鉄《クロガネ》SEED_EX

Last-modified: 2008-02-28 (木) 21:01:29

鉄SEED  EX  「響の子」

 

降り出した雨が曇りがちな空と相まって、ただでさえ霧の深いここいら一帯の視界をさらに狭めている。
ユーラシア内陸部、成都地区……まるで水墨画をそのまま切り出した様な山々……その中を紺と白に染め上げたMSが低空を飛んでいく。

 

「あー、あー……こちらカザハラ、キラ、聞こえるか?」

 

ノイズ交じりの声が内部スピーカーから聞こえてくる。キラ・ヤマトは手元のコンソールで周波数をチェックしつつ応じる

 

「こちらキラ、感度は少し悪いですけど、許容範囲内」
「電波障害が起きてるって事はこの辺りにターゲットの例の施設があるって事だな」
「多分」
「よし、ここいらでレーザー中継器を投下しとけ」
「了解、っとこれで良し!!」

 

軽く何かが外れる音がして、コンソール内のハードポイントの状況を示す枠内に投下完了のサインが写し出される。

 

「こちらキラ、中継器の投下を完了。後は、施設に無駄な護衛が居ないことを祈る……」
「まったくだ、大事な商売道具に傷付けられちゃ溜まんないからな」
「同感」

 

キラ・ヤマトは傭兵である。と言っても、手当たり次第に戦闘に介入したり、基地を爆破したり、クルゥクルゥ~と回ったりシュピン!!と自己紹介するわけでもない。
町から町へ渡るキャラバンの護衛や期限付きでの野営地や仮設施設の警護、自警団の雇えないような小さな町で山賊まがいの夜盗を追っ払ったりと、時に傭兵に疑問符がついてもおかしくない様な仕事も数多く選んでいる。
『傭兵』というより『MSを扱う便利屋』と言った方が正しいかもしれない。
これは単に彼本来のお人よしな性格が二束三文的な仕事を選んでいるだけであり決して腕が立たない訳ではない。
何せヤキンデューエで伝説的な活躍をしたパイロットである。
本来ならば畏怖や賞賛されてしかるべき腕前なのだが、幸か不幸か巷では『何でも最近格安で仕事を請けてくれる便利な奴が居る』という程度での認識に収まっている。
そんな中、今回のミッションは中々傭兵らしいミッションだと言える。
どうやらこの近くに違法な実験を繰り返す研究所があり、その施設への強制突入の為の支援、護衛のMSが居た場合その撃破、が目的となる。

 

「まぁ、俺たちゃ頭数に入っちゃ居ないから気楽にやろうぜ」
「そうですね……」

 

と、言うが速いかコクピット内にアラームが鳴り響く。どうやら付近にMSの熱源反応を確認したらしい。

 

「って言った傍からこれ?」
「暴れんのは良いけど機体を壊すのはカンベンな」
「……善処はしてみます」

 

イルムの皮肉の篭った軽口に歯切れ悪く答えると機体のスピードを巡航から戦闘にシフトさせ、各兵装をアクティブを、OSをコンバットモードに
ゴーグルのようなセンサーが力を増したように強く輝き、背中に装備されたブースターポットから青白い炎が一気に放射される。

 

「キラ・ヤマト、タイプ105、交戦します!!」

 

標的は…… いた。
ジンタイプ、塗装は違うが恐らく砂漠戦を主眼に製作された「オーカー」だ。
袖下に当たる部分に収納されていたハンドガンに似た形状のサブマシンガンを収納部分から滑らせ、腕に納める。
敵機がこちらに気付き、ライフルをこちらに向ける、が

 

「遅いっ!!」

 

各部のスラスターを『片方ずつ前後』に吹かし、相手の頭部センサー側面に向けて空中で回し蹴りを放つ!!
頭部に直撃を食らってバランスを崩したジンは、側面から吹き飛ばされるように倒れる。
そのままマシンガンをコクピットに突きつけ、唯一言。

 

「脱出しろ、さもなければコクピットを潰す」

 

