子連れダイノガイスト
外伝② 『角竜が夢見る戦場』
宇宙は広い。
その無限の暗黒子宮からは数え切れぬ生命が生まれ、世界を満たそうとしたが、百数十億年を経てなお宇宙の全てを手にした種族は存在しなかった。
そう、宇宙は広い。あらゆる種族が争わずに生きる事が出来るほど、領土の保有権を主張し、砲火を交える必要が無いほどに広い。
けれど、宇宙から命の花の散華が絶えた事はない。傷つけ、奪い、殺し合う事で生まれる憎悪、悲しみ、怒り、嘆き、恨み、恐怖という感情。
破壊、創造、栄華、衰退は優雅な四拍子のダンスとなって常に宇宙にどこかで踊られていた。
宇宙に生じた生命の本質は争う事なのかもしれない。
戦う事が仕方のない事――如何なる英知も、慈愛の心も、悠久の時の流れによる変化を持ってしても、根絶する事の出来ないものであるのなら、では、戦いを行うもの達は果たしてどんな存在だったろうか。
大きく分ければ、宇宙には光と闇とがあった。あるいは正と負、プラスとマイナスの属性を持った存在と言い換えてもいい。
光に属する者達は、創造する為に創造を行い、破壊するにしてもそれは新たな創造へと繋がっていた。いわば、生命の鎖を永劫に紡ぎ牛歩の歩みではあったが、より良い生命へと変わらんとする者達。
闇に属する者達は、破壊の為に破壊を行い、創造するにしてもそれは新たな破壊へと繋がっていた。いわば、生命の鎖を次の世代へ繋ぐのではなく、己の欲を満たす為に破壊し、強奪する事に何のためらいも罪悪感も抱かず、今を生きる者達。
相反する両者の遭遇は、億分の一の例外もなく争いへと発展し、古今多くの星の消失を含む星系規模、銀河規模の大破壊と大殺戮を生んだ。
しかし、宇宙に戦いをもたらすものは必ずしも闇と光の衝突とは限らなかった。光の性質を帯びた生命であっても、掲げる正義、大義、信念が異なり、それを譲り合う事ができぬ時、同種族の者たちでさえ争った。
善なる存在と言ってもよい光のものでさえ争いあうのならば、悪なりし闇のもの達が争いあう事は、悲しき本能と言うよりも宇宙の真理と言ってもよい必然の出来事であったろう。
悪が悪を食らって、より大きな悪になる。
闇が闇を飲み込み、より深い暗黒になる。
それもまた、神秘で広大な宇宙の日常であった。
* * *
ここにも、そんな争いの一場面があった。
銀河中心領域――グレートアトラクターと呼ばれる超異常大重力圏近海に、一隻の船影があった。
幾種もの戦艦を継ぎ接ぎにして完成したパッチワーク戦艦■■ダル■ンだ。本来八〇〇メートルほどの艦なのだが、後部に銀河間航行用のワープユニット・居住ユニット・戦闘ユニットが接続されていて、全長二〇〇〇メートルほどに変わっている。
馬蹄の様に前方に突き出たシルエットが特徴的な母艦は、増加ユニットとの接続によって、宇宙警察の非エネルギー生命体隊員の使用する重武装艦五十隻と真正面から主砲を撃ちあって、一方的に勝利を収めるほどの超高性能艦となっている。
宇宙の全種族が使用する宇宙戦艦の中でも最強の一隻を選ぶなら、という話題になったとき、必ず名前が挙げられるようになった戦艦は、宇宙にその悪名を轟かす宇宙海賊ガイスターの母艦としてふさわしいだろう。
地球と言う銀河辺境の星において、宇宙警察最精鋭チーム・カイザーズとの逮捕と闘争劇の結果、首領ダイノガイストが死亡、四将とコウモリが逮捕された事によって、ついに命運尽きたかと噂されたガイスターは、かつての自分達を上回る勢力となって復活を果たしていた。
超超超弩級戦艦サン■■フォ■の周囲を固める小さな影は、コ■■ック■イラの地球から持ち込まれたMSをガイスターロボ化してリサイクルしたガイスターMSである。
いずれも本来の性能を二倍~五倍に強化され、機械ならではの正確無比な機動、データリンクによる完璧な連携で鉄壁の防御陣を敷いている。
総勢五〇余りの人型機動兵器に守られながら、ガイスターの母艦は反中間子砲、五連メーザー砲、陽電子破城砲ローエングリン・ツヴァイ、225cm高エネルギー砲ゴッドフリートMk.71改が毎秒単位で発射され、前方に光の雨を降らせている。
