アイドルおばさんと化け物王子(♀)。 2「アイドルおばさん、『化け物王子』と友達になる件。前編」

Last-modified: 2017-12-05 (火) 00:40:03

小説1-2 あ表紙3 ガチ完成.png

 ※この物語はあくまで2016年のアイカツスターズの世界のお話です。DCDの方とアニメの方の時系列を調整してるので時系列がちょっとずれてます。(しつこいようですが)マイキャラの設定上対立コンテンツの話が若干入っています。伏字にしますが敏感な方、そしてマイキャラの話が苦手な方は閲覧をお控えください。
またこの物語はアイカツっぽさはあまりありません。そして長いので前後編形式です。そして誠に勝手ながらタイトルの方戻すの辞めました。すみません…

 

 (流寧ちゃんなんであんなことしてるのか気になるなあ…… てか友達になってみたいけど、どうしたらいいんだろ……)

 雨が上がった梅雨時のどんよりとしたちょっと暑い夜、四ツ星学園が職員用に借り上げた学園側のマンションの一室で、無地のビビッドピンクが若干目に来るベッドに赤とピンクの中間のような刺激的なカラーの若干癖毛のぱっつんロングヘアーで赤とピンクの中間のような目の色がこれまた刺激的なすっぴんのお姉さん……? いや、おばさんがマゼンタピンクのちょっとセクシーなネグリジェ姿で仰向けになっていた。
眠そうな表情をしていたが考え事をしていたため目が冴えているのかなかなか眠れないアラサー一歩手前のおばさんの名前はMixA(ミカ)。
本名、出身地等非公開。四ツ星学園で午前中は事務員として働き、午後は「月の美組」の幹部補助員(半分生徒、半分職員扱い)として幹部の仕事の手伝いをしながらアイドルをしている。
なぜMixAが眠れないほど考え事をしているのかというと、それはウン時間前まで遡る。(あくまで超簡単に描くので詳しく知りたい方は「小説1」を見てください。(注)長いです)

 

 *超簡単なあらすじ*

 四ツ星学園で見回りをしていたMixAは美術準備室で「顔のない妖怪」と出会う…… がホラー好きの母親の影響でホラー耐性があり幽霊を見てみたいと思っていたMixAは怖がるどころか幽霊に出会えた喜びで嬉しそうにしていたところ「顔のない妖怪」の怒りを買ってしまう。
MixAは「顔のない妖怪」を怒らせてしまったお詫びに顔(・ω・)を描き、帰ろうとしたところ「顔のない妖怪」は泣き崩れてしまった。
「顔のない妖怪」を慰めているうちにMixAは「顔のない妖怪」の正体が自分の追っかけファンであり画家(美人画絵師)でもある四ツ星学園、鳥の劇組の弦田 流寧(ツルタ ルネ)だと知る。
MixAは流寧の幽霊のような立ち振る舞いや流寧の描いた絵を見て流寧に興味を抱き、もっと会話をしようとしたところ「時間切れ」になってしまう。すぐに帰らなくてはいけなかったMixAは流寧とまた会いたかった為流寧とまた会う約束を取り付けた。一連の出来事でMixAは流寧と友達になりたいという思いを抱いたのだが……

 

 (はぁ…… 学生の頃友達ちゃんと作っておけばよかった、考えても考えてもわからない)

 MixAは小さい頃から自由奔放で空気が読めず、マイペースだった為他人に合わせることを知らなかったからか人間関係が長続きしなかった。勿論友達も長続きしなかったため一般的な女の子にありがちな「グループ」というものには入れず、孤独?な日々を送っていたため無意識に人間関係そのものを諦めるようになっていたので友達の作り方を知らなかった…… というか忘れていた。

 (そういえば明日は収録だっけ、学園行かなくていい日だけど寝ないとまずいな……)

 明日は週1回のアイカツ!TVではない通常の放送局で四ツ星学園が単独スポンサーの大人向けアイカツ広報番組(深夜番組)「4☆(よつぼし)Night(ナイト)」の収録だった。
MixAは幹部補助員としての仕事の一環として「4☆Night」のほぼMCをしている…… というか番組は月に1回来る(番宣)ゲスト以外は(一応)MCであるMixAと「天の声」であるディレクター(兼プロデューサー)の声等で成り立っているのだが。 (「4☆Night」はスタッフが超少数精鋭&低予算のかなりゆるい番組である)
 明日は深夜番組の30分枠で流す通常のアイカツ広報番組「4☆Night みっくす!(通称 『みっくす!』)」とその放送終了後に動画サイトに投稿される1時間~2時間(こちらはほぼカットしない為時間は決まっていないらしい)の(数少ないMixAのファン向けのカオスな)動画「4☆Night えくすてんでっと!(通称 『えくすて!』)」を収録するので、朝から晩までテレビ局でお仕事である。「4☆Night」の収録だったことを思い出し寝なくてはいけないと思ったMixAは、あることを思いつく。

 (あ、せっかくだし「てんちゃん」に聞いちゃおうっと、「えくすて」の話のネタにもなりそうだし)

 MixAは「4☆Night」のディレクター(兼プロデューサー、天の声)である「てんちゃん」に「仲良くするための方法」を聞いてみることに決めた。するとMixAはちょっと安心したのか、疲れから来た眠気をようやく受け入れ、すっと眠りについた。

 