パイロットは慌てた様にコクピットから這い出てくる。
キラはそれを確認した瞬間、マシンガンで主の去ったコクピットを文字通り蜂の巣にする。
オーカーの装備していたアサルトライフルを拾うとセンサーを駆使し警戒を続ける。
どうやら残りの敵が異常に気付いてこちらに接近中らしい…… 熱源が三、熱源の分布がバラバラなのは彼らもまた雇われ者だということなのだろう。

 

「OS設定を変更、タイプを近接戦闘モードへ。モーションプログラム『F2』をトリガーで設定……」

 

各部の廃熱、弾薬の補給を手早く済ませつつ、センサーに気を配る。
出来るだけ素早く、確実で安全、なおかつお金の掛からない方法で済ませるのが今のキラ・ヤマトである。
数は三機、多方面作戦の為、今のところ増援の面は考えなくて良いだろう……
削り取られたかのような細長い山々の陰から巨人達が姿を現す。
其々M1、ストライクダガー、ゲイツと中々の面子だ…… スペックはこちらが上とはいえ、数は向こうが有利、全く油断は出来ない。
さて、どうするか? キラは今までの戦闘経験の中から、この状況を打破する為の最適なプランを瞬時に構築していた。
敵部隊はこちらを包囲すべく三方から接近して来る。ならば現時点で最も適した判断は……
キラの駆るダガーは背部に装備したブーストポットを一気に吹かす。
高機動戦闘用に開発されたこの『エールストライカー』パックは下部に装着されたブースターと姿勢制御用のウイングによりごく短距離ならば滑空が可能である。
その大推力を利用し一気に眼前のゲイツの頭部を飛び越えた。
一瞬にしてこの一つ目のMSの背後を取り、バックパックに存在するMSの急所ともいえる場所である推進剤のメインタンクにマシンガンを突きつけた。

 

「今すぐ武装を解除してコッピットから脱出しろ!!」

 

オープンチャンネルでパイロットに呼びかける。此処で相手が素直に従えばこっちも楽に仕事ができるのだが

 

「……やっぱりそう簡単には行かないか」

 

向こうにもプライドがあるのか味方の命など露とも感じないのか、はたまた元よりお構いなしなのか、残りの二機は盾にしたゲイツの斜め左右からこちらを挟みこむように迫ってくる。

 

「仕方が無い、弾薬代が嵩むけど……」

 

キラは言うが早いか目の前に立つゲイツを蹴り倒すとその反動を利用して一気に後方へ、両方の手に構えたマシンガンを双方に向け1カートリッジ分を一気にぶちまける。
短銃身の為、集束率は望むべくも無いが、高熱量の重粒子による面の攻撃は前方投影面積の大きいMSにとっては大きな脅威である。
雨の中の戦闘という悪条件でもそれは変わらない。
すかさずシールドを構える二機、だがキラはこの隙を逃さなかった。
エールストライカーの大推力に物を言わせて後退から一気に前進へ。

 

「ぐううっ!!」

 

肺を圧迫し肋骨を軋ませるほどの反動にキラは歯を食いしばって耐える。
この突然の行動に二機のうち機動性の低いストライクダガーは完全に対応を遅らせてしまっている。
スラスターの勢いを利用してシールド目がけてとび蹴りをかます。
胴体ごと吹き飛ばされたストライクダガーにマシンガンを連射、回避行動も取れないまま蜂の巣にされた機体は、直後に爆炎へと変わる。

 

「先ずは……一機っ!!」

 

すかさず後方から一撃、残りのM1である。紺色のダガーは盾ともいえない、むしろ籠手の様なシールドでその一撃を弾く。
それを見たM1のパイロットは射撃戦を不利だと見たか、ライフルを捨て背部のサーベルラックからビームサーベルを抜き放ち一気に距離を詰める。
ダガーはそれを受けるかのように籠手を構えて待ち構える。
金属同士がぶつかり合い二機のMSが衝突する。
M1の振り上げたサーベルはダガーの籠手に阻まれ振り下ろすことが出来ない…… もう一方の腕で予備のサーベルを抜こうとする。
が、その胸部には既に銃口が突きつけられていた。
先程のジンから奪ったアサルトライフルである。
キラはためらう事無くトリガーを引いた。眼前のMSは糸の絡まった操り人形のように崩れ落ちた。

