718 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/08/19(火) 01:34 [ fzyfEFUw ] 月夜 静かすぎるような、ある夜のこと。 なにもない河川敷を月が薄暗く照らしている。 その中に、ポツン、と一人のモララーが座っていた。 「………。」 彼は何も喋らない。ただ何か言いたげな表情で、沈黙していた。 何故なら、話すべき相手はいないのだ………。 そこへ一人のしぃがやってきた。 モララーの寂しげな姿にしぃは言った。 「………どうかしたのですか?」 モララーが少し震えてから、ゆっくりと振り向いた。 「………。」 モララーは何も言わない。よく見れば、モララーの目が少し潤んでいる。 しぃはモララーの隣へと歩み寄っていった。 そこでついにモララーが口を開いた。 「いや、ちょっとね………」 モララーは哀しそうだ。 「何かあったのですか?私で良かったら話して頂けないでしょうか?」 しぃの柔和な話し方に、モララーがゆっくりと、話し始めた。 「ここであった殺人事件は知ってるかい?」 「ええ、それは勿論………」 「実は僕は………」 どうやら、このモララーはその事件の被害者の身内だそうだ。 その事件は最近起こった事件で、一人の幼いモララーが何人ものアフォしぃに囲まれ、無惨に殺された、というものだった。 モララー等の加虐派がアフォしぃに襲われることは最近では多くなってきている。だからこのような事件もさほど珍しい事件ではない。 しかし、こんな街中で、しかも白昼に堂々と起きたため警察はすぐに現場に到着した。 アフォしぃ達は全員一瞬で御用となった。 そのため、モララーは怒りのぶつけどころもなく、ただ毎晩ここでボーッとしているのだ。 彼には感じるのだろう。弟の、かすかな、匂いとでも言うような、無念を………。 長い沈黙を破ったのは、しぃの溜息だった。 「あなたも、大変ね………」 あなたも?という事はこのしぃも昔同じような経験があったのだろう。 「でも、あなたはやるべき事があるんじゃない?」 「………?」 モララーは言ってる事がわからなかった。 俺にはあいつが全てだった。死んだも同然の俺が一体何をすべきだと………? 「あなたは、その子の分も生きなければならないのよ」 「………!」 はっとした。こんな場面じゃなかったら笑ってしまうようなセリフに、心の虚を突かれたような気がした。 気づいたらしぃは消えていた。 モララーはふと考えた。あのしぃは何だったのだろう。もしかしたら、弟の魂が宿ったのか? フッ、とモララーは笑った。馬鹿らしい、とでも言わんばかりに。 月に照らされた、誰もいない空間の中、モララーは囁いた。 「………ありがとう」 虐殺シーンも無いままに 糸売 < 719 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/08/19(火) 01:35 [ fzyfEFUw ] 月夜~第2夜~ こうこうと月の光に照らされている、河川敷。 モララーがあのしぃに会って数年。 あれ以降モララーはこの河川敷に来る事は無かった。 そのはずなのに、モララーはいた。 ………自分は何故ここにいるのだろう? もうここに弟はいない。その事はずっと前に解ったはずなのに………。 もしかしたら俺は、あのしぃに会いたいのだろうか………。 駄目だ。帰ろう。俺にはやることがあるのだ。あいつのために……… 立ち上がり、振り向いた。そしてモララーは驚いた。 そこにはしぃが居たのだ。 「あ………、あ………」 俺は何が言いたかったのだろう。 そんな俺の姿に気づいて、しぃは微笑んだ………のは気のせいだった。 実際そのしぃは馬鹿にしたような笑いを浮かべていた。 「ナニアンタ?キティ?」 「………はぁ?」 俺は耳を疑った。よく見たらこのしぃは手に甘ったるそうな菓子を持っている。 ようやくそこで俺は気づいた。 なんてことだ、これはアフォしぃじゃないか。 アフォしぃは手に持っていた菓子を落とした。 「アッ!オトシチャッタ。トッテ。テイウカ、トリナサイ!」 ………何様のつもりなのだろう。喋り方、態度、間抜けな格好、全てについて俺はどう反応したら良いのか解らなかった。 ボーッと突っ立ているだけの俺に腹が立ったのだろう。アフォしぃは自ら菓子を取りに行こうとした。 ………が、俺はそのアフォを止めた。 「………ダッコ?」 俺はにんまりと笑った。その表情にアフォは一瞬顔がほころぶが、表情の内なる意味に気付き、次の瞬間には固まっていた。 そしてアフォは宙を舞った。 「シィィィィィィィィィィィ!?ナニスンノヨ!オカシトラナイウエニ ナグルナンテ ギャクサツチュウネ!」 気味の悪い声でパターン化されたセリフを喋る。 あまりの気持ち悪さに俺はアフォの顔を殴った。 「ヒィィィィィィィィィ!?ヒャッ……ヒャッ………ヒィヒョヒャヒャヒィヒャォヒョヒャァァァ」 しぃの可愛い顔と歯がぁ、とでも言いたいのだろうか。自惚れにも程がある、と思った。 俺は無我夢中でアフォを殴る。 「俺の」 アフォの腕が飛ぶ。 「神聖な」 今度はアフォの足が飛び、目が潰れる。それでも手を休める事はない。 「場所を………」 ほとんどの骨は砕け、あちこちに痣ができている。 「汚すなぁぁぁぁぁ!!!」 最後の言葉は聞き取れなかったであろう。アフォしぃは血飛沫となってこの世から消え去った。 モララーは歩いている。 風が吹く。今夜は妙な程に気分が良い。 帰らねば。俺にはやるべき事がある。 月は静かに照らしてる。 静かに………全てを………。 -完-