ネタ/暴走ドジっ娘/不器用な出会い

Last-modified: 2013-03-13 (水) 23:22:04

彼女と初めて話したのは、いつだったか、昇降口でのことだった。

 

彼女はどうやら、上履きから靴に履き替えようとしたが、下駄箱が開かなくなったらしい。
首をかしげて、下駄箱のドアを押したり引いたり叩いたりしている。
彼女が下駄箱にあびせる攻撃はしだいに激しさを増していく。
しまいには、数歩後ろに下がってから、走って勢いをつけて下駄箱に体当たりした。
下駄箱は倒れはしなかったが、大きく揺れた。

 

そこで僕は彼女に声をかけた。
A男「開かなくなった?」
B女「!!…うん、壊れたみたい。」

 

僕が彼女の下駄箱に手をかけてみると、簡単に開いた。
A「開いたよ? さっき叩いたので直ったんじゃない?」
B「あ…ありがと」
彼女は乱暴に靴を履き替えると、僕の3倍の速度で学校を飛び出していった。

 

その後も、数日おきに、彼女が下駄箱と格闘していた。
そのたびに僕がドアを試しに開けてみると、簡単に開いた。
だから僕は、もしかして彼女は、僕と一言しゃべる機会を作るために、わざと下駄箱が開かないふりをしているんじゃないか、と思ってみたりして、ドキドキした。

 

A「ほら開いた。べつにボタンも金具も正常みたいだよ。」
B「えっ、ボタンってどこに?」

 

下駄箱の取っ手に指をかけると、その裏側のボタンをしぜんと押すことになる。
ボタンを押したままドアを引けば開く。
そういう下駄箱だ。特に変わったところはない。

 

A「ほら、取っ手の裏側にちょっと出っ張ってるボタン。」
B「えっ、これってボタンだったの!?」
こんどは彼女が取っ手に手をかけ、掴むようにしてボタンを押し、そして指を放し、もういちど取っ手をつかみ、ドアを引っ張った。ボタンから指が離れているので、ドアは開かない。
A「いや、ボタンを押したままドアを開けるんだよ。」
B「えーっと、こうかな? こう? こう!?」
彼女は焦り、乱暴にドアをがたがた揺らし始めた。

 

A「まあ落ち着いて。はい深呼吸。すってー、はいてー。まず取っ手に指をかける。」
B「指をかける。」
A「裏側のボタンを押す。」
B「押す。」
A「ボタンを押したまま、ドアを引っ張る。」
B「押したまま? 引っ張る…」
ガチャ。下駄箱が開いた。

 

彼女は飛び跳ねて喜んだ。
B「やったー!! 開いた! 私にもできた! キャー!」
彼女は叫びながら、下駄箱の前を走り回る。
下駄箱を開ける、というだけで、こんなに満面の笑顔になる人がいるとは驚きだ。

 

B「いつもドアを閉めないで、半開きにしておくんだけどね。帰りには閉まってることがあるのよ。」
A「そりゃまあ、風とか、何かのひょうしに閉じることもあるだろう。」
B「閉まらないようにできればいいのに。」
A「金具に何か挟んでおけばいいんじゃない? 木の枝とか、石とか。」
B「…え?」
A「ほら、たとえばこれなんかを、ここに詰めておけば。」
B「おおっ!」
A「ほら、風とかでドアが押されても、半開きのままになる。」
B「わーわー、すごーい、本当だー! こんなこともできるんだー!」