髭男の憂鬱

Last-modified: 2015-06-01 (月) 01:13:13
464 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/03(月) 15:57 [ U7S/mYCo ]
1/2
憂鬱な一日は、皮肉なことに、爽やかな朝日に包まれて始まる。
あぁ、朝が来た。起きなくては。会社に遅れる。
そんなことをぼんやりと考えながら、寝室を出て台所へ向かう。
しぃ族である妻が、無愛想に朝食を用意していた。
別に仲が悪い、というわけではない。倦怠期という物だ。
豆腐の味噌汁をすすりながら、新聞を読む。
いつもと同じ朝だ。毎日、この朝の繰り返し。

会社へは、愛車のボルボで行く。自慢ではないが、これでも重役なのだ。
社長や、会長にゴマをする。仕事よりも、人間関係の方が疲れる。鬱だ。
部下の悪口が、ふとしたことで耳に入る。そんな可愛くもない下っ端社員のミスで奔走する。鬱だ。
トイレで、洗面所の鏡に映った顔を見た。我ながら、なんて面構えだ。
耳は丸耳。そう言えば、丸耳はまれに差別対象にされるらしい。
顔はモララー風。モララーは加虐殺キャラの悪いイメージが強い。
しかも、少し童顔なので威厳を出そうとして生やした髭が、珍妙さを引き立てている。
かと言って髭を剃ると、シワだらけで情けない顔が、さらに貧弱になってしまう。
なんで、丸耳モララーなんかに産まれたのだろう。はぁ、鬱だ。

そんなある日、何となく家の近くを散歩してみた。
立ち寄った公園で、見知らぬシラネーヨに声をかけられた。
「アンタ、カナリ 枯レテルーヨ」
失礼な香具師だ。たしかに、中年だ。髪ももう薄い。
だが、初対面のシラネーヨに、そんなことを言われる筋合いはない。不愉快だ。立ち去ることにする。
「チョット 待テーヨ。サエナイ アンタニ プレゼント ヤルーヨ」
振り向くと、シラネーヨの姿はなかった。
代わりに、公園の砂っぽい地面の上に何かが置いてあった。
それを見て、背筋に冷たい汗が流れ、全身に鳥肌が立った。
シラネーヨの不気味なプレゼントを何故か受け取ってしまった。
そして、プレゼントを隠すようにコートの下に隠して、家に帰った。
プレゼントを持つ手は震えていた。
恐怖で震えているのだろうか。それとも、沸き上がる喜びに震えているのだろうか。
それは、自分でも分からなかった。

465 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/03(月) 15:57 [ U7S/mYCo ]
2/2
家に帰り、シラネーヨのプレゼントをじっくりと眺めた。
これは、間違いなくアレだ。
伝説的な狂気の殺人鬼であるアイツのトレードマークとも言えるアレ。
残忍で非道な行いを重ねてきたアイツの顔を覆っていたアレだ。
アイツの名を知らない者は、まずいないだろう。
つい、アイツになったつもりで自分の顔につけてみる。
カビ臭いが、まぁ我慢できる程度だ。
つけ心地も良く、まるで顔と一体になっているかのように違和感がない。

次の日、気が付いたら朝になっていた。
ベッドのそばにはアレが転がっていた。
昨日、アレをつけてから、今日まで記憶が吹っ飛んでいる。
明らかに変だ。だが、心身共に爽快感で満ちあふれている。
今日は、いつもと違い、軽い足取りで台所に行った。
で、鼻歌なんか歌いながらボルボを運転して会社に向かう。
何故か、気分が良い。溜まっていたストレスが全てなくなった感じだ。
信号待ちで止まっていると、窓を開けていたため、
小学生のちびギコ達のウワサ話が聞こえてきた。
「本当なんデチ。チビタンのオウチの近くの川で、カッパッパーの死体が浮いてたんデチ」
ペチャクチャと数人で歩きながら話している。
「しかも、血みどろの死体デチた。チビタン怖かったデチ。でも、男の子だから泣かなかったデチよ」
「どんなだったデチか?」
「もう内臓は飛び出してるわ、目はえぐられてるわ。
 チビタンのママが見ちゃダメって言ったから、それ以上は、よく見えなくて分かりマチぇん」
「怖いデチねー」
カッパッパー可哀想に、なんて思いながら青信号になり車を発進させる。
それにしても、アレ。玩具にしては、リアリティがあるなぁ。最近の玩具は凄いな。
ホッケーマスク。しかもご丁寧にも血を模して、所々に赤いシミまでついている。
少し汚い感じもするが、そこが本物っぽくて良いのだ。

