ネクロポリス

Last-modified: 2009-10-14 (水) 15:12:02
 

恩田陸 『ネクロポリス』 朝日新聞社

 

物語の舞台は、英国と日本の風習や文化が奇妙に混ざり合う極東の島国V.ファーの聖地、アナザー・ヒル。
そこでは死者たちが実体ある存在として現世に還ってこられる、「ヒガン」という祝祭があった。
V.ファーの国民は、彼らを『お客さん』として温かく迎えることが風習となっている。

 

一方、世間では「切り裂きジャック」ならぬ「血塗れジャック」という連続猟奇殺人事件が発生していた。
V.ファーの国民は、みな推理好きで、ゴシップ好き。誰もが犯人探しに躍起になっていた。
主人公ジュンイチロウはフィールドワークのためアナザー・ヒルにやってきたのだが、そこで彼が出会うのは、
不可思議な風習の数々、恐ろしい儀式や天変地異、そして新たな殺人事件だった。

 

ジャンルとしてはミステリというより、ミステリ風味なファンタジーというべきか?

 

謎が謎を呼ぶストーリーは非常に魅力的であり、読んでて飽きない。
出てくるキャラクターも個性あふれる人々でなんとも賑やかだった、というのが素直な感想だ。
個人個人の人物設定そのものはありふれたものであり、特筆すべき点はあまりないのだが、
読後に個性的であるという印象が残ったのは、独特な世界感のせいか、それとも作者の力量か。
その世界感は理解するのに苦労したが、長ったらしい説明がないため(それがないからこそ苦労した面もあるが)
テンポよく読み進めることができた。

 

だがラストは納得いかない。
上下あわせて800ページ近くも読み進めてきたのに用意されていたラストがこれでは肩透かしだ。

 

恩田さんの作品を読んでると、物語そのものに閉鎖的なものを感じる。
物語の世界と自分の接点は本を読んでいる時だけであり、本を閉じたときにその接点は失われる。
読者である自分は決して物語の中の世界に入っていけない。
故に、自分が知ることのできることはその本の中に書かれていることだけでその先を知ることはできない。

 

しかし、物語は読後も続いていく。その先は読者には窺い知ることはできない。
物語の中の人物だけが知ることができる。それが寂しくもあり、悔しくもあり、うらやましくもある。
読者と登場人物のこういった決定的な差が結果として物語が閉鎖的に感じてる理由なのかもしれない。

 

何を書いてるのか自分でもよくわからないが、とりあえず閉鎖的なものを感じる。
そして読後もその閉鎖感から開放されず、悶々とした気持ちでしばらく日常を過ごす事になるのだ。
この作品も例に漏れず物語そのものに非常に閉鎖的なものを感じた。
舞台が閉ざされた空間であるというのもあるだろうが、物語全体にどこか読者に冷たい印象を受ける。
しかし、それも一興。とりあえず言えることは面白かった、以上。

 

……それにしても、このラストはないよなあ。

 

担当者 - MISA