白い稲妻のような閃光が私の脳裏を貫く!
――ドドドドドッ!!
猪突したメビウス<ゼロ>が苦し紛れに放った対装甲リニアガンだ。
元々、戦艦の装甲を撃ち砕く程の破壊力を秘めている。
これがまともに直撃すれば、ジンの装甲といえども砕かれるだろう。
だが小回りが利き、旋回能力が優れているモビルスーツに対しては正面からは通用しない。
――あたりはしない!!
そう脳裏で言語化する前に体は、自動的に生存本能に駆られように動く。
操縦桿を動かすというよりも、モビルスーツの体の感覚器官の一部となった己自身が反応する。
メカの操縦システムにタイムラグが生じる間もなく、自分の体がごく自然に動作するように白い巨人は思い通りに動いてくれる。
――ギュィィィン!!
各バーニアが連動し、白いハイマニューバの回避能力は私の期待を裏切らず、
リニアガンの閃光は、機体のギリギリところをかすめながら、虚空へと消えていった。
私は回避運動で、一気に月面の天上へとを飛び上がると、脳裏にまた閃光が走った!
――ピキィィン!
弱々しいプレッシャーだ。だが、これが私の勘にさわるのだ。
――三下風情が……!
何故か、急激に怒りと侮蔑が心の底から湧き上がった。
「いい気になるなよ……。雑魚が――」
奴の苦し紛れに放ったリニアガンの一撃が、余程私の気に触ったのだろうか……?
だが、これはどうにも言葉では説明ができない憎しみの類なのだ。
その機体の先端に羽マークとNo2のエンブレムを刻み込んだ メビウス<ゼロ>に対して、
私は何故か憎悪を感じるのだ。忌まわしい憎悪を。近親憎悪に近い感情なのだろうか?
レイとは全く違う異質な存在を奴に感じたのだ。私の家族はレイ以外に存在しないし、居てはならない……!
ハイマニューバのモノアイは一瞬、真紅の輝き放つとギロリ!と上空からメビウス<ゼロ>を睨みつけた。
次の瞬間に機体から捩れる様な響きを出すと、一気にモビルアーマーへと向かって下降し始める!
――ブォォォォッン
主の怒りに感応するかのように、白いハイマニューバは駆動音から雄叫びを放つ。
「楽に死ねると思うな……!」
口から出た言葉は、紛れも無く相手を苦しめ、確実に殺す事を誓っていた。
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一瞬、カッとしたオレは、ケイン、ラッセルの静止を待たずして、勝手に攻撃に踏み切ってしまった。
――結果はこの通り散々だった。
全て完全にかわされた上て……オレは遊ばれ、嘲笑われてしまったのだ
――かわされた!?全部をか……!
心中で愕然とした。恐怖感を撥ね退け、あれはオレが持ち得た渾身の一撃だったはずなのだ。
奴は、オレの得意の<ガンバレル>の4機全部の一斉攻撃を完全にかわしやがった!
しかも、止めとばかりのリニアガンの一撃もあっさりと避けられた。
尋常な敵ではない事は、分かっていたはず……!なのに!
確かに呆然としていた時間は、一瞬であったはず、その時――。
――ピキィィィィン!!
脳裏に閃光が走るような感覚がオレの体を貫いた!
「ガァッ!――なにぃ!?」
この時にまた頭痛が襲い掛かかり、同時に吐き気も襲い掛かり二重パンチだ!
――上空から来る!
その事だけは、上から凄まじい重圧感が襲い掛かって来る!その感覚で本能のように理解できた!
『楽に死ねると思うな……!』
雑音と共に通信装置から、どこかで聞いたかのような不愉快な声が聞こえてきた。
同時にオレもその声に対して、心の中でとてつもない嫌悪感と憎悪、敵意ではちきれそうになる。
その地獄の底から響いたような声。オレは今、何を聞いたんだ?
死人が墓場から生き返ったかのような恐怖がオレの体を貫いた!
「ッ!!貴様ァァ!」
オレは、意思を総動員し、喉から声を振り絞るように力を入れて、その巨大な重圧感を跳ね除けようとした!
不快な感覚と共に現実には、白いジンがオレの丁度、真上から急降下して襲い掛かって来た!
「うぉぉぉぉぉッ!!!」
――ゴゴゴゴッッ!!
オレは強引に操縦桿を引き、機体を奴に向かってぶつける様な形で向き直そうとした。
ギシッ!ギリリリッ!!ミシッ!!
余りにも無理な急旋回の為に機体の各所が軋み、オレのメビウス<ゼロ>捩れるような音を立てる。
――ドドドドッ!ドドッドド!!
同時に装甲版を削るように奴の放った大型機関砲の銃撃が来る。
何発か装甲をかすめ、当たったようだ!