本物のジェイ○ンのマスクみたいで。

 髭男の憂鬱 第一話 完

466 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/04(火) 17:29 [ FnwQhHg2 ]
1/3
ある朝、妻が言った。
「ネェ、ソノ髭 剃ッタ方ガ イイト 思ウワ。似合ワナイシ」
自分でも、この髭は似合わないと思う。
が、剃れない理由があるのだ。
人には、モラ顔と言ってきたが、実は違う。
俺の目は、確かにモララー族の目だ。
だが、口はギコ族の口なのだ。
まぁ、髭で口元をおおっているので、誰も気づかないだろうが。
モララーの目に、ギコの口。いわゆる、ちびギコ顔。
被虐生物として有名なちびギコ。まれに差別対象となる丸耳種。
誰かが、俺を大きな丸耳ちびギコだと思って虐殺してくるかも知れない。
しかも、俺の体型は、モナーともギコともつかない体型だ。
モナーの腹に、ギコの脚。認めたくないが、デブで短足なのだ。
誰かが、俺をよくわからん突然変異のAAだと思って虐殺してくるかも知れない。
そんな不安を少しでも紛らわすため、俺は自分をモララー族だと信じ込んだ。
モララー族、悪名高い加虐種族だ。彼らが、殺されるのは、ごくまれだ。
まぁ、加虐種族だからそこそ、復讐で殺されることもあるが。
それでも、ちびギコに比べたら、全然虐殺の心配は少ない。
と言うことで、俺は丸耳モララーで通している。
丸耳も不安の原因だが、丸耳虐殺は廃れてきたようだし、たぶん大丈夫だろう。

虐殺と言えば、被虐の象徴とも言えるのが、しぃ族だ。
俺の妻は、しぃ族だ。妻はもういい歳だ。つまり、中年ってこと。
さすがに、ハニャーンだのダッコだのわめかない。
たぶん、アフォしぃと勘違いされない限り、殺されないと思う。
俺の妻のような中年しぃを殺すより、若いアフォしぃを殺す方がモララーも楽しいだろうし。

さて、そろそろ会社に行くか。

467 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/04(火) 17:30 [ FnwQhHg2 ]
2/3
会社の仕事をしなければ。……本当は、あまり仕事はしてない。
パソコンと向かい合い、とても真面目な顔して、2ちゃんねるに通う。
仕事の合間の2ちゃんどころか、2ちゃんが暇な時に仕事する感じだ。
我ながら、重役がこのようでは、この会社も長くないと思う。
さすがに、今日のような会議の日は、大好きな2ちゃんに行けない。
しかも、ぃょ田が延々と喋りまくっていて、耳障りだった。
「ぃょぅが、入社した頃、我が社はこぅだったょぅ」
お前のエピソードなんて聞きたくもない。
「最近の社員は、使ぃ物にならなぃょぅ」
禿同。珍しくぃょ田と意見が合った。
「社員の中には、仕事してるフリをして、パソコンで遊んでる香具師もぃるんだょぅ」
俺のことか?いや、違う。そう信じたい。
それにしても、なんかぃょ田って気に入らない。
言葉では、上手く言い表せない嫌悪感がある。
それより、早く会議が終わらないだろうか。ストレスで胃に穴が開きそうだ。