船体各所の総数二百門に及ぶ大小のミサイル発射管からは、熱核、重力変動、空間歪曲破砕、極冷凍、超高出力電圧、エーテル振動、確率変動弾頭といったあらゆる生態を持つ生命体に対応する為の多種の弾頭を備えたミサイルが、すでに三万発以上発射されている。
宇宙警察の定めた標準的なサイズの衛星なら軽く跡形もなく吹き飛ばしている大火力だ。船体内部で常時新しい弾頭を生産する工場を持つ■■■■フォンならではの豪雨の如き破壊の嵐であった。
ガイスターが戦火を交わしているのは、ある星を統べる軍事独裁星間国家の主力艦隊であった。人民を統制している宇宙有数の性能を持つ生体コンピューターを狙い、輸送途中に強奪したまでは良かったものの、追撃に現れた艦隊に包囲され戦闘に突入している。
艦艇総数七〇隻、主力人型機動兵器六〇〇を相手に戦端の火ぶたを切って落としてから、すでに二時間が経過している。
半端な軍備の一星系の宇宙軍程度なら、とっくに潰走している戦闘の中を恐れる風もなく大胆に暴れまわる影がある。四肢を備えた人型の影だ。
二〇〇〇メートルの母艦や二〇メートル前後のガイスターMSに比べればずいぶん小さく見える影だが、その八面六臂の活躍ぶりは目を見張るものであった。
赤いバイザーアイに橙色の平面的な装甲を持ったロボットである。その名を聞けば宇宙警察の猛者とて顔色を青くすると言われる宇宙海賊ガイスター四将の一人(一頭? 一体?)陸将ホーンガイストだ。
しかし、かつて地球でホーンガイストと対峙したカイザーズのメンバーがその姿を見たら、違和感を覚えるだろう。ホーンガイストの背にMSのバックパックらしいユニットが接続され、腰の裏にはビームライフルがマウントされている。
なによりホーンガイストが振るっている、実に全長一五メートルを優に超すエクスカリバーレーザー対艦刀二刀に目を奪われるだろう。
太陽に身を投じて命と言う宝を誰にも渡さずに滅した筈のボス・ダイノガイストが、共に連れて来た新たなメンバーがもたらした力であった。
あるMSの装備の一つであるソードシルエットを、ホーンガイストは使用しているのだ。さしずめソードホーンガイストといった所だろうか。
ホーンガイストだけではない。サンダーガイストはフォースシルエットを装備し、フォースサンダーガイストとなっている。
パワーならばエクスカイザーをはじめとした巨大合体前のカイザーズの誰をも上回るサンダーガイストに、フォースシルエットのスピードと機動性が加わり、その戦闘能力は格段に上昇している。
たっぷりと水を吸わせた筆が走っているように宇宙に太い光の線を引いているのは、ブラストシルエットを装着したブラストアーマーガイストだ。
よく言えば協調性のある――悪く言えば主体性に乏しいアーマーガイストは、ブラストシルエットの大火力の火器をうまく生かして他の三将達のサポートをうまくこなしている。
時に白兵戦によって敵ロボットを両断し、時に遠距離からのビーム攻撃によって爆散させているのは、デスティニーシルエット装備のデスティニープテラガイストである。
兵装に回すエネルギー調整や単純に扱いの難しいデスティニーシルエットの性能を十分に発揮させる事が出来たのは、四将の中ではプテラガイストのみであった。たぶん、オツムの出来の差が、結果に繋がったのであろう。
ホーン、アーマー、サンダーが扱えなかったシルエットを使いこなして見せた時のプテラガイストの得意げな様子を思い出し、ソードホーンガイストはいかにもチンピラっぽく、ケッと吐き捨てた。
もっとも、その時のプテラガイストと他の三将の様子を、ガイスターの新メンバーであるアル■・ジャ・■ーヨは、目糞鼻糞を笑うと揶揄している。隣で聞いていた■ユ・アス■にダメだよ、と注意されながら肘で突かれていたが。
独裁国家群との戦いは一進一退であった。単純な数の差であったら数十倍の開きがあるガイスターがとっくに殲滅されてしかるべきなのだが、個々の戦力の質においては、その数の差を覆すものがガイスター側にあった。
他宇宙の技術との融合によって、戦闘能力を倍加させたガイスター四将の活躍も目を見張るものであったが、新メンバーであるアナザー・アース組も驚愕に値するものであった。
