ep1

Last-modified: 2013-07-06 (土) 00:21:50

「あ~、ベンケイさん、リョウマさん、ハヤトさん! 
おっはようございま~す!!」
朝っぱらからめちゃくちゃテンションの高い声が後ろから響いた。赤とベージュを基調とし、体のラインにぴったり合わせた制服を着た、柔らかい茶髪の女性が走り込んできた。行動中の戦艦の通路だというのに緊張感はまるでない。
「おう、朝から元気だな、ミユキちゃん」
「おす」
「…………」
弁慶と竜馬はそこそこ愛想良く返事をしたが、隼人は無言のままだ。だが別に視線を冷たくしているわけでも、無視を決め込んでいるわけでもなかった。
ミユキと呼ばれた20歳ぐらいの女性は、そんな隼人の様子になど頓着せず、必ず相槌を打ってくれる弁慶に近づくと、何時もの様に一方的喋り始めた。
「そうなんですよ~! 今日は仮想シュミレーターなんですけど、私の提案したウエポンがやっと日の目を見られるんですよ! もー、外部装備の兵器なんだから、何時でも準備OKなのに主任が全然許可してくれなくて! でもそれがやっと!」
「お~、そうかい。良かったな」
強面ながら笑顔を向ける弁慶の隣で、竜馬は肩をすくめた。
「そういえば、昨日ハイパースペースに入る前に何か搬入されたらしいな」
隼人が低い声で一人ごとの様に呟くと、ミユキはニッカリと笑って喰いついた。
「流石ハヤトさん、情報通です! なんか第一格納庫が閉鎖されちゃったらしいですよ。補給艦なんて隣に浮いてるのに、なんでわざわざこっちに入れたんでしょうね?」
竜馬が少し裏返った声を出した。これはさすがにまずい。
「あー、食糧でも補給したんじゃねーの? こいつみたいに喰いまくってる奴がいるんだろ。食糧庫占拠されたんじゃねぇか?」
「誰が喰いまくりだ。俺ぁ最近、腹八分目って決めてるんだよ」
「おめーの八分目は俺の三倍だろうが」
弁慶が隣の竜馬を軽く睨みあげた。
「じゃあベンケイさん、今度食堂のダイエット食、一緒に食べましょ~! 結構美味しいですよ!」
「あ、ああ……そうだな……」
渓と同じぐらいの女の子の猛攻にたじたじとなっていると、あまり頼りにならなさそうだが生贄にはぴったりの声が聞こえた。
「ミユキちゃん!」
「あ、副主任! おはよーゴザイマス!」
どっかのボンボン育ちのような、少し頼りなさそうな風貌の青年が、分岐通路の先から現れた。ミユキと同じタイプだが、赤の代わりに緑を使った制服を着ている。
「おう、アレン『君』、おはよう」
「おはよう、アレン『君』」
「おはようさん、アレン『君』」
三人そろって凶悪な笑顔を向けると、アレンは少しだけ嫌そうな顔をした。露骨にではない辺りが、彼のお人好しな感じを表している。
「そのアレン『君』ってやめてもらえません? そちらとはライバル会社なんですから」
「いいだろ、アレン『君』って呼ばれてるんだから」
「良くありません! ミユキちゃんも余所の会社の人と仲良くしない! 
まったく……だからこんなコンペに参加なんて……」
「あら、アレン君、ミユキ、おはよう」
背後からかかった声に、アレンは飛びあがった。
「お、おはようございます! 主任!」
「先輩、おはようございます!」
「リョウマさん達もおはようございます」
「おう」
「おはよう、シオンちゃん」
主任と呼ばれたのは、眼鏡をかけたまだ若い女性だった。ミユキと同じか、せいぜい2,3歳年上にしか見えない。そして美人である。これで大企業の花型部署の主任を勤めている。
「二人とも、のろのろしてないで早く行きましょう? うちの入居している部屋は敷島さんのところより先なんだから
「は、はい!」
忠犬の様に返事をして、嬉々としてアレンはシオンに従う。
「それじゃ、また」
「また後で~!」
元気に去っていく三人を見送り、中年二人を含むゲッターチームも自分達に宛がわれた部屋に入っていく。プレートには「敷島銃工業株式会社」と明記されていた。
「第一格納庫だとよ。すげえな、あの娘の情報収集力は」
「ああ。おかげでダイエット食はおあずけになりそうだ」
竜馬達は目の前で組み上げを終了させているゲッターロボを見上げた。全高わずか6メートル。彼らが知っている最小のゲッターだった。

