DEMONBANE-SEED_ですべのひと_03_2

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:24:03

『ともかく。見事に引っ掛かってくれたであるな、大十字九郎。

 我輩の最新作であるこの

 「ニンテンドーDS専用スーパーウェスト無敵ロボ28號DP~ベトベトン、君に決めた!~」

 の偉力はいかが!』

『博士、もう訳がわからないロボ』

……ほっとくべきか。

丁度位置関係で一部見えるところにあったデモンベインをに視点を移す。

「トリモチ?」

コーディネイターの知覚が、視力が確かにそれを捉えた。

トリモチに絡まれたデモンベインがもがいている。

それで動かなかったのか。

なんか同情通り越してシュールだ。

『我輩の計算通り、昨日こっそり仕掛けておいた暴走プログラムを起動させたMSは

 デモンベインと激闘を繰り広げ、その中でチャンスの瞬間にこのトリモチランチャーで……』

『貴方、誰なんですか?』

な、なななな何不用意に話しようとしてるんだあの馬鹿フリーダム!

いくらなんでも今は間が悪すぎる!

『……………………』

沈黙。

『博士、起動ボタン間違ってたんじゃないロボか?』

『……な、なんなんですか?

 なんで我輩、失敗してるんですか?』

『何がだ』

『汝の顔もいいかげん見飽きたわ』

辛辣な感想の九郎とアル。

そりゃ幾度とな





『……で、暴走プログラムって?』

『そうそう、見るが早いか。ポチッとな』

『博士もおだてりゃ木に登るロボ。グギュグバァッ』

なんか押したらしい。



……何も起きないんですが。







フリーダムがおかしい。

何をしたんだ、あのキ○○○。



………………妙な静寂が過ぎる。

何も起きない。

否、何も起こせない。

コクピットのどれを、何をいじっても、動く素ぶりさえ見せない。

油断していた。

この時代に、こんな事ができる者がいるとは。



暫くして、モニターが再起動する。

その画面にはでかでかと、

『WESTROBOT』

「な、泣いていいですかァァァ!?」

堪らず叫ぶ。

そして、かの○○ガ○の言った通りに。

フリーダムの暴走が、始まった。





デモンベインの顔を横に向けた。

これで精一杯、他はまるで動かない。

「っくそ……やけに静かだが、どうなってるんだ?」

デモンベインはともかく。

○○○イ。

フリーダム。

動こうとしない。

奇妙な間が俺たちの間に流れる。

瞬間。



動けないデモンベインに対し、容赦ない攻撃が始まった。



「うおぉぉぉ!? 動けないところに容赦なく! 鬼かてめぇは!?」

「否、流石にそこまではするまい。

 大方暴走でも始まったと考えれば……あやつめ」

『機体から降りるときは、戸締まりを確認して離れてください、であるよ?』

『本当は無理矢理開けていじったロボ』

「だぁぁ!! これでわかったろキラ、奴らに常識は通じなばっ!?」

「こ、これでは結界も張れん! 早急に迅速にとにかく早く何とかせよこのうつけがぁ!」

『うわぁぁぁ!! ごめんラクス本当にごめんなさぁ―――いっ!!』





……ぱしゃ。

地獄絵図と化した戦場は、格好のネタだった。

キラ君にはかわいそうだけど。

明日の記事はこれで十分そうだな、と軽く現実逃避。

「……お嬢様、大丈夫ですか?」

「大丈夫と言えますか、これが……お爺様のデモンベインが、こんな……」

心中お察しします。

「仕方ありません、早急に司令室に向かいましょう。

 ここから一番近い入り口は……」

「俺も行きます。流石にこれを止めないのは気がひけます」

「助かりますわ、シンさん。

 時間がありません、急ぎますわよ」

此方も此方で話がまとまり、どうやらここから離れるみたい。





「お嬢様、シン様、一旦この区域から出なければ地下への道はありません。

 流れ弾が飛んでくるとは思います。ですが、私めにお任せを」

