あるしぃとダッコミュニティ

Last-modified: 2019-10-29 (火) 23:13:51
470 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:42 [ HukqzjL2 ]
 最近の若しぃの間では「ダッコ・マターリ主義」なるものが流行っている。
「しぃはマターリのシンボルだ。しぃをダッコしないのは虐殺厨だ…」。
 世界にマターリを、というと聞こえはいいが、所詮はマターリの独占、
『しぃ虐』の全面的禁止、でぃの根絶を目的とし、かつてのダッコ革命
党と同格でしかない。

 やがて、ダッコ・マターリ主義の若しぃ達のコミュニティが出来上がり、独
自のルールが蓄積され、遂にはコミュニティに加わることが、ステータ
スとなっていった。
 カラクリはナチスと同じである。

471 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:42 [ HukqzjL2 ]
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           眠気を誘う午後。快晴とまでは言えないが、外出日和
          とは言えそうな晴天。
           しかししぃ子は、大きな木の下に構えた箱(家)で、ただ
          風に吹かれていた。
          飽くことなく、揺らぐ草花を見つめ、時たま木を見上げては
          木漏れ日に目を細める。その繰り返しであった。

          退屈ではないか? 否、そんなことはない。彼女はそれで
         満足であったし、何よりもその箱から足を出す勇気がなかっ
         たのだ。

          「オソトニ デタラ、イヂメラレル…」

          もし箱から外へ出て、街に繰り出そうものなら、すぐにダッコ
         ミュニティからお誘いがきて、拒めば即『虐殺厨』の烙印を押
         される。そしてマターリの美名の下に虐殺されるのがオチだ。
          想像するだけで身震いがする。

          だめだ、こんな事を考えてはいけない。折角の休日を楽しま
         ないと。

          しぃ子は何をするでもなく、かぶりを振った。

472 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:43 [ HukqzjL2 ]
 無味無臭の風に、突然ノイズが入った。鼻を劈くような臭い。

 「ナニ コノニオイ!? クサイヨゥ…」

 臭いの元であるその『影』は、がさがさという草の音を連れてこちらへ
近づいている。碧草が、暴君を畏れ避ける民衆のように左右に分かれ、
『影』をしぃ子の元へ導いた。

 「ナニカクル! モシカシテ ダッコミュニティノ ヒト!?」

 もしそうならば、この刺激臭の説明はできない。しかし、ダッコミュニティ
への恐怖を想った矢先の出来事であったから、訝しがる余裕など彼女に
はなかった。
 しぃ子は、家であり防具でもある箱に閉じこもると、「コナイデ、コナイデ…」と
震えた呪文を唱え続けた。

 がさがさ がさがさ

 草摺の音が大きくなり、堅く閉ざした箱からも音の主が発する臭いが入り
込んでくる。

 がさがさ がさがさ がさがさ

 永遠にも匹敵する一秒が重なり、いよいよマターリの死の粛正が下される
と思ったしぃ子は、最後の抵抗として天まで届かんばかりの金切り声を上げ
た。

473 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:43 [ HukqzjL2 ]








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474 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:44 [ HukqzjL2 ]
 吸い込んだ息を全て吐き出し、しぃ子の叫び声が途絶えた。

 あとは殺されるのみ。

 彼女は全身の力を抜いて、死後の世界へ足を向けた。

 辺りが静寂に包まれる。
 静寂ゆえの耳鳴りが、とても大きい。










 「…アレ…?」

 先ほどの叫びから数秒がたったが、何の変化も現れなかった。虐殺
されていない。
 助かったのだろうか?

 「痛クナイ…ナンデ?」

 しぃ子は、恐る恐る箱の蓋に手を当てた。どうやら自分は生きている
ようだが、何が起きたのかはわからない。安全をこの目で確認するま
では、まだ生きた心地はしていなかった。

 そっと、蓋を押し上げる。半開きの蓋からぱっと光が差し込んだ。

 どうしよう、もしかしたら、顔を出した途端に殴り殺されてしまうかもし
れない。

 1,2秒の躊躇のあと、勇気を振り絞って蓋を開き切った。

パカッ

475 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:44 [ HukqzjL2 ]
 「!?」

 しぃ子の箱のすぐそばに、ボロボロのでぃが倒れていた。
 虐待されてさほどの時間が経っていないのだろう、真新しい血が其処
彼処を染めている。彼女の周りにはくぐもった羽音が飛び交い、無数の
蝿がその血に与ろうと屯していた。
 みずみずしぃ草花と温かい風が、よりでぃの痛々しさを引き立て、しぃ
子は思わず瞳を伏せてしまった。

