鉄《クロガネ》SEED_2-2

Last-modified: 2008-02-28 (木) 20:41:29

《あ、お父さん?今回もちゃんとメール見てるかなぁ、お母さんも心配していたよ?
 最近の外は物騒らしいですけど、こっちは平穏そのものです》

 

いささかノイズの混じった画面には十代半ば程の少女が語りかけてくる…

 

《お父さん仕事が入ると直ぐにのめりこんじゃうんだから…… 体に気をつけてね!!
 道場のみんなもお父さん尊敬してるから言い出せないみたいだから。あ、そうそう。明後日は何の日でしょうか?
 お母さん『あの人はそんなの貰っても喜ばないから』とか言っておいて台所で内緒で頑張ってるんだから!!
 じゃあまた、ちゃんと帰ってきてね…… お父さん》

 

少女が元気良く笑っている。頑固者であったが、妻に似て優しく器量の良い娘であった。
……三年前までの話である。
あの日、彼女達はまた予定より帰宅の遅れた父親に腹を立てながら夕食の準備をしていたのだろうか……
明日もまた、平和な一日が来ると信じて。
彼女たちは知っていたのだろうか、その二日後には
自らの命が散り逝くことを……
忘れもしない三年前の二月十四日、帰宅が予定より遅れた自分達を待っていたのは、
崩壊するユニウスセブンの映像と非常召集の報であった……
何故、何の為に? 戦略的に価値の薄い筈の農業用プラントを攻撃する? 妻は? 娘はどうなったのだ?
街頭用スクリーンの中で宇宙の塵となっていたかつての故郷は、無慈悲にも生存の希望など万の一つも見せてはくれなかった……
男は、リピートし続けるビデオメールを切ると、コクピットの下方に映る半ば崩れかけた門を見下ろした……
嘗ては自分の弟子たちと共に腕を磨き、 慎ましくも平和に暮らしていた頃の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
数年前なのに、もう何十年も遠い昔のことのように感じる

 

「すまない…… 父さんの仕事が遅くなってしまった…… ここまで来るのに、三年もかかってしまった」

 

男はそう呟くと、コクピットを開き、既に朽ち果てた自らの家へと足を踏み入れていった

 
 

士官用ブリーフィングルームではデュランダルを含む艦のトップ達が一同に会していた。
題目はプラント評議会からの通信、優先コードはトリプルA。
つまり最優先事項ということになる

 

「結論から言いましょう…… ユニウスセブンは周回軌道を離れ地球に向けて降下を始めています」

 

ユニウスセブン…… プラントと地球連合の軍事的衝突の発端となったコロニーである。

 

「異変が見られたのは約二時間前、観測に出ていた偵察用ジンがユニウスセブンに微細な熱源を探知しました、それがこの……」

 

デスクの中央にCGモデルが浮かび上がる。それぞれ地球と予定軌道を外れたユニウスセブンである。
その内の軌道を外れたユニウスセブンの進行方向から見て後方、
つまり台座の様な部分の下に巨大な円筒形の柱が幾つも連なっているのが見える。

 

「見たところ、小惑星移動用の大型パルスエンジンみたいね」

 

艦長のタリアが言うのをギリアムが首肯する。

 

「この規模の出力から推定するとユニウスセブンは約30時間後には阻止限界点に到達する計算になります」

 

部屋内に緊張が走る。30時間…… 到達し破砕作業を行なって離脱するにはギリギリの時間である。

 

「既に周辺の部隊にユニウスセブンの破砕作業と破砕用のメテオブレイカーを送っている。
 君達には追撃を一時中断して彼らの支援を頼みたい」

 

普段の穏やかな表情から切り替わったデュランダルは深刻な表情で辺りを見回した。

 

「時間は限られている…… もはや一刻の猶予も無い。君たちの健闘を期待する」

 

「……とは言ったものの、問題は今現在のザフトの戦力で果たして防ぎきれるかどうか……」

 

廊下を歩くデュランダル、そして教導隊のメンバーが続く。

 

「敵は連合だけでなくザフトからも協力者を得ています。妨害は必至と考えていいでしょう」

 