言って、執事の方が総帥と少年を抱える。

「い、いいですよ俺は。こう見えても軍人学校では身体能力系トップの成績でしたし」

少年は降りた。

……ふと、頭にルートが浮かぶ。

ここは少し取材に来たことがあるし、そもそもフリーダムを隠してきたのはキラ君と私だ。

「待ってください!」

思った瞬間、すぐ言葉が出た。

「私……此処なら、ある程度安全なルート分かります」

逃げ道を残して、瓦礫が降ってきても大丈夫なルートなら、既にいくつか候補があった。

「どうします、お嬢様」

「……緊急事態です。適職の方の力が借りられるにこしたことはありません。

 実際に見ていない私達よりは、ずっといいでしょう」

「では行きます。先ずはどこに? お望みとあれば、あなたもお運びしますが」

「此処からは、左に! ……あ、私も一人でいいです」

そして、駆け抜ける。



しかし、私は二人の速さを知らなかった。



流石に脚力は段違いだった。

執事さんは割と前にいる。

総帥持ったままでこれか。

俺は一応まだ喰らい付いているが。

その後ろ、記者さんが肩で息をしながら走っている。それも、

「かなり遠くじゃないか……!」

執事さんは速い。コーディネイターでもあれはそうはない。

俺はさっき言った通り、コーディネイターの平均の中でも遅くはない。頑張れば追い付ける。

問題は彼女だ。流石に案内役がこれでは話にならない。

執事さんの申し出も断ってるし、これじゃ執事さんの速さが無駄になってしまう。

「乗って!」

無理矢理おんぶの形にする。この際仕方ない、なりふり構うか。

そしてまた走り出す。



ところで、俺は破廉恥な男かもしれない。

ヨウランの言葉を借りてしまえば、ラッキースケベ?

つい口をついて出た、乗れ、の一言。

どこまで逃げたか……流石に疲れる。

だが悲しいことに、コーディネイターの脚力は人より優れていた。

これでもまだ、かなり早いのだ。

「執事さん、シン君、次を左に!」

そのせいで、記者さんは俺にしがみついてきて。



いやいやいやいや荒くなった息が聞こえて耳にあたって胸が背中にあたって脚持ってていやいやいやいや



「……どうしたの、シン君?」

「何でもないです。そういうことにしといてください」

―――何でもない?



     否



違和感に気づいた時、直感的に脚を止めた。

眼前に走る、青い光。

「な、何だ!?」

「お嬢様、これはまさか……」

「ええ。……お二方、此処がなぜ封鎖されているかわかりますか?」

そんなものは。多分、言うまでもない!

「この場での戦闘に許可を出した理由にはもうひとつ。

 ネクロノミコンの気配が在れば、断章をおびきよせる餌になるかもしれない。

 彼らと相談して決めた、一種の賭けでした」

飛び回る蒼き光に、紅き光が交差する。

「本来なら、断章が現れたときはデモンベインと大十字さんに

 対処してもらおうかと思いましたが……」

蒼と紅の交差が、地に降りる。

「真逆、このタイミングで―――!!」

現れたのは、双子と見間違う程の、人の形をした何か。

紅と、蒼。



震えていた。

何かの恐怖があったのかもしれない。

人外との遭遇。

何かが告げている。

奴は人ではない! 人間をも一瞬で消し飛ばす力の顕現だ!

震えていた。

俺が。

―――俺がポケットに入れていた携帯も、だ。



双子が動き出す。

蒼の、紅の光となり、周囲を飛び回り、幾度となく交差し、

飛び上がる。

俺には分かっていた。

次は此方に来る。

震える携帯。

……この時代に、携帯は動作したか?

そんな関係ないような思考が頭をまわる。

関係ないような―――





奴が俺の頭上高くに来た。

携帯が震える。

記者さんを下ろす。

携帯が震える。

奴が、降りてくる。

携帯が震える。

俺の頭上に降りてくる。

携帯が震える。

俺に一直線。

携帯が震える。



わかったよ、しつこいな!