 

「これで二機目」

 

瞬間、サイドアーマーからナイフを掴むとそのまま独楽のように後ろに振りぬく。
高速で振動する刃の先には先程のゲイツが、サーベルを上段に構えたままの状態で立っている。

 

「まだやる気? 無駄に命を散らすことも無いんじゃないかな?」

 

刃の先から感じられる殺気、その冷徹な囁きは眼前のMSが先程見せた圧倒的な戦闘技能と相まって完全に戦意を喪失させた。
サーベルを納めつつ両手を挙げたままゆっくりと後退を始め、そして戦場から去っていった。
敵MSの離脱を確認した瞬間、

 

「っぷはぁ~~っ」

 

大きく息を吐き出し、どっとくたびれた様にシートに体重を預けた。

 

「こちらキラ、この地区の武装勢力の排除完了」

 

一通りの連絡事項を言い終え通信スイッチを切ると、モニターを何と無く見つめた。
広がる密林と岩山の中に二体の巨人の骸が未だ黒煙を上げ続けている……

 

(割り切っているつもりだけど…… 慣れたくは無いな、やっぱり)

 

祈る権利も拠るべき信仰も無いが、キラは自らが消し去ったパイロットに思いを馳せた。
敵も本気、死ぬ覚悟の無い奴が戦場に出るのは筋違い…… 判っている。

 

判っているが…… 辛い

 

しかし、自らが再び不殺を誓えるか?   答えは「今はまだわからない」
だが戦場に「出来れば殺したくないから殺さない」という選択肢はない。
それは自らの命の蝋燭を削る行為であり、相手の死への覚悟を踏みにじる行為。
死にたくなければ死ななければいい
唯、それだけだ
上からの目線で他者を見下ろす。そんな人間にはなりたくなかった……もう二度と。

 

そんな思考の海を漂っていた青年を現実に引き戻したのは、センサーに捉えた一台のトラック。
何の変哲も無い一台のピックアップトラック。
付近の住人が何事かとやってきただけかもしれない。
しかし、其処から発せられる「何か」に強く惹き付けられているのだ……
何を感じたのか、それは彼自身にも理解出来なかった。
唯、『其処に何かが在る』、その直感とも言える本能の呼び掛けに従い、青年の操るMSはトラックへと向かう。
道なき密林をひた走る一台の白いトラック。
車体側面に張られたマーキングから例のターゲットである研究所関連の車であることが理解できる。
キラは機体をトラックの進路上へ先回りさせると先程のMS部隊から奪い取ったライフルを右手に構え停車するよう呼び掛ける。
先方のドライバーはすぐさまそれに反応し、車体から一人のレインコートを目深に着た人間を強引に引っ立てると、密林の中へ逃げ込もうとする。
が、レインコートの人物はそれを頑なに拒み、ついにドライバーの男は一人密林へと逃げ込んで行った。

 

『其処の人、大丈夫ですか?』

 

外部スピーカーを起動させ、レインコートの人物に呼び掛ける。が、当の本人は地面にへたり込んだまま微動だにしない。
怪我をしているのか? そう思いキラはハッチを空け、機体から降りる。
吹き荒れる雨が体を濡らすが意に介さず走っていく。

 

「大丈夫ですか?怪我は?」

 

へたり込んだままの体を支えるようにして問いかける。
顔は目深に掛かったフードで見えないが支えた体付きで女、それも自分と同じかそれ以下程の少女だと判る。

 

「う……ん」

 

意識を失っているようだ……このままこのトラックで休ませておくべきか?
そんな考えがキラの頭をよぎった時、ベストに装着した携帯型通信機から通信が入る。

 

「イルムさん? 遅かったじゃないですか。それより今、」

 