そう、彼らは必ず現れるだろう。
戦争がしたい、戦いたい、強くなりたい、そんな人間が居れば『彼等』の影は現れる。戦争が存在する限り。

 

「……我々は後手に回りすぎたのかも知れないな……」

 

ふと、立ち止まったデュランダルが呟く、その声色にはまぎれも無く疲れが混じっていた。
無理も無い、得体の知れない連中に戦争の火種を撒かれ、
なおかつ自軍の新型機まで奪われる始末、さらにはあんな物まで落とそうとする……
いくらデュランダルの政治的手腕が優れているとはいえ、
此処までやられてはプラントと地球は最悪のシナリオに突入することは必至である。
正直疲れた…… もうこのまま奴等の手の中で踊り続けるしかないのだろうか?

 

「いや、まだ間に合うはずだ」
「ギリアム……」
「レーツェル、準備はどうなっている?」
「無論滞り無く。阻止限界点までには到着する手はずになっている」

 

不敵な笑みを漏らしつつレーツェルが答える。

 

「一体何を…… まさか!!」
「申し訳ないデュランダル議長、もしものときの『切り札』を使わせていただきます」

 

カイは言葉ほど申し訳なさそうでは無い、むしろ悪戯を思いついた悪童のような笑みを浮ばせている。

 

「……事後処理はよろしく頼む」

 

ゼンガーも口元に笑みを湛えている。デュランダルはしばらく呆気に取られた後

 

「………………クっククク…………はっははははは!!」

 

大声で笑い始めた。それにつられたように四人も笑い始める
しばらく大声で笑っていた後、デュランダルが目元を拭いながら呆れたように首を振った。

 

「いやいや、参った!! そうだったな……」
「我々はそのために貴殿に協力しているのだ。忘れてしまっては困る」

 

ギリアムが心外だといわんばかりに応える。

 

「……強いな、やはり君たちは」
「なに、俺達も最初から強かった訳じゃない。小石に躓く事ぐらい誰だって有る」
「『小石』か、確かに私の行くべき道に比べればユニウスセブンも唯の『小石』だな」

 

そう、唯の小石に立ち止まっている暇は無いのだ。彼らが私を信頼するならば、私が彼らを信頼せねば誰がするというのか!?

 

「お陰で少し吹っ切れたようだ ……さぁ行こう!! ぐずぐずしてられん」
「「「「応!!」」」」

 
 

一人と四人、いや五人となった彼らははそのまま廊下を後にした。
通路の曲がり角から一部始終を目撃していたブリッジクルーのアーサーとメイリンは

 

「議長ってホントはあんな性格だったんですね……もっとクールで冷静な人かと思った」
「人は見かけによらない物だね……」

 

と、お互い頷きあっていたが

 

「……カレッジ時代からあの人『隠れ熱血』だったから ……あと、メカとかMSとかも好きだったわね」
「へぇーホントに見かけと正反対な……艦長!?」
「ホントに、変わらないわね。」

 

二人の背後で某いぶし銀の如く壁に寄りかかり腕を組むタリアは懐かしさと寂しさ、
そして若干の羨望の入り混じった声で言うと二人に背を向けて歩き出していった。

 

「……何しに来たんだ? 艦長?」
「さぁ……」

 
 

ミネルバの格納庫内ではシン、ルナマリア、レイの三人が整備班と共に機体のチェックを行なっていた。

 

「それにしてもまぁ、珍兵器の見本市みたいになってるよなぁ……」

 

ヴィーノの溜息にパイロット三人は同時に「「「確かに」」」という顔をする。

 

「だが、こいつらの外面だけに惑わされちゃあいかんぜ!!」
「おやっさん……」

 

現れたのはこの艦の整備班長マッド・エイブスである。
この間におけるモビルスーツや艦の整備や修理などを担当する、正に縁の下の力持ちである。

 

「シンよぉ、お前さんが乗っているインパルス、コイツがトンでもねぇシロモンでな。
 分類は一応試作機なんだが、コイツには『削るべき部分』が存在しねぇ」
「削るべき…… 部分?」

 

シンには余り理解できてはいない様だ。エイブスは肩を落として溜息をつく。

 