長く、不毛な会議を終え、俺は家に帰った。
飯を喰い、風呂に入った。
寝る前に、アレを取り出した。
無性に、顔につけてみたくなる。あぁ、本当につけ心地が良い。

その晩、俺は夢を見た。
深緑の壁に四方を囲まれた部屋、そこにいるのは俺とシラネーヨだけ。
「この前は、良い物をくれてどいも感謝しています」
俺は礼を述べた。アレは玩具とはいえ、ハイクオリティーな物だった。
「アレノ ツケ心地ハ 最高ダーロ」
俺は頷いた。アレをつけると、まるでアレが自分本来の顔のように感じることさえある。
「アレハ 失ワレタ アンタヲ 取リ戻シテクレルーヨ」
失われた、俺?安っぽいファンタジーみたいな言葉に、思わず首を傾げる。
「社交辞令。愛想笑イ。ソンナ物ニ 埋モレ、カキ消サレチマッタ 本当ノ アンタ。
 誰々ノ 息子ヤ夫 デモナイ。何処何処ノ 会社ノ 社員デモナイ。
 ソンナ 本物ノ アンタダーヨ」
言われてみれば、俺はいつの間にか本当の自分を見失っていた。
日常生活から閉め出された、ただの自分。ありのままの俺。
でも、本当の自分って何だ。
シラネーヨは、俺の心を読んでいるかのようにつぶやいた。
「アレヲ 顔ニ 被リ続ケレバ、イズレ 本当ノ アンタガ 見エテクルーヨ」
その声と共に、深緑の壁が液体のようになって崩れた。
床には大きな穴が開き、俺は落ちていった。どこまでも、深く、深く。
そこで、目が醒めた。

468 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/04(火) 17:30 [ FnwQhHg2 ]
3/3
次の日の夜も、俺はアレを顔につけた。
マスクを被ることは、もはや俺の習慣になっていた。
そして、また朝を迎える。
TVをつけ、新聞を読みながらの朝食。
ニュース番組を見ていた妻が、顔をしかめた。
「大量殺人ガ 起コッタラシイワヨ」
妻の声で、視線を新聞からTVに移す。どうやら、虐殺者が大暴れしたようだ。
悲しいことだが、よくあることだ。が、ニュースをよく聞くと、普通の虐殺ではないようなのだ。
被害者は、しぃ等の被虐生物だけではないのだ。
8頭身モナーや、ゾヌのような、大きくて力のあるAAも殺されていたのだ。
しかも、不思議なことに、被害者の遺体がどれも食い荒らされていた。
殺人が起こったのは、アパート一棟。
当然、遺体もアパートの室内にある。カラスや野良犬が食べたとは考えづらい。
恐らく、犯人が被害者を食べたのだろう。
これだけの人数を短時間で惨殺した犯人は、一体何者なのか。
警察は、複数の強力な虐殺者、または宗教団体の犯行と見ているようだ。
「怖イ 世ノ中ネ。ゾヌ、8頭身マデ 殺サレタンデショ。
 シカモ、死体ヲ 食ベルナンテ」
妻の声は、震えていた。

 髭男の憂鬱 第二話 完

オマケ
 さぁーて、来週の髭男さんは?
 ナヒャです。風の強い日に、帽子ではなく髪を押さえているリーマンを見ました。
 きっと、ズラなんでしょうね。
 ・髭男、筋肉痛になる
 ・ぃょ田、散る
 ・アフォしぃの新鮮ミート
 の三本です。来週も見て下さいね。じゃんけんぽん!アヒャヒャヒャヒャッ!