瞬間、キラはその通信から流れ出るノイズに気がついた。
しかし、先程キラ自らが設置した中継器からさほど離れていない地点のはずだ……
その時、ノイズ越しに聞きなれた声が聞こえてくる、どうやら相当切迫した声色だが

 

「……ラ、……い……か?主力ぶ…………つした!!…い滅だ!!気を……ろ、その場を……」

 

直後、無線は唐突に切れた。何度もコールしてみるが一向に繋がる気配はない。
ふと、遠くで何かが鳴り響いているのに気付く。
キラはその音に聞き覚えがあった。音は反響しつつ大きくなり、どうやら此方に近付いているようだった

 

「これは…」

 

MSのブースターの音……そう頭を過ぎった瞬間彼の頭上を「何か」が越えていった。
しかし、キラはその過ぎ去っていったモノが何であるかを理解した。『いや、理解しようとした』と言った方が正しいか。
何故なら彼の頭はソレが此処に存在することを否定したからだ。
白きボディ、青く染められた2対の羽、特徴的な四本のツノの碧く輝く双眸…… それは存在するはずの無い機体……

 

「あ、アレは『フリーダム』!?」

 

『フリーダム』……二年前、当の彼自身が駆り、伝説となった鋼鉄の青き天使、
そして今はその内に秘めたニュートロンジャマー・キャンセラーと共に解体、封印されているはずの機体である
同型機かと思案を巡らせるが、此処一帯にザフトの部隊が現れたという情報は得ていない

 

(運用試験? でも重力下での試験運用なんてこんな所じゃなくてもいいはずだ)

 

と、思考の海に沈んでいたキラを引き戻したのは、その場で旋回したフリーダムらしき機体の、こちらを……
否、『自分を』見つめる青く輝く双眸だった。

 

(僕を…… 見ているのか)

 

フリーダムらしき機体は空中で静止しつつダガーを指差している。乗れ、ということなのだろうか?
先程の通信からして恐らく同業者を襲った機体はコイツと見て間違い無いだろう。
その中には自分の機体より高性能な物も数多く存在した筈だ。
そんな機体に対しコチラは中古の継ぎ接ぎMS一機……

 

「フリーダムに対してこっちはダガー…… けど他に選択肢が無いなら」

 

キラはへたり込んだままフリーダムを見上げている少女を担ぎ上げ、そのままMSのコクピットハッチから伸びるワイヤーを掴みコクピットへと滑り込む。
その反動で目深に下ろしたフードが揺れる。ほんの一瞬見えた少女の素顔に既視感を感じたが、現時点で追求すべき問題ではないとその情報を頭の隅に追いやった。
自身と少女を二人場織の要領でシートに括り付け、モニターに映るフリーダムを見据える

 

(さて、次はどうする?)

 

と、先方から通信が入る。通常使われるサウンドオンリーの通信ではなくご丁寧にもモニター通信である。

 

『聞こえるか……キラ・ヤマト……』

 

「なっ……」

 

モニター映るパイロットの姿にキラは驚愕を隠せない。その表情を満足げに見やる相手のは口元を獰猛な笑みを浮かべている

 

「どうした、何を驚いている?よく見知った顔だろう……」
「き、君は一体……」

 

そう、其処に居るのは自身と酷似した顔をした少年……
否、モニターに映る少年の髪が長髪であることを除けば、その顔はキラ・ヤマトと全く同じであると言えよう。

 
 

「俺の名はカナード。貴様と同じく、『スーパーコーディネーター』として産み出され…… そして欠陥品と呼ばれた男だ」

 

『スーパーコーディネーター』…… かつてユーレン・ヒビキ博士によって産み出された完全人工型コーディネイター。
母体による影響を受ける事無く、完全に人の手で手を加えることの出来る人類、それが『スーパーコーディネーター』である。
キラ・ヤマトという人間は、そのスーパーコーディネーターの成功例第一号である。
驚愕に震えるキラをさぞ面白そうに眺めながらカナードは続ける。

 

「研究所の後始末と目撃者の排除だけの任務だったが…… 俺は運がいい」

 

