――か○き者。
『○奇者』と書く。
『○く』とは異風の姿形を好み、異様な振る舞いや突飛な行動を愛することを指す。
現代の者にたとえれば、権力者や支配者にとってめざわりな存在の『ツッパリ』ともいえるが、
真の『○奇者』とは己の掟のために、まさに命を賭したのだった!
そして世は動乱のコズミック・イラの時代。
ここに天下随一の『傾○者』達がいた!!
その漢(おとこ)達の名は――
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俺は週末には寮ではなく、なるべく屋敷に帰ることを心掛けている。
妹の顔も見たいし、お世話になっている人たちとも顔を逢わせておきたいのだ。
今日は、珍しく俺は一人で帰宅している。
相棒の方が、学校の士官候補生の間で活動している主催の『生徒会』の一年生の代表に選ばれたからだ。
それの活動の何やらかんやらで、引き止められたと言う訳だ。
相棒は俺の方を恨めしそうに見ていたが、また、あのアベ……マリアだったかな?
彼女達姉妹が絡んできたので俺は今日は、急いで逃げ帰って来たのだった。
それに、いずれ俺も何らかの形で巻き込まれる事になるだろう。
俺もそういう活動は意外と好きだから、まぁ別に構わない。
玄関を開けて中に入ると、入り口で執事の○ァーンズさんと出会った、恭しく礼をされてしまう。何か気恥ずかしい。
「これは。シ○お坊ちゃま……お帰りなさいませ。おや?お珍しい、○イお坊ちゃまとはご一緒ではないのですか?」
「ただいま、ヴァーンズさん。レ○は、学校の生徒会の活動で遅くなるそうなんです……そう言えばマ○はいないんですか?」
いつもなら、俺が帰ってきたら一番に出迎えてくれる妹の姿がないので、キョロキョロと辺りを見渡す。
「○ユお嬢様なら、この時間、ベ○トーチカ様とご一緒にアマ○フィ様のお屋敷にピアノのレッスンに行かれています」
「へー。頑張ってるんだな」
プラントで若手最高と謳われている天才ピアニストでもあり、天才パイロットでもあったニ○ル・ア○ルフィさん。
現在は、軍籍から身を引いて、芸術文化活動に邁進している人だ。
一時には、クルー○司令の直属の部下だったり、一時期は『マ○ティー』にも所属していたとも言う。
現在、俺と妹は法律上、保護者であるデュ○ン○ル卿の扶養家族ということになっている為に、
公の場に出ることが多くなる可能性が極めて高い。
その為に、デ○ラン○ル卿を辱めない為にも、マ○も俺達兄妹が可愛がってもらっているベルトー○カさんのような教養典雅な貴婦人を目指しているのだ。
それに妹の方も、来年からお嬢様学校に入学が決定しているので、その為の下準備と勉強をも兼ねて現在お稽古事に精を出しているのだった。
そして俺の方も士官学校に入ったからにはトップレベルの成績を修め、”ザフトレッド”呼ばれるトップエリートになる事が当面の目標であるのだ。
そう将来の堅実な人生設計を頭に浮かべながら、ヴァー○ズさんと別れて俺は自分の部屋に戻る途中で、おかしな会話を耳にした。
古人曰く、好奇心は猫を殺すと云う。
……そこで立ち止まらなかったら俺の『未来日記』は平穏無事な記述が書かれているはずであった。
――だが、もう遅い。愚かにも俺は立ち止まったのだから。
そして、これから行う行動の前に俺が妹から貰った携帯電話の表示を覗き込んでいたら、『DEAD END』が表示されていた事だろう。
俺は恐る恐る、薄く開いていた居間の扉が覗き込むと、
「――虎は……なにゆえ強いと思う?」
「フッ、それは、もともと強いからよっ!」
……身も蓋もない内容の会話だ。
そっと扉から覗くと、そこには、二人のおかしな身形の人たちが酒盛りをしていた……
俺にとって知り過ぎるほど知っている人達だ……
居間はいつのまにか和風になっており、洋風の高級家具セットから畳の座敷へと変化していた。
いつの間に改造したのだろうか?先週は普通の洋間だったはず。
恐らく勝手に改造したのだろう。この屋敷の主人の了解も無くよく無断で改築してるな……
しかも費用は、無論自分らで支払わずに常に向こう持ちであるようだ。
居間の中央の奥にある床の間には、『だ○ふべ○もの』と大きく墨で書かれた立派な書が額縁に飾ってあり、
そこには達筆で”羅羽瑠狂宇是”と署名もしてあった。
これは、確かプラントで開催されたプラント全市書道コンテストで金賞に輝いた作品である。
更に壁には立派な『朱槍』が飾ってあり、更にその傍らにも豪快な筆使いで墨を使い、
擬人化され印象的な水墨画が飾られており、『天帝』とタイトルが付いていた。
これもプラントで開催された全市絵画コンクールで入選し見事、特別賞に輝いた作品だ。
高名なプラントの美術館が是非にと、1500万の値で譲って欲しいと所望したらしいが、
描いた本人は、『金では譲れない』と一蹴したのだった。
そして部屋の中央には、互いに向かい合わせとなって座布団と呼ばれる携帯座席に座り、
金のキセルを片手に背中に”かぶ○も○”とプリントされた和服を纏ったプラント最大の仮面の英雄と
豪華な黄金の造りの小太刀を腰に挿し扇子を片手に、漆黒の長髪に漆黒のマントとその下には、
虎の毛皮のベストと和服に纏った偉丈夫が畳に直に座り、一升酒樽を側に置きながら、酒を酌み交わしていたのだった。
『馬鹿だ俺は……』
虎の巣穴に顔を突っ込んで子虎を手に入れる代わりに、親虎に見つかってしまった気分だ。
俺は、そっと気配を消しながら、忍び足で戦略的撤退を試みようとしたが……
「む?そこにいるのは誰かね?」
しまった!!やはり、見つかってしまった……
俺は貝のように口を噤むと即座に方針を検討し始めた。死中に活あり!
