伊坂幸太郎 『アヒルと鴨のコインロッカー』 ミステリ・フロンティア
物語は書店強盗の場面から始まる。狙いは『広辞苑』。あの辞書界の国民的アイドルである。
辞書1冊の為に強盗を働くとは、正にミステリィ。
そしてなんとも馬鹿馬鹿しく、なんとも惹き付けられる話ではないか。
本書はこういった謎がちりばめられている。
そして読者は話に惹きこまれ、「あ!」と驚くことになるだろう。
登場人物も実に魅力的である。
正義感溢れるペットショップ店員から、ブータン人の留学生、新大学生にいたるまで好感が持て、
女たらしの美青年に、人間とは思えない美人の店長、と押さえるところは押さえている。
そして作者の小気味好い文章がとても爽やかである。
吹き出してしまうような場面も少なくない。
物語の中でやるせないことが起こっていても、読了後は清々しい心持がするのである。
なかんずく清々しい。本書はぷっと笑い、あっと驚き、じんと来る、そんな小説である。
と、此処まで偉そうなことを書いてきたが、私はミス研会員の上に似非と書かれても仕方のない者である為、
この書評が何の役に立つのか甚だ疑問である。よって本書の言葉を借りて慰めとしたい。
「楽しく生きるには二つのことだけ守ればいいんだから。
車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと。それだけ」
担当者 - 一郎