プロヴィデンスガイストが背中に負った円形のバックパックから、個別に核分裂炉を搭載し、量子通信操作による遠隔操作を実現した機動砲台ドラグーンを用いて、単機で十数機分の弾幕を展開して各機の連携の隙をカバーし、同時に複数の敵機を撃墜しているのは、冷笑癖のある金髪サングラスの男、アルダ・■ャ・ネ■ヨ。
振り被った掌を船腹に押し当て、展開している複数の防御フィールドをぶち抜き、出力20万TWのパルマ・フィオキーナで沈め、どこか荘厳でさえある美しい光の翼で戦場を羽ば
たくデスティニーガイストを駆るのは、ガイスターで唯一、首領であるダイノガイストに反抗的な態度をとる――妹はやらねえ的な意味で――シン・■■■だ。
新メンバーの戦闘能力は巨大合体したカイザーズに比肩するもので、旧ガイスター四将の各面々はそれぞれ思う所はある者の、自分達を監獄から救い出した恩もある事から、大なり小なり認めている。
もっともサンダーガイストは早々に餌付けされて陥落し、アーマーガイストの方もプテラやホーンのように馬鹿にしたり脅かしたりする事のない新メンバーに親しみを覚えるのにそう時間はかからなかった。
目下四将の中では知的なリーダーという自分の立場を危ぶんでいるプテラと、ニンゲンには色々と面倒な目にあわされてきた事を根に持っているホーンの二人だけが、若干しこりのある態度をしているだけだ。
ダイノガイストが取っている態度については改めて語るまでもないだろう。
他の仲間――思う所はあれでも仲間と認めてはいるようだ――達は問題なしと判断したソードホーンガイストは、単機で敵艦隊本陣に突撃している首領を目で追った。
三〇メートルを超す巨躯を誇るダイノガイストは否応なく目立つ。それは単に体の大きさにのみ由来するわけではない。
宇宙最強の強者として名を知られたダイノガイストの本来の姿はエネルギー生命体だ。メカの体を手に入れたとはいえ、エネルギー生命体としての性質からダイノガイストは無意識の内に、周囲に物理的な影響力を持つ寸前の密度を持った一種のエネルギーを発している。
簡単に言えば気迫や威厳といったものだ。エクスカイザーからダイノガイストの死を告げられた時、露ほども信じはしなかったが、自分達を閉じ込める牢獄惑星を破って救いにきたダイノガイストの姿を見た時、心が感動に打ち震えるのを禁じ得なかった。
久方ぶりに感じたダイノガイストの思わず膝を屈しそうになる威厳。息をする事さえ(そもそも呼吸していないが)忘れてしまう迫力。
なによりも最後に目にした時と変わらぬその姿が、絶対的な忠誠を誓う首領の健在なる姿は、四将とコウモリ達にとって夢にまで見て待ち望んだものだったからだ。
今、そのダイノガイストが、カイザーズ全員をまとめて叩き伏せた圧倒的な暴力を振るっている。漆のように艶のある黒い鎧をまとった古武者然とした人型へと姿を変えて、両の手に携えた三日月の白刃は、三重ハニカム構造の敵戦艦の装甲を薄紙のように切り裂いている。
膝頭を基点にする砲――ダイノキャノンは交互に砲身を震わせながら迫るミサイル群を撃墜し、胸部に広がっている黄金の装甲からは、莫大な熱量を持ったダイノバスターの熱線が放たれて周囲を取り囲む敵機動兵器を一息の間に薙ぎ払った。
その強さを持って無敵――敵は無しと、見る者の胸に戦慄と感嘆の念を抱かせる戦ぶりである。
『いけねえ、ダイノガイスト様!!』
ものの数分でガイスターの敗北で終わるはずだった戦いに、敵艦隊司令は痺れを切らした様であった。四〇隻ほど残っていた艦隊が左右に分かれ、その奥から直径一千キロに及ぶ巨大な人工戦闘衛星コボスが姿を見せた。
ニンゲンの眼球の様に円形のコボスの表面に巨大な穴が開いている。軍事政権が独裁を敷く事を可能とした最大の理由、天体破砕砲だ。その名の通り、最大出力で用いれば惑星さえも破壊するバケモノ砲である。
天体破壊は宇宙警察が遵守する方の中でも最悪の部類の行いであったが、軍事国家は過去に幾度か使用し、宇宙に生きる者達の背筋を戦慄で凍らせている。
さしものガイスターといえども惑星さえ破壊する超エネルギーに晒されれば生存の目は万に一つもないだろう。焦りを隠さぬソードホーンガイストの声に、ダイノガイストは一度だけ振り返ったが、それだけであった。言葉ではない背で語っていた。
“おれ様を誰だと思っている?”と。