 
 

ゲッターチームの現在の任務。それはゲッター線濃度の異様に低い星団の調査だった。既にエンペラー艦隊が通り過ぎてから大分経つ星団であるにも関わらず、他の宙域に比べ、圧倒的に濃度が減っていた。
通常ならば調査班が行う任務なのだが、何故か戦闘チームの竜馬達にお鉢が回ってきた。
説明に来たのはタイールという少年だった。彼は特に乗艦を定めず、あちらこちらに出没して”お告げ”としてエンペラーやゲッターの命令を伝えていく。
「もちろん、調査班も向かいます。しかし、貴方方にはもう一つ、『ある物』を探し出してきて欲しいのです。竜馬さんには既にエンペラーから通達があったと思いますが」
「ああ、あったぜ。くだらねー依頼の方がな。そっちがメインだろうよ。自分でやれってんだ」
「あいにく私の方には、そのくだらねー内容は伝えられておりません。しかしエンペラーが竜馬さんに直接お伝えしたのであれば、それは竜馬さんにしかできないことなのではないでしょうか?」
穏やかに切り返すタイールに、竜馬はケッとそっぽを向いた。
「それで? その探し物っていうのはなんだ?」
仕方がないので隼人が続きを促す。
「実はそれが物なのか、それとも人物を指すのか、あるいは自然現象の一つなのかは、わかりません。
ただ、最近エンペラーが新たに得た観測能力により、その事象を捉えたと思ってください。エンペラーはそれを排除すべきか取り込むべきかも考察中です」
「そんなわけのわからないものを探せだと?」
「はい。ですからこれはあくまで、ついでです。たまに思い出してくだされば結構です。主目的はあくまでゲッター線の減少の調査です。
そしてゲッター線が減少している所為で、自体が隠されてしまっているようで私にもはっきりとはわかりませんが……おそらく、その探し物が原因のような気がします」
タイールはそういうと、目的の星団の星図の入ったメモリーを差し出した。
「私の勘ですが、おおまかに絞り込みをしてみました。さっきも言いましたが、観測機器が確立していないので、現地の人との交流を元に情報収集をしてください」

 

竜馬達が準備をして目的地の星団に入ると、確かにゲッター線の濃度が低かった。その中でも特に低い場所。ゲッター線濃度が0の場所が存在した。
この星団の内部は、Unus Mundus Networkと呼ばれる目に見えないネットワークが無数の糸のように空間に絡んでいた。
エンペラー艦隊が所有しているものを遥に凌駕する情報ネットワークで、非局所性を特性として持ち、それを空間跳躍や超光速通信に利用していた。
空間跳躍は、コラムと呼ばれるU.M.Nの中継点を通過し、高速道路のような感じでU.M.N内に入ることで行われる。ワープ中の計測で、ネットワーク内ではゲッター線濃度は0だった。
エンペラー艦隊がこの星団を通過したのが1000年前。U.M.Nが発見されたのがおよそ800年前のことである。
すぐにU.M.Nの調査をしようとしたが、既に生活インフラの基盤として確立されすぎてしまっていた。あまり大規模な制限をかけての調査は、いくらゲッターチームとはいえ少々気が咎める。
やむなく調査の矛先をU.M.Nそのものではなく、星団連邦政府と共に開発、開拓に当たったヴェクター社という巨大コングロマリットに向けた。ヴェクターインダストリーは『おむつから兵器まで』を自称する巨大企業体である。
官民共同開発されたU.M.Nは、現在は連邦政府に譲渡されたものの、機材人材は未だヴェクター社が供給しており、一企業が掌握する権限を超えている。
まさか企業の内情調査をすることになるとは思わなかったが、接触する手掛かりを探しているうちに、星団連邦の軍が哨戒中に武器のコンペティションを行うという、少し変わった情報を手に入れると、隼人達はそれに参加するべく手を打った。
ヴェクターもそのコンペティションに参加するからだ。それも武器開発メインの開発第二局ではなく、かつてU.M.N開発を行った開発第一局が、である。

