新機動戦記ガンダム A's Destiny_第07話

Last-modified: 2007-11-14 (水) 22:13:40
 

「あぁ~ヒマだ……」

 

 シンは今日も今日とてヒマを持て余している。
 ここ最近出番が少ないからだ。

 

「シンヒマそうだね」
「これじゃニートだね」
 フェイトとアルフが聞こえないように話している。
「まぁそんなこと言っても異世界人のシンに仕事させるわけにもね……」
 シンはこの世界の人間では無い。つまりこの世界にいないはずの人間だ。もちろん履歴書も無い。

 
 

「俺ちょっと散歩してくる」
 シンはいきなりそう言い玄関へ向かった。
「あたしも行くよ。フェイトも行こう!」
「え……うん!」
 シンについてゆくアルフとフェイト。
 こうしてハラオウン家は完全な留守状態となるのだった。

 
 

「なぁ~デュオ~。お前なんで三つ編みなんだ?」
 八神家のリビングでダラダラしていたヴィータが突然デュオに絡む。
「……これはな……そう、中に色々隠しておけるからだよ!」
「マジかよ!?すげー!何隠してるんだ!?」

 

 ヴィータは目を輝かせながらデュオを問い詰める
「そりゃあお前、爆弾とか……」
「「爆弾!?」」
 のんびり過ごしていたはやて達も驚いてデュオを見る。

 

「……いや、冗談に決まってんだろ?」
 あながち嘘では無いのだが、そういう空気では無いので、ここは冗談だという事にしておく。

 

「何だ冗談か。驚かせるな、マックスウェル」
「も~びっくりしたやんかぁ」
 こうして八神家一同は再び穏やかな空気を取り戻す。
 今この場にいる面子でデュオの髪に隠された秘密を知る物はデュオを除くとヒイロだけになるのだろう。
 だがこの時デュオは今後自分の髪がヴィータのおもちゃにされるなど想像もつかないのだった……。

 
 

「ねぇデュオ君、今日くらいにデュオ君の服を買いに行こうと思うんだけどどうかしら?」
 シャマルがヴィータに遊ばれているデュオに言う。

 

「ん?ああ、そいつはありがてぇ!」
 と、喜ぶデュオ。だがヒイロやヴィータは違った。
 シャマルやはやてと一緒に服を選びに行くと自分に選ばせてもらえないという神的行事が発生する。
 だがヒイロ達はあえてそんなことは言わない……。

 
 

 一方アースラでは。

 

「ガンダムデスサイズヘル……アレについての報告書も書かないといけないから、
 またデュオに来て貰わないとな」
「そうね。一応戦闘データだけはとれたけど」
「でもそれを言ったらデスティニーの戦闘データだってまだとってないですよ?」

 

 クロノ、リンディ、エイミィの三人は異世界の兵器について話していた。
「そうだな。ゼロはだいたい調べたし、あれだけ活躍したんだからもういいとして、
 デスティニーとデスサイズ……」
「デスティニーは後は戦闘データだけだね」
「で、デスサイズはその逆……うん!あの二機に模擬戦してもらうってのはどうかな!?」

 

 エイミィが提案する。
 これならデスサイズのデータを手に入れた後、デスティニーも一緒に戦闘データを得られる。
 それにデスティニーが活躍するいい機会だ。
「じゃああの二人には僕が連絡を入れておくよ」

 

 こうしてシンとデュオの模擬戦がひそかに決められたのだった。

 
 

「そういえばさ、私まだシンの世界のことあまり聞いてないんだけど……」
 散歩中、フェイトが口を開く。
 シンに
「……聞きたいか?」
 と聞かれ、
「うん……!」
 と、嬉しそうに頷くフェイト。

 

「俺の世界では、宇宙にも人が済んでて、」
「それは前に聞いたよ?」
「あ、そっか。……で、ユニウスセブンってコロニーに連合が核を打ち込んだんだ」
 シンはCEについて、子供でも分かるように説明した。

 
 

 それでもフェイトには完全には伝わらなかったが、だいたい分かった。
 連合という軍が宇宙の人が済むコロニーに核ミサイルを発射し、そこから戦争が始まり、
 一度停戦するがそのコロニーが地球に落下した事により再び開戦した。
 それくらいのことはフェイトにもわかった。

 

「じゃあシンの家族は……?」
 フェイトは今のシンの説明で気になった点を質問してみる。

 

「……死んだよ」

 

