中身 氏_red eyes_第28話

Last-modified: 2010-02-15 (月) 03:38:54

四つに分かれた戦いの中で、一番初めに両者がぶつかり合ったのはアスラン同士の戦いだった。
ナイトジャスティスとジャスティスフリーダムが、高速で動き回りながら鍔迫り合いを繰り返す。

 

偽物の割には良く付いてくるな。いや、これはカーボンヒューマンの技術を褒めるべきか
「戯言を!」
出力ではナイトジャスティスが勝っているものの、小回りの面ではジャスティスフリーダムに劣る。
その小回りの良さを利用して、ジャスティスフリーダムは一撃離脱を繰り返していた。
「貴様が本物だと言うなら、カガリはどうした?メイリンは!?」
お前こそ何を言っている。カガリは政治を選んだし、メイリンとは反りが合わなかった、それだけだ。
 今の俺は一人だ!!
メサイア戦没後の記憶をラクスに造られた記憶で穴埋めしているなら、
何所かに穴があるかと踏んだアスランが言葉のジャブを放つ。
しかしそれは、クローンアスランを多少なりとも怒らせた。
感情が表に出たのか、今までの正確さとは違う乱暴な斬撃がナイトジャスティスを襲う。
トツカノツルギで応戦するが、防がれたと見るやジャスティスフリーダムは直ぐに離脱する。
離れる敵機にガトリング砲で追い撃ちをかけるものの、中遠距離を捨てている機体にはそうそう当たらない。
ぶつ切りのビームを避けきると、すかさず反転してきて斬撃を仕掛けてくる。

 

面倒な相手だ。アスランは素直にそう思った。
キラもシンも、敵のタイプが変わっても自分の戦い方は変えない。
しかし、アスランは敵によって小まめに戦い方を変える。分野に対して特別長けた能力は無くとも、
全ての分野で平均的に高い能力を誇るアスランだからこそ出来る戦い方と言えた。
自分では普通にやっていた事だが、相手にしてみて初めてその厄介さが分かる。
「くっ、何とかあそこまで・・・!」
ジャスティスフリーダムの動きに翻弄されながらも、アスランはある目的の為に動いていた。
目指すのはプラント周辺の宙域の一部にある、小惑星群。
艦船の往来の為、プラント周辺の宙域は綺麗に掃除されている。
しかし、鉱物資源を手に入れる為、意図的に小惑星群が残されている場所があるのだ。
小惑星群の中で戦闘出来れば、ジャスティスフリーダムの動きをある程度制限する事が出来る。

 

そんなに小惑星群に入りたいか?
「なっ!?」
何合目になるか分からない斬撃を捌いた時、
ジャスティスフリーダムからこちらの意図を読み切ったと嗤うクローンアスランの声が届く。
図星を突かれて一瞬動きが止まったナイトジャスティスに、
ジャスティスフリーダムから分離したリフターが体当たりをかけてきた。
咄嗟にビームシールドを張って防ぐが、MS一機を乗せてまだ余る推力までは殺せず、
ナイトジャスティスの巨体が軽々と吹き飛ばされる。
やっとリフターを振り払って機体に制動をかけ、機体が停止した場所は
アスランにとって不可解な場所だった。
「ここは小惑星群の中か?」
ナイトジャスティスが停止した場所は、小惑星群のただ中だった。相手はこちらの意図に気付いていた筈だ。
だったら何故?リフターが帰って行った方向にナイトジャスティスを構えさせる。
小惑星群内部は資源を採掘し尽くした岩石が多数浮遊していて視界が悪い。
しかし、それは向こうも同じ筈だ。
「何処だ・・・何処にいる」
緊張で乾いた唇を舐めながら、辺りに気を張る。
小惑星群の中でも、先程と同様の激しい攻撃を仕掛けてくるならやりやすかったのだが、
どうやら戦術を変えてきた様だ。
完全に狩られる側に回っているこの状況を打開しなければならない。
ナイトジャスティスの大火力で辺りの岩石を破壊しようかとも考えるが、そ
れでは先程と変わらない戦闘が再開するだけである。

 

カーボンヒューマンは本物と同じ能力と聞いていたが・・・
突然通信に自分の声が届く。それと同時に、前方からビームブーメランが岩石の間を縫う様に飛来した。
ナイトジャスティスを正確に狙ったそれを、上に跳んで回避する。
これは囮だ。長年の経験が、アスランにそう判断させる。
本体はブーメランが来た方向とは別の場所から攻撃してくる。
そう思考しながら辺りを見渡すと、視界の端にジャスティスフリーダムが装備していた実体シールドが映る。
「迂闊な、そこだ!」
岩石から覗いたそれを、ビームガトリング砲で撃ち抜いた。
無論、それだけでシールドを破壊出来ると思っての攻撃では無い。
ジャスティスフリーダムの次なる攻撃を出鼻を挫く為の物だ。しかしアスランの予測に反して、
シールドはビームを受け止めるでも隠れるでも無く、受けたビームの勢いそのままに力無く流れて行く。
「まさかあれも!?」
気付いた時には遅かった。
真上から、ビームサーベルを振り上げたジャスティスフリーダムが急降下してくる。
「させるか!」
咄嗟にナイトジャスティスを後退させてそれを回避しようとするが、
振り下ろされたビームサーベルが左足の脛に施された追加装甲を削った。
しかし、それだけでジャスティスフリーダムの攻撃は終わらない。
先程飛来したビームブーメランが、今度は後方から飛来する。
回避が間に合わず肩に背負った高出力ビーム砲が斬り飛ばされた。
「この程度!!」
それに構わずトツカノツルギを振るうが、ジャスティスフリーダムは向かってくる愚を犯さず
そのまま後退する。
弱過ぎるな。その程度で俺のコピーを名乗るなど・・・
自分の声がアスランを嘲る。
機体もお粗末だ。俺に重MSを宛がうなんて、誰が考案したのか