 だが、それは一瞬のことであった。すぐに伏せた瞳をすぐにこじ開けて、
特殊部隊がフェンスを乗り越える勢いで箱から飛び出し、でぃの元に駆け
寄った。

 「ネェ! 大丈夫ブ!? 何ガ アッタノ!?」
 「アゥゥゥ…」

 しぃ子の甲高い声が、意識が遠退いたでぃを覚醒せしめた。

 「ダッこミ…ティノ ひトガ…」

 虐待によってでぃ化した者に特有の、安定性のない語勢。

 「ナニ!? ダッコミュニティ!?」
 「アゥ…」
 「ソンナ…ヒドイ」

 すると、意外なことにしぃ子を憤慨せしめる隙を与えず、でぃは一つの
言葉を発した。

 「ダッこ…ダッこ…」

 しぃ子の中に一筋の希望が生まれた。

 ダッコを求めることができるなら、まだ助かるかもしれない。

 しぃ子は、でぃの汚れが伝染(うつ)ることも厭わず、両手で彼女をしっか
りと抱き締めた。その瞬間、僅かではあるが、悶絶のように荒い呼吸が鎮
まった。

 「アゥゥ…ダッこ…?」
 「コレデ シバラクハ 大丈夫ダネ! サァ、早ク リハビリセンターヘ 行コウ!」

 『応急処置』を行うと、でぃを方に担ぎ上げ、リハビリセンターへ向かった。

476 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:44 [ HukqzjL2 ]
 センターまでは、裏道を通れば30分で着く。しかし、今回はでぃを担い
でいるため、かなりペースが遅い。
 しかも…。

 「ア…ゥゥゥ」
 「ドウシタノ? マタ 苦シク ナッタ!?」

 でぃが苦しげな声を上げたので、しぃ子は慌てて肩から彼女を下ろした。
 そして、でぃの容態が安定するのを確認して、また歩き出す。そんな調
子だったから、本来ならばもう到着していい頃なのに、まだ半分にも至っ
ていなかった。

 「キットモ 元ニ戻レルヨ。モウ少シダカラ―」

 『ガンバロウ』の一言を遮って―――

477 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:45 [ HukqzjL2 ]





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478 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:45 [ HukqzjL2 ]
 突然の銃声に、心臓が波打ち、体内に衝撃波が走る。

 きな臭い余韻とエコーが辺りの空気を張り詰める中、やたらと甲高い
くせに芯のない、二つの声が現れた。

 「ソコマデヨ! 虐殺厨!!」
 「キタナイ ディヲ ダッコスルナンテ!」

 拳銃を持った、二人のしぃ。
 南無三。

 「ネェ、シィミ。コノ クソムシィハ ディナンカヲ ダッコシタヨ」
 「ソウダネ シィカ。アンナ キタナイディヲ ダッコシヨウナンテ、正気ノ 沙汰ジャ ナイネ」
 「2匹トモ ゴミムシィナンダヨ。アンナヤシラ 頃シチャオ♪」

 情け容赦のない言葉が、深々としぃ子に突き刺さる。
 自我を手放しつつあるでぃの代わりに、罵詈雑言を一手に引き受け
た。それどころか、相手の握る『黒い悪魔』にも臆せずに、反撃を仕掛
けたではないか。

 「フザケナイデ! 同ジ シィ族 ジャナイ! ドウシテ 仲間ヲ 助ケテageナイノ!?」

 「(゚Д゚)ハァ!? 聞イタ、シィミ?」
 「ウン。コイシハ立派ナ虐殺厨ダネ。早急ニ駆除スル必要ガアルワ。発砲シル!」
 「サァ、マターリノ タメニ 氏ニナサイ!」

 そう言って、二人のしぃが引き金に力を込めた。しかし、銃弾がしぃ子の
胸を直撃する前に、飛んできた石が金属音を響かせ、拳銃を地面に打ち
落とした。

 「ドッチガ虐殺厨ヨ!!!!」

 しぃ子が、転がっていた石を投擲したのだ。

 しかし、両方のしぃから拳銃を奪ったわけではない。彼女はでぃを抱え、
すぐに其処から退散した。

 「ハニャーーーーン!! シィノ バキュンバキュンガ 取ラレチャッタヨーーー!!」
 「クソッ、待チナサイ コノ虐殺厨!!」

TA TA TA TA...