カナードは邪悪な笑みを漏らしながらゆっくりと操縦桿を握りなおす。

 

「ブロウニングにはサンプルは出来るだけ生きたまま連れて来いとは言われているが、肉片一つあれば僥倖だろう…… 貴様は、ここで死ね!!」

 

猛烈な殺気と共にフリーダムは翼を広げ眼前の獲物に飛び掛った。

 
 

「はっ…… くっ!!」

 

皮肉にもその殺気のおかげで現実に引き戻されたキラは、瞬時にダガーを後退させる。
一瞬前に居た場所はビームにより焼け野原と化している
すかさずビームマシンガンで反撃を試みる。外見からして装甲は相転移装甲だろう、ならば高熱量のビームならば効果な筈……
だが、対するフリーダムはキラの予想のさらに上を行っていた。
フリーダムの相貌が煌くと同時に二対八枚の翼が根元から解き放たれる。
八枚の翼はそのままフリーダムの周りをゆっくりと回り始め、その間を光の幕が覆い始める。

 

「無駄だ!! このモノフェーズ光波シールドは貴様の攻撃など受け付けん!!」

 

事実、マシンガンから解き放たれた無数の光弾は光の幕に接触した瞬間、その光と同化してしまった。
散発的な攻撃を続けるも、全く効果なし。実弾による攻撃も全く効かない、当に打つ手なしな状態が続く。
対して、絶対的に有利な状況の中フリーダムは、悠々とその手に持った二挺のビームライフルを掲げる。

 

「この『スーパーフリーダム』の前には、旧式機の貴様など雑魚以外の何者でも無い!!」

 

鋼鉄の天使の腰部、腹部から砲身が迫り出してくる。それはキラが二年前まで搭乗していた機体と同様の構え……

 

「アレは!!」
「今日、俺は貴様を越えて真のスーパーコーディネーターとなるのだ!!」

 

ハイマット・フルバースト、フリーダムの持つほぼ全ての火器を同時に斉射する、殲滅戦を目的として設計されたこの機体最強の攻撃である。

 

圧倒的な破壊力を秘めた五筋の光線が襲い掛かる!!
刹那、紺色のMSは光に焼かれ……

 
 

閃光が収束し、辺り一帯の景色が鮮明になる。

 

「ほお……必殺のフルバーストをギリギリで回避したか。だが、機体のダメージは相当な物だろう」
「くっ……」

 

楽しむようなカナードの声にキラは苦悶の表情を見せる。
フリーダムは周回するドラグーンユニットを回収するとリアアーマーに備えたビームナイフを取り出し、ゆっくりと近付いてくる。
肩ひざを付くダガーを蹴飛ばし、仰向けにさせ二振りのナイフをそのコクピットの目前に掲げる。
フィナーレは直ぐ其処まで迫っている…… カナードは珍しく己が激しく高揚していると感じた。

 

「さぁこれで、貴様も…… 「まだだ!! まだ、終わるわけにはっ!!」」

 

キラの叫びと共に先程まで微動だにしなかったダガーがブースターを吹かしつつフリーダムに食らい付く。
重装機を押し込みつつ、更に余りあるエールストライカーのブースターポットは、組み付いた二機をそそり立つ岩山の岩壁に叩きつける。

 

「「がはっ!!」」

 

激しい衝撃に同じ顔の二人が鏡のように同時に苦悶の表情を見せる……
だが、先に其処から復帰したのはダガーの方だ。
素早く両袖からマシンガンを取り出し、目の前の敵へとその銃身を向ける。
狙うは肩の付け根、フレームが露出するポイント……
フリーダムはすぐさまドラグーンを展開させようとするが、背後に聳え立つ岩山が干渉して満足に展開する事が出来ない。

 

「この距離なら…… バリアは張れないな!!」

 

キラは荒い息を吐きながら、それでもなお闘志を感じさせる笑みを見せる。そのまま肩口に銃口を押し付けフルオートで斉射する。
小さな爆発と共に、フリーダムの両肩がだらりと垂れ下がる。どうやら肩の関節を完全に破壊されたらしい。