 フェイトはシンの言葉に思わず手で口を塞いだ。
「……ごめん」
「いや、いいよ」
 フェイトは謝るしかできなかった。おかげでしばらく険悪なムードが続く。
 黙って話を聞いていたアルフもなんとなく居づらい。

 

「そうだ。せっかくだし、昼ご飯食べてかないか?」
 流石に気まずくなって話題を変えたのはシンだった。
「え……うん、いいけど」

 

 フェイトも別にいいようで、シン達はちょうど近くに来ていた翠屋へと向かった。

 
 

「なぁヒイロ。五飛の奴、今頃どうしてるんだろうな」
「…………」
「あいつのわかりやすいとこ、結構好きなんだけどなぁー」

 

 八神家でヒイロはデュオとチェスをしながら話をしている。
「あいつが今何を考えてるのかは俺にもわかんねぇけどよ……」
「……。」
「おい、聞いてんのかよ?」
「……チェックメイトだ」
「んなっ!?ちょっと待った……!」
「待ったなしだ」

 

 デュオが一人で話しているうちにヒイロはチェスに勝利した。
 だがデュオの言葉を無視はしていたがヒイロもまた五飛の事を考えていた。
 何故あのとき魔法技術の無いナタクが消えることができたのか。
 今ヒイロが1番気になっているのはこれだ。
 魔力の無い五飛が転送した。つまりだれか魔法を使う協力者がいるということなのだろうか?
 チェスのリベンジに燃えるデュオを尻目にヒイロはそんなことを考えていた。

 
 

「いらっしゃい……あら、シン君とフェイトちゃんじゃない」
「どうも」
「こんにちは~」

 

翠屋に入ったシン達を桃子が出迎えた。シンとフェイトはそれぞれ返事を返す。
二人は昼ご飯に何を食べるか話し合い、カレーライスを注文した。

 

「なぁフェイト、昨日きたガンダムのパイロットってどんな奴なんだ?」
 シンはフェイトに聞いてみる。少し気になっていたからだ。
「う~ん……私も会ったこと無いからわかんない」
「そっか……」
「あ……そういえばメールではやてが言ってたんだけど、なんか私に似てるらしいよ」
 フェイトにもデュオがどんな奴かなどとわからないのだが、
 はやてが言うにはフェイトに似ているらしい-まぁ似ているといっても通り名だけだが……-
「ってことは女の子か」
 シンは少し期待する。今のシンは学校で例えると転校生が女子だと知って浮かれる男子といった心情だ。
 フェイトはそんなシンを見て、
(ほんとにそうかな?)
 と思うが、そんなことはあえて言わない。
 言わなくてもいいと思ったからだ……いや、言わない方がいいのかもしれないが。

 
 

 シン達はカレーを食べ終え、桃子達に軽く挨拶し翠屋を後にした。
 すると店を出てしばらくたった所でフェイトの携帯に電話が入る。
 クロノだ。

 

『フェイト、シンはいるか?』
「……うん。いるけど、どうしたの?」
『明日くらい、デスティニーのことでシンにアースラへ来て欲しいんだ』
「……シン、アースラから呼び出しかかってるけど?」
 フェイトは試しにシンに聞いてみる。
「は?なんでだよ?」
「デスティニーの事で用があるみたいだよ。」
「……ふぅん。まぁ、どうせヒマだからいいけどさ。
 せっかくだからこれからデスティニーの整備しにいきたいんだけど」とシン。

 

 クロノにとっても別に問題は無く、シンはこれからアースラに向かう事となった。

 
 

「いっただきま~す!」
 デュオ達ははやて達が作った昼飯を食べ始める。
 一番元気にいただきますを言ったのは外ならぬデュオだ。
 ちなみに今道場にいるシグナム以外の面子は揃っている。

 

「あはは、デュオいい食べっぷりやなぁ。見てて気持ちええわ」
 幸せそうな顔で料理を頬張るデュオにはやてが言う。
「うん、これかなり美味いよ!」
「フフ、そう言って貰えると作った甲斐があるってものね」
 とシャマル。
 デュオが来たことにより、八神家の食卓はさらに明るくなりそうだ。

 

しばらくたって、デュオが美味しそうに食べていると、
横から現れた箸がデュオのおかずのエビフライを掴み、ヴィータの皿へと移動させる。

 