ポケットから、マユの携帯を取り出す。

待ち受け画面の代わりに、着信の代わりに、メール通知の代わりに、

たった一言。

『掲げろ』、と。

「やってやるさ、畜生―――ッ!!」

この際理屈はどうでもよかった。

画面を奴らに向け、携帯を掲げる。

「シンさん!」

「シン様!」

「シン君っ!」

皆の声が聞こえる。

やけに時間が遅く感じられる。

ごめんな、マユ。

もう、お前の携帯ですらおかしくなっちまったみたいだよ。



そして、目を閉じた。

何故か、死ぬという思考はなかったが、

もう多分、紅と蒼の光が俺を裂いて―――



携帯の震えが、止まった。





生きている。

何故か、その実感はあった。

目を開ける。

紅と蒼の光は、確かにあった。

桃色の携帯から発せられたものであれば、いくらでも。



皆が、呆然とこちらを見ている。

こっちみんな、と言いたいところだったが、確かに俺も訳がわからない。

携帯の画面を見る。

そこには、まずこう書かれていた。



『その衝動のままに』



スクロールする画面。

俺の意思ではない。

続く。



『汝は、絶望より這上がる不屈の意志

 汝は、光明にも闇黒にも染まらぬ無垢

 汝は、悲劇にして喜劇なる運命を打ち砕く憎悪』

文は、続く。

『永劫の螺旋を砕き

 両なる面の世界を砕き』

そして、開くセカイ。

背後に衝撃。

振り返る。

其所には。

「……インパルス」



『その衝動のままに―――運命を断つ剣』







此処に座るのも久しぶりだ。

着替える時間も惜しいし、何より此処に服はない。

私服のままだけど勘弁な、インパルス。



Generation

Unsubdued

Network

Drive

Assault

Module



G.U.N.D.A.M.