 

「貴様ぁぁ!!」

 

それでもなおカナードの闘志は消えない。腹部に搭載した大口径のビーム砲を露出させ、砲身にエネルギーを集中させる。
収束したエネルギーが光を放ち、発射体勢に移行する。
この距離からの拡散射ならよけることは不可能、カナードはトリガーを引き絞る……

 

『おおおおおおおおおっ!!』

 

直後、パイロットの咆哮と同時に濃紺のMSはその砲身に向けて拳を打ち込む。

 

「ば、馬鹿なぁっ!!」

 

先程の爆発を上回る轟音と閃光がフリーダムの腹から放出され、背後の岩壁を吹き飛ばしながら、二機はお互いに反撥し合うように引き離される。

 
 

コクピットの中で二度三度大地が宙を舞い、回転して静止する……
鳴り止むことのないアラームは各部のダメージの深刻さを物語っている。
武装という武装は使用不能に陥り、わずかに残ったドラグーンもその主動力であるテスラ・ドライブが機能不全に陥っている……

 

「だが、まだ……」

 

『はいはい。そこまでよカナード、帰還しなさい』

 

僅かに生きているスピーカーから通信が入る。どうやらカナードの良く知る人物らしい。
その表情が何とも言えないやり辛そうな顔をしている

 

「何だと!?キラ・ヤマトが……奴が目の前に居るのだぞ!! 此処で引くなどと……」

 

『武器もない、フリーダムもボロボロ、しかも旧式相手、幾らなんでも相手を舐めすぎよ?
 「ヴィンデル」も「クーランジュ」もカンカン。アタシが抑えている内に早く帰ってらっしゃい』

 

「ぐっ……了解した。帰還する」

 

その二人の名をを聞いたカナードはしぶしぶその命令を承諾し、残りのテスラ・ドライブを酷使しつつ戦域を脱出し始める。

 

「聞こえているか?キラ・ヤマト」

 

既にモニターが死んでいる為通信はサウンドのみ、しかし彼にはキラ・ヤマトが生きていると信じて疑わなかった。
あれだけの性能差をカバーする技量とカンだ、ここで死ぬはずがない。

 

「俺と、お前、そしてその女。全てはオーブに答えがある……。真実が知りたければオーブへ来い」

 

一方的に通信を切り、一路合流ポイントへ、迎えの船が待っているハズだ。
次だ、次こそ必ず貴様の息の根を止める。それこそが俺の……
歓喜と憎しみを胸に既に少年の思いは「次」に移っていた 。

 
 

「オーブ、か……」

 

逆さまになったコクピットの中でキラは哀愁を混じらせつつ呟く。
世界を見て、答えを見つけるまで帰るべからずと考えていたが、どうやらそうもいかないようだ。
天と地が逆になったな地平線から見覚えのあるシルエットが現れる。イルムのウィンガストだ。

 

「全く、遅すぎですよ」

 

誰にともなくそう呟き、目の前に座っている少女を抱き起こすべく彼女をシートに固定させたまま器用に体を抜き出す。
全く、唯の簡単な任務が今このザマ…… おまけにこの少女だ。
何故あんなところに居たのか? そして自分と同じ顔をしたあの男は一体…… いや、彼が『何者』であるかは知っている。

 

狙われる理由も、きっと。

 

と、ここまできて自らの思考をカットする。とりあえず当面の問題は少女の安否だ
シートのロックをはずし、自らの腕に滑りこませるようにして抱きかかえる。

 

「ごめんよ、ちょっと無茶しちゃったから。ケガとか、してないか……」

 

その言葉は抱きかかえる瞬間、フードから現れたその素顔によって断ち切られてしまった。
ああ、そうか…… その驚愕と裏腹に頭のどこかにいる冷めた自分は、先程のデジャブの正体を理解してしまった。
そこに現れた顔は……

 
 

「ラクス……クライン……」

 

クロガネSEED本編に続く