194 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/13(日) 22:54 [ h13W4p.g ] 湿った重苦しい空気。忘却の彼方に佇む過去の遺物達。 そして、威圧感を醸し出すプレス機。赤く錆びているが、今にも轟音と共に動き出しそうである。 ここは製紙工場だ。いや、製紙工場だった。今ではありふれた廃工場。 何故、廃墟になったのか? たいていの廃工場は、単なる経営不振で潰れたことが多い。 オカルト好きが喜ぶような、死者が出た等の原因はあまりない。 ただ、この廃墟は、珍しく後者が原因で潰れた。 それは、アブラゼミの声がうるさく響き渡る、ある夏の日のことだった。 紙をプレスするプレス機という機械の掃除をしていた従業員達がいた。 ちびギコだが、シッカリした好青年だった。工場でも人望も厚くて、人気者だった。 ちびギコは、今月の給料が出たら、故郷の弟に新しい野球バットを買ってやるつもりだった。 「がんばって、弟に玩具を買ってやりマチ。きっと喜んでくれマチ」 「なんだか、気分が、悪ぃょ、ぅ」 掃除中に、うだるような暑さで、ちびギコとペアで掃除をしていたぃょぅがメマイを起こした。 ぃょぅの体が、ゆっくりと傾く。バランスが、崩れる。足場の下には、プレス機があった。 ちびギコは、とっさにぃょぅを支えようとした。……親切な善人に限って長生きしない。 ちびギコは、ぃょぅを突き飛ばすように押した。 ぃょぅが落ちた場所は、ダンボールが積み重ねられた床の上。打ち身だけで済んだ。 ちびギコが落ちた場所は。プレス機の中。プレス機は稼働していた。 プレス機から、もの凄い音が聞こえてきた。 機械が擦れる音。耳をつんざくような金属音。 「あぎゃヤァぃあうジャぐげぇぇっぇ!! ぶげっおぎグヘァァぎっ!!」 その音よりも、大きな音。あれはちびギコの叫び。痛みと、苦しみと、死の恐怖のみが奏でることが許される命の旋律。 「うぎぶげぁぁ……!! ぉぎ、ぁばば、ぶっ!!……」 甲高い叫び声は、やがてくぐもった低温に変わり、ついには金属音にかき消されてしまった。 プレス機が、小刻みに震え、『紙』が押し出される。 床に落ちたぃょぅが、恐る恐る立ち上がって、プレス機をのぞき込んだ。 「おげぇっぇ、ひっぃああぁぁぁっ」 口から吐瀉物を撒き散らしながら、後ずさりするぃょぅ。彼は押し出された『紙』を直視してしまった。 真っ赤な、湿った肉の『紙』。毛がまばらに混じっている。 肉とは見た目が異なる部分、これは内臓だろうか?ぐしゃぐしゃになっているので、もはや医者でも何の臓器か分からないだろう。 この弾力がありそうな部分、これは眼球だろうか?赤く染まっているので、白目と黒目の区別すらつかないが。 鉄の臭いがする。プレス機の臭いなのか、血の臭いなのか分からない。 赤い『紙』は、無限に出てくるように思われた。気が狂いそうな蝉時雨の中で、永遠に。 そして、ちびギコは永遠に、弟に玩具を買ってやれなくなってしまった。 完 掃除するときは機械止めればいいのに、と思うのですが・・・。 実際は止めて掃除していらっしゃるのでしょうかね?