JA$RACの者ですが

Last-modified: 2015-06-24 (水) 02:03:11
197 名前:ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日:2004/11/01(月) 23:03 [ mJbDaQQg ]
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しとしとと雨垂れの音が静かに流れる、ある雨の日、
ここAA中央病院では、一匹のチビギコの手術がおこなわれる予定でした。
「先生」
チビギコが主治医のモララー医師に、白いベッドの上から声を掛けました。
「お願いがあるデチ」
そう言ってチビギコは一枚のCDを差し出しました。
大きな黄色い文字で「それ逝け! アソパソマソ」と書かれています。
「手術の時に、このお歌をかけて欲しいんデチ。
 そうすれば、ボク、手術が頑張れマチ」
モララー医師はそのCDを手に取ると、優しく微笑んでチビギコの頭を撫でました。
「わかった。手術、頑張ろうね。必ず成功させるから、君も頑張るんだよ」

そして、アソパソマソの音楽に励まされながら、手術は無事成功し、
チビギコは数日間ベッドの上で療養していました。
ある日の午後、モララー医師がチビギコの病室にやってきて、
簡単な診察と談笑をしていました。

その時でした。病室のドアが乱暴に開けられたのは。
ツカツカと誰かが勝手に病室に入ってきます。
黒いスーツを着たモナーが冷たい笑みを顔の上に仮面のように張り付かせています。
「何だ君は!?」
モララー医師が、チビギコを守るように、モナーとチビギコの間に立ちはだかって声を荒げます。
「JA$RACの者ですが。
 こちらの少年が当協会の管理楽曲を無許可で医師達に聞かせたそうですね。
 これは公的な試聴ですね。著作権使用料をお払い下さい」
チビギコは何が何だかわかりませんでした。
ただ、いきなり現れたモナーがとっても怖かっただけでした。
「著作権を侵害しておいて、著作権使用料を払わないのは非常識だとは思いませんか?」
黒いスーツのモナーはペラペラとしゃべり続け、まくし立てます。
「この子はまだ子供だ。そんなコトを言われてもわかるはずがないじゃないか」
見かねたモララー医師が言いましたが、モナーは涼しい顔です。
「では、そちらの病院側が支払って下さるのでしょうか?」
「それは……」
モララー医師は口ごもりました。
長い思い沈黙が病室内に立ちこめました。

198 名前:ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日:2004/11/01(月) 23:04 [ mJbDaQQg ]
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沈黙を破ったのはJA$RACの者でした。
「使用料を払う気は無いのですね?」
「もちろんデチ! 明らかな違法行為ならまだしも、自分で買ったCDを手術中にかけただけで
 著作権侵害なんて言いがかりデチよ!」
「わかりました。では、今日の所はこの辺で帰ります」
黒いスーツのモナーは冷ややかに笑いながら病室を後にしました。
残されたのは、怒りと恐怖で震えるチビギコと、呆気にとられたモララー医師だけでした。

数日後、チビギコは無事退院するコトができました。
母親が病院に迎えに来ます。
が、母親であるしぃの頬はゲッソリとやつれ、口数も少なく、元気がないようです。
「お母タン?」
「何デモ 無イノヨ」
何故母しぃの元気がなかったのか、それは家に着いたらわかりました。
油性ペンで書かれた玄関のドアの文字。
ドロボウ。犯罪者。
「これは、一体何デチか?」
母しぃは黙ってうつむいています。
実は、数日前から怖い人たちがやって来て、ドロボウだの、犯罪者だのと
家の前で大声で騒いだりしていたのです。
母しぃはそのストレスで疲れていたのでした。
その時、丁度その怖い人たちがやって来ました。
黒いスーツのギコとフサギコです。
フサギコは母しぃを見るなり、大声でまくし立てました。
「おい、ババァ。カスが」
低い低い声でした。母しぃはビクンとなって、泣きそうになっています。
「よくもまぁ、恥ずかしげもなく、人様と同じような家に住んでられるもんだぁ、あ?」
ギコがうつむいている母しぃに詰め寄ります。
「著作権違法の犯罪者の分際でよぉっ」
ギコはドアを思いっきり蹴りました。
薄い木製のドアには穴が空き、ガタンと大きな音をたてました。
「やめてデチ!」
チビギコは焦って、ギコの足に飛びかかりました。
「お家を壊さないで!」
「犯罪者がうるせぇんだよ、ゴルァ」
「ヤメテ……、オ願イデスカラ……」
母しぃはついに泣き出してしまいました。
ギコとフサギコの罵声と、親子のすすり泣きが静かな住宅街を騒然とさせました。

199 名前:ナヒャ (yWVxXezQ) 投稿日:2004/11/01(月) 23:04 [ mJbDaQQg ]
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「じゃぁ、ミンナ、わかったかなぁ?」
小学校低学年のクラスを受け持つ先生が明るく言いました。
「著作権は大事なんだよ~。ミンナ、ちゃんと守りましょうね~」
「は~い」
TVのVTRでは、まだ母しぃとチビギコは泣きわめき、黒いスーツの男達の暴挙は終わっていませんでした。
「著作権を守らないとぉ、このビデオの子みたいにひどいコトになっちゃうからね~」
「は~い」

 完