 
 

「で、お隣さんの第一局の様子はどうだ?」
竜馬達は一緒に来たスタッフがゲッターのチェックをしている横で、戦艦ヴォークリンデに乗艦してからの日課となっている、第一局へのアクセスを試みていた。
「……ダメだな。流石に軍艦の中で軍事機密を扱っているだけあって、入るのが容易じゃない。だが、もうU.M.N関連は完全に扱っていないと見ていいだろうな」
隼人の手元を竜馬と弁慶が覗きこむ。
「じゃあ、あいつら何やってんだ? 二局でもないならここにいる意味なんてないだろう?」
「どうやらアンドロイドを作っているようだが……」
「アンドロイド?」
「一局が情報ネットワーク分だということを考えると、アンドロイド用統合OSの開発と言ったところか」
「コンペをやるような戦艦の中で、OSの開発?」
竜馬と弁慶はそろって顔を見合わせた。隼人は面白くもなさそうに一局のデータベースに更にアクセスを重ねようとしたが、そこは元情報管理局なだけあり、容易ではない。
暇を持て余し始めた竜馬と弁慶に、スタッフが声をかけた。
「ネオゲッターの調整が終わりましたが、テストされますか?」
「おう、一応『売り物』らしくさせとかないとな」
最終日では、搭乗型ロボット兵器――Assault Maneuver Weapon System――のコンペが行われる。この星団では、大型戦艦に小型機動兵器が付随するという形式が一般的なので、5,6メートル程の超小型ゲッターロボを急遽用意することになった。
実際に売りつけるわけではないが、コンペに参加する名目で潜りこんできている以上、それらしい機体を用意しなければならない。ゲッター線を使わないプラズマボムスを炉心にした小型ゲッターを持ちこんだ。
ちなみに大型化の一途を辿るゲッター軍団にとって、小型ロボットの開発は予想外に難航したらしい。
完成したネオゲッター1、ネオゲッター2、ネオゲッター3は、小型故に合体もゲットマシンへの変形もできないが、出力は単純にドラゴン、ライガー、ポセイドン並みにあった。
「ま、最終日前にはこいつで格納庫のものをいただいてドロンだな」
「その格納庫の物は本当に探しているものなのか?」
「知らねえよ。アイツが勘で言ってんだから、こっちも勘で持ってくしかねえ」
竜馬は一足先にネオゲッター1に飛び乗ると、炉心に灯を入れた。

 

「暗礁宙域、抜けます」
ヴォークリンデのブリッジにオペレーターの声が響いた。どこかほっとした空気が流れる。後一回のゲートジャンプで帰還できるのだから無理もない。これで数々の面倒を抱えた任務も終わりだ。
艦長のモリヤマは明るい声を出した。
「ようし、ゲートジャンプの準備に入ってくれ」
「了解。全艦アプローチに入ります。コラム有効範囲まで19分30秒です。U.M.Nパルス、受信しました」
「現座標固定。転移ベクトル修正103。目標、アセンズコラム」
突然、警報が鳴った。
「艦長、警戒信号が……」
「まさか、やつらか?」
モリヤマの指先が僅かに慄いた。
「いえ、探知システムは平静を保ったままです。
おい、そっちはどうだ?」
「こっちも同じです。エラーじゃないんですか?」
「いや、そうじゃない。……こいつは……」
「どうなっている?」
「本艦外域を対象とした警戒信号ではないようです」
「ならば何処から」
オペレーターは警戒信号を発した元を辿る。
「サーチします」
「異常源、特定できました。
本艦内、第三区画!?」
スクリーンの各所に警告が表示される。
「これは……KOS-MOSです!」