 ★一方…★

 こちらは四ツ星学園の寮の一室。壁にはプリ○ラ時代のMixAを描いた絵やスターライト学園の番組内で行われたMixAのライブのキャプチャ画像をかなり上質な紙でコピーしたもの等がいくつか飾ってあり、どれも高そうなシンプルな黒い漆塗りの額縁に収められていた。
二つ並んでいる机の左の机には付箋が沢山付けられたホラー関係の本や沢山使用した形跡のある勉強の為の参考書、使い古した難しそうな美術関連の教本がずらりと綺麗に整理され並んでおり、そこの机はライトが灯っていた。
そしてもう片方の右の机にはスターライト学園時代にMixAが1度だけライブを行った際の限定グッズがセンス良く配置されており(アザレアピンクと白、黒の幾何学柄がどぎつい)、限定グッズが置かれた中にMixAに直接サインしてもらったのであろうサイン色紙がガラスのフォトフレームのような物に入れられ鎮座している。
そしてその机の上には無地のビビッドピンクのタオルハンカチが綺麗に畳まれて置いてあった。
 消灯の時間になった為「さっぱりとしたバニラの香り」の残り香がほのかに甘く香る部屋の2段ベッドの上は使われている形跡もなく誰も寝ておらず、下には真っ黒な布団が敷いてあるのだが誰も寝ていなかった。  のだが……
 
 アト…… 10回…… 
 
 本だらけの机のライトだけの部屋で部屋着も長袖長ズボンといった真っ黒のフード付きのスウェット上下、そしてつやつやの黒髪のワンレングス(ナチュラルカールロング)におどろおどろしく口が裂けた人物がベットと机の間の空間の壁に90度になるように脚を付け上半身を上下に動かしている。どうやら腹筋をしているようだが小さく聞こえる低い声はなぜかくぐもっている。

 100回……。

 口の裂けた人物は腹筋が終わったのか、壁に付けていた脚を横に倒し床に横になった後起きあがりあぐらをかくと自分の顔を片手で抑えながらもう片手で後頭部を触り、何かをしている。
ほどなくすると後頭部からひものような物だらっと垂れ下がった。

 そして自分の顔を抑えていた手を動かすと口の裂けた顔が取れた。かと思うと口の裂けた顔の下から宝石のような目が美しい美人画のような凛とした男……? いや女の顔が出てきた。
どうやら女は「おどろおどろしい口の裂けた女性の絵が描いてある仮面」をしていたようで、梅雨時でちょっと暑いのにも関わらず長袖長ズボンの装いで仮面をして腹筋をしていたので顔にはさらっとした汗をかいていた。

 (腕立て50回、腹筋100回…… 今日も筋トレ終了。)

 女は先ほどまで仮面で隠していた顔を手で触った。顔を触った手には汗が付いていたのだが、女はその汗を見て納得がいかないような顔をしている。

 (「化け物」が汗をかいてどうするんだよ…… でも筋トレしないと「兄貴」に負けてしまうし、なにより……)

 頭を下げ、自分の体をじっと見ていた女の名は弦田 流寧(ツルタ ルネ)。頭を下げているためつやつやの黒髪で顔が隠れてしまい真っ黒に見えている様子からは性別等判断しづらいが鳥の劇組の中学1年生(女子)だ。真っ黒になってしまった流寧からはため息のようなものが聞こえる。
 ( ……考えてもしょうがない、ストレッチでもするか)
 流寧は髪の毛をさっと直すと、脚を正座のようにした後手を後ろに組み、深呼吸を数回。その後脚を変えない状態で四つん這いになりまた深呼吸を数回した。そして今度はうつぶせになり床に両手を付け息を吐きながらゆっくりと上体を反らした。

 そしてストレッチを終わらせると立ち上がり備え付けのクローゼットから高そうな黒いタオルを2枚出すと1枚で汗をかいた自分の顔や体を拭き、もう1枚で先ほどまで付けていた「口の裂けた女性の絵が描いてある仮面」に付いた「人間の汗」を丁寧に拭き、使用済みのタオルをクローゼットの中の段ボールに畳んでしまった。その後クローゼットの側に置いてある黒い漆塗りの大きめの箱を開けその中にあるいくつかある黒い袋のうちの一つに「口の裂けた女性の絵が描いてある仮面」を入れた後黒い箱に丁寧にしまう。その後MixAのファングッズ置き場と化した机の横にある段ボールから(……堂の天然水 非売品)とラベルが付いた常温のペットボトルを1つ取り出すとそれを立ったまま一気に飲み干す。

 

 水を飲み干した後流寧は本だらけの机の隣にある黒いゴミ箱に空になったペットボトルを入れたのち、本だらけの机の椅子に座り頬杖をしながら壁の額縁に収められているMixAの写真や絵を若干にやけながら見ているうちに、何かを思い出したのか不思議そうな顔をしだした。

 (そういえばMixAさん、どうして明後日も会ってくれるんだろう…… 「化け物」になる理由を言えなかったからか……?)