慣れた手つきでコンソールを叩く。

OSを起動、戦闘システム確認、オールグリーン。ソードインパルス。

だが、これで終わりではない。ある種の確信があった。

パイロットの意に反して、ソードインパルスは突然自動的に行動を取る。

左手でフォールディングレイザー、右手でエクスカリバーを一本執る。

わかっていた。今この衝動は、確かに変わり始めていた。

運命を断つ剣へと。



『とびっきりの力をあげよう。

 高みに上がるための力をあげよう。

 魔を断つに値する力をあげよう。

 剣をあげよう。刄をあげよう。

 とびっきりの力をあげよう』





「っく!?」

変質する。目の前の物体が変質する。

インパルスの手を離れる。光が視界を包む。

割れるような痛み。覚悟していたが、想像以上に痛い。

意識が飛ばされそうな痛み。いや、実際もう飛んでいてもおかしくはない。

視界が暗転する。辛かった。だけど、諦めない。

『これ』は俺が手にする力だ。

二度と悲しませないための力。二度と悲しまないための力。二度と失わないための力。

手放すものか。この力で俺は、今度こそ皆を守る。

『憎しみで戦うなと言ったのは、どこのどいつだ?』

「それの答えは出した。理不尽への怒りは、間違っているわけじゃない」

『今という時代への干渉は、控えるべきじゃなかったのか?』

「俺が戦うのは理不尽だ。ブラックロッジだかなんだか知らないが、

 奴らが人の命を理不尽に奪うような連中だということは知っている。

 覇道への協力も惜しまない、非道を止めることができるならな。

 此処にあるものはドロドロした理不尽じゃない。純粋な理不尽だ。

 なら俺は、ただ自分の正義を貫ける。単純な信念が貫ける。

 いくら時代が変わっても、理不尽への憎悪は変わらない!」

『……そうか、ならば使うがよい。存分に振るうがよい。

 この力は、妾が奴等との戦いで使ったものだ』

ここで俺は気づく。この問答は、自問自答なんてものではなかった。

「ありがとう、『影』」

痛みなど、気にならなくなった。

理屈など、もはやどうでもよかった。

この世にいるいないもどうでもよく、ただ会えているという事実だけを認識して。

レバーがあるはずのところに伸ばそうとする手に。

重なる。





それは、『影』だけじゃなかった。

声が聞こえた、そんな気がした。

『シン、やっちゃいなさい!』

『お前の力を見せてやれ!』

『シンならできる。俺が保証してやる』

『戦うんだ、シン。お前の信じた路を征け!』

俺は一人じゃない、離れても、別れても、いつだって俺達は一緒だ。

共にミネルバで戦った仲間が、手を貸してくれた。

確固たる意志ができたよ、俺には。

ルナ、レイ、ハイネ、アスラン―――行ってくる。



顕現する刃。ロイガー。



『負けないで』

「大丈夫だよ、俺は」

ステラ、もう二度と君のような悲劇を起こさせはしない。

だから、見守っていてくれ。

俺は絶対に、理不尽に屈したりはしないから。



顕現する刀。ツァール。



ロイガーは逆手、ツァールは順手。

振り払い、突き出し、確かめる。

目の前でロイガーとツァールを合わせ、両刃として振り回し、構える。

今までとは比にならない力がみなぎっているのが感じられた。

これが、俺の新しい力。

「やれる、やれるぞ! 理不尽を砕くことが!」

思い通りにさせてたまるか。邪悪をのさばらせてたまるか。

今は、あの混沌とした状況を沈めることから始めよう。小さな事から始めよう。

やがてそれを大きな力として、ブラックロッジを砕くための力としよう。

俺は、戦う。

「シン・アスカ、インパルス! 行きます!!」

そして、走り出した。



ダメだ。これは、見逃してはならない。

この時だけは、撮らなければならないだろう。

カメラを手に取る。

「執事さん、あとは左に真っ直ぐ行けばもとの場所です。

 そこからなら、道はわかりますよね?」

「はい。それならば」

「私、用事ができました。総帥達は先に戻っていてください。

 今日は私達につきあわせていただいて、すみませんでした」

「いえ、大丈夫ですわ……あなたは?」

「大丈夫です。私も、記者のはしくれですよ」



感じたのは、男の船出。

決して簡単な道ではないだろう。

だが、ブラックロッジを相手に、剣を執った者が、ここにも一人いた。

『皆、行ってきます』

コクピットに乗り移る直前の、彼の声が蘇る。

それは覚悟を決めた男の声だ。直感的に感じていた。

この真実を記事として書きたい。書かなければ、一生後悔するだろう。

「私にだって、自分が『戦うべき時』ぐらいわかりますよ」



シン・アスカは、自分を縛っていた何かから漸く抜け出した。