 

第三区画。竜馬達のいる部屋の隣、ヴェクター第一局のいる部屋の中に、突如警報が響き渡った。
アレンは音を発している調整槽に近寄る。そこには開発中の戦闘用アンドロイド、KOS-MOSが納められている。
「そんな馬鹿な! 
おい、一体どうなっている!?」
「判りません! あまりに突然すぎて……! 現在確認作業中です!」
「KOS-MOS、警戒態勢レベル1! ビンディング解除! くそ! 勝手に立ち上げを始めたぞ!」
トガシは思わずコンソールに拳を叩きつける。何をやっても受け付けない。
「KOS-MOS、自律モードで起動に入りました!」
「ちょっと待ってくれ! 自律モードは例の一件以来、凍結したんじゃあなかったのか!?」
「こちらでも、カウントダウン始めました!」
「どういうことなんだ!? なんで急に……
KOS-MOSは、主任のコードがないと立ち上げできないんだぞ!!」
そのシオンは、先程ブリッジに呼び出されていた。それ程時間のかかる報告ではないはずで、すぐに戻ってくるはずだ。
「主任……」

 

ブリッジに再び警報が響いた。
「今度は何事だ!?」
「前方空間に、大規模な空間歪曲を感知」
「大質量体がゲートアウトしてきます!」
「馬鹿な! まだコラム有効領域の外だぞ! そんなはずは……!」
「U.M.Nのジオデシック構造体は強制置換されています!」
「対象は、何らかの方法を使って、U.M.Nに干渉している模様!」
「ハッキングだとでも言うのか!
まさか……」
モリヤマの背筋が一気に凍る。先程の、ヴェクターから今回の任務ために貸与された”対応策”からの警告。
「重力偏差、甚大です! 時空間に、不連続面が発生しています!!」
「馬鹿な! ロジック的には非可逆なんだぞ!」
「質量、算出中……質量解の一致、無しです! 明確な数値がでません! 質量、極めて大!!」
ブリッジの各所でオペーレーター達が悲鳴をあげる。観測機器のどれもが、異常な数値を表示している。
「波高が……!」
「お、おい……これじゃまるで津波じゃないか!」
「質量予測値増大! 通常空間に実体化します!
艦長!」
「艦長!!」
全員の視線を一身に受けたモリヤマは、慄いたまま正面スクリーンを見続けた。
「しょ、正面……来ます!!」
ゲートアウトの光がブリッジのスクリーンを覆う。空間を突き破り、戦艦クラスの巨大な深海魚のような物体が無数に、半透明に揺らつく姿を知らしめた。
「やはりグノーシスか!」

 

一局の室内では、アレンの悲鳴が更に上がっていた。
「止めらないのか!?」
「無理です! 制御、受け付けません!」
「くそう、なんだって主任が席を外している時に……。
まさか、グノーシスに反応? おい、主任は!?」
「こちらに向かっているはずなんですが、UNPの通常帯が輻輳を起こしていて、連絡取れません!」
「非常帯は!?」
「今、呼び出しています!」
突然室内の灯りが落ちて真っ暗になる。
「どうした!?」
「わかりません、電源が突然……」
非常灯だけが室内を照らす中、黒い棺桶のような調整槽の蓋が開いた。白い手が伸び、槽の縁を握って置き上がる。
躓いた誰かがコンソールの上に倒れ込んでエラー音を出し、ミユキは隣の席の子と手を握った。トガシは、隣のアレンを引っ張って盾にした。
コツ……という小さな音と共に、KOS-MOSが床に降り立ち、赤い瞳を輝かせた。

 