487 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/06(木) 23:52 [ ZRp/rAyI ]
1/3
また、いつもと同じ朝の繰り返し。
と、思っていたが、今朝は違っていた。俺の体に異変が起こった。
ベッドから、体を起こそうとすると、四肢の筋肉に鈍痛が走った。
若い頃、時折経験した懐かしい痛みだった。筋肉痛だ。
でも、最近何か運動しただろうか。少し散歩をしただけなのに。
もう俺も歳だから、筋肉痛って何日か経ってから起こるんだよな。
二、三日前か。始めてマスクをつけた日だな。
おっと、こんなこと考えてる場合じゃない。
朝の支度をしなければ。

会社に、あのマスクを持っていくことにした。
革のカバンの底に、マスクを詰め込んだ。
本当の自分か。社会生活で、本当の俺は、ドンドンすり減ってしまった。
でも、本当の自分って何だ。今ここに存在してる俺は何だ。
どうしよう、気分がすぐれない。
腹の中に、巨大な氷の塊を詰め込まれたような感じだ。
不安、恐怖。そんな感情が、俺の腹の中で澱んでいる。
なんだか、具合悪くなってきた。
……車、運転できるかな。

488 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/06(木) 23:53 [ ZRp/rAyI ]
2/3
会社に着くと、廊下でぃょ田に会った。
あぁ、やっぱりコイツ嫌いだ。
そう思った時だった。俺の右手が、ぃょ田の顔面をすれ違いざまに殴りつけた。
右手に、ぃょ田の唾液が付着した。生暖かかった。
ぃょ田は、鼻血を滴らせながら、無様な声で助けを求めた。
俺は、何をしたんだ。確かに、ぃょ田は嫌いだ。しかし、殴るなんて……。
俺はぃょ田に近づいた。
「す、すみませんっ!! 大丈夫ですか?」
嫌いだとはいえ、殴ったのは悪かったと、俺は心から反省していた。
なのに。
「触るなょぅ! この野蛮人!」
ぃょ田は俺の手を振り払った。
また、俺の手が勝手に動いた。ぃょ田のビール腹に、重たい拳がめり込んだ。
ぃょ田は、鼻血と唾液をまき散らした。
社内の白い壁に鼻血が飛び散る。まるで、白い画用紙に、赤い絵の具を散らしたようでキレイだ。
と、言いたいところだが、我が社の壁はタバコの煙で汚れている。キレイと言うのは言い過ぎだろう。
そんなことを考えながら、俺は何度も何度も、ぃょ田に殴りかかっていた。
ぃょ田の唾液、涙、血が俺の拳を彩っていった。
殴れば殴るほど、俺の拳は色彩を増す。
周りの社員は、俺を止めなかった。むしろ、止められなかったのだろう。
やがて、警察と救急隊が来た。
まぁ、その頃にはぃょ田の歯はほとんどへし折られていたがな。
警察のモナーが、数人がかりで俺を取り押さえようとした。
さすがに、御用か。そう思った時、俺の体がむずがゆくなった。
俺の胴体から、数本の手が生えてきた。手と言うより、むしろ触手だ。
警官モナー達は、驚いて俺から離れた。俺自身も、驚いている。
俺は、しゃべろうとした。これは一体どういうことだ、と。
だが、口から出たのは、ぃぇぁ、そんな意味のない言葉。
あぁ、思い出したよ。本当の俺、いや、本当の僕を。
僕は、全てを、殺す。
僕は、全てを、喰らう。
そうだ、僕は丸耳モララーでも、丸耳ちびギコでもなかったんだ。