 

そもそも、ナイトジャスティスは多数の敵と戦い続ける為の装備だ。
カガリを守るには、強敵との個対個より、多数を相手にする方が重要だと考えた結果であった。
それに、現オーブ軍中佐がこのクーデターに参加しているという事実を隠蔽する為の物でもある。
SOCOMとラクス達に正体を知られてしまっているとはいえ、世論を左右する大多数の一般人に
その正体を知られるのは不味い。
これだけ大規模な戦闘だ。世界の不特定多数の目が向けられていると考えて良い。
もしそのどれかの目に触れる事があれば、下手をすれば国際問題になる可能性もある。
散々迷惑を掛けてきたのだ。これ以上カガリに迷惑は掛けられない。
その為、ナイトジャスティスの中に隠されたIジャスティスを晒す訳にはいかなかった。

 

「お前には分からないだろうが、俺は守る者の為にこの機体に乗っているんだ!
 誰かに強要されたり、操作されている訳じゃない!」
お前はそう思わされているんだ!だから、俺と来い。
 ラクスなら、お前達の身の振り方だって、何とかしてくれる筈だ
ジャスティスフリーダムが手を差し伸べてくる。
慈悲のつもりでいるその手が、何故か異様に怒りを駆りたてた。
ナイトジャスティスがその手を振り払い、代わりにビームガトリング砲をジャスティスフリーダムに向けた。
「今なら良く分かる。シンが、本当の意味で俺達の手を取らなかった理由が。
 お前達は正しくて、強引で、自分の正義を疑う事もしない。偽善の塊なんだ。
 違和感なんて言葉は生温い、怖気が走るんだ、お前達は」
この、わからず屋が!・・・そこまで言うなら仕方無い。次で、一思いにコクピットを焼いてやる
アスランの、過去の自分に向けた強烈な言葉の連続に、
説得を諦めたジャスティスフリーダムが後退して小惑星群の中に消えた。

 

「次で、か。俺もキラが心配だからな。早い方が助かるよ」
再びトツカノツルギを構え直したナイトジャスティスが、辺り一面岩石しか見えない宙域を睨む。
小惑星群の決闘は、終わりを迎えようとしていた。

 
 
 

「まさか、こんなに力の差があったなんて・・・」
『アンタの彼氏は嘘吐きだね。なんだいあの強さは』
ルナマリアと黒い三連星の前に悠然と佇む白い機体は、怒りに狂った堕天使といった所か。
燃える様な光の翼を背負い、右手に長距離砲、左手にアロンダイトを保持するその姿には、
一発の弾痕も見受けられない。
対するルナマリア達は、致命傷は避けていたものの細かい損傷が積み重なっていっている状況だった。

 

アンタ達がこの戦いを起こしたんだ。平和を乱す様な奴らは、俺が片っ端から叩き潰してやる!
シンの声が、本物の敵意をルナマリアにぶつけてくる。
彼の言葉を聞く度に、ああ、本当にシンそっくりだと頭の隅で思う。
彼は何時だって平和を願っている。
目の前のシンは、プラントが、ラクスが世界を平和に導いてくれると信じているのだろう。
その一途な平和への思いが彼の意志を確固たる物としており、戦場でも決して折れない心の強さを齎す。
しかしそれと同時に、その平和への意志と守るという意志が強過ぎるが上に、
特定の人物にとってある意味非常に操りやがすい人物という事にもなる。
つまり、長所でも短所でもあるという事。
その事はルナマリアが一番良く理解していた。
現在のシンは、様々な経験を通して成長してきたお陰で、まだまだ不十分ではあるものの
短所の部分を制御しつつある。
しかし目の前のシンには、それが全く無い。
平和への思いが強過ぎて、良い様にラクスに思考を誘導されているのだ。
しかもその状態のシンは、非常に思い込みが強い。
メサイア戦没後半、デュランダル議長の言いなりになっていたシンがそれに当たる。
今のシンには何を言っても無駄だと、ルナマリアは判断した。
実力が拮抗しているのならアスランの様に説得しながら戦えもしたのだろうが、
シンと比べ自分達は圧倒的に格下であった。
そんな状態で、説得をしようなど不可能だろう。