 まさかMixAが自分と友達になりたいと思っているとは思いもしない流寧はどうして明後日にまた会う約束を取り付けてくれたのか…… MixAがしてくれた約束を思い出し不思議に思っていた。なぜ自分が「化け物」になるのかという理由をMixAに最初聞かれた際には秘密と答えようと思っていたのだが、「追っかけをするほど好きなアイドル」がまた会う約束をしてくれたということはまた聞かれるのではとないかと思った流寧は2回も秘密と答えては失礼だと思ったからかどう説明すればいいのか考えていた。

 

 流寧はある時期から家族や使用人は勿論学校の先生やクラスメイトを脅かして怖がらせることばかりしており、クラスメイトから「化け物」と呼ばれるうちに流寧は自分が人を怖がらせる時や人を怖がらせる時の練習と称して「化け物」の姿に理解を示す家族や一部の使用人以外の他人の目に触れないように流寧の家の中等で日常的に妖怪等の恰好をする際の自分の姿を「化け物」と呼ぶ程人を怖がらせる事を好んでいた。

 ※小説1で「化け物」の姿を「お化け」と流寧が言っていたのは「大好きなアイドル」に出会えた喜びと脅かしてしまった罪悪感と怖がってくれなかった悔しさで若干錯乱していたからである※

 ちなみに流寧の人間関係はというと人見知りが激しく、美人画絵師の仕事以外では話すことが苦手で小さいころから元々絵を描くことが好きだったため一日中絵を描いていたためか友達と呼べる人物は勿論居なかった。但し心を開いた人間とは話せるようで、流寧はMixAに「大好きなアイドル」としては心を開いている様子。
ただたまたま流寧が居た小学校の意識が高かったのかいじめられることはなく、それどころか流寧は全く自覚していないが流寧には隠れファンの女子が居たのでハブられるどころか「2人で組む関連」では流寧と組むための争奪戦がいつも静かに繰り広げられていたり遠足等では隠れファンがグループに入れてくれるので友達と呼べる関係まではいかないが流寧の周りには大体誰かがおり、誰かいなくとも一人でずっと絵を描いていて孤独というものを感じたことがほとんどなく自分から友達を作るということを知らなかった……
というかそもそも流寧は友達という物について分かっていなかったのだ。

 (正直に言うか、話で怖がらせるか…… そういえば「化け物の正体」を見られたうえに怖がってくれなかった…… 明後日も脅かそうか、ククク……)

 MixAからの「なぜ自分が『化け物』になるのか」という質問の答えを考えているうちにMixAに「化け物の正体」をみられてしまったこと、そしてMixAが怖がってくれなかったという2つの悔しさからか負けず嫌いの「化け物」は「どうしたらMixAが怖がってくれるか」という事を考え始める。

 (無難に幽霊か…… いやそれじゃだめだ、ホラー耐性を打ち砕くためにはリアルを……)

 流寧はいつのまにか「どうしたらMixAが怖がってくれるか」という事を考えるようになっていたが、考えているうちにウン時間前の興奮の疲れからなのかあろうことか椅子に座ったまま眠ってしまった。

 

 ☆翌日…☆

 朝の7時。ビビッドピンクのベッドからむっくりと起きあがったMixAは目覚まし用のホットココアをさっと飲むと、ビビッドピンクのドレッサーに座り、1時間かけて化粧とヘアメイク(基本MixAは自分でヘアメイクをしている)を済ませると「黒い腕章のついた幹部服」に着替え、水筒用のハーブティー(西洋弟切草)を用意しながら朝食として「ライチの果実入りジャムをのせたヨーグルト」をもぐもぐと食べていた。

 (「てんちゃん」なら知ってるでしょ…… さすがに……)

 MixAは流寧と仲良くなるための方法は「てんちゃん」に聞けばいいや、と思いながらささっとヨーグルトを完食すると皿を洗い「ドーリーデビル」の玩具のチャームにリボン等を付け派手に加工したバックチャームが付いた学生鞄に水筒を入れると中身をさっとチェックし、忘れ物がないことを確認すると玄関に行き、学生用のシューズを履くと「エレガントアメジストトップス」の胸についているチャームを模したチャームが付いた鍵を自宅に掛け、町はずれのテレビ局まで電車で向かうためすぐ近くの駅まで歩くことにした。

 (晴れてよかったなー、ちょっと暑いけど気持ちいいかも)

 梅雨時の貴重な青空を見てちょっとほっとしたMixAは数分ほど歩いたのちに駅につき、アザレアピンクの定期入れを改札にかざして電車に乗る。そして電車に揺られたのち、テレビ局の最寄駅に着き、数分歩いたのちテレビ局へ到着。テレビ局の受付で許可証を見せて中に入った。

 

 MixAはまず自分の楽屋に行き学生鞄から「自分で選んだアザレアピンクの収録用のセットアップの部屋着」を出すとそれに着替え、さっとメイクを直すと楽屋に置いてあった「ビビッドピンクのスリッパ」を履くと、学生鞄を持ち「てんちゃん」が待つ会議室へ向かう。
そして「てんちゃん」が居る会議室のドアをノックし「おはようございまーす」と言いながらドアを開けるとそこには今時のお洒落なミルクティーベージュをシンプルに一つにまとめたMixAと同世代と思われるお洒落な動きやすい白いYシャツとジーンズ姿の女性他お揃いのコーデの女性3人、計4人が会議室のパイプ椅子に座って台本やB5サイズの黄色いノート……「ネタ帳」をテーブルの上に置き、打ち合わせでスタッフがつまんだりMixAの小腹を満たすために用意してあるのだろうお菓子や飲み物が用意してあるテーブルを囲んでいた。
ミルクティーベージュをシンプルに一つにまとめた髪のMixAと同世代と思われるYシャツとジーンズ姿の女性…… 「てんちゃん」はMixAが会議室に来たことに気付くと静かにパイプ椅子から立ち上がりMixAに向かいお辞儀をすると笑顔で小さく手を振るとそれに呼応するように他の3人もMixAに向かい「おはようございます」とお辞儀をする。

