ローゼンイェーガー

Last-modified: 2021-06-19 (土) 15:17:22
251 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2004/12/20(月) 00:59 [ /lqDJ262 ]

                 = ローゼンイェーガー =


~ 序章 ~
   収容所にて

 「朝か・・・。」
 ここは、マターリ共和国内陸部、シィシティ郊外・・・。
 周囲を高い山に囲まれた不毛な荒野に佇むコンクリートの高い壁に覆われた建造物・・・。
 その建物の内部、暗く陰湿な地下室で男は呟いた。

 しかしながら、男は朝日はおろか、一切の光も射し込むことのない地下室にいるのである。
では、何故その男は今が朝(正確には午前7:00)であることがわかるのだろうか。

 男が呟いた時、地下室にあるスピーカーが乾いた雑音を立てた。

<< ガサガサ・・・・イマカラ ギャクサツチュウノ ショケイ ヲ ハジメルヨ!ゼンイン!ヒロバ ニ シュゴウシナサイ!>>

 その直後、朝の静寂な雰囲気は、様々な騒音で乱されることとなった。
 引きずるような生気の感じられない足音、銃器をガチャつかせる音、そして、甲高く耳障りな怒号

 「またか・・・。」
 男は再び呟いた。
 彼がこの地下室の住人となってから幾度と無く耳にした音である。
 彼の脳裏に、今広場で行われている情景が思い浮かんだ。まるで、その目で見ているかのように・・・。

 高いコンクリートの壁に囲まれた敷地に点在しているボロ小屋から現れ、生気のない足取りで広場に
向かう行列、その行列に銃を向けて大声を張り上げる兵士。
 やがて、行列は広場を取り囲む人垣となり、さらにその周囲を銃を持った兵士を取り囲む。

 その後、しばしの静寂が訪れ、再びスピーカーから例の甲高い声が流れる。

<< コレヨリ ギャクサツチュウノ ショケイヲ オコナウ!コノ 325ゴウシツ ノ クソモララーノガキハ、コトモアロウニ シィノベビチャンヲ
  ダッコシナカッタダケデナク、カワイイ ベビチャン ヲ ジャマモノアツカイシタ ツミ デ、イッカゼンイン ジュウサツヨ!>>

 325号室の一家・・・確か、気の優しいモララー族の夫と気の利くモナー族の妻
 それに・・・、やんちゃ盛りの兄弟・・・の4人家族

252 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2004/12/20(月) 00:59 [ /lqDJ262 ]
 彼の脳裏に、昨日まで325号室のボロ小屋に住む家族の顔が思い浮かんだ・・・。
 だが、今朝の生け贄となるべく広場に現れた不幸な一家は、おそらく、酷い状態になっている事だろう・・・

 全員、暴行を受け酷い顔になった上、すべての歯を折られ、口の中に目一杯の石を詰め込まれた状態。

 (確か、歯を折って、口に石を詰め込むのは最近の事だったな・・・。)

 かつて、処刑される直前に己の運命を悟った不幸な生け贄が、自暴自棄の挙げ句に(または、己の勇気を
振り絞ってか・・・)理不尽な体制に対する弾劾者へと変身し、この国を支配する独裁者を告発したのである。
 その勇敢な弾劾者は、数秒も経たない内に物言わぬ肉の塊となったが、その後からは、「より完璧を期す」
為に、石を口に詰め込むようになった・・・。

 彼が、この地下室の住人となる前に得た知識を思い出していると、再び、スピーカーから不快な声が聞こえた。

<< ギャクサツチュウ ニ シ ヲ! ギャクサツチュウ ニ シ ヲ! ギャクサツチュウ ニ シ ヲ!>>
 その後、なにやらボソボソと呟くような声が続く。
 そして、銃をガチャつかせる音。

<< コエ ガ チイサイ! ギャクサツチュウ ニ シ ヲ! ギャクサツチュウ ニ シ ヲ!>>
再びスピーカーが甲高い声をあげる。

 ・・・虐殺厨に死を!虐殺厨に死を!虐殺厨に死を!・・・
半ば自棄になって張り上げた声と、肉体に硬いものが当たる不快な音・・・。

 広場を囲むボロ小屋の住人が、生け贄に向かって石を投げているのである。
  昨日までの仲間に、そして、明日は我が身かもしれない立場の者に向かって・・・

 (その勇敢な弾劾者は、自らの行為が後の人々を苦しめることとなったことをどう思うのだろうか・・・)