「さぁ、早く出てきたまえ――」
どの選択肢を選ぶ?
戦う ←
逃げる
降伏する
――戦う。
論外である。DEADフラグが確実であり、天に向かって唾するようなものだ。
それに玉砕するのは俺の趣味じゃない。生きる事の方が戦いだ!
――逃げる。
これも極端に望みが薄い。昔、某TVゲームをした時に経験済みだ。
大○王からは逃げられないのだ!
”しかし、まわりこまれてしまった !!”と表示されるのがオチだろう。これもDEADフラグだ。
そして、このまま何のリアクションも起こせないままだったらあの人は、
キセルを逆さにして音高く「トーントーン」と二度叩き、火皿の中の煙草をふるい落とす動作をすることだろう。
その後どうなるか?無論、知っている。俺は何度かその場面に遭遇しているのだ。
数秒でそれらを思考すると俺は両手を上げながら、
「……捕虜として、人道的な取扱いを要求します」
全面降伏をする事を決定した。
古人曰く、”勝てない戦いはしない。だから最強なのだ”と。
俺が両手を上げて居間に入っていくと、
「おおっ、○ンではないか!!久しぶりだな!」
と長髪の偉丈夫が俺を見て満面の笑みを浮かべて喜ぶ。
「……お久しぶりです。ギ○様」
この方は、プラントの同盟国であるコロニー国家・○メノミハ○ラの○ンド・ギ○・サ○ク総司令。
俺の親しい知人でもある、というか俺の保護者達を通じて知り合った人なのだ。
性格は豪快無比の性格で、正に豪傑というに相応しい人である。
何でも戦時中に、マ○ティー隊長やデュ○ンダル卿、クルー○司令と知り合って、意気投合し
最も激しい最前線の激戦区の戦場を好んで、一緒になって暴れまわっていたらしい。
この人達に共通して似ているところは、揃って変人……
もとい、やはり軍トップの人間なのに前線でMSで戦っている所だろうか?
性格も似通っているし……神経が鋼鉄のワイヤーロープでできているような図太い所とかも。
ギ○様は立ち上がると、俺の方に向かってきた両手をばぁん!と俺の肩に乗せた。
この人は凄く背が高く、俺はいつも見上げていた。今日、見ると、どうやら多少は俺の視線は上がったみたいだ。
同時にメキっ!と骨が軋んだ、凄く痛い。
だが乱暴に見えるが、これはこの人にとって親愛の証であり、何だかんだ言ってこの人も俺を可愛がってくれる人なのだ。
「おぉ、少し背が伸びたのではないのか?成長期だからこれからどんどん、でかくなってゆくな!」
「あっ……ありがとうございます!○ナ様もお元気そうでなによりです」
そして、もう一人も俺の姿を確認すると、キセルを吹かしながら、
「勤勉な学生に酒を勧めるわけにもいかんしな。どれ、シ○のために茶でも入れて進ぜようか?」
「うむ、そうだな。○ン、付き合うが良い」
「あの……俺……作法を……」
「だが、それがいい」
「そのとおり!茶は形ばかりの作法ではなく、旨く飲めればそれでいい!」
入学式前の酒盛り事件の事は、一応忘れてはいなかったようだが、結局、俺の自由意志など最初から存在しないのだ。
だが、その一言で、酒盛りの場が一変して風流極まる茶室へと変化してゆく。
そこには、古典はおろか古今の典礼にも通じ、諸芸能まで極めたと噂される当代希有の教養人達の姿があった。
――この事もあって後年、俺がこの人たちを語る時に、『風雅の嗜み尋常ならず』と必ず付け加えるのだった。