 突然の逆襲におたおたするしぃ達。慌てて追撃をかけるも、弾をばら撒く
だけに終わってしまった。

 「チッ! 逃ガシタ!」
 「リハビリセンターニ 向カウツモリネ! シィボードデ 先回リスルワヨ!」」
 「ゼターイニ 逃ガサナインダカラ!」





 リハビリセンターの脳天が、遠くに見え始めた頃には、既にしぃ子の
方も息があがっていた。
 それでも、でぃには元気を装ってみせる。

 「センターニ ツイタヨ! 大丈夫ブ ダカラネ!」

 そんな努力も空しく、でぃは記憶を、自我を、全て捨て去ろうとしている。
 応急処置のダッコでは、限界が見え始めていた。

 「アウ…」
 「必ズ、コノ『シィチャン』ヲ センターニ 連レテイッテミセル…」

 彼女の歩みを支えているのは、その決意だけだった。

479 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:46 [ HukqzjL2 ]
 しかし、状況はこのまま感動のハッピーエンディングを紡いではくれな
かった。
 しぃ子の身体が急激に前かがみになり、背負ったでぃのこともあって受
身を取ることができず、アスファルトが凄まじい勢いで彼女に迫った。
 顔面を強く打ちつけ、視界に星が飛んだ。
 何事か、と思うより先に、しぃ子の右足から激痛とともに鮮血が溢れ出た。

 「シィィィーーーーーッ!!」

 「ヤット ミツケタワ、クソムシィ」

 目の前には、先ほどの2匹が並んでいた。

 「コンナ 虐殺厨ドモヲ 生カシテ オクワケニハ イカナイワ。今度コソ始末シテageル」
 「マズハ ソコノ ディヲ 殺ルノヨ! ジワジワトネ!」
 「ハニャーン♪」

 彼女らは、しぃ子の隣で泣き喚いているでぃに矛先を向け、虐殺モラ
ラーとなんら変わりのない残虐な方法で、痛めつけた。

 「キィッ! キィィゥ!?」
 「ヤメテ! ヤメテーーーーー!!」

 骨が打撃される音。肉が潰される音。でぃが虐待される悲鳴が、間近で、
リアルに、しぃ子の耳へと飛び込んでくる。耳を塞いでも、同じだ。

 「ソンナニ慌テナイデ! アトデ アンタモ 頃シテageルカラ!!」
 「……」

 やがて、渇いた音に血の粘着性が混じった。

 「ハギャウ! ウギィーーッ!!」





 「ヤ メ ロ バ カ ヤ ロ ォ ~ ~ ~ ~ ~!!」

 できることなら、大声でこの言葉を叩き付けてやりたい。しぃ子は歯を食い
しばりながら、意識を手放してしまった。




                               ∧ ∧ .从 ∧_,,,    ∧ ∧
                               (*゚ー゚)⊃∴;' (;;);0゚) : .(゚ー゚*)
       .                        6  /  W ノ⊃;;⊃从 /U  ⊃
                    (  .||| ∧∧   ~(  ノ  ~(;;#;;;( ';∴⊂__  /~
                 ∴@=(´⌒O从To)    し\)    Uヽ;) W   U
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480 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:46 [ HukqzjL2 ]



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 「ヨカッタネ、シィチャン! ブジニ 元ニ 戻レテ!」

 笑顔でロビーを後にする人々に紛れて、二人はセンターを出た。

 紆余曲折を経て、どうにかセンターに辿り着くことができたのだ。

 医師ぃにあなたの応急処置のおかげですと誉められて、少しはにかんだ。

 「アリガトウ、シィコチャン。ワタシ ウレシィ!!」

 初めて出会ったは、戦場に転がる死体の様相を呈していた彼女。

 でも今は、最高の笑顔(お礼)を返してくれる。

 それが嬉しくて、笑い返した。

 正門に差し掛かる頃、しぃ子はふと、まだ聞いていないことを思い出した。

 「トコロデ、アナタノ オ名前ハ?」


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481 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:47 [ HukqzjL2 ]
 彼女が口を開く直前、視界が切り替わった。
 横倒しの世界。

 ねじれた首を真っ直ぐにして、ようやく悟った。

 「夢ダッタノ…」

 「アァウ…」
 「アッ、ソノ声ハ…」

 しぃ子は飛び起きる。
 そして、声の主-でぃ-の姿を確認しようと、辺りを見回す。

 その光景に、しぃ子は息を呑んだ。

 片方は、四肢をばらばらにもがれ、残された胴体は赤々と染まっている。
文字通りの『達磨』。
 もう片方は下半身から弛んだ太い紐―『腸』を垂らしている。遠目では、
長い尾をもつように見えるのか。
 辺り一面に広がる、『ペンキ』とでも称さねば不自然な紅い海には、海を
航(ゆ)く船のように二つの生首が転がっている。

 「ナニ、コレ…」

 思わずむせ返るしぃ子。そんな彼女のもとに…

482 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:47 [ HukqzjL2 ]
 「アゥゥ…」