253 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2004/12/20(月) 01:00 [ /lqDJ262 ]
 その直後、叫び声が急に止み、足音が聞こえ始める。
 ただし、今度は、大地をしっかり踏みしめ、調律の取れた足音である。

 そして、再び銃をガチャつかせる音。しばらくの静寂・・・。

 一呼吸の後。

 << ショケイ ハジメ!>>
 スピーカーが甲高い声を張り上げると同時に、銃声。

 << カイサン!>>
 再び、スピーカーからの声。生気の感じられない足音・・・。朝のセレモニーの終わり。

 そして、再び足音・・・。今度は、彼の方に向かって来る。扉が開く音・・・。
 その後、地下室に明かりが灯り、彼の姿を照らし出す。その姿は・・・

 今朝の不幸な家族とさほど変わらない状態であった。
 全身に火傷・裂傷・打撲による痣。まあ、歯は数本折られた程度なのが若干マシではあるが・・・・。

254 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2004/12/20(月) 01:00 [ /lqDJ262 ]
 彼は、再び呟いた・・・

 「軍籍番号:7686-002 モナー帝国空軍 第七特務空挺隊 所属」
 彼が、この地下室 (マターリ共和国 第444強制収容所の特別尋問室)の住人となって以後、唯一 他人に話す言葉。

 そして、この地下室でいつもの行為繰り返される。
 尋問、答えにならない返答、そして拷問・・・。

 絶望感から発狂しても不思議ではない状態であったが、彼は、決して諦めていなかった。
 彼には、まだやるべき事が残っていたし、それ以上に、信頼出来る部下・・・いや仲間を残して死ぬことは出来ない。

 (こんな所でくたばってたまるか・・・。)

 彼は、そのこと信じて今日一日を耐える。今日一日耐えれば、また明日頑張れる・・・。

 彼の眼は、まだ死んではいない・・・。

                           = 続く =

 *)AAのデーターが消え、一時は継続を諦めていたのですが、途中まで考えていたストーリーを
  そのまま捨てるのも勿体ないと思い、小説(?)の形で続けてみようと思いました・・・。

 とはいえ、AAと同じくらい(むしろAA以上?)に手間のかかる作業のため、しばらく時間が
 空くこともありますが、なにとぞご容赦を・・・。











270 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2005/01/08(土) 01:34 [ pxRFzY4o ]

                          = ローゼンイェーガー =


~ 第一章 ~
    屈 辱

 時は僅かに遡り・・・
 マターリ共和国 第444強制収容所で行われた325号室の住人の処刑の一部始終を目撃していた者達が、塀の外側にも存在していた・・・。

 「くそ!同族の者が無惨に殺されようとしているのに、ここでただ見ているだけなんて・・・。」
 モララー族の若者が双眼鏡を覗いたまま呟いた。
 「今は待つときじゃ・・・。いつか、この屈辱を晴らせるときが来る。我慢じゃ・・・」
 年老いたモナー族の男が呟く。
 「それもこれも!そこの糞野郎共が!」
 若者が双眼鏡から眼を離し、後ろにいる者達に、鋭い眼光を浴びせかける。それは、後ろ手に縛られ、猿ぐつわを噛まされたしぃ族、それも、マターリ共和国軍の軍服を着用していた しぃ族であった。
 若者に睨まれた兵士達は皆命乞いを試みたが、その試みは猿ぐつわによって、意味不明な呻き声としか聞こえなかった。

 やがて、彼らの背後の藪からモナー族の子供が現れた。
 「あんちゃん。運び屋の人たちが来たよ。」
 その子供の背後には数人の男達がいた。彼らは持参したいくつかの荷物をモララー族の青年に引き渡すと、代わりにマターリ共和国軍の兵士達を連れて、何処かへと消え去っていった。
 モララー族の青年が、すぐさまその荷物の中身を確認する。
 その中には、医薬品に食料、そして、携帯式ロケット砲や小銃といった各種小火器とその弾薬が詰め込まれていた。

 これで、再びマターリ共和国の連中に一泡吹かせられる・・・。

 青年は密かにほくそ笑んだ。
 そう、彼らはマターリ共和国による独裁政治に反対するゲリラであった。

 今の時点では、マターリ共和国軍のパトロール部隊を襲撃または拉致する事しかできないが、いつの日か・・・

 そう青年は心の中で誓いを立てるのであった。

 彼のようなゲリラは、今やマターリ共和国の全土に存在し、その結果、毎日数名のマターリ共和国軍兵士が行方不明となっていた。

271 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2005/01/08(土) 01:35 [ pxRFzY4o ]