 「MixAさん、おはよう」

 「おはようございます!てんちゃん、かめちゃん(カメラさん)、おとちゃん(音声さん)、アシちゃん(ADさん)」

 MixAは「てんちゃん」達4人に向かいお辞儀をすると空いていた「てんちゃん」の隣のパイプいすに座り、持っていた学生鞄から中に入っている「4☆Night 台本入れ」と描いてある……  もといデザインされているクリアファイルとピンク系の幾何学ハート柄にデコレーションを施したペンケースと水筒を取り出す。
 (「4☆Night」の台本は大体プリント数枚ぐらいしかなく、ざっくりとしたトークテーマや段取り等は台本には書いてあるがセリフはない。ぶっちゃけMixAのマイペースでKYな発言とそれに対する「てんちゃん」のツッコミで成り立っている。)

 MixAは左手にピンク系のグラデーションデコが綺麗なシャーペンを持つと「てんちゃん」に「4☆Night みっくす!」の詳しい企画概要について聞いた。
(ちなみにMixAは「てんちゃん」とは同学年なのだが、仕事の関係では「てんちゃん」の方が上司の為、そこはきっちりと敬語で会話する)

 「今日の『みっくす!』って春フェスまとめですよね?」

 「そうそう…… MixAさん春フェス参加してみてどうだった?」

 「あはは…… まさかあの成績だとは思わなかったです、応援してくれたファンの皆様には本当に感謝しないと」

 「確かにファンのお陰でもあるけど…… 体調よくて暇なときに熱唱しながら走ってる成果もあったんじゃない?」

 春フェスの好成績はファンのおかげだと思ったMixAは嬉しそうにしている。それを見た「てんちゃん」はMixAが手が空いて体力に余裕があるときに学園のグラウンドで『洋楽』を熱唱しながら走りこんでいることを以前『えくすて!』で言っていたのを思い出し、春フェスでの成績はMixAの努力の甲斐だと思いMixAを誉めた。

 「あはは…… だって走りながらユーロビート聞いてると歌いたくなっちゃいますもん、歌うときはいつだって本気で歌った方が気持ちいいですし」

「てんちゃん」に褒められちょっと嬉しそうなMixAはちょっと照れていた。MixAが照れているところを見て(やれやれ…… ほめ過ぎたかも)と思った「てんちゃん」は冷静なツッコミを返す。

 「こら、すぐ調子に乗らない!」

 「す、すいません……」

 「で、『みっくす!』は春フェスの話だけで30分終わっちゃいそうだからいいとして、『えくすて』は何か話したいことってあったりする?」

 「そうそう…… その件なんですけどあたし実は友達になりたい人がいるんですけど、どうしたらいいか全く分からなくて」

 MixAは「てんちゃん」に話したかったこと「(流寧と友達になりたいが)仲よくする方法がわからない(ためどうすればいいか全くわからないこと)」について話した。それを聞いた「てんちゃん」はMixAがOFFでは他人に関心をあまり抱かないことを2か月ほど一緒に仕事をしてなんとなくだが理解していたため、そういうことを言うMixAが不思議に思ったようでどうしてそんなことをいうのか気になったらしくMixAが友達になりたい人がどんな人なのか尋ねる。

 「MixAさんがそんなこと言うなんて珍しいじゃん、その話超気になる。どんな子なの?」
 「うーーん、なんかすごくて、大人っぽくて…… 甘い香りがして……」
 MixAはさすがに個人名はまずいと思うし、わかりやすい特徴言っちゃだめだなあと思ったらしく、流寧に関しての印象をかなりオブラートに包んで「てんちゃん」に話す。

 「大人っぽいって、MixAさん大人じゃん」

 「あはは、そういうことじゃなくて、あたしより落ち着いてて、なんて言うんですかね…… 黒が似合いそう的な感じで」

 「なにそれ…… 言いたいことはわからなくもないけどさ……」

 MixAさんより精神的に落ち着いてる子って結構多いような…… と思った「てんちゃん」はちょっと呆れていたが、他人に関心をあまり興味を抱かないMixAが友達になりたいという気持ちがどうやら嘘ではなさそうな事を友達になりたい人の特徴をMixAなりの表現方法だがちゃんと表現している…… 他人に関心を抱いてることを理解した「てんちゃん」はMixAの友達作りを応援するため、そしてMixAのファンに「超マイペースで自由奔放なアイドルおばさん」が他人に関心を抱き、さらに友達になりたいと思って努力するところを見てほしいと思った為「えくすて!」で臨時でなにか企画をすることに決めた「てんちゃん」は「ネタ帳」に何かを書くとMixAに自信ありげに告げた。

 「まあとにかく、面白そうだし『えくすて!』でそれしゃべろう!その質問の答えちゃんと考えとくから」

 「えへへ、ありがとうございます」

 「じゃあさっそくさっさと『みっくす!』撮ろう、『えくすて!』面白くなりそうだし。みんな行くよーー、今日もよろしくお願いします!」

 『よろしくお願いします!』

 MixAとスタッフ三人の『よろしくお願いします!』を聞いた「てんちゃん」はささっと打ち合わせを閉めると、それにMixA含め全員が呼応し持ち物を全員持った。そしてみな足並みをそろえ「かなり小さいスタジオ(普通のスタジオの半分ぐらいの大きさ。ちなみにセットは予算があまりない為テーブルとソファ、そしてちょっとシンプルな女子の部屋…… に加工するためのクロマキー用の緑色の布が敷いてあるだけ)」に向かった。MixAはちょっと遅れてスタッフの列のちょっと後ろをマイペースにのんびり歩いているが……

 「MixAさんのんびりしすぎ」

 「すいません……」

「てんちゃん」にマイペースさを突っ込まれたMixAは、ようやく「てんちゃん」含めスタッフと歩幅を合わせて「かなり小さいスタジオ」へ向かった。

 