 

ルナマリアが思考している間にも、デスティニーフリーダムが長距離砲を放ってくる。
大火力でありながら連射性を損なわないその武器は、シンの実力もあって正確無比にこちらを狙う。
『マーズ、アンタの機体はガンナ―装備だろう。狙えないかい?』
『無理だ!あの光ってる羽のせいで、FCSが上手く動作しない!』
『マニュアル操作は!』
『悠長に狙ってたら、先にこっちが溶かされちまう!』
マーズの機体は、彼自身の負傷もあって極力体に負担を掛けない様にガンナ―装備で出撃していた。
右肩に狙撃型ビームキャノン、左肩には対艦大型ミサイル、
手には両手での運用を前提にした大型ガトリング砲を装備して、頭部に追加センサーを設けた機体である。
しかしその重武装のせいで機動力は他の二機に大きく劣る。
マーズは極太のビームが吹き荒れる中で、狙撃用モジュールを覗いて
懸命にデスティニーフリーダムを狙っていた。
しかし、デスティニーフリーダムの光の翼が撒くミラージュコロイドのせいで上手く狙えない。
『このままじゃジリ貧だね・・・ルナマリア!』
「はいっ!?」
突然名前を呼ばれて変な所から声が出るルナマリア。
『マーズ以外の全員で、あの坊やに陽動を掛ける!
 マーズ、私等がアイツの隙を作る。その時が来たら迷わず狙撃だ』
『了解!必ず成功させてみせますよ』
『よし、他の連中は陽動だ。行くよ!』
『了解!』
「了解!」
マーズ機以外の三機が一斉にデスティニーフリーダムに接近を試みる為に動きだした。

 

なんだ?やっとやる気になったのか
その姿を認めたクローンシンは、長距離砲を折り畳み、
愛機にビームブーメランをビームサーベルモードにして握らせる。
来いよ!全員バラバラにしてやる!!
彼にとっても、接近戦は望む所だった。大体、遠距離からチマチマ撃ち合うのは性に合ってない。
デスティニーフリーダムはVL発生機である光の翼をより大きく輝かせ、
一番近い位置に来ているヒルダ機に襲いかかった。
『くっ、早い!』
今まで遠距離での撃ち合いに終始していた為分かり辛かったが、
接近してみるとその恐ろしい加速力が分かる。
陽動は、付かず離れずがベストだ。
しかしVLを利用したデスティニーフリーダムの機動力は、ヒルダのその思惑をあっさりと捻り潰した。
この距離ならばと油断していたヒルダ機に、デスティニーフリーダムの凶刃が襲いかかる。
『ヒルダっ!!』
間に合わないと分かっていながらも、ヘルベルトは愛機を奔らせる。
しかし、ヒルダ機を両断する筈だったアロンダイトは振り下ろされた場所で何かに阻まれた。
対多数戦で機体を停止させる事はそのまま死に直結する。
その事を分かっていたクローンシンは、必殺の斬撃が防がれたと見るやヒルダ機から距離を取る。

 

「ヒルダさん、迂闊ですよ」
『助かったよルナマリア』
アロンダイトの一撃を防いだのはレイヴンのバレットドラグーンであった。
デスティニーフリーダムに追撃の射撃を与えながらルナマリアが注意する。
彼女は、黒い三連星がどれだけ手練か実際に交戦して知っていた。
しかし黒い三連星はシンとの交戦経験が無い。
幾ら彼らが手練でも、シンの異常に広い接近戦の間合いを初めてで読み切れという方が無理だろう。
『ふぅ、肝が冷えたよ。あの距離から接近戦の間合いだなんて』
ヒルダはデスティニーフリーダムが持つレッドゾーンを正確に測り直す。
しかしその間にも、デスティニーフリーダムは次の行動に移っていた。
凄まじい機動でレイヴンの射撃を回避しながら、レイヴンに急迫、アロンダイトを振り下ろした。
「くっ私だって・・・!」
咄嗟にハンドガンをサーベルモードに切り替えてその光刃を受け止めるルナマリア。
デスティニーフリーダムが右手に保持したビームブーメランを振り下ろすも、それもレイヴンが防ぐ。
鍔迫り合いの状態で、接触回線でデスティニーフリーダムから声が伝わってくる。
アンタ等は何も分かっちゃいない!プラントを守る為に、ラクスさんがどれだけ苦心していたか!
 あの人が、どれだけの物を犠牲にしてきたか!
「シン・・・」
プラントは俺の第二の故郷なんだ!それがやっと正常になって来たって時に、
 そんな好き勝手、させるかっー!!!
クローンシンが叫ぶと、それに答える様にデスティニーフリーダムの出力が上がる。
一気に押し込まれたレイヴンの腕部が悲鳴を上げた。

 

『マーズ、今だ!!』
『貰ったっ!』
幾ら高機動でも、鍔迫り合いの最中は動きが単調になる。その隙を、黒い三連星が逃す筈も無かった。
マーズ機の右肩から、高出力の光束がデスティニーフリーダムに伸びた。