「削るべき部分…… つまり量産するに当たって、スペックデータにが口を挟む余地が無い。完成された状態…… ということだ」

 

見かねたレイがシンに解説する。

 

「でもよ、コイツと言いみんなのウィザードといい、この二年くらいで随分と様変わりしたよな」

 

ヨウランが整列された巨人を見上げて呟いた。
レイのザクファントム用に装備されたウィザードは、通常のブレイズに対して、
ブースター、スラスターの数が大幅に増加したタイプで、大気圏内の飛行も可能である。
武装においては、ビームカービンに加え、ロングレンジライフルと背部のウィザードに追加された『サーカスバインダー』が大きな特徴である。
このサーカスバインダーは三百六十度に稼動が可能なアームに接続されており当に死角が存在しない。
レイの空間認識能力の高さ故に使用できる装備なのである。

 

「で、『パワーランチャー』は?」
「…………」

 

シンのインパルスには、高速移動用の追加ブースターとウィングの追加されたフォースシルエットが装備されており、
斬艦刀は侍の如くに腰に吊り下げられている。

 

「ソードと違って出力に余裕が無いから『コーティングモード』で使えよ」
「解ってるって、リミッター外すと直ぐにエネルギー切れるからな」
「しかし、シン。何でこいつは斬艦刀って呼ばれてんだ?」

 

ヴィーノが素朴な疑問を尋ねた。
皆の視線がシンに集中している辺り、どうやら全員が気になっているらしい……シンは咳払いを一つすると

 

「教官達が作ったMS用の刀には代々斬艦刀ってつけるんだって。でも、コイツは本当は戦艦を斬るためじゃない……」
「じゃあ本当に斬るものって?」
「それを見つけるのも鍛錬の内なんだってさ」

 

ルナマリアの質問にも、どこか上の空に答える。

 

(本当に斬るべきもの ……か、ゼンガー教官は俺に何を伝えようとしてるんだ?)

 

ふと、ルナマリアのザクが視界に入った。それにしても……

 

「どう見ても女の子が使う装備じゃないよな……」
「そうね……」

 

悔しくても何も言えなかった。

 
 

同時刻、
落下を続けるユニウスセブンでは、工作部隊と実行犯との攻防戦が繰り広げられていた……
実行犯たちの主力、『ジン・ハイマニューバ弐型』は、
工作部隊の護衛機であるザク・ウォーリアより一世代前の機体にも関わらず彼らを一蹴していた。
また一機、黒と紫に染められたハイマニューバが恐らく新兵であろうザクを一刀の元に両断した。

 

「雑魚がっ!!死ぬのが嫌なら出てくるな!!」
「トウゴウ、そちらはどうだ?」

 

別地区を担当する『中尉』から通信が入る。この地に点在して交戦している彼ら同志達を指揮する男である。

 

「こちらはザコばかりです。問題なく片付きますよ」

 

二三の問答の後、レーダーに三つの光点が表示される。
トウゴウは気を引き締めつつ、僚機に指示を与える。
仲間や『師範代』の為にもここで制圧されるわけには行かない。

 

「どんな敵だろうと、此処を明け渡すわけには行かない!! 
 アイツのためにも ……ここは行かせない!!」

 

自機のモノアイに光を灯すと、スラスターを吹かし敵を迎え撃った。

 
 

そしてもう一つ、着々とユニウスセブンに近付きつつある船が一隻……

 

「進路クリアー鼻息全身!!」
「鼻息ではなく微速だ……」

 

操舵士代理はケラケラ笑いながら

 

「まぁまぁ、細かいことは気にしない!!」
「全く……」

 

艦長不在の今は自分が艦を預かる身なのだが…… 操舵士が居ないとは計算外だった、全く持って不覚だ。
と、デスクに置いたタイマーがベルを鳴らす。葉も開ききった所だろうそろそろ入れ時だ。
カップに琥珀色の紅茶を注ぎ、まずは香りを……

 

ガァン!!

 

大きな振動と共にカップが俺に襲い掛かる!!避けられない!!