「この程度ぉぉ!!」
叫びながら、機体を強引に捻じ伏せるかのように扱った。普段のオレからだと考えられない行動である。
マイハニーである、オレの愛機に対してかつてこのような態度で臨んだことなど一度も無いからだ。
「この野郎ォォォ!!」
旋回をしながら、オレは機体をぶつける様にして奴に突っ込もうとする!
――ガタイはこっちの方が上なんだ!弾き飛ばしてやる!!
後から思い出すと信じられない行為だ。こんな馬鹿げた事をやるほどオレの脳は最高にヒートしていたらしいのだ。
そう、この時オレは奴に対して、その気になり自爆覚悟でぶつかったつもりだった。だが……!
――シュッン!
オレの目の前に映るメインモニターに衝突直前まで映っていた白い坊主の姿が瞬間に見えなくなっていた。
――消えた……!!
その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間に、
――ドゴゴォォォォン!!
機体側面の右から凄まじい衝撃を喰らい!オレの意識はその瞬間、火花と共に飛び散った!
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私は降下しながら、照準を整えると獲物を狙う鷹のように鋭く目を光らせ、引き金を引く。
この距離なら絶対に外さん!奴は私の目の前で、無防備にも鈍重な体を晒しているのだからな。
モビルアーマーなど、デカイだけの的に過ぎんのだ――。
――心に冷たい歓喜が湧き上がる。
この目障りな雑魚をこの世から消したら爽快なるであろうことは、疑いようが無いであろう。
小物の癖に私に対して、弱い”プレッシャー”を撒き散らすのだから。
強者にしか興味が無い私にとって論外であろう。
――ピッピッピッピッ!!
照準がロックされ、私の人差し指を10ミリ動かすだけでJDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃の弾は、
標的に中心を確実に撃ち抜くはずであった……。
「なに?」
――ドッォォォォォオオッ!!
メビウス<ゼロ>機体を急角度に曲げると、機体の慣性法則を無視するように、私の方へ機首を向けたのだ!
……あれはどう見ても無理がある!下手をすると機体がバラバラになるぞ?!
モビルアーマーの各部バーニアが不規則な方向に向いて加速している!
あの急旋回の動きは、モビルアーマーというよりも、モビルスーツにこそ相応しい。
あの動きは人の形でなくては難しい。その為にモビルスーツは人型という非効率な形を取っているのだ。
何と、そのモビルアーマーは、鈍重な機体とは思えない動きを私に見せ付けたのだ。
そして次の瞬間、JDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃が火を噴いた!
――だが、遅い!
無理な回避運動に成功した奴は、真っ直ぐに私に向かって突っ込んできたのだ!
その際に幾つかの攻撃が奴をかすめるが、致命傷に程遠い!!
「この私が外した……!」
瞬間、屈辱感が身を焼いた。この程度の動きが読みきれないとは……!
自身の”ニュータイプ能力”を過信し過ぎたのか?
――ゴゴゴゴゴッ
あっと思う間もなく、メビウス<ゼロ>は一直線に異常な速度で加速すると、私に向かって突っ込んできたのだ。
「なんだと!?」
……生涯にこんな無様な台詞を口にするとは思わなかった。
――タイミングは完璧だったはず!
「おおぉぉおおッ!!」
――回避できない?この私が!?
このモビルアーマーの無謀な突撃を回避できないヴィジョンが突然、私の脳裏に浮かびあがったのだ!
これは……正面衝突で仲良くドッカーン!な映像が数秒後の私の未来だというのか?
――走馬灯が駆け抜ける。無論、今までの、ろくでもない人生を、だ。
生きていて良かった事など、僅かにここ最近のあったj事だけだ。
知らずに怒りの咆哮が喉から迸っていた。
――まだだ!まだ死ぬわけにはいかない!
――ピキィィンン!!
やっと手に入れたのだ。宇宙へと無限に広がるこの”力”を……そして。
目の前にいっぱいに、モビルアーマーの機体の先端が迫る!
――私の……私達のこの手で……!
衝突寸前に、異変が生じる。ハイマニューバの機体が、淡い白い輝きに包まれた……そう私は感じた。
――次の瞬間、周辺の空間が全て止まったように見える!
私は奴の特攻じみた体当たりを横へ軽く避けると、
機体の全体重を篭めた渾身の一撃の蹴りを奴の側面へと叩きつけた!!
――ドゴゴォォォォン!!
メビウス<ゼロ>の側面装甲が拉げ、飛び散る、その様がまるでスローモーションの様に見える。
そして奴は蹴りの衝撃で吹き飛び、錐揉みしながら虚空へと吹き飛ぶのだった。