場所は変わり・・・
 モナー帝国の帝都の某所にある建物にある地下室・・・。


 最近、ここから悲鳴や怒号が途絶えることなく響いてきている。
 「ハギャァァァァアァァァァ!ギィヒィィィィィィィ!」
 「シラナイヨゥ!シラナイカラ!オウチニカエシテェェェェェェ!」
 その悲鳴は、すべて しぃ族独特の甲高い声であった。
 薄暗い地下室の中に、5名ほどの しぃ族が詰め込まれ、そこで様々な拷問が行われていた。

 ある者は、天井に吊されたまま殴る蹴るの暴行を受け、また ある者は、赤く熱した鉄の棒を押し付けられる・・・。
 その5人の しぃ族の内、士官と思われる しぃ族に対しては、股の間に銅の棒を通し、その部分で全体重を支えるように吊されていた。

 「ナンテ カッコウサセルノヨ!サッサト オロシナサイ!」
 「貴様が素直に吐いてくれたら、楽にしてやる。」
 「ワタシハ キゾクナノヨ!コンナ シウチ ヲ スレバ、ドウナルカ・・・ハギィィィィ!」
 その しぃ が突然悲鳴を上げたのは、股間にある銅の棒が上に上げられ、結果として股間に棒が食い込むことになったからである。
 「貴様の身分など、どうでも良い。こっちが知りたいのは、貴様のちっぽけな脳味噌の中にある情報だけだ。」
 そう冷徹に言い放つと、銅の棒の端っこにガスバーナーの火を当て始めた。
 「フン!ダレガ、アンタ ノ イウコト ナンテ キク モンデスカ!」
 「強情を張るのは良いが、あまり我慢すると、身体に悪いがな。」
 「ミテナサイヨ!アトデ・・・・ハニャ?ナニ・・・ア・・・・アツ・・・・アヅゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
 しぃが下を見ると、バーナーで熱せられた銅の棒は、すでに真っ赤になっていた。
 今、しぃ は股間にある銅の棒で全体重を支えている。その棒が真っ赤になるまで熱せられているのだから・・・
 「ハギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!ヒ・・ヒギィィィィ!!!!」
 しぃが、必死になって足をバタつかせるが、その足は虚しく空を切るばかりであった。
 やがて、股間から肉の焼ける臭いが漂ってくる・・・。

 「どうだ?答える気になったか?」
 「ギィィィィィ!ダ・・・・ダヂゲデェェェェェ!ハ・・・・ハナスカラ・・・・・オ・・・ナガ・・・イ・・・」

 男が、バーナーを銅の棒から離すと、その しぃ は、様々な事をペラペラと話し始めた。
 一通り情報を聞き出せた男は、さっそく約束を実行することにした。
 銅の棒の両端に電極を接続し、電流を流したのである。

 「ハギィ!!」
 短く断末魔をあげ、その しぃ は絶命し、今度は全身から肉の焼ける臭いを漂わせた・・・。

 男が辺りを見回すと、他の4人の しぃ族も全員すでに絶命しており、彼の仲間達の手によって、部屋の外に運び出されているところだった。

272 名前:(7.ZCeCNU) 投稿日:2005/01/08(土) 01:35 [ pxRFzY4o ]

 「くそ!今回もハズレか」 男はそう呟くと、次の尋問の準備に取りかかるよう命令を出した。

 再び、5人のしぃ族が地下室に連行される。

 なお、連行されてくる しぃ族は皆、マターリ共和国軍の軍服を着用していた。そして、その しぃ達を連行する男達も軍服を着用していた。
 成人にも関わらず、子供ぐらいの背の丈のしかない彼らが着用する軍服には、薔薇と猟銃をモチーフにしたエンブレム- そのエンブレムの周辺には、「Imperial Monar Airforce 7th Special Air Servise」と文字が記されている -が縫いつけられていた。
 そして、男達に命令を出している男の胸には、先の戦争における従軍記章も縫いつけられていた・・・。

 (公になれば、処罰の対象となることは覚悟の上・・・。だが、あの戦いでの屈辱を晴らさねば!)
 そう決意を改める男の脳裏に、その先の戦いの様子が浮かび上がる。
 それは、まさに男にとって、あるいは現時点で彼が指揮している部隊にとって屈辱的な戦いであった。





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