「警報!?」
「何だ、敵か!?」
「何処と交戦するってんだ!?」
外敵はいないはずである。宇宙海賊を気取る連中かと、隼人はすぐに周囲の索敵を命じたが、周りの技術者達はレーダーの無反応を告げるばかりだ。
「ちっ、U.M.Nを使ったレーダーじゃないとダメってことか!」
この星団はガラパゴス化が進み過ぎている。隼人はこちらに来て購入したモバイルコンピューターのコネクションギアを立ち上げた。丸いヨーヨー程の大きさの機械のスイッチを入れると、ホログラフィキーと画面が浮かび上がる。レーダーのアプリケーションを呼び出す。何らかの巨大な物体が無数にこの艦隊を取り囲んでいるのが表示された。
「あ……反応出ました! ゲッター線の濃度、先程より2%低下しています!」
「来たか!」
「そいつらがゲッター線を喰ってるってことなんだな!?」
具体的な敵がわかるのはありがたい。
「ふん、片っ端からぶッ殺してやる」
竜馬は乗ったままのネオゲッター1のハッチを閉じた。
「待て、竜馬!」
隼人はすぐに飛び出しそうになる竜馬を制止すると、他の同行者達に指示を出す。
「この艦が保つかどうかわからん。お前達はすぐに小型艇で脱出しろ」
「し、しかし、このネオゲッターで交戦する気ですか!? 旗艦に戻ってせめて真ゲッターを……」
「ンな暇あるか!」

    ドウッ!

激しい揺れが部屋を襲う。
「来やがったか!」
「今の着弾、本当に艦外からか? やけに至近距離のように感じたが……」
ネオゲッター3に乗った弁慶が周囲を見渡す。
「とにかく、俺達は第一格納庫に向かう。お前達は先に脱出しろ。帰還したら転送準備をしておけ」
「りょ、了解!」
慌ただしくカムフラージュして持ち込んでいた小型艇の準備に入った同行者達を見ると、竜馬は躊躇なく扉に向かってネオゲッター1の武装を向けた。
「ショルダーミサイル!!」
扉を壁ごと吹っ飛ばした後、2秒の間を置いてネオゲッター1が部屋の外に飛び出した。続いてネオゲッター3、ネオゲッター2も。
あちこちの部屋から悲鳴をあげた各会社の社員達が飛び出し、右往左往していた。敵の姿こそ見えないものの、銃声と爆撃音が左右に伸びた通路の向こうから聞こえてくる。
「どっちにする?」
弁慶の声に隼人が索敵をかけるが、
「あっちだ!」
竜馬が左手側にネオゲッター1を向けた。じりじりと後退りをしてくる複数のA.M.W.Sと、その足元の戦闘用レアリエン――合成人間――達がいた。
気化弾頭の熱風が吹き荒れ、A.M.W.Sがまとめて床や天井に叩きつけられた。押しつぶされたレアリエンが合成血液と中枢神経をぶちまける。人間の脳漿とほとんど変わらないそれを見て、竜馬達は一瞬眉をひそめた。
「ひいっ……!」
「た、助けてくれ……」
壊れたA.M.W.Sから這い出たパイロット達が、腰の抜けたまま竜馬達の方に近づこうとする。
通路の向こうから、まるで幽霊のような半透明なモノが顔を出した。蟲のように地面を這うもの、異常発達した上半身を持つもの、振り子のような巨大な拳を持つもの、様々な姿をしているが、どれも風にそよぐセロファンの様にうねって見える。
「なんだあ? ゆ、幽霊か!?」
「おい、おまえら下がってろ!」
ネオゲッター1が幽霊に向かって手に持っていたガトリングガンを撃つ。弾丸はそのまま幽霊の体を通り抜け、後ろの壁に穴を開けた。
「なっ!?」
「ほ、本当に幽霊だっていうのか!?」
「ビビってんじゃねーよ、弁慶!」
「お、おう! しかし……」
弁慶は倒れたパイロット達を見下ろす。
「プラズマソード!」
先に隼人が仕掛ける。ドリルアームの先端が変形し、エネルギーを纏った剣になる。飛び込んだ先の幽霊を次々に斬りつけるが、手応えがまるでない。
「っ……! 感触がない……!」
腕の異常に長い幽霊が、隼人のいるコックピットめがけて腕を伸ばしてくる。咄嗟に避けると、幽霊は後ろの壁にそのまま入りこみ、その中で反転して再びネオゲッター2に向かってきた。
「ちっ、こいつら物体を通り抜けられるのか!」
「あ、あああーーーーー!!」
A.M.W.Sのパイロットが悲鳴をあげた。別の幽霊に捕まり、頭を持ち上げられている。
「離せ!」
弁慶がネオゲッター3でその腕を叩き折ろうとするが、金属の拳は幽霊の体を通り抜けてしまった。
そして捕まったパイロットは、接触している頭部から次第に白くなっていき、最後に足まで白くなると、その場で砕け散った。床には白い灰の様なものが降り積もる。
「灰……!?」
「いや、塩だ。気をつけろ! こいつに捕まると塩にされるぞ!」
「塩だと!? 蒔かれる側のくせしやがって!」
竜馬は、ガトリングガンを幽霊向ける。無駄弾だけが排出されていくが、銃口を向けられた一瞬だけ、幽霊が怯む。
幽霊は壊れたA.M.W.Sに近づくと、ふいとその金属に潜り込む。さっきまでそこにあったA.M.W.Sが鎧の様に幽霊に貼りつく。
「…………この幽霊野郎! インベーダー見てぇなことしやがって!!」
A.M.W.Sの部分は半透明になっておらず、竜馬は金属が粉微塵になるまで弾を撃ち続けた。
ずるり、と天井をすりぬけ、幽霊が落ちてくる。落下先で倒れていたパイロットが踏み潰され、塩になった。幽霊はそのままネオゲッター達に手を伸ばしていく。