ダイノガイストの声なき声を聞いたソードホーンガイストは、沈黙した。そのダイノガイストの背に魅了されたからこそガイスターの将となったのだ。
純粋に他を屈服させる強い力に魅力を感じるソードホーンガイスト、いや、ホーンガイストに取って、他の追随を許さず
――(グレートエクスカイザーとコズミック・■■の地球でまみえたグレート■イトガ■■を除く)、強者の弧峰に立つダイノガイストは信奉に値する存在であった。
その最強が、動じず揺るがずそこに在る。ならば、自分はそれを信じるだけでいい。力こそは絶対。最強の力が見ていろと言っているのだ。それに従えばいい。
見ればソードホーンガイストのみならず、ガイスターの三将も、プロヴィデンスも、デスティニーも戦いの手を止めダイノガイストを見つめている。
敵艦隊はすでにコボスの天体破砕砲の射線軸から離脱している。時が止まっている様な静寂が舞い降りた宇宙で、一機の戦闘機だけが動いていた。機体前方に刃の様な機首が着き出る鋭角のシルエットを持った、マユ・■■■の搭乗機Dライザーだ。
ダイノガイストの背後まで接近するとガイドビーコンが照射され、Dライザーが反転、あわや衝突かと見間違う高速でダイノガイストの背にドッキングする。Dライザーの両端のウィングアーマーはダイノガイストの両肩に接続される。
勢力を増して復活した宇宙海賊ガイスターを危惧するもの、かつて苦汁を舐めされたもの、復讐を狙う同業者達にとって、壊滅から火炎の息を吐きながら復活したガイスターはより一層の脅威と認識され、宇宙中から狙われる事となった。
敵対者達が徒党を組み、数千数万数億の大群となってガイスターに襲い掛かる事とて有り得る。そのような事態に対抗するため考案されたのが、Dライザーとダイノガイストとの合体によって完成する、対無量大数敵性群殲滅用戦闘形態――
『ダイノガイストライザーーーーーッ!!』
ダイノガイストの肩に回されたDライザーのパーツ内部には、百五十億年ないしは三百億年前の一世代か二世代前の宇宙から空間を越えて漂着した特殊な物質が搭載されている。
右肩部に内蔵された緑の宝石は、マ■・アス■の精神が諦めに屈さず恐怖を乗り越える限りにおいて無限のエネルギーを生み出し、左肩部に内蔵された赤く輝く宝石は、ダイノガイストの強固な精神によって完璧に制御され、圧倒的なエネルギーを放出する。
ダイノガイスト単体時でも放出するエネルギー量は、エネルギー生命体として規格外としか言いようのない異常値であったが、ライザー形態となった今、それさえも凌駕する莫大なエネルギーが辺り一帯の虚空を震わせていた。
『制御はおれに預けろ、■ユ!』
「はい!」
敵にとっては恐怖を呼び起こし、味方には頼もしき事限りないダイノガイストの声に、金鈴の響きの様な幼い少女の声が答えた。ひょっとしたら、ガイスター四将の誰よりもダイノガイストへの信頼に満ちていたかもしれない。
ダイノガイストライザーは愛刀ダイノブレードの柄頭を接続し、ダイノツインブレードとなす。同時に、両肩とダイノガイスト自身が発する三種のエネルギーが同調し、増幅しあって、三十メートル超の漆黒の巨体が金色に染めあがった。
夜の世界を払拭し、闇の冷たさに震える世界を暖かく照らし出す太陽の黄金ではない。人工の翼をもってその高みに手を伸ばさんとした若者を、地に落とした残酷な黄金の光であった。
黄金の戦将と化したダイノガイストライザーのバイザーアイは変わらぬ赤い光を地獄の炎の様に吹き、双刃刀形態のダイノツインブレードを頭上高くへと振りかぶる。
ダイノツインブレードを握る手から、命の宝石が生み出す緑の光輝、誇り高き戦士の赤石が放出する紅の煌めき、そしてダイノガイストが発する暗黒が堰を切ったように溢れだす。
ダイノツインブレードを翡翠の様な緑と、鮮血を思わせる赤と、果てしない奈落の様な暗黒が覆い尽くす。
ライザー形態のダイノガイストが、天井知らずにエネルギーを高める一方で、コボスはすでに発射の準備を終え、直径三百キロの絶対破壊の光を解き放った。
射線上に存在する全てを超高エネルギーが原子レベルにまで分解し、ダイノツインブレードを振りかぶるダイノガイストライザーへと襲いかかる!!
