのだ。つくづく人間とは底知れぬ生き物だと思うよ。
 現に今も、そうやって組織を完全に破壊されたハズのゼーレが我々の前に立ちはだかっているのだから。
 彼らもまた復讐心に燃えているだろう事は想像に難くない。

609 :第十話12 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:44:51 ID:???
「ゼーレって…」
「“使徒がネルフ地下のリリスに触れる時、サードインパクトが発生する”。シンジ君も聞いたろう?」
 言ったのは加持だ。
 リリスを守る為の特務機関がネルフ。そしてその支配者であり資金源となっていたのがゼーレである。
「もっともゼーレは十三年前に彼が滅ぼしてしまったがね」
 言って加持はハヤトを見やる。彼は黙って紫煙をくゆらせていた。
「だが疑問に思ったことは無いかな? 何故“サードインパクトのコト”をネルフが知っているか」
 それはセカンドインパクトの真実、ネルフが語るその先の真実をもネルフが知っているからだ。
 セカンドインパクトも、使徒も、リリスも、エヴァも、すべては誰かのシナリオに描かれた存在だからだ。
「まさか」
「使徒、エヴァ、ゲッター。既になんでもありの状況だ。その状況すら予言していた書物があったのさ」
 ま、ゲッターだけはシナリオの外らしいがね。とは加持の談だ。
「そのシナリオが裏死海文書。ネルフもゼーレもそれに従って行動している。だからどんな突飛な事態に対しても対応している」
「ちょ、ちょっと待ってよ加持、ならあたしの父さんは…」
「葛城。悪いが少し待て」
 加持はいきりたつミサトを押しとどめ、シンジへと目線を向ける。

610 :第十話13 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:45:57 ID:???
「そんなコト…なんで僕が、知らなきゃいけないんですか」
「それは君がこのネルフを統べる碇ゲンドウの息子であり、またエヴァ開発者である碇ユイの息子だからだ」
「か、母さんは…」
 確かに母は研究者だった。そして研究中の事故で死んだ。
「君は、全てを知る権利、いや義務がある」
「待ってよ加持さん! じゃ、じゃあ、あたしは…」
 置いていかれた状態のアスカが、たまったものじゃないというように声を上げた。
「アスカ。君も当然知っておいた方がいい。いずれエヴァは狙われるからな」
「し、使徒に?」
「違う。ゼーレにだ。老人達は生きている」
「全く…ゴキブリのような連中だ」
 ポケットから煙草を取り出しながら、吐き捨てるように隼人は呟く。
「老人達の支配から解かれた碇司令は“誰かのシナリオ”を自分に都合よく利用するコトを考えている」
「その望みは解らない。だがゼーレと敵対している」
「今の碇ゲンドウはゼーレの敵だ。だから俺はここにいる」
 紫煙を吐き、ハヤトは呟くように告げるのだった。

611 :第十話14 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:47:32 ID:???
 一方こちらは馴染みの闇。ゼーレの集会所である
『左様。もはや戦争しかあるまい』
 七体の石柱の一つに映る姿。
 車椅子に座る黒衣の老人がぶつぶつと呟くが、ゼーレの元老たちはいつものように無視する。
『神隼人によるゼーレの崩壊、そして碇の公然たる反逆』
『諸君、冬月先生のコトを忘れておらんかね』
『碇のオプションがどうかしたか』
『とにかくシナリオは順調に進んでおる』
『ふふ……身体が軽い。確かに往年の力こそ我らには無い。だがこうやって地獄に落とされたせいかな?』
『そうだ。身体が、いや、魂が若返ったように思えるよ。今の我らに為せぬコトなどなかろう』
『エヴァ量産型の設計は順調だ。S2機関搭載型としてね』
『S2? サンプルは手に入れたのかね?』
『碇が米国支部へ送った物がある』
『やれやれ。ただの機動兵器として建造するならゲッター炉心を積めば良いが』
『儀式に使う機体だ。S2以外の何者にも代用は出来ぬよ』
『ではそのように進めよう』