 

「まずいよユウ!! どうやら敵さんと鉢合わせ…… ぷっ!!」
「…………」

 

笑いたければ笑え。傍から見れば相当シュールだろうな、紅茶を顔から被った男など……
そのまま指揮を他のクルーに任せ、艦橋を出る。

 

ええい、この礼は相当高くつくぞ!!

 
 

ユニウスセブン地表では未だ激しい攻防戦が繰り広げられていた。
テロリストの駆るジンハイマニューバ2型に対しザフトの隕石破砕部隊は全機最新鋭機のザクウォーリアである。
しかし、二年前の会戦以来、数多くのエースと呼ばれたパイロット達は様々な形で戦場から離れていってしまっている。
いくら機体が最新鋭でも操るパイロットが格下ならば恐るに足りず。
数々の死線を駆け抜けてきた彼らにとっては当に素人同然の如き相手であった。
しかし物事に例外は付き物である。
トウゴウの相手にした水色のカラーリングのザクは先程まで相手にした三下辺りとはまるで異なるレベルの相手である。
既にこの部隊によりかなりの損害が出ていた。
両手に構えたポールアックスは此方の隙を突いては重い一撃を乗せて襲い掛かる。
しかし、このザクばかりに気を取られると高高度で待機している砲撃機に喰われてしまう、
中々やる…… 嘗て自分が敗北を喫した連合の「ストライク」のパイロットに勝るとも劣らない技量の持ち主達である。
久しぶりに高揚感を感じるトウゴウ、生粋のMS乗りとして久々に楽しめる相手になりそうだ!!
ハイマニューバは太刀を上段にかまえ、相手の出方を窺う。
と、その時味方から通信が飛び込んできた。

 

「やられたぞ、そいつらは陽動だ!! 本命は逆方面だ!!」

 

報告を聞き、自分の浅はかさを呪った…… 冷静に考えれば有りうることだった。感情の高ぶりが

 

「……散々暴れまわったのはこのためだったということか」

 

首筋に嫌な汗が落ちる。
まずい、今此処を明け渡せば再び破砕作業を再開させるだろう。
だからといって此方を手薄にするわけにもいかない。少なくとも『今は』…… アレを起動させるまでは
蒼いザクがモノアイを発光させる。それは策に嵌った自分たちに対する嘲笑のように感じられた。
どうやら無傷で此処を去るわけにはいかなそうだ。

 
 

巨大な円盤状のユニウスセブンに向かって漆黒の宇宙を四機の流星が流れていく。
テロリストのMSが少なからず迎撃にでるが四つの流星は目もくれずに一直線にユニウスに突き進んでいる。
先程まで暴れ回っていたポールアックスを持ったザクの部隊の対処のため、戦力をそちらに分散していた事が対応を遅らせてしまっていた。
実際に間に合った機体は十機にも満たないであろう。

 

「敵の数が少ない。陽動、成功したみたいだな」

 

流星の先頭…… 高機動用装備の「フォースシルエット」に換装したインパルスは、
立ち塞がる最低限の敵機を切り捨てながら作戦の第一段階が成功したことを悟った。
真正面から向かって来るハイマニューバの斬撃をローリングでかわすと、
そのままコーティングモードの斬艦刀を相手の胴体に潜りこませ、一気に振り抜く。
金属粒子を纏った刀身は、インパルスのパワーと相対速度が追加した斬撃は容易くMSを真っ二つにした。
敵は現時点での最大脅威をシンと認識したようだ。距離を取ってビームライフルで仕留めるつもりのようだ。

 

「レイ!!」
「任せろ!!」

 

インパルスを狙っていたハイマニューバはインパルスの後方からの閃光に貫かれた。

 

「まだ作戦の第一段階に過ぎない。気を緩めるなよ、シン」

 

四機は速度を緩める事無く一直線に突き進んでいく
立ち塞がる敵はインパルスが切り崩し後に随伴するレイのザクがシンの崩した敵の隊列をさらに容赦なく打ち落としつつ、
遠距離からインパルスを狙う敵機をロングライフルで正確に狙撃する。
撃ち零れた敵は、後続のルナマリアの砲撃で跡形も無く掃討する。

