母の日

Last-modified: 2015-06-12 (金) 21:40:11
225 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/05/11(日) 12:28 [ wKXYrD66 ]
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「かぁちゃん。これ、幼稚園で作った、紙の花だぞ。
 母の日のカーネイション、あげるぞゴルァ」
「アリガトウ。トッテモ 嬉シイワ。大切ニ スルネ」
暖かな、家庭。子ギコとしぃの親子。母の日の、思い出。

「あのさぁ、警察呼ぶよ。本当にさぁ。どういう躾をしてるわけ?」
「モ、申シ訳ゴザイマセン。チャント 注意ハ シ、シテイルノデスガ」
店の主らしいモララーに、深々と頭を下げるしぃ。
彼女の目には、悲しみと、怒りと、やるせなさの涙がにじんでいた。
「注意ってねぇ。常習犯なんだよ。万引きの。わかってんのアンタ?
 アンタの息子は、泥棒なんだよ。万引き犯」
母しぃは、とうとう嗚咽を漏らしながら、詫びの言葉をひたすら述べている。
「本当ニ、スミマ、セン、デシ、タッ。ダカラ、ケ、ケイサ、警察、ダケハ、呼バ、ナイデクダ、サイ」
チッと、鋭い舌打ちの音が、モララー店長の口の中から聞こえてきた。
母親をねちねちといたぶりたくなるくらい、店の被害は大きかった。
ため息を吐いてから、モララー店長は言った。
「この不景気に、万引きなんてされたらたまんねぇっての。まぁ、弁償だけで許してやるよ。今回は。
 次は、警察だからな」
母しぃはモララー店長に、深々と頭を下げた。
そして、パイプ椅子に座りながら、万引き犯はそんな母の姿を眺めていた。
カーネイションを笑顔と共に、母に渡していた子ギコはもう居ない。
子ギコは、DQN厨房のギコに成り下がってしまった。
ギコは荒れていた。
悪友に誘われ、一本の煙草を吸ったのがそもそもの始まりだった。
煙草、酒、万引き、授業のさぼり、他の生徒への嫌がらせ、教室を壊す、校舎に放火、一々挙げていればキリがない。
流石に麻薬はやっていないが、シンナーを吸っている。
ビニール袋にボンドを入れて、思いっきり吸い込む。
当然、こんな行動をしていれば、かなりの迷惑を親は被ったであろう。
ギコの所為で、母しぃは方々に頭を下げて回った。
他人に責められる屈辱に、彼女はただただ唇を噛みしめて耐えていた。
あんなに愛したはずの息子が、殺したいほど憎らしく思えた。

226 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/05/11(日) 12:28 [ wKXYrD66 ]
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その日、5月11日、母の日、ギコは煙草と酒の臭いと共に、帰宅した。
「マタ、悪イ 仲間ト タムロシテタノネ……」
静かな、しかし棘のある母しぃの声。そして、その声は毒蛇のような殺気も含んでいた。
「アナタ ミタイナ 悪イ子ハ、イラナイ」
隠し持っていた刺身包丁を両手で持ち、母しぃは自分の息子の目を切った。
横一文字に滑った刃は、ギコの顔の皮膚と眼球をパックリと切り裂いた。
「うぎぃっ!? あぎゃぁぁあっ、がっがあっぁ!!?」
ギコは、地球上のどの言語にもない発音で、奇声をあげた。
青白い刃は、鮮やかな赤で染まった。
しぃは、床に血の痕をつけながら、泥浴びをする豚のように転げ回っている我が子を見て、薄ら笑いを浮かべた。
彼女はのたうち回るギコに、軽く刺身包丁を落とすように投げた。
サクッ。
「ヤッタ、大当タリ」
包丁は、斜めに突き刺さっていた。丁度、ギコの柔らかな頬に。
「ぶぎゃうっ!! ごがっらえぁ、うぶぶぁイテェヨォォォォッ!!」
痛さのあまり叫ぶのだが、口を動かすと、頬に刺さった刃で、余計口を傷つけた。
暴れて、ほとんど力のなくなったギコに、しぃは近づいた。
抵抗する力がないことを確かめると、しぃはギコの肛門に擦り下ろしたニンニクを詰め始めた。
しぃはゴム手袋をはめている。
糞の臭さと、ニンニクの臭さと、先ほどの血の臭いが、辺りに立ちこめていた。
ギコは痛みで体を痙攣させているが、しぃの行動の妨げにはならなかった。
「仕上ゲハ、コレ」
しぃは、縫い針を持ってくると、ニンニクを詰めた肛門の穴をふさぎ始めた。
肛門を縫うのは難しいが、母しぃの憎しみは、この困難な作業を見事成し遂げた。
最後の一針を通したとき、ギコは絶命した。
母しぃに残ったのは、爽快感ではなかった。
例えるなら……。長い間、やっていたTVゲームの記録を消去してしまったときのような気持ち。
それ以上でも、それ以下でもない。
この母にとって、我が子の命はTVゲームの記録程度の物だったのかも知れない。
だが、安易に彼女を責めてはならない。
ギコは、彼女にそう思わせるだけの仕打ちを彼女にしてきたのだから。
しかし、母しぃのしたことは、紛れもなく犯罪である。
警察が彼女を迎えに来るまで、そう時間はかからなかった。

227 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/05/11(日) 12:29 [ wKXYrD66 ]
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母しぃは、息子を殺したことをそれ程後悔していなかった。
あのことを知るまでは。

後で、警察から聞いたのだが、
あの日、殺害されたギコのカバンの中身を調べた。
すると、出てきた物は、ワックス、コンドーム、エロ本、煙草、ライター、缶チューハイ。
そして……。
それは、母の日のプレゼントと思われる包み。
淡いピンク色のラッピングには、血の臭いが染みついていた。
包みの中身は、清楚なデザインのハンカチだった。

いつも母に迷惑をかけていたギコが、母の日くらいは孝行しようと思っていたのだろうか。
もっとも、ギコは殺されてしまい、確かめようがない。

 完