612 :第十話15 ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:49:24 ID:???
『碇とてシナリオを逸脱する事はできぬ。奴にしても使徒は怖かろう。己の全てが徒労に帰するなど怖かろう』
『奴の目的は知れておる。亡き妻に妄執するなど』
『全ての生命を地獄に落としてでも、か』
『だが使徒を排除せぬまま補完を行うこと。その危険性は奴も承知していると見える』
『ならば未だ時は残されていると見るべきだ』
『そして我らにはシナリオを決めるカギが残されている』
 石柱達は次々と言葉を吐く。その言葉は人類全てを愚か者と断じ、そして哀れむ声であった。
『人類は贖罪せねばならぬ』
『争い、戦う』
『敵対する種族のみならず、同族のみでも戦いあい罵りあう。いや己自身の中でさえ罵りを行う』
『哀しいではないか。あまつさえその戦いが、ヒトをより強く強く進化させてきたなど』
『哀れではないか。その進化に喜びを感じてしまうコトなど』
『それが我らが原罪であると?』
『それが生まれもった罪ならば変えられぬ。だが生まれそのものを変える手段を我らは手にした』
『これもまた罪かもしれぬ。だが罪を罪と自覚し、変えるべく行動する我らがココにあるコトは』
『それもまた意思なのだ。何者かの意思なのだ』
『故に我らは意思に従う。ヒトの罪を消滅させるこの意思に従う』
『例えそれが世界最後の夜明けへと繋がるとしてもだ』

613 :第十話16(終) ◆ALOGETTERk :2008/10/30(木) 23:54:28 ID:???
「…ろ、老人達はやっぱりバカだよね。コーウェン君?」
 甲高い声が上がり、暗がりに反響してゆく。
「よ、より強くあれ。より強く進化せよ。そ、それが人の意義、ゲッター線の意思であると解らぬ者達でもあるまいに」
「ブフフ…ゲッター線は彼らの神ではないからねぇ。だからといって神の声を無視するなど預言者失格だよね」
 野太い声が、朋友の甲高い声にあわせるように釣りあがる。
「ね? そうだろう? スティンガーくゥん?」
「う、うん。コーウェン君」
 ゼーレとは別の暗闇に二人は居た。
「預言者失格だよ。よりにもよって神にも近いこの存在さえ、たかがプラント扱いだしねえ」
 だが彼らは聞いていた。ゼーレの声を、いや全ての声を聞いていたと言ってもいいかも知れない。彼らもまた、人間ではないのだから。
 彼らに応えるように暗闇に呻き声が低く遠く響く。それもまた人間の声では無かった。
「早乙女博士はゲッター理論において我々の一歩も二歩も先を行っていた…」
「だが、まさかコレを完成させるに至るとは」
「「己の犠牲すら進化の糧とするとは、まさにゲッター線の使者に相応しき男であった!」」
 二人の唱和が闇に響く。彼らでさえ近づけぬ存在が闇に、潜む…。
「その犠牲を我々は完成させなければならない。そうだよね。ね、スティンガーくゥん?」
「け、研究は発表されなければ報われないものね。ね、コーウェン君」
「その為には役者に揃ってもらわなければならぬ」
「その為には舞台を整えねばならぬ」
「「そう、全ては世界最後の日を迎える為に!!」」
 闇へ響く。
 それは日本地区浅間山の地下、悲劇の現場となった早乙女研救所の遥かな地下……。
 闇を喰らい、鉄を喰らい、己を生んだ者達を喰らい、使徒をも喰らって目覚めの時を待つ巨人。
 真・ゲッタードラゴン。そう呼ばれる異形の巨人の声であった…。

614 :名無しが氏んでも代わりはいるもの:2008/10/31(金) 00:03:24 ID:???
終わり?乙でした

615 : ◆ALOGETTERk :2008/10/31(金) 00:16:07 ID:???
気付いておられた方もいらしたと思いますが、本作では鬼やインベーダーの襲来は発生していません。
竜馬達は(ゼーレに裏から操られていたとはいえ)「人間」と戦っていたのです。加えて早乙女研が敗北した、
というように話が流れています。問題だと感じられた方、筆者の力量不足ゆえです。誠に申し訳ございません。
なおムサシもやはり戦死です。ネオゲよりも少ないです。申し訳ない。
次回は通常運転に戻ります。

しかし今思い起こしてみると偽桜田版(冒険王版)グレートマジンガーみたいな話でしたね…。