 

高速での強襲・一転突破を目的としたミネルバ隊の基本戦術である。

 

「それにしても、アレックスさんが破砕作業に参加するなんて」

 

最後尾に位置するザクは、アレックス機である。作戦開始直前、自ら参加を申し出て来たのだ。
艦を任されているタリアは他国の人間をザフトのMSに乗せることに対してあまり良い感情を持たなかったが。
デュランダルの説得と、人手は多いほうが良い、
という教導隊の半ば強引といえる機体の用意によりアレックスが参加したわけである。

 

「ザフト製のMSに乗るのは初めてじゃないからな……
 こう見えて、士官学校でも結構な成績だったんだがな」
「アレックスさんってザフトにいたんですか!!」
「前大戦終戦と同時に退役したがな」
「アレックスさん、ルナマリア、無駄口は其処までだ。ポイントに着地するぞ」

 

ユニウスのほぼ中央、すり鉢上になった廃墟の中央に四機は着地した。
所々にかつての賑わいを思わせる高速道路やオフィス街の成れの果てが見える……
レーダーに付近の機影は見当たらない。どうやら作戦の第一段階は成功のようだ。

 

「よし、現在の破砕状態は、全体の約50パーセント程。
 残り時間で残りのメテオブレイカーを設置するためには此処を中心とした一帯を制圧して……」

 

『そこまでだ』

 

全周波数から通信が聞こえてきた。見ると、すり鉢上の大地のへりの部分にずらりとハイマニューバが囲んでいる。
その数は二十を下らない。しかし、先程までレーダーは周囲一帯に何者も感知していなかった。

 

「うそ!! レーダーには何も映ってないわよ!?」
「ミラージュコロイドか!?」

 

突如として現れた大部隊に驚きを隠せない彼らを、今度は振動が襲った。

 

「な、なんだ!?」
「メテオブレイカーの爆発?」
「それにしては時間が早すぎる。これは一体!?」

 

突如響き渡る地響き。地響きは何かがこちらに近付いて来るような一定のリズムで刻強くなっていく。

 

と、シン達を目下にテロリストの包囲網を形成するMSの一部が間を明けた。
いよいよ近付いてきた『それ』は……

 

「なっ!!」
「な、なによ、これ……」
「あり得ん、現在の科学力でこのような…… ナンセンスだ!!」

 

普段あまり感情を表さないレイが驚愕の表情を見せるほど、『それ』はありえないものだった。
其処に立っているのは、全長50メートルは下らないとされる巨大な人型ロボットだった。
金色に輝く胸部の星型、ジェット機のエンジンの様な肩、そしてこちらを睨み付けるような顔。
まるでアニメのヒーローが駆るロボットが現実に飛び出てきた様な容姿である。

 

『なるほど。腑抜けたザフトの兵士にも、多少は出来る者が居るということか……』

 

全周波数でステレオボイスが響き渡る。どうやらあの巨大ロボットのパイロットらしい。

 

「アンタがテロリストのリーダーか!!」

 

その巨躯に臆することなくシンが問いただす。
この絶望的な状況で冷静さを失わないのは訓練の賜物か、畏怖や焦りの表情はかけらも見えない。
シンの言葉に、声の主は苦笑とも冷笑とも取れる笑い声と共に答えた。

 

「テロリスト……確かにそうだな。しかし、三年前の悲劇を忘れ、敵といわれた物を殺し、
 撃てと言われた者を撃つ事に何の疑問も持ったことのない貴様らよりは真っ当な生き方な気がするな」
「それが軍人だ、そんなことを貴様に言われる筋合いは無い」
「その結果が前大戦で起きたヤキンデューエの戦いだとしても、貴様はそう言えるのか?」
「何だと!!」

 

レイのザクを見下しながら、巨人は天を仰ぐ様に手を掲げた。

 