 そのかすれた声に、彼女は本来の目的を思い出す。

 「ソウダ、アノコハ…」

 「グチャグチャグチャ…」

 「シ ィ ィ ッ!?」

 声のした方向には、先ほどの惨状をも凌駕する『姿』があった。

 憎むべき相手とは言え、同属であるしぃの血肉を貪り喰うでぃ。

 もはやでぃですらない。伝説の怪物、『びぃ』であった。

 しぃを虐待するとでぃになる。そのでぃを虐待すると、大半は氏んでしまう
のだが、ごくまれに最強の怪物となってしまう。
 しかし、その希少性ゆえに、びぃの存在を知る虐殺者は少ない。そのしぃ
達もその口だったのだろう。

 凍りついた顔と、痛みすら感じなくなった右足に鞭を打って、しぃ子は立ち
上がった。

 「ヤメテ! ヤメテヨ! リハビリセンターハ スグダヨ!!」

 その声を、残された片耳に捕らえた『びぃ』は、濁った瞳でぎょろりとしぃ子を
睨む。これまでは、微かとは言え生気を宿していたはずの眼。しかし、もう何も
残っていない。
 おぞましい視線に、しぃ子は背筋を震わせた。

 先ほど襲ってきた(そして頃した)しぃの肉片を口ですり潰しながら、じっとしぃ
子を見るびぃ。

 「思イ出シテ…クレタノ?」

 その問いは、爪と牙で返ってきた。

483 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:48 [ HukqzjL2 ]
ザシュッ ザクザクザクッ

 「シギャァッ! シギャァァッ!!」

 びぃの爪の威力と、その副産物―風圧―が、幾筋もの『刃』となって
しぃ子の肉体を脆しぃのごとく引き裂いてゆく。アート用のスプレーが
爆発したかのように血が飛び散った。

 どさっ、と、しぃ子は血の海の中へ倒れこみ、身体に真っ赤な液体が
しみこんでゆく。

 ふと、視界の隅に黒い塊が見えた。

 「コ、コレハ…」

 その物体を中心に据える。『拳銃』だ。

 これを撃てば、この恐るべき怪物を倒せるかもしれない。
 でも、それでは『しぃちゃん』を助けてあげられない。

 足をきゅっと引き締め、今にも跳躍せんとするびぃと、血の海の中でも尚、
黒く輝く拳銃が、しぃ子に、早く決断しろ、早く決断しろと催促する。

 「ワタシハ…」

 しぃ子は目を堅く閉じて、瞼に溜まった涙を追い出す。そして、拳銃に伸ば
しかけた手を引っ込め、獰猛な肉食動物以外の何者でもない『彼女』の眼を
見た。

 「ネェ、思イ出シテ。コレカラ 早ク リハビリセンターヘ逝コウ?」

 途切れそうなほどに、震えた声。
 しかし、びぃにまで変貌してしまった『彼女』が、その叫びに応じることなど
できるはずもない。
 力ませた足で、血に染まった地面を強く蹴り、しぃ子に飛び掛った。ミサイ
ルのような勢いだ。

ブシュウッ

 血が、霧状に吹き上がり、しぃ子の視界が霞んでゆく。血を全身に浴び、
破壊の歓びに身を震わせるでぃ。
 やたらと嬉しそうにゆがんだ口元から、ごつごつした牙が顔を出し、しぃ
子に襲い掛かる。しぃ子の喉笛に―――。

484 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:48 [ HukqzjL2 ]
 「シィィィ…」
 「ウジィィィ!」

 もはやこれまで。

 しぃ子は、びぃの身体の一部になる覚悟を決め、そっと目を閉じる。
 脳裏に浮かぶのは、ダッコミュニティへの憎悪でも、ありきたりな走
馬灯でもなく―

 ―元に戻れた暁には、きっと親友になれていたのに…
 ―まだ、お互いの名前も知らないのに…

 そんな些細な未練であった。





ごろん

 心行くまで血肉を貪ったびぃは、すくっと立ち上がった。

 その拍子に、しぃ子の首が転げ落ちる。
 左半分は既に原形をとどめていない。ひびだらけの骨が剥き出しに
なり、そこから残り少ない血をだらだらと流している。かろうじて残った
のは右半分の目の周囲であった。

 その右目は、まるで夢を見ているように穏やかに閉じられている。

 しぃ子の、この旅路は無駄だったのだろうか?

 この問いを発することができるものは、もうこの世にはいない。





 限りない虐待の末に訪れた、全てを喰い尽くす虐殺が、名も無き惨劇の
幕を下ろした―――。

485 名前: シィキャビク 投稿日: 2003/03/04(火) 18:49 [ HukqzjL2 ]
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 眠気を誘う午後。快晴とまではいえないが、外出日和とは言えそうな晴天。

 主を失ったダンボールは今も、大きな木の下で風に吹かれている。








                                   「或る休日」 -完

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