206 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/22(火) 19:30 [ ZBnbBmAs ] 電車に乗っているモララー。車両内は、程良く空いている。 ぼんやりと流れる景色を眺めていた。 こういうのをマターリと言うのだろうか。ゆるやかな時間の流れ、穏やかな心。 モララーは、あまりの心地良さに目を閉じた。ついウトウトと居眠りをする。 が、彼の睡眠は妨げられてしまった。 誰かがブツブツとつぶやいている。隣の席に座っているぃょぅだ。 「電車がパプォ~ン、キキキキキ。次の駅は、ぃょぅの家だょ~ぅ。プキキキプップゥ。ぃょぅ、ぃょぅ」 不気味だなぁ、と思いつつもモララーはぃょぅを無視した。春先にはこういった者が多い。 いきなりぃょぅが奇声をあげた。 「ひぎょぉぉぉぉぉぉっ!? ぃぃぃいいいいい、ょぉぉぉぉぉっ!!」 モララーの耳がジィーンと痛む。車両に乗っていた者達の視線が、ぃょぅに集中する。 が、車両内の注目の的は、すぐにぃょぅから別の者に移った。 電車の床に、ペタッと座り込み、カバンから菓子を取り出し貪るフトマシ。 ビスケットのカスをばらまき、半ば溶けたチョコレートで口の周りを汚している。 フトマシはガムを口に含んだ。爽やかなクールミントのガムだ。 だが、ミントのガムは、フトマシの口に合わなかったらしい。ペッとそれを吐き出す。 吐き出された、フトマシの唾液だらけのそれはギコの足にかかった。 モララーは呆然とフトマシとギコを見つめていた。 「手前、何しやがる!? ゴルァ!!」 ギコは怒鳴りながら、床に座っているフトマシの襟首を掴み、持ち上げた。 「えぷ、うへぁ。ごめんなさいデチィ。うっ、うえっぷぁっ」 薄茶色の吐瀉物が、フトマシの口から溢れ出た。鼻からもわずかに溢れている。 吐瀉物はフトマシのアゴを伝って、床にビチャリと落ちた。 吐瀉物はギコの顔にもかかった。ギコは悪態をつくと、次の駅で下車した。 ヤレヤレ、一体何なのだ。モララーはフゥとため息をついた。 せっかくのマターリした一時だったのに。モララーはゆっくりと立ち上がった。 まず、隣の奇声ぃょぅの前に無言で立ちふさがった。 モララーは片足を高く上げると、ぃょぅの頭目掛けて、思いっきり振り下ろした。 「べぎゃぁぁぎぃぃょぉぉぉぉ……」 まるで秘境の珍獣のような断末魔の悲鳴だ。 ぃょぅの頭蓋骨は無惨に粉砕されていた。脆いものだ。 血色と灰色のまだらな脳味噌のシワに、赤い鮮血が溜まっている。ぃょぅの脳のシワは、少なかった。 乗客は、必死に己の気配を殺している。もっともモララーは乗客達を殺す気は毛頭無かった。 殺すのは、ぃょぅとフトマシだけ。春の平安を乱す、狂った生き物だけだ。 フトマシは周りの騒ぎなどお構いなしに、菓子を食べ続けている。 モララーは、フトマシの脂肪だらけの腹を蹴り上げた。 フトマシは再び嘔吐した。モララーはフトマシの頭を鷲掴みにした。 床の吐瀉物をフトマシの顔でふき取る。泣きわめくフトマシ。あまり大きく口を開けると吐瀉物が口に入るのだと思うのだが。 うつ伏せで泣いているフトマシ。モララーはフトマシの頭から手を離した。 そして、反動をつけてフトマシの上に飛び乗る。吐瀉物と共に血と細かな肉塊を吐き出しながらフトマシは絶命した。 返り血にまみれたモララーは、ぃょぅとフトマシの死体を眺め、満足感に浸っていた。 春の平安を乱す、狂った生き物共は、この俺が始末してやったんだ。モララーは得意気に小鼻を膨らませた。 そして、モララーは警察に捕まった。いくら狂人とは言え、彼らを殺せば犯罪だ。 何故、自分が捕まえられたのか、モララーには理解できなかった。むしろモララーは善行をしたと思っていた。 果たして、ぃょぅ、フトマシとモララー、どっちが狂っているのだろうか。 完