「へへっエビフライもーらい!」
 ヴィータはデュオのエビフライを口に入れた。
「あっ!ヴィータ、テメェ……!」とデュオ
「こら、ヴィータ。人のとったらあかんやろ」
「えへへ、デュオが隙だらけだったからつい……」

 

 はやても少し笑いながらヴィータに注意する。デュオは「ったくよぉ……」などと言いながら諦める。
 デュオはヒイロ達のおかげでいつも貧乏クジを引かされているので、
 今更エビフライを取られたくらいどうということは無い……のだろう。
 それにこれはこれで楽しそうだ。こういう平和な食卓もいいものだ。

 

「そういえばデュオ、ちょっと前にこの近くでうちとすれ違えへんかった?」
 はやてがふと思い出したことをデュオに質問する。
「ん……そうだっけ?」
「うん。うちがなのはちゃんとフェイトちゃんと一緒に帰ってたら、
 デュオっぽい人がニヤニヤしながら通りすぎていってん」
「……ハハ、ニヤニヤってそんなヒイロじゃあるまいし」
(……俺がニヤニヤするだと?)
 デュオは既にそんなこと忘れているので、ニヤニヤ=ヒイロと言い否定する。
 ヒイロはそれに対し黙ってはいるが認めはしない。
「え……ヒイロ君がニヤニヤ?」
「そんなんするかぁ?」
 シャマルとはやてには想像もできない。

 

「そりゃもう!敵の工場を破壊した時とか、MSを破壊した時とか……」
 デュオはA.Cでのヒイロを語りだす。
「あ……あはは。ちょっと想像できるかも……」
「ヒイロ不気味だもんな」
 シャマルとヴィータはデュオに言う。
 ヒイロは無意識のうちにニヤついていた事を改めて知り、
この世界に来て初めてちょっとショックな表情をする。
 -といっても微妙過ぎて他人からはわからないくらいの表情の変化だが……

 

 そうこう話してる内にみんな食べ終え、後片付けも済ませ、
今ははやて以外はリビングでのんびりしている。
「シグナムも帰ってきたらデパートにデュオ君の服を買いに行きましょうか」
「おう、なんか悪いな」
「ううん、いいのよ。毎日同じ服なんて気持ち悪いじゃない」
「……あはは、そうだな……」

 

 ちなみにACではデュオは割と毎日同じ服をきていることが多かった。

 

「なぁ、デュオ~、明日アースラから呼び出しかかってるみたいやけど、大丈夫やんな?」
「ん……ああ、別にいいけど何でだよ?」
「デスサイズの性能を見たいんやって」
「あぁ、そういうことか。わかったよ」
 デュオははやてに返事を返した。

 
 

「シン、デスティニーの調子はどう?」
「ああ、特に問題は無いよ」

 

 アースラ格納庫。シンはデスティニーの整備のためコックピットに入り、
 フェイトはコックピット前のリフトで話している。

 

「なんかシン、最初の頃と雰囲気変わったね」
「そうか?」
「うん。前はもっと険しい顔して整備してたよ?」
「そんなことないって。気のせいだろ」
「フフ、そうかな?」

 

 シンは特に意識して表情を使い分けている訳では無いが、
表情が顔に出やすいためその違いは簡単に見分けられる。
 今のシンはなんとなくだが、前よりもデスティニーに愛着を持った気がしないでもない。
 -まぁ……心の底から愛着を抱いているかは微妙だが……

 
 
 

「クロノ君、次元震発生だよ!」
「またガンダムか!?」
「いや……今回は傀儡兵だけっぽい」
「そうか。せっかくだ。デスティニーとフェイトに出て貰おう」

 

 クロノは偶然にもガンダムパイロットがアースラにいることから、
「またこのパターンか」と思いつつもシン達に出動要請を出した。

 
 

数分後、日本近海。

 
 

「……!ふぅ……やっぱ転送って慣れないもんだな」
 シンは日本近海に出て、ヴァリアブルフェイズシフトをONにしながら言う。
 デスティニーの色はみるみる変わっていく。
「まぁ……そのうち慣れるよ」
 フェイトは色が変わったデスティニーに少し驚きながら返事を返す。

 

「二人とも、話は後だ。今は傀儡兵を……」
「わかってるって!」
 クロノの言葉を遮り、シンは傀儡兵の群れへ突っ込む。

 
 