  バゴォッ!!

壁に大穴が開いた。A.M.W.S作成の大手、ハイアズム重工業の部屋からだった。
血糊や塩のついたA.M.W.Sを着こんだ幽霊が、装備されたガトリングガンやミサイルランチャーをネオゲッターに向ける。
「ゲッタートルネード!!」
ネオゲッター3の頭部周囲のファンから発生した竜巻が、吐きだされた弾を巻き込み、幽霊共々爆発させる。破れた鉄の扉が更に捲れあがり、壊れた研究室を露呈させる。
「やったか!?」
だがやはり壊れたのはA.M.W.Sの部分だけで、幽霊たちは平然とネオゲッター達に近づいてくる。
ネオゲッター1の両手にプラズマエネルギーが発生した。
「竜馬!?」
「外に出るぞ! こんな狭い場所で戦えるか!」
「しかし……」
「こいつらは中心の第三区画にまで入りこんでるんだ。ブリッジは塩だらけだろうよ」
隼人が代わりに言い放った。実際、飛び交う通信は、回線が込み過ぎていてまったく通信の役目を果たさず、辛うじて拾えた一言二言は悲鳴のみというありさまだ。ヴォークリンデのみならず、随伴する艦も同様なのは間違いない。
反対側の通路からも幽霊が集団で出てきた。銃口も見えないのに無差別に気化弾頭を撃ってくる。
「プラズマサンダアァァァーーーー!!」
フルパワーで放ったプラズマサンダーは、幽霊共々ヴォークリンデの数百メートルある艦体を貫いた。真空中に、空気と機体が吸い出される。
宇宙空間に放り出された瞬間から映し出された映像には、幽霊の艦体が見えた。面を覆うその数は膨大で、視界を埋め尽くすというに十分に値する。
幽霊巨大な深海魚のような外見から、次々とミサイルのような何かと、小型のロボットサイズの幽霊を吐きだしている。
「結構な数が来てるじゃねぇか」
周囲に漂う戦艦やA.M.W.Sの残骸を見ながら、竜馬は再度プラズマサンダーの発射態勢に入った。
「竜馬、避けろ!」
物理攻撃を受け付けない幽霊相手に分が悪いネオゲッター2は避けるしかない。細かに動きながら、発射前の無防備になる一瞬、ネオゲッター1に幽霊が群がってきているを見た。トルネードを発生させているネオゲッター3には取りつきにくい様で近づいていかない。
幽霊の一匹がネオゲッター1の頭部にくっついた。そのまま装甲を無視して竜馬に向かって手を伸ばす。
「くそっ!」
竜馬は咄嗟に機体を振って振り落とそうとしたが、鉤爪の様なものでしっかりくっついており、容易には剥がれおちない。ヘルメットを通り抜け、爪が竜馬の頬に当たる。
顔を掴まれた、その感触は確かにあった。
「だったらそこからぶっ殺すまでだ!!」
咄嗟に操縦桿から手を話、幽霊の腕を逆に取ろうとする。掴まれた頬と、掴んだ指先から、一気に全身に緑色の線が走った。
「うおおおおおおおおお!!!!」
群がる幽霊がゲッター線に触れ、風化していく。10体近くの幽霊が消し飛んだところで、ゲッター線は消えた。
