435 名前: 真夜中1/3 投稿日: 2003/07/15(火) 16:51 [ tUujczF2 ] 切れかけの蛍光灯が照らすアスファルト。 一人のしぃがその上を早足で過ぎていく。 若い女性が出歩くには遅すぎる時間。しぃは仕事場の上司を呪った。 あそこの角を曲がれば家が見える。 安心しかけた次の瞬間、しぃの足がふと止まった。 角の影のところで何かが動いているような気がして。 薄明かりの中じっと目を凝らしても、それ以上何の変化もなかったので しぃは見間違いだろうと歩き出そうとした。 …こつん しぃが足を持ち上げかけた瞬間、後ろのほうから靴音が聞こえた。 ぎくっと体を強張らせ、慌てて振り向いたが、誰もいない。 気のせいか。しぃが前に向き直ったとき、やはり後ろから靴音が響いた。 こつん、こつん、こつこつこつ… 少しずつ早く、大きくなる足音に、しぃは急いで走り出した。 それを見たのか、後ろの足音も走り出す。 こっこっこっこっこ… しぃの瞳は恐怖によって大きく見開かれている。 荒い息は、決して走っている為だけではないだろう。 心臓が痛いほど鼓動していた。 足音が、少しずつ確実に大きくなってくる―― 436 名前: 真夜中2/3 投稿日: 2003/07/15(火) 16:51 [ tUujczF2 ] もうすぐあの角だ。 しぃは大声で助けを求めることを麻痺した頭の中で考え付いた。 角を曲がりながら、息を思い切り吸って、少しむせながら「助けて」と叫んだ。…叫ぼうとした。 がつん、と頭に衝撃が走って、体がコンクリートの塀に叩きつけられそうになる。 目の前に火花が飛び散った。 慌てて体を起こそうとするが、肩を誰かに踏みつけられてうつ伏せのまま動けなくなった。 頭を何か生ぬるいものが伝う。 しぃはなんとか、首を曲げて後ろを見、次の瞬間恐怖で動けなくなった。 …鉄パイプのようなものを持った男が、二人。 月の光と蛍光灯の光で逆光になっているため顔はわからないが、 片方の男が持っている鉄パイプを何か液体が伝うのが見えて、それが自分の血液なのだと悟った。 「タスケテ…」 呟いた言葉に、男たちが笑う。 「ヤ…」 何かを言いかけて、しぃの言葉は遮られた。 男たちの鉄パイプが振り上げられる。 そして、何のためらいもなく、それはしぃの体に打ち付けられた。 何度も、何度も。 骨が砕ける音がした。皮膚が裂け、血が飛び散る。 痛みのせいで、しぃは声を上げることが出来なかった。 437 名前: 真夜中3/3 投稿日: 2003/07/15(火) 16:52 [ tUujczF2 ] ひとしきりしぃを打って、男たちはしぃから離れた。 …開放してもらえる? うつ伏せのまま、自分たちを見るしぃを、片方の男が指差す。 どうする?とでも言っているように。 男は、塀のところに置いてあった黒いバックを持ってこちらにやって来た。 何をするのだろう、と体を強張らせるしぃに、男がバックの中に入っていた瓶の中身をかける。 その液体の匂いに、しぃは引きつった声を上げた。 男が笑いながらジッポのライターに火をつけた。 それをしぃに放り投げる。 「シィィィィィィイイイイイ!!!!」 ごおおおぉぉ… 真っ赤な炎が燃え上がる。男たちはそれを尻目にバックを片付け、立ち去った。 炎の中のしぃが、のた打ち回る。 もはや、何の声かもわからない叫びを上げながら。 「ハギャアアアアーッア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」 最後にびくん、と体を震わせ、しぃは息絶えた。 「この頃、若い女の人を狙う殺人が多いんだって。」 「ああ、なんか棒みたいなもので殴ってから、ガソリンに火をつけちゃうんでしょ?」 「怖いよねえー」 「夜中に出歩けないわよー。こんなんじゃ。」 「でもね、なんでかしらないけど、犯人はしぃ族しか狙わないらしいよ?」 「ええ?何でだろうね。」 「…でも、なんだか分かるような気がするかも…」