 ☆「かなり小さいスタジオ」に到着。全員持ち場について……☆

 MixAはセットの中に置いてある地味に気持ちよさそうな赤いソファにあまり姿勢が悪くならない程度に座りそして「おとちゃん」にピンマイクを付けてもらった。
ソファの向かいの白いテーブルにはMixAが飽きないためなのか、「てんちゃん」が用意した「今日のおやつ」の真っ赤なハーブティー(ローズ系のブレンド)のティーパックとそれを入れる為のセット、美味しそうな醤油のお煎餅が置いてある(実際『みっくす!』や『えくすて!』ではMixAが飽きそうな感じの時に「てんちゃん」が食べるのを勧めたりする)。

 「いつも通りの感じでいいからね、本番行くよーー はい5秒前」

「てんちゃん」はMixAの向かいあった位置にあるちょっと大きめのテレビ撮影用のカメラを見ている「かめちゃん」の隣に地べたで座り、インカムを付けると指でカウントダウンをする。
「収録開始」である。

 5、4、3、2……

 「はーい、今日も始まりました!『4☆Night みっくす!』、今日もあたし『補助員のアイドルおばさん』MixAと」

 「実はMixAさんとは年齢がアレなDの『てんちゃん』がお送りしまーーす」

 「ちょっ、年齢のこと言わないで下さいよ…… 隠してないけどあんまり言いたくないんだから」

 「ごめんごめん…… で、今日の特集は『春フェスまとめ、「補助員のアイドルおばさん、春フェス体験記」』ってことで、MixAさん参加してみてどうだった?」

 「んっと…… 結構面白かったです、着たかった服着れたし…… なによりファンの皆様のお陰で結構いい成績をいただけたので感謝してます、応援して頂きありがとうございました!」

 「てんちゃん」から春フェスの話題を振られたMixAは春フェスの好成績をファンに伝えると、にっこりと感謝の気持ちを伝えた後自分が座っていた赤いソファから立ち上がり頭を深々と下げた。それを向かい側で見ていた「てんちゃん」は立ちあがり「かめちゃん」が見ている大き目のテレビ撮影用のカメラを覗き(お辞儀ちゃんと映ってるぞ)と思いつつファンにMixAが赤いソファに座ったのを見計らい「かめちゃん」の隣に戻るとファンに感謝を伝えたMixAを褒めつつ、予めMixAに聞くことを伝えていた春フェスの感想を聞く。

 「MixAさん偉いなあ…… じゃあさっそく春フェスについてMixAさん教えてくれる?」

 「はい! 春フェスは超面白かったです!」

 「いや、そうじゃなくて……」

 

小説1-2(あ)挿絵.png

 こんな感じで『みっくす!』の収録を進め、大体1時間ぐらい経過(カットした部分の一部は『えくすて!』で放送)……

 「ってことで、そろそろ『みっくす!』今週は終了でーーす」

 「マジですか!? 早いなあ……」

 MixAが1時間ぐらいトークテーマに沿って話したりたまにKY発言をしてしまい「てんちゃん」に突っ込まれたり「てんちゃん」の隣に置いてある液晶モニタでVTRを見たりお煎餅を食べたりハーブティーを飲んでいるうちに収録が終わりかけになっていた。

 「来週は『アイカツ★アイランド』の詳細が分かってきたから『アイカツ★アイランド』の話がメインだから」

 「お、『アイカツ★アイランド』かあ…… 『4☆Night』は何かするんですか?」

 「それは来週やるから」

 「はーーい、わかりました」

 え、ひょっとして何かやるの…… と今知ったMixAは来週もいつも通りマイペースに、それでいてちょっと頑張ろうと気合いをちょっと入れた。

 ※「てんちゃん」はMixAのマイペースでKYなところをできるだけ自然に番組で見せたいため、大事なことを直前まで言わないことが多い※

 「ってなわけで今週の『4☆Night みっくす!』はこれにて終了! 今回も『今日のおやつ』用意しちゃったDの「てんちゃん」と」

 「『補助員のアイドルおばさん』MixAがお送りしました!おやつ美味しかったです、ローズブレンドも美味しかった…… 来週もローズブレンドがいいですね、体を冷やしたくないのでホットで飲みたいですねーー」

 「だめだめ、来週は夏らしく氷たっぷりのシトラス系のフルーツジュースでもう決めたから。ローズブレンド高いんだからね」

 「ジュースかあ…… たまにはいいかもですね、あ、放送終了後に動画サイトにUPされる『4☆Night えくすてんでっと!』通称『えくすて!』も見てくださいねー」

 「てなわけで『えくすて!』も来週の『4☆Night みっくす!』も見てね! あ、学生のみんなは深夜だし寝なくちゃだめだぞ。公式サイトでは『えくすて!』いつでも見れるからね。 あと『今日のおやつ』の詳細も見れるよ。てなわけで強制終了、おやすみなさい」

 「マジ!?みんなおやすみなさい、また来週」

 そういうとMixAはにっこりしつつ小さくカメラに向かって手を振った。収録終了である。

 

 「はい、オッケーー!『みっくす!』収録終了。確認おわったらランチにしよ、MixAさん今日は何食べたいか決めといてね」

「てんちゃん」はホッとした顔をすると、隣にある収録中にVTRを映していたちょっと大きめの液晶モニタで「かめちゃん」が撮った収録の映像をチェックし始める。

 「今日は…… 暑いから冷やし中華がいいですね、お腹すいたので大盛りで」

 「かなり小さいスタジオ」はクーラーでちょうどいい温度になっていたのだが外がちょっと暑かったので冷やし中華が食べたかったMixAはそう言うと、「てんちゃん」が見ている液晶モニタを覗きこんだ。