「竜馬!?」
「無事か!?」
隼人と弁慶が慌てて機体を近づける。ネオゲッター1の中で、竜馬は貧血でも起こしたかのように、ぐったりとシートに凭れて荒い息を吐いていた。
「大丈夫だ……あいつら、ゲッター線ならぶっ飛ばせる…………!」
「取りに行くのがちと面倒だがな!」
遠巻きに見ていた幽霊達が、一斉に更に群がり始めた。能動的に動いているのが、もはや自分達だけらしい。
「ゲッタートルネード!」
ネオゲッター3が回転をしながらエネルギーの竜巻を起こし、幽霊を追い払う。
「どうする……? 何か手はないか……?」
隼人は周囲に目を配った。沈黙した戦艦のエンジンでも爆発させればロジカルドライブが暴走して、幽霊達をどこかの位相に吹っ飛ばせるが、こちらも見ず知らずの辺境に飛ばされる可能性もある。その時は避難信号で拾ってもらえばいい。
「やるか……!」
プラズマソードをドリルアームに変形させると、まだエンジンが無傷の艦に向かって飛んだ。
刹那。
爆光が迸った。衝撃波も何も伴わない、青白い光が数百天文単位に波紋を広げる。
光に触れた幽霊が、次々と実体化していく。
「なんだこの光は!?」
「実体化……発生先は!?」
「んなのどうでもいい」
ネオゲッター1は手近な幽霊を鷲掴んだ。
「こいつらをぶっ殺せるようになったんだからな!!」
そのままぐしゃりと握りつぶすと、ショルダーミサイルを視界360度全方位に向けて放った。
「ドリルアーム!!」
隼人もネオゲッター2の両手のドリルで、幽霊の只中に突っ込んでいく。一番近くの戦艦クラスの大きさのものに突入すると、そのまま反対まで通過した。
ネオゲッター3は背中からプラズマブレイクを撃ちだし、次々と幽霊を撃破していく。
「いくら実体ができたからといって、これじゃキリがないぞ!」
「戦艦クラスだけでもまだ20近くある! 先にそっちを……」
「あれだっ!!」
突然竜馬が叫んだ。そのままネオゲッター1を反転させ、ブリッジもエンジンも破壊されたヴォークリンデに向かって行く。
壊れたヴォークリンデの一角から、幽霊にまとわりつかれた巨大な一枚の板がせり上がってきた。それはヴォークリンデの真上に制止している戦艦クラスのクジラのような幽霊に格納されようとしている。
「隼人!」
「任せろ!!」
隼人はネオゲッター2をフルスロットルにして、その物体に高速接近する。防ぎにかかる幽霊はそのままドリルで貫き、攻撃してくる他の幽霊はネオゲッター1とネオゲッター3が撃ち落とす。
だが最後の肉の壁に手間取っている隙に、幽霊達の周囲を丸く削り取るかのように空間が開いた。
「ゲートジャンプする気だ! 間に合わせろ! 隼人!!」
「うおおおおおおお!!!!」
更に加速し、幽霊の壁を貫き終わった瞬間、板を収納した巨大幽霊が消えた。
「ちっ、間に合わなかったか……」