914 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/09/22(月) 21:51 [ GB3Mbef2 ] 【2つの意思】 ----「なぜ君は虐殺するんだい?」 俺は虐殺者。獲物を探して、街をさまよう。 俺に友はいない。家族もいない。恋人もいない。欲しいと思ったこともない。 必要なのは俺の心を満たす、獲物だけ。 しかし、しぃも警戒することをようやく覚えたらしい。街に出てくるしぃはごく少数だ。 今日は糞虫を見つけられなかったか・・・と、諦めかけていた刹那、 その声は俺の耳に微かに入ってきた。 「ワタシノベビチャン、カワイイベビチャン」 ・・・・見つけた・・・・。 白昼の公園で親子二人きりとは、無防備極まりない。 ふ・・・・と、嘲笑とも取れるため息をひとつ吐いて、俺は足を踏み出した。 「アッ、モララーサンダ! コンニチハ!」 緊張感のかけらもないその台詞に、俺も思わず唇を緩めてしまう。 それは余裕か、嘲笑か、それとも・・・俺にも分からない。 ・・・・その時。 ----「君は、うらやましいんだろう?」 またあの声が聞こえてきた・・・俺が獲物を見つけると聞こえてくる、忌まわしい内なる声。 それは時に人格を変え、俺に問いかけてくる。俺の虐殺者としての存在理由を。虐殺の理由を。 もし奴が、俺の良心ってやつが形を変えて出てきたものなのだとしたら? ならば、俺の歪曲した精神に対して、絶望する他はないだろう。 俺は、自問自答すら満足にできなくなってしまったのか・・・と。 ----「君は、本当は幸せが欲しいんだろう? 目の前の親子のように」「・・・・俺にはそんなもの必要ない」 「ホラミテ! ベビチャン、アンヨガデキルヨウニナッタンダヨ!」「チィ、チィ!」 ----「嘘だね。君は飢えているのさ。人並みの幸せってやつに」「・・・・」 「ドウシタノベビチャン? ダッコシテホシイノ?」「・・・・ミィ」 俺はベビに向かって手を伸ばした。あるいは奴の意思だったのかもしれない。 「ア! モララーノオニイチャン、ダッコシテクレルッテ! ヨカッタネ!」 ----「そうだ。そのベビを抱き上げて、ダッコしてやるだけでいい。 それで君も理解できるはずさ。虐殺では得られない、人並みの幸せってやつをね」 「ナッコナッコ! チィ、チィ!」ベビしぃが嬉しそうに近づいてくる。 「・・・・・・・・違うな」 広げた手が握り拳に変わる。それは、正確にベビの頭上に降った。 「ナッ・・・ヴジィ!!」 目の前でベビが潰れている。鮮血が飛び散り、地面に赤い花火が弾ける。 また俺だけの世界に戻れる・・・奴はもう言葉を発しない。 「ベ、ベビチャン! ベビチャン! アンタ、ナンテコトスルノヨウ! ワタシノベビチャン、カエシテヨウ! カエシテ・・・・ヴグッ!」 鮮やかな、そして儚い赤い花火が、もう1つ弾けて散った。 首のない母親の体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。 言い知れない満足感と高揚感に包まれて、俺は2匹に背を向けた。 「お前の言う通り、俺は幸せを欲しているさ。 少なくとも俺は、お前が黙れば幸せになれるのだから」