 「オッケーー、冷やし中華ね。 ……で、MixAさんが友達になりたいって子どんな子か、もうちょっと詳しく教えてよ」

 「えっ……」

 MixAにはOFFの友達がいないことをなんとなくだが知っておりなんとかしてあげたいという気持ちもあった「てんちゃん」はにこやかだがちょっと真剣そうな表情で「みっくす!」の映像を見ながらMixAに質問する。どうやら「てんちゃん」は「えくすて!」の企画について考えている様子だ。
「てんちゃん」に『MixAさんがお友達になりたい子』のことをもっと詳しく教えてほしいと言われちょっと驚いていたMixAにこう続ける。

 「だって、どんな子か分からないと私もどう質問に答えればいいか分からないし。もちろん他の人には言わないから。みんなも言っちゃだめだからね。」

 『もちろんです!』

 「てんちゃん」からMixAの話を散々聴いていたからなのか「かめちゃん」も「おとちゃん」も「アシちゃん」もMixAのOFFをなんとかしたい気持ちがあるのか、それぞれの仕事をしながら聞き耳をたてつつそう言った。

 「うーん…… じゃあ、言っていいのなら…… 本当に他の人には言わないでもらえますか?」

 空気が読むことが苦手なMixAもさすがに何かを察したのか、流寧のことを言ってもいいのか、そして他人に流寧のことを言わないかみんなに念を押した。

 「大丈夫! 個人が特定されるようなことは言わないから。それにひょっとしたら見てるかもしれないでしょ?ふざけてたら、友達になりたいって子が嫌な気持ちになるかもしれないし。私の仕事はMixAさん含め一緒に仕事する人も視聴者も楽しい気持ちにさせることだから、MixAさんもその友達になりたい子も楽しい気持ちにさせたいんだ」

 いつも『えくすて!』でふざけた話ばかりの「てんちゃん」の顔がちょっとだけ「職人」の顔になっていた。その顔を見たMixAは「てんちゃん」にもう少しだけ、でも特定されない程度に流寧の話をすることにした。
 
 「わかりました。言いますね。その子は…… あたしのファンなんです。それもプリ●ラ時代からの追っかけ」

 「え!? マジで」

 「マジです」
 
 「職人」の顔になっていた「てんちゃん」はMixAの発言を聞いた途端驚いた顔になっていた。他の3人もびっくりしていたのが見えた。

 「……ってことはこの番組、絶対見てるよね、『えくすて!』のメールコーナーに送ってる可能性もあるし」

 「言われてみればそうですね…… あたしのファンって言うほどいないから、絞られちゃうと思いますし」

 「そっか…… なら尚更真剣に答えたいね、『えくすて!』でその話改めてするときまでちゃんと考えておくから。真剣に答えれば気持ちは伝わると思うし」

 「ありがとうございます、なんかすいません……」

 「いいよ、友達作り頑張んなよ。一人でふらふら生きてきたMixAさんには結構難しいと思うから」

 MixAは真剣に考えてくれる「てんちゃん」に申し訳なさを感じお礼を言うと、「てんちゃん」はいつのまにか先ほどのにこやかでちょっと真剣な顔にもどっていた。

 「さーて、半分ぐらい見終わったし、「アシちゃん」、冷やし中華大盛り、5人前頼んでくれる?1個だけ辛子なしにしてね。MixAさん辛子苦手でしょ」

 「わかりました。冷やし中華大盛り4つ、冷やし中華大盛り辛子なし1つですね」

「アシちゃん」がそう言って出前を取る電話をするために「かなり小さいスタジオ」の端に向かった頃にはいつのまにかちょっとゆるい空気に戻っていた。そして「てんちゃん」は「えくすて!」のネタの参考にしたいのかにこやかでちょっと真剣な顔を崩さずに「てんちゃん」の隣でじーっと液晶モニタを見ているMixAに質問をする。

 「あ、MixAさん。一つだけ質問していい? その子とは会って話したの?」

 「実は昨日初めて会って少しお話ししたんですよ、それでその子と友達になりたいと思ったんですけど…… 」

 「なるほどね…… 教えてくれてありがとう、企画の参考にするから」

 「てんちゃん」はMixAの発言を聞くとまた液晶モニタをにこやかでちょっと真剣な顔で見ながら液晶モニタの下に置いていた「ネタ帳」に何かを書き始めた。

 

 ☆その後「みっくす!」の映像の確認は終了し、会議室に戻りみんなで美味しくランチの冷やし中華をいただき全員完食。MixAは食べるのもマイペースなので一番最後に完食した。
MixAが美味しそうにのんびりと食べている隣で「てんちゃん」は「ネタ帳」に何かを書いたりスタッフに「ネタ帳」を見せ何か話していたりしていた様子☆

 「さーて、ランチも全員食べ終わったみたいだし、『えくすて!』撮りますか。午後もよろしくお願いします!」

 『よろしくお願いします!』

 MixAとスタッフ三人の『よろしくお願いします!』を午後も聞いた「てんちゃん」はランチを閉めるとそれにMixA含め全員が呼応し持ち物を全員持ち、そしてみな足並みをそろえ午後も「かなり小さいスタジオ」に向かう。MixAは満腹だったのか午後もまたちょっと遅れてスタッフの列の後ろをマイペースにのんびり歩いているが……