『ダークサンダー……インフェルノォオオオオオオオオーーーーーーーー!!!』
ぶお、と宇宙を震わせながら――誇張ではない――ダイノツインブレードが振り下ろされた。三種の色彩に彩られた双刃は全長一万キロメートルに達し、視界の全てを埋め尽くす破滅の光を真っ向から斬った。
斬ったのである。直撃すれば惑星さえも無数の星屑に変えて破壊する無情なエネルギー砲を、たった一個体の放った一撃が。
それだけに終わらなかった。一万キロメートルの超規格外長刃は、ダイノガイストライザーとコボスとの間に存在した空隙を埋め、一万八千枚の特殊装甲と七十種の防御フィールドによって守られたコボスを、真っ向から唐竹割にする。
一千キロメートルの人工戦闘衛星は、まるでスイカ割りのスイカの様に、億千万の生命を脅かしたとは思えぬ呆気なさで二つになる。
のみならず強化増幅されたダークサンダーインフェルノの五十七億七千万テラアーデルハイドのエネルギーによって瞬く間に塵芥と化して消滅してゆく。
エネルギー刃を振り下ろし切り、四彩を纏った姿からもとの漆黒の姿へと戻る。
最後の爆発と共に、近隣の星をも照らす光の中、威風堂々と立つダイノガイストの姿に、ソードホーンガイストは見惚れていた。
それはこの宇宙に終焉をもたらす破壊神の光臨の様だと、宗教家なら言うだろう。
そして、ソードホーンガイストは――
『そうだ、そうだ、ボス! あんたが、あんたこそが最強だ!! 宇宙海賊ガイスターの首領ダイノガイスト!!! それが、あんただ。
この宇宙で一番強ええ奴の名前だ!! おれは、おれはあんたに一生ついて行くぜ! おれは、ガイスターのホーンガイスト!! ダイノガイスト様の一番の部下だあっ!!!』
もし、その機能があったなら、ホーンガイストは熱い涙さえ流していたかもしれない。
* * *
『部下だあっ!!! ………………んあ?』
叫びと共に勢いよく顔を上げたオレンジ色のメカ・トリケラトプスが、きょろきょろと周囲を見てから、間抜けな声を出した。どういうわけでか口からは涎を零している。
周りでは同じようなメカニズムによって構成されているステゴザウルスやプテラノドンなどが転がって、寝息を轟かせている。
『なんだあ、夢かあ? ちくしょう』
現実の世界へと帰還したホーンガイストは悔しげに呟き、剥きだしの岩肌に腹這いになった。この牢獄へ閉じ込められてどれだけの時間が経った事だろう。
宇宙全体で見ても長寿のエネルギー生命体であるガイスターの面々にとって、数年、数十年という時間単位はさして長いと感じる事はなかったが、鬱屈とした心は時間の流れがひどく緩慢なもののように感じている。
『しかし、ありゃあ、いい夢だったなあ。わけのわからんニンゲンどもが居たが、おれ達がまた自由になって、ダイノガイスト様と一緒に暴れ回っていたものなあ、本当にいい夢だったぜ』
たとえ夢でも、それが現実ではなかったとしても、ホーンガイストの心は久しぶりに高揚していた。その夢を現実のものとする為に抗う意欲は大きく削がれていたが、それでもホーンガイストはダイノガイストが死んだと言う、エクスカイザーの言葉だけは信じてはいなかった。
ダイノガイスト様が太陽に落ちた程度で死ぬはずがない。だって、あの方はガイスターの首領ダイノガイストなのだ。それは狂信か妄執か、それとも確かな信頼だったろうか。
ただ、四将もカイザーズも知らぬ宇宙の辺境で、ダイノガイストが生き、囚われた部下達の救出を画策している事は、確かな事実であった。
いい夢だったともう一度呟き、ホーンガイストは目を閉じた。閉じる寸前、サンダーガイストの尾がゆったりと左右に揺れているのを見た。サンダーガイストもなにかいい夢を見ているのだろうか?