夜道

Last-modified: 2015-06-14 (日) 13:15:38
493 名前: 。 投稿日: 2003/07/26(土) 22:46 [ 4BdUUwL6 ]
         夜道


 夕刻。
 ある道で、ちびギコとちびフサとが出会った。

 ちびフサが言った。
 「チビたん、どこ行くでちか?」
 「わからないでち。でも、どこへいっても虐められるでち」
 「どこへ行ってもでちか?」
 「そうでち。どこへ行ってもでち」
 「今までどこにいたんでちか?」
 「東の町にさっきまでいたでち。でも虐められたから、逃げてきたでち」
 「左腕・・・があったところから血が出てるでちよ」
 「そうでちか。さっきの町で、もがれたんでちね」
 「痛くないんでちか?」
 「もう何も感じないでち。でも、虐められると悲しくなるから逃げるんでち」
 「右足もないようでちけど、歩きにくくないんでちか?」
 「足はずっと昔に切られたでち。だからもう馴れちゃったでち」
 「でも、目が見えないと不便でちよね」
 「目でちか。目は生まれてすぐにえぐられてしまったでち。おかあたんが言って
たでち」
 「おかあたんはどうしたんでちか?」
 「多分、死んだでち。ある日突然いなくなったでち」
 「血が出てるけど、本当に大丈夫なんでちか?」
 「ふらふらするけど、大丈夫でち。いつものことでち。でも、おなかが空くのは
いつまでたっても慣れないでち」
 「お腹が空いてるんでちか?」
 「もう四日は食べてないでち。誰かが投げつけてくれたリンゴが最後でち。
腐りかけてたけど、おいしかったでち。また食べたいでち」
 「そうでちね。お腹が空くのは大変でちね」
 「あと、寒いのもいやでち。これから冬になるから憂鬱になるでち」
 「フサたんは暑いのが嫌いでちた」
 「それはフサフサだからでちよ。うらやましいでちね」
 「そうでちか」
 「そうでちよ」

 日が落ちて暗くなる。
 ちびフサは言った。
 「ちびたんは生きているのが嫌にならないでちか?」
 「生きてることでちか?わからないでち。考えたことないでち」
 「死ねば楽になるでちよ」
 「死んだら、どうなるんでちかね」
 「わからないでちけど、楽しいところに行くと聞いたことあるでち」
  
 風が強くなってきた。
 ちびギコは、身を縮めて言った。 
 「風が強くなってきたでち。そろそろ風が当らないところを探すでち」
 「この道をまっすぐ行くと、大きな岩があるでち。そこだったら風が当らな
いでち」
 「そうなんでちか。ありがとでち。でも、フサたんは行かないんでちか?」
 「フサたんは、これから楽しいところへ行くでち」
 「楽しいところでちか?」
 「そうでち」
 「いいでちね。じゃあ、ここでさよならでち。毛をむしられたところが寒くて
たまらないでち」
 「さよならでち」
 そうして二匹は別れたのだった。


                      おわり