 「MixAさん午後ものんびりしすぎ」

 「すみません……」

 午後も「てんちゃん」にマイペースさを突っ込まれたMixAは、ようやく「てんちゃん」含めスタッフと歩幅を合わせて「かなり小さいスタジオ」へ向かった。

 

 ☆そして『えくすて!』撮影終了。『えくすて!』の収録内容についての話は……☆

 「はいオッケーー!『えくすて!』も収録終了! 今回は2時間ぐらいの『えくすて!』になりそうかな」

 「結構長いですね……」

 「でも内容はぎっしりだから、視聴者は喜んでくれると思うよ。もちろん『MixAさんが友達になりたい子』も。」

 「かなり小さいスタジオ」の「かめちゃん」の隣で地べたに座っている「てんちゃん」は今回の『えくすて!』の出来に自信満々なのかちょっと嬉しそうにしていた。……がセットの中の赤いソファに座っているMixAは『えくすて!』収録中に「てんちゃん」が用意した臨時の企画のことがまだ若干不安なようで首をかしげながらこう言った。

 「だといいんですけどね…… 」

 「『MixAさんが友達になりたい子』はMixAさんの追っかけなんでしょ?MixAさんのことを沢山見てきてると思うから、びっくりすると思うけど喜んでくれると思うよ」

 「そうなんですか……」

 「で、その子とは次いつ会うの?」

 「明日です。放送には間に合わないですけど、「てんちゃん」から今日教わったことさっそくやってみます」

 「明日かあ…… 確かに間に合わないね、でも今日教えたことをやればうまくいくはず、頑張って! てなわけで、お疲れ様でした!」

 『お疲れ様でした!』

 MixAとスタッフ三人の『お疲れ様でした!』を聞いた「てんちゃん」は収録を閉めると赤いソファでマイペースにローズブレンドの残りを飲んでいるMixAに期待しているような顔で
声をかける。

 「じゃあね、MixAさん。友達になりたい子とどうなったか来週の『台本(P○Fで送られる)』届いたときに送るメールで教えてね、金曜日には送るから」

 「わかりました!頑張ります。ではお先します、お疲れ様でした」

※話の時系列を簡単に説明すると、1でMixAが流寧と出会ったのは火曜日、2で収録をしているのが水曜日、流寧と会う約束をしていたのが木曜日、『みっくす!』の放送日が土曜日(深夜)』※

 そう言ったMixAはローズブレンドを飲み終わるとソファから立ち上がり「てんちゃん」に改めて軽く会釈をして、その後「かめちゃん」と「おとちゃん」、「アシちゃん」に挨拶をした。「友達の作りかた」がなんとなくだが分かったMixAは嬉しそうに、そしてわくわくしながら楽屋に向かった。

 

 ☆そしてMixAは楽屋で「黒い腕章のついた幹部服」に着替え、テレビ局を後にし、自宅へ戻った。そしていよいよ「木曜日」を迎える☆

 「よっしゃーー、仕事超早く終わった」

 MixAは四ツ星学園の職員室でいつも通りの若干濃い化粧に仕事用の白い腕をまくった長袖のブラウスに黒いタイトスカートにストッキングと黒いシンプルなハイヒール、そして(度がきつい)ピンクの金属フレームがキラキラ可愛らしいメガネという装いで午前の事務仕事をしていた。朝から流寧と友達になれるのかという少しの不安と流寧と何を話そうか楽しみな気持ちで頭がいっぱいだったのか早く仕事を終わらせたい気持ちが事務仕事をいつもよりやる気にしてくれたようでいつもより正確に、そして早く事務仕事が終わってMixAは思わず座りながら体を伸ばし嬉しそうにしていた。

 「MixAさんなんか嬉しそうですね、何かお仕事でいいことありました?」

 「へへへ…… ないしょです。あ、男じゃないですよ? では部長に確認もらってきますね」

 隣に座っている事務員のお姉さんに話しかけられたMixAはにやにやしながら答えていた(確かに流寧は男っぽいだけで男ではないのだが)。 そしてMixAは事務担当の部長に仕事が終わったことを伝え、やっていた仕事で治すところがないか確認をしてもらう。どうやら治すところはどこもなかったようで、部長から「今日は仕事やけに早いね…… アイカツに行っていいよ」と告げられた。そしてMixAは自分の職員用のデスクに戻り幹部から仕事やアイカツについてメールが届いていないかチェックすると、職員用のデスクトップPCの電源を落とし、「学生鞄」を持つと自分の周りで仕事をしている事務員に向かい、「すいません、お先します。お疲れ様でした」と頭を下げた。

 その後更衣室へ向かい、「幹部補助員の装い」に着替えると食堂に向かい少し早目の昼食をとった(ちなみに今日のランチで食べたものは「ご飯を大盛りにしてもらったおから入りハンバーグ定食」)。

 昼食を済ませたMixAは食堂で左利き用のビビッドピンクの手帳型スマホケースを付けたピンク色のスマホを開き、メールをチェックしていた。

 (アイカツ!モバイルが鳴らないってことは見回りは幹部がやるからいいっぽいしメール見た感じ仕事もなさそうだし、15時まで充分時間ある…… 走り込みしますか、何話そうか考えたいし)

 そう言うとMixAはまた更衣室に戻り、「パープルの学生向けジャージ」に着替えた。梅雨時の貴重な晴れ間の日焼けが嫌なのか、顔等には日焼け止めのスプレーを付け若干暑いのにも関わらず上下長袖長ズボンのジャージを着ていた。そしてビビッドピンクの音楽プレイヤーをジャージのパンツのポケットに入れランニング用のイヤホンを片耳だけにはめると、今日は体力に余裕があるのか学園の周りを周りの迷惑にならない程度に気合を入れ歌いながら走り出した(某日本一CDを出しているコンピレーションアルバムの楽曲)。
流寧と何を話すか考えつつ歌いながら走っているMixAはどことなく楽しそうにしていた。