(こんな奴ら……!)
 赤い光の翼を羽ばたかせ、背中のアロンダイトを構え、一番近くにいた傀儡兵数機を斬る。
 斬られた傀儡兵は爆発し、他の傀儡兵がデスティニーに攻撃を仕掛けてくる。
 デスティニーはそれらの攻撃をひらりとかわし、敵に急接近しては斬り、
中距離の敵に対してはフラッシュエッジで対応する。

 

 フェイトはフェイトで、バルディッシュで傀儡兵を斬って斬って斬りまくる!
 サイズ差などものともせずに、傀儡兵を撃墜してゆく。さすがエースといったところか。

 

 残り少なくなった傀儡兵を撃墜するためシンは背中のビームを展開した。

 

「撃っていい!?……答えは聞いてない!!」

 

 シンは珍しくキャラとは違った台詞を言いビームを発射。傀儡兵はまとめて撃墜される。

 

 傀儡兵も残り少なくなり、フェイトとの連係で残った傀儡兵を殲滅する。
 今回は敵が弱すぎたため、シンもフェイトもあまり本気は出していない。

 

(さっきの台詞……ちょっといいかも……)
 シンの口からふと出た決め台詞(?)以外と気に入ったようだ
「どうしたの?シン」
「あ……いや、何でも無い!帰ろうか」
「うん」

 

 二人は任務を終了させアースラへ帰還する。

 
 

アースラ格納庫。

 

「あの子、デスティニーってやっぱり凄いんだね」
「へ?何だよいきなり」
 唐突に言うフェイト。
「うん、さっきの戦闘でも、よく戦ってたし……シンと相性もいいみたいだし」
「ま、まぁな」
 シンは人に褒められるとやはり喜ぶ習性がある。
 子供相手に調子に乗るのも大人げないと思ったシンはシンなりにクールな対応で返す。

 

 そこへクロノがやってくる。
「凄いな、デスティニー。少し見直したよ。」
「ハッ、なんだよクロノまで。これくらい普通だって」
 ……やはりシンのテンションは少し上がり気味だ。
「僕はデスティニーを褒めたんだ。別に君を褒めた訳じゃない」
「な……なにをぉ!?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
 クロノに食いかかるシンをフェイトがなだめる。
 気取っていてもやはりシンはシンだ。フェイトも苦笑い気味だ。
(……やっぱクロノってなんかアスランと似てる……)
 シンは思った。確かにある意味似てるかもしれない。

 
 
 

「ほぅ。MSの反応があると聞いて見てみればこれは……」
「どうなの?ロンド」
「見た感じCEのMSの用だが、見た事の無い機体だな。フ……こんな奴、私が出撃するまでもない」
 プレシアとギナがモニターに移るデスティニーを見ながら話をしていた。

 

「じゃあ今は放っておいてもいいのね」
 ギナ曰くデスティニーはそれほどの驚異では無いという。
 いや、それよりプレシアの気になる者がモニターに写っている。
(……フェイト)

 

 かつて自分が捨てた娘。
 今もフェイトが可愛い等とは思えないが、やはり気にならないといえば嘘になるだろう。

 

「そういえば五飛はどうしたの?」
「知らんな。奴には奴の考えがあるのだろう」

 
 
 

 今は夕方。シンとフェイトは帰路についていた。

 

「今日は晩御飯何だろうね?」
「さぁな。今日はリンディさんが作ってくれるから期待できそうだな」
「……なんか私の料理が美味しくないみたいな言い方だね……」
「あ……いや!そんなことないよ!」
 シンは慌ててフォローしようとした、その時

 

「おい、聞いてんのかガキ!」
「スカしてんじゃねえぞ!」

 

 柄の悪い声が聞こえてきたと思えば、一通りの少ない道で一人の少年が
どう見てもヤンキーな方々に囲まれていた。

 

(カツアゲ……か?)
 シンはそう思って眺めていると……
「シン……!」
 フェイトが「助けよう」という表情でシンを見つめる。正直あまり関わりたくは無かったが仕方が無い。
「おい……」
 シンは「おい!」言い飛び出そうとするが、動きが止まる。
 ヤンキーに囲まれた少年が喋り出したからだ。

 

「お 前 達 は 正 し い の か ?」
「あ!?」
「何言ってんだチビ!?」
「お前達は正しいのかと聞いている!」

 

 シンは「あ~ぁ」という表情で見ていた。黙っていればいいものを……
 タンクトップを着て髪の毛を後ろでくくった華奢な体型の少年が
ごついヤンキー数人をキレさせてしまったようだ。火に油だ。
 あんな華奢な少年がヤンキーに勝てるはずも無い、そう思いシンは飛び出した。

