149 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/06(日) 19:13 [ UcdmSQOA ] 宙を舞うホコリが、ちびギコの鼻孔に入り込む。 苦しそうにせき込む。ノドの奥が、せき込むたびに、ズキズキと痛む。 水分の少ない、乾いた口膣内。ここ数日、ちびギコは、一滴の水も飲んでいなかった。 遊び半分で忍び込んだ廃屋。ドアノブが壊れた部屋に、うっかり入り込んでしまったのだ。 木製の分厚いドア。クックルや8頭身が、本気を出せば壊せるだろう。 が、彼はちびギコだ。そんな力など、あるわけがない。 ちびギコは、虚ろな目で部屋を見回した。 「何か、食べる物はないんデチか?」 ちびギコのポシェットに入っていたチョコレートは、とっくに食べ尽くされていた。 ふと、開け放たれた窓から蝶が入ってきた。窓はあるが、ここは三階、脱出は出来ないが。 黄色の紋白蝶は、少女のリボンのようにヒラヒラと舞っている。 ちびギコの目に、鋭い光が凝縮された。手がサッと伸びる。もがく蝶が、ちびギコの手にシッカリと握られていた。 口に入れてみる。リンプンが口膣にまとわりつく、小刻みに動いている羽が口蓋に当たる。 触覚、羽、脚、胴、腹。あらゆる蝶の体のパーツが、ちびギコの口を刺激する。 蝶の腹に、ちびギコは前歯を当てた。 力を入れると、甘酸っぱい汁がジワリと滲み出た。酸っぱい臭いが鼻を突く。 パサパサした蝶を飲み下す。 こんな物で、ちびギコの空腹は満たされない。乾きは、余計に増すばかり。 「食べたい、何か。食べ物、どこにありマチか? お腹が減って、気持ち悪いデチ」 餓鬼のような動きで、部屋中を荒らすように探し回る。 その時だった。話し声が聞こえる。誰か居るのだ。助け出してもらえる。 「助けてぇぇっ。ここから出してデチぃ。お腹空いたデチ、何か、何か食べる物ぉぉぉぉおおおっ」 ちびギコは、カラカラのノドから血が滲まんばかりの大声で叫んだ。 この声を聞きつけたのは、ちびギコと同じように、廃屋に遊びに来たぃょぅだった。 ぃょぅは走り出した。 ただし、ちびギコのいる方とは反対方向に。 「怖ぃょぅ!! オバケの声がするょぅ!!」 ぃょぅは、廃屋から脱兎の勢いで逃げ出した。 「何でっ、何で助けてくれないんデチかぁぁぁぁぁっ」 ちびギコの絶叫は、時から忘れ去られた廃屋に、虚しく響き渡った。 「お水、飲みたいデチ」 ちびギコは、自分の手首を見つめた。 毛が口にはいるのも構わず、痛みが走るのも構わず、ちびギコは手首に歯を立てた。 鋭い痛みと共に、血が噴き出した。水分を欲しているノドに、血を流し込む。 「あぁ、美味しいデチ」 切断された血管から血を吸い出す。大量の血が口に入ってくる。 鉄の臭いと、赤い血は、やがて部屋中に広がった。 数日後。即席のミイラのようになったちびギコが、廃屋と共に死の時間を刻んでいた。 完