僕は、ぽろろだ。

489 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/06(木) 23:53 [ ZRp/rAyI ]
3/3
僕は、周りを警官達に囲まれています。
すでに一般社員は避難しました。
警官のモナーさんが、拳銃で僕のことを撃ちました。
弾はお腹に命中したので、とても痛いです。
他の警官さんも、弾を撃ってきました。
僕は、とっても悲しくなりました。泣きたいです。
この悲しみを警官さんに、ぶつけてみることにしました。
僕の体が半透明に変わり、大きく伸びました。
警官さん達を包み込むように、僕の体は伸びました。
とても、素早く。
僕の体から分泌される消化液が、警官さん達を溶かしていきます。
皆、骨だけになってしまいました。少し寂しかったです。
僕は人に会いたくて、会社から出ました。
弾を撃たない人、僕を見て逃げない人。そんな人を探して町をさまよいました。
でも、町には誰もいませんでした。いつもは賑やかなのに。おかしいなぁ。
ふと、声がしたので振り返りました。いました、人がいましたよ。
しぃ族の、若い娘さんでした。楽しそうに歌っています。僕も歌います。
「ぃぇぁ、ぃぁ。ぃぇぇぁぇぃ」
しぃは僕に気づいて、近づいてきました。
ダッコと言いながら、走り寄ってきます。僕は触手でしぃを抱きかかえました。
しぃの体は、フカフカの毛並みで被われています。とても暖かです。
僕の体は、ヌラヌラしています。俺の時は、フカフカだったのに。
しぃは、ダッコをしてくれる僕が大好きなようです。僕もしぃが大好きです。しぃをダッコしたまま、僕は歩き回りました。
と、僕達の平和を乱す人が現れました。向こう見ずな、若い加虐AAでしょう。
悪いモララーが、僕がダッコしていたしぃごと僕の体をボウガンで貫きました。
僕としぃは串刺しのようになり、ボウガンの矢でくっついています。でも、とても痛いです。
しぃは、血を吐いて、僕の顔に浴びせました。
まるで、噴水のように勢いが良かったので、僕の視界は赤く染まりました。
目に血が入って、ヌルヌルして気持ち悪かいです。
やがて、噴水の勢いがおさまると、しぃは動かなくなりました。
僕は寂しくなったので、そのしぃを食べました。そうすれば、いつでも一緒にいられますからね。
警官モナーさん達も、しぃも僕の肉になってくれます。
いつでも、一緒にいられます。
しぃのお肉は、美味しかったです。赤身が多くて、肉に臭みがありませんでした。
少し、癖のある味でしたが、珍味みたいで好きです。また食べたい味です。
僕の家には、しぃがいます。僕は、急いで家に向かいました。
体からボウガンを無理矢理引き抜きます。黄緑色の粘着質な体液が、少しだけ傷口から出ました。

 髭男の憂鬱 第三話 完

490 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/06(木) 23:54 [ ZRp/rAyI ]
ぽろろを知らない人もいらっしゃると思うのでご説明をば。

AA長編板で、虐待専用キャラ「ぽろろ」です。好きに虐めて下さい、のスレで誕生。


     ∩∩∩∩∩∩∩
    (       ,,・Д・,)


     ;_;;_;;_;;_;;_;;_;;_;∩∩
    √       ,,・Д・,)
     \        /
      ∪∪ ̄ ̄∪∪


       ∩_∩
      (,,・Д・,,)
      ⊂    つ
       |  x. |
       U'⌒'U

様々な姿を見せてくれる。

518 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/10(月) 17:03 [ NI9lNRm6 ]
1/3
僕が家に着いた頃には、辺りは日が暮れていました。
見慣れたはずの我が家なのに、赤く照らされて、別の家みたいです。
僕の家の周りをたくさんの車や人が取り囲んでいます。
僕はこの車を知っています。パトカーと言う車です。
パトカーの影に隠れた警官さん達が、発砲してきました。
雨のような銃弾が、僕に襲いかかってきました。
僕の体は、めり込む弾丸に合わせて、ビクンビクンと痙攣します。
硝煙の臭いが辺りに立ちこめます。
僕は、ボタボタと体液を垂れ流しながら、家に近づきました。
家には、美味しい美味しいしぃの肉が、僕を待っているのです。僕の妻ですから、喜んで食べられてくれるでしょう。
でも、家に入るには周りの人が邪魔ですね。僕は困ってしまいます。
しかたがないので、殺すことにします。
銃弾で吹き飛んだ僕の肉片に、指令を出します。
肉片は、ナメクジのように地面を這いながら、警官さん達の足下に回り込みます。
銃撃に集中しているので、肉片達が集まるのに気づいていません。
ある程度、肉片がそろいました。そろそろ何とかしないと、僕は銃弾を浴びすぎて死んでしまいます。
肉片が、盛り上がり、半透明になり、伸び上がりました。
警官さん達を包み込むように、肉片は伸びました。ほんの一瞬の出来事です。
肉片が、警官さんを溶かし終えると、僕の体に戻しました。
さらに、体内に留まっている数発の弾丸を出したいと思います。
体液に包まれた弾丸が、傷口からむにゅうと押し出されます。
これで、銃のダメージを少しだけ回復できました。
さぁ、家に入りましょう。僕の妻が待っています。