 

「アンタ達、何やってんだ!」

 

「何だお前?」
「やろうってのか?」
「このガキの仲間か?」
「……」
 ヤンキー達はシンを見る。少年-五飛もシンを見ている。

 

「アンタ達、よってたかってそんな子に!」
 シンは思った事を口にするが、ヤンキーのボルテージをMAXにするには十分だ。

 

 ヤンキーAはシンに殴りかかる。だが軍人のシンにはそんなトロい攻撃は当たらない。

 

(……ほぅ。いい動きをするな)
 五飛はシンの動きを見て感嘆の表情をする

 

 ヤンキーB、Cもシンをブン殴ろうとするが、三人掛かりでもシンに攻撃は当たらない。

 

「アンタ達、いい加減にしろよ……じゃないと、こっちも本気出すよ?」
「うるせぇ!」
 ヤンキーBはシンに当たりもしない攻撃を繰り返す。
 だが……
「……答えは聞いてない!!」
 そう言い重いパンチを打ち込むシン。やはりこの台詞、気に入っているようだ。
 フェイトも「あれって決め台詞のつもりかな?」と小さく呟く。

 

 すると「おい、お前。」とシンに話し掛ける五飛。
「あ、アンタ大丈夫だった?」
「ああ。俺はこんな悪党に負けはしない」
 五飛はさらにヤンキーABCを挑発する。
「何だとぉ?」
 ヤンキーCは五飛に殴り掛かるが、ひらりとかわされ逆に五飛から重い攻撃の連打を貰う。
 シンの目には中国の拳法か何かに移った。
 ヤンキーBCはそろそろ戦闘不能に陥るだろう。
 そう思ったヤンAは近くにいたフェイトに駆け寄り、ナイフを突き付ける。

 

「きゃっ!シ、シン……!」
「お前ら動くなよ!」
 ヤンAはすでに錯乱状態だ。変身したフェイトならこんな雑魚一人どうということは無いが、
今変身するわけにもいかない。
「クソ……卑怯だぞ!」
 とシン。
 さすがにフェイトを人質に取られればシンも動けない。それにフェイトはそれなりに可愛い。
 こんなチンピラに連れて行かれればきっとあんなことやこんなことをされる……。
 それだけは絶対に避けなければならない!

 

 すると-
「フハハ……ハハハハハ!」
 五飛は突然笑い出した。
「……!?」
 ヤンAもシンもびっくりだ。「気でも狂ったか?」とシンは思った。
 五飛は笑いを止め、言う。
「フフ……強いな。そんな小さな子供まで人質にとる……」

 
 

「久しぶりだ!こんなに敵が汚く、おおきく見えたのは!!」
「うるせぇ!黙れよ!刺すぞ!」
 ヤンAも必死だ。

 

「これなら俺も本気を出せる……お前のようなきたない奴が強いとな……!!」

 

 次の瞬間、五飛はヤンAの反応が追い付けないくらいの速度で後ろに回り込み、重い連打を与える。
 敵が怯んだ隙にシンはフェイトを救出する。

 

「こいつ……ただの子供じゃない……!」
 シンは鬼のような表情の五飛を見てそう思った。
 シンがそんな事を考えているうちにヤンキー共は皆逃げ出してしまったが。
 まあ、ヤンAは既に一人では歩けないほどのダメージを受けていたが。

 
 

「あの……助けて貰ってありがとうございます!」
「気にするな。俺は奴が許せなかっただけだ」
 フェイトは五飛に礼を言う。
「それより貴様、なかなかいい動きをしていたな」
「あ、ああ……アンタこそ。」
 五飛はシンに話し掛ける。シンも五飛の強さに感嘆の返事を返す。

 

 それ以上会話も無く、五飛は立ち去ろうとする
「あっ、アンタ名前は!?」
 が、シンは慌てて引き止める。すると、五飛も立ち止まって
「五飛……張五飛だ」
「五飛……。俺はシン・アスカだ!」
「フ……さらばだ、シン・アスカ」
 五飛はそう言い、今度こそ立ち去った。
 シンは五飛という名にどこかで聞き覚えがある気がしたが、あえて突っ込まなかった。
 彼は悪い奴じゃない、そう思ったからだ。

 

それからシンはフェイトと共に帰宅するのだった。