「狂っているのだ!! この世界は!! 同じ顔、同じ形をしたものでさえ、
 敵と言われれば何の疑問を挟む事無く殺すことの出来るこの世界の人間は!!
 故に、我々は!! ……我々『シャドウミラー』は全世界の戦争の制御を行なうのだ!!」
「シャドウ……ミラー!?」
「戦争の、制御だと!?」
「ユニウスセブンは、そのためのデモンストレーションということか……
 ふざけるな!! 武力による戦争の制御だと!? 不可能だ!!
 そんなことは新しい戦争の火種になるだけだということが何故判らない!!」

 

各々があっけに取られるなか最初に反論したのはアレックスであった。普段の穏やかな表情からは想像も付かない激情である。
しかし、対する巨人はそれに臆する事無く、ただその鬼神の如き顔をアレックスのザクに向けただけであった。

 

「この状況下でも我らに牙を向けるか。
 だがこの戦力差と、この『グルンガスト弐式』を前にして貴様等の命運は絶たれたも同然。
 それでもなお抗うか……」

 

辺りを囲んでいたジンが一斉にライフルを向ける。万事休す、絶体絶命とはまさにこのことか?
それでもなおインパルスはブレードを構え、真っ向から包囲するMSに切っ先を向けた。いや、インパルスだけではない。
レイやルナマリア、アレックスのザクもそれぞれの死角をカバーし合う様に得物を向ける。

 

「無理だろうがなんだろうが、俺が叩き斬ってやる!! 俺達は諦めたりしない!!
 これ以上誰かを失ったり、誰かが悲しむ姿なんて見たくない!!」

 

シンの啖呵と共にインパルスが斬艦刀を振りスラスターを全開にし一気に飛び出そうとしたその時!!

 

『その心意気や良し!!だが、貴様の死に場所は、此処ではないぞ!!』

 

辺り一面に低いどすの利いた声が響き渡る。
その直後、クレーター一帯を再び地響きが襲う。
今回はテロリストも予期していなかったらしく、彼等も隊列を崩さずに居るのが精一杯のようだ。
振動は確実に大きくなり。
ついにはクレーターの外周に残った廃墟が次々に崩壊していくまでになった。

 

「振動元特定、此処の真下だ!!」
「飛ぶぞ!!」

 

四機が上空に飛び上がった直後、クレーターの中心地が陥没し地中から巨大な……

 

「「「「ドリルぅ!?!?!?!?」」」」

 

直径70メートルはあるかと思われる巨大なドリルが突き出てきた。
突如現れたドリルは高速で回転しつつそのまま上空へと突き上がり、その後から黒と赤、そして金色に染められた巨大な船体が現れた。
全長は300~400程であろうか?細長の外殻構造はこの世界のどの艦船にもあてはならないデザインである。

 

「こ、これは…… 一体」
「シン・アスカよ!!」

 

呼びかけの反応があった場所…… 艦橋らしき構造物の頂上には、三機のMSが立っていた。
そのMSの一機にはシンの斬艦刀に酷似した。これもまた巨大なブレードを背に背負っている。
その光景に包囲していたジンの部隊も呆然とそれを見上げている。

 

「貴様等は一体……」

 

弐式のパイロットが思わず呟いた。

 

「我らは……『特殊戦技教導隊』」

 

真下の戦艦と同じカラーリングの四足獣形態のガイアが吼え

 

「道理をもってして無理を通し!!」

 

緑色に染められたMSが腕を組み

 

「打と意地をもって、貴様等を撃ち滅ばすものなり!!」

 

鋼色のザクが大剣を構える

 

「「「いざ!!」」」

 
 

暗い通路を一人の男が真っ直ぐに歩いてゆく…… 照明も非常灯すらもない道を
男は臆することも無く進んでゆく……

 

「あの時、あと一瞬でも早く引き金を引ければこのような事態にはならなかったのかもしれん」

 

男は誰にとも無く呟きながら通路の先を見据える。やがて通路が終わりに差し掛かり出口が見えてきた。

 

そう、全てはあの場所でケリを付けられなかった俺の責任!! ならばこそ、

 

決着は自分の手でつける!!

 

その場所は唯の広い格納庫だった……
何も無い、唯の広いスペースといえばそれまでの場所。
男はその中央に立つと、右手を上げる

 

そう…… ならばこそ決着は俺の手で……

 

コール!!

 
 

XNガイスト!!

 

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