519 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/10(月) 17:03 [ NI9lNRm6 ]
2/3
妻は、ソファの前で、僕を待っていました。
窓から差し込む夕日が、妻を美しく彩っています。
その色は、赤。血の色と、同じ。美しく、妖しい色。
妻は、悲しそうに微笑んでいました。
僕の方に、手を伸ばしてきます。
僕は妻に近づき、触手で包み込むように妻を抱きました。
強力な酸性の液が、妻の体を少しずつ溶かしていきます。
今、妻の毛はボサボサになり、皮膚はただれています。
妻は、力無い声で僕に言いました。
「結婚シテ、イツシカ 会話モ ナクナッテ、アナタガ 死ンデモ、オ金ダケ アレバイイッテ 思ッタコトモ アッタケド、ヤッパリ 私……」
最後の方の言葉は、声がかすれて聞き取りづらかったです。
そして、僕の耳は、ほんのかすかな、妻の最後の言葉をとらえました。
「アナ……タガ 好キ……ダ……タ」
妻を包んでいた触手は、力無く垂れ下がりました。
ドサリと音を立てて、妻の体はフローリングの床に落ちました。
溶かされて脆くなっていたので、妻の体は変形してしまいました。
僕は、もう動かない妻に、話しかけようとしました。
とっても伝えたかった言葉があったのに。
「ぃぇ……ぁ」
不気味な声しか出なくて。
泣きたいのに。
涙は出てこなくて。
僕は、屈んで、妻の体を両腕で抱きしめました。
夕日は、もう赤から紫の光に変わっていました。
ふと、体の中に熱い物を感じました。
肉をえぐるような、激しい痛み。心臓を貫通した一発の銃弾。
後ろを振り返ると、かなりゴツイ銃を手にしたギコがいました。
警察関係の人でしょうか。
視界が白くなり、何も見えなくなりました。
五感は鈍り、意識が夢を見ているときのようにぼんやりしてきました。
あぁ、これが死か。
妻もこの感覚を体験したのだろうか。死ねば、妻に会えるだろうか。
伝えたい言葉をちゃんと言えるだろうか。

520 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/03/10(月) 17:04 [ NI9lNRm6 ]
3/3
「サテ 皆サン。皆サンノ 本当ノ 姿トハ 何デショウ?
 モシ、被ルト 本当ノ 自分ニナレル マスクガ アッタラドウスルーヨ?
 アンタハ 被ルカーヨ? 被ラナイカーヨ?
 コノマスクハ オススメダーヨ。殺人鬼ノ ホッケーマスクダーヨ。
 タクサンノ 命ヲ 奪ウ 殺人鬼ト、タクサンノ 命ヲ 喰ラウ ぽろろ。
 自分ノ 存在ニ 嫌気ガ サシ、普通ノ AAニ ナロウトシタ 髭男。
 禍々シイ ぽろろノ 記憶ヲ 抹消シヨウトシタ 髭男。
 ソウヤッテ、自分ヲ 欺キ続ケテタ 愚カナ 髭男。
 デモ、凶暴ナ ぽろろノ 記憶ハ、殺人鬼ノ マスクデ 蘇ッターヨ。
 デ、アンタハ ドウスルーヨ?
 チャント アンタ用ノ マスクガ ココニ アルーヨ。
 ドウナルカ? シラネーヨ。ドウナルカハ、アンタ次第」
 
 髭男の憂鬱 最終話 完