 

 ★その頃……★

 (ククク…… 今日こそ、MixAさんの恐怖に慄いた顔を見たい……)

 「さっぱりとしたバニラの香り」のお香が甘く香る四ツ星学園の美術準備室はカーテンと窓が僅かながら空いており梅雨時の貴重な晴れ間の自然の光がいくつか置いてある美人画にスポットライトを当てていた。
そして真ん中にポツンとあるちょっと大きめの机の上には父親が経営している化粧品会社の参考商品であるカラフルなドーランやボディペイント用の絵の具と絵筆、筆洗い用の水入りバケツにパレット、そして黒い大きめの鏡といったいかにも顔に絵でも描くのかと言わんばかりの道具が置いてある。その机の上では四ツ星学園の学生服に身を包んだ黒髪の人物…… 流寧が椅子に座り制服が汚れないようになのか、使い捨ての食事用ナプキンのようなものを首につけ、ワンレングスの髪をピンで留め顔に何かを描いている。

 (今日はこの顔を仮面の代わりに…… ククク……)

 流寧は今日は珍しく仮面ではなくいつも仮面の下で鳴りを潜めている素顔を自らの手で「化け物の顔」にしていた。いつも仮面等で顔を隠した状態で「化け物」になっているが自らの顔に絵を描く作業を下絵をあまりせず行っており、かなり手馴れている様子から素顔を「化け物の顔」にして脅かすことの回数も意外とこなしているようだ。
「追っかけをするほど好きなアイドルの恐怖に慄いた顔が見たい気持ち」からかブラックオパールを思わせる目からは光が消え、狂気混じりの笑顔で「作品」にしわができないように笑いをこらえている「薄橙の仮面?」には高そうな筆に赤い絵の具を付け彩色している様子。

 (あとはどうやって脅かそうか…… ん……?)

 あらまし「化け物の顔」になった流寧の耳に「聞き覚えのある歌声」がかすかだが聞こえた。歌声に誘われた流寧は窓の外から「化け物の顔」が見えないように壁伝いに歩き美術準備室の窓に向かい、窓ごしに静かにしゃがんだ。聞き耳をそばだてると外からは楽しそうに誰かに話しかけるような歌声が聞こえる。歌声を聴いているうちにまるで自分に話しかけられているかような気持ちになった「化け物」の顔には僅かだが目に光が戻り、笑顔が浮かび上がっていた。

 (やめてくださいよMixAさん…… 「人間」に戻ってしまうではないですか……)

 歌声が聞こえなくなった頃にはいつのまにか「化け物」の心の中に「人間」の…… 流寧の気持ちが若干だが戻っていた…… が

 (MixAさんの歌を聞いてますます恐怖に慄いた顔が見たくなりました…… 今日こそ怖がって頂きます…… ククク……)

 話しかけるような歌声を聞き、負けず嫌いの心に火がついてしまった流寧は、また壁伝いに歩きさきほどまで座っていた大き目の机に戻り、「化け物」に戻りながら「薄橙の仮面?」に描いた「作品」を仕上げ始めた。

 

 ☆そしてMixAは学園内を1周以上は走り、更衣室に行き「黒い腕章付きの幹部服」に着替えた……☆

 (走りすぎたかも…… 明日朝起きたら筋肉痛とか嫌だなあ、薬塗っておいたけど大丈夫かな)

 流寧と何を話すか考えながら歌っているうちにいつのまにかCD1枚ほど(70分ぐらい)走ってしまったMixAはメイク直しを済ませ幹部服に着替えた後もちょっと息が乱れていた(なんやかんやでおばさんですから)
喉の渇きを潤すため用意しておいた麦茶(ハーブティーでは体から出た塩分を補えない為)を飲み、筋肉痛防止のために「フローラルの香りの塗り薬」を軽くとはいえ塗ったからかフローラルな湿布のような香りを放ちながら流寧と約束をしていた15時前なので美術準備室へ向かった。

 (流寧ちゃんと仲良くなれるかな、「てんちゃん」から教わったことちゃんとやらなくちゃ…… あっ、「あの事」も聞いてみようかなーー)

 そう考えながらMixAは美術準備室のドアを軽く叩くと、中から「どうぞ」という声がする。男性っぽい声からするにどうやら流寧の声のようだ。流寧の声を確認したMixAがドアを開けた先には「さっぱりとしたバニラの香り」が甘く濃厚に香っており、さらに流寧はMixAが来るまでなにか作品を仕上げていたのか、顔料の香りもほのかに感じる。そして流寧が真ん中にポツンとあるちょっと大きめの机に背を向けて座っていた。後ろ向いちゃって…… どうしたのかなと思いつつMixAは流寧に明るく挨拶をする。

 「お、流寧ちゃんこんにちは!」

 「あ、MixAさん、こんにちは……」

 「ん? 元気ないじゃん、どうしたの? 後ろ向いちゃって」

 「あの…… 実は、怪我をしてしまいまして」

 「マジ? 大丈夫? どこ怪我したの? 手当てちゃんとした?」

 流寧が怪我をしていることを心配しているMixAからの質問に答えるために黒髪をさっと翻しながら振り向いた流寧の顔は「化け物」になっていた。

 
 ……後編へ続く(・ω・)