そして、その魂の燃焼に触発されたかのように。

リリィ・M・ブリッジ、彼女もまた自らの剣を執った。

カメラという。ペンという。

それらは決して何かを物理的に倒すことはできないが、

何かを人に伝えるということができた。

人の思いを、真実を伝える、それが彼女の戦いだった。





残された二人。

ウィンフィールドは駆け出そうとするが、それを制止する。

「私だって、覇道財閥総帥ですのよ。これぐらいの距離が何です、自分の足で行けますわ。

 いえ、今は自分の足で行かなければならないのです」

そう言って、着用していた衣類を脱ぎ、抱える。

着飾った衣類の下には、戦いの為の服があった。

着飾った容姿の下には、戦いの為の意志があった。

そして、二人は駆け出した。

今頃はメイド達が頑張っている。今頑張らなければならないのは、私だ。



覇道瑠璃、彼女もまた司令室にて自らの力を振るうだろう。

それらもまた、決して何かを物理的に倒すことはできないが、

人を指揮し、助けることができた。

自らが直接戦わずとも、彼らの『後ろ』を徹底的に守る。それが彼女の戦いだった。



人の魂の燃焼というものは、何故こうも伝播するものなのだろうか―――





「なんてこったい。まさかあの○チ○○相手に、

 ここまで追いつめられるたぁ思ってなかったぜ」

「汝は油断が過ぎるのだ。妾は常に気を抜くなとは言っている筈だが。

 まずはこのトリモチとかいうのをどうにかせねば……!」

ダメージは割と厳しいところまでいっている。

あれからさらに、破壊ロボまで攻撃に加わった。

特殊弾頭のミサイルなのだろう、デモンベインに相当な損傷を与えるには十分だった。

『ぐわっははははははぁ!! どうだ、諦めたか大十字九郎。

 今回こそはおとなしく負けを認めるのだな。三回まわってボギーワンすれば命は見逃してやるのである』

『博士、そのネタは使用予定があるみたいロボ』

『む、そうであるか。楽屋ネタは嫌われる傾向にあるのでな、ならばこうしようではないか。

 三回まわってゴッド土下座すれば命は見逃してやるのであーる』

『なんて勝手なっ!』

『ああ、動くでないぞ、そこな少年。少しでもデータを弄ればドカン! であるからな』

『くっ……止めてください! 僕には彼を一方的に嬲る理由がない!

 こんなことをしたら、デモンベインが! あの二人が!』

『我輩には、ある。大十字九郎にはほんのちょっとだけ積年の恨みが積み重なっているのである!』

『博士、エルザはいつまでツッコミすればいいロボ?』

「キラ……こんな時くらい、自分の心配しとけよ」

キラは、実はそこまで悪い奴じゃないらしい。

ここまで来ても、まだ俺達のことを心配してやがる。



「愚直な奴め」

「いいんだよ、アル。あいつも苦しいんだ」

そうして、断鎖術式を起動する。

「俺達も、めいっぱい苦しんで、それで勝たなきゃな、あの○○○イ野郎に!!」

開放。だが、エネルギーが足りない。

デモンベインは宙に浮いていた。まだトリモチは引きちぎれなかった。

だが、二連続。脚は取れた、だが胴体は、腕はまだ。

力の方向が変わり、地面にそのまま激突するところだった。

『もう一度だ!』

声がした瞬間、胴体の、腕のトリモチが裂かれた。

三回目。頭から廃ビルに突っ込み、デモンベインは逆さになった。

腕を使い、頭から跳ね上がるように起きあがる。

声のした方を振り向くと。

「……ったく、来るなら来るでもう少し早く来いよ」

真紅の機体が、投擲したであろう兵器を掴んだところだった。

「あ、あれは我が断章の力、ロイガーとツァール!」

「知っているのか雷電!?」

「誰が雷電だこのうつけが! しかし、何故妾の断章を、あやつが……」

「そんなことはどうでもいいさ。それより今は、奴を倒す」

見た目はちっぽけだが、闘志は俺達と変わりない。

魔術武装を得たMS、か。

『やるぞ、九郎』

「おう、シン」

心強いこと、この上ないぜ!



「さあ覚悟しな(自主規制)野郎!」「あんたを討ってやる。俺達がな!」





そびえ立つ白亜の城塞。

汚されようとも、傷つけられようとも、不屈にして不沈。

無垢なる刃。



並び立つ真紅の勇士。

その純粋なる理不尽への憎悪は、総てを砕く。

気高き刃。



果たして、此処に誕生したのは、時を超え実現した荒唐無稽な二刀流(トゥーソード)。



「年貢の納め時だな、ドクターウェスト!」

『ぬぐぐ……なぁらば、此方も陸自を遥かに超越する命中率を誇る

 この新兵器「ハイパーメガトリモチランチャー」と我輩の魂のドリルで

 正々堂々と受けて立ってやるのである!』

なにもこいつにまで魂の燃焼が伝播せんでも。



そして、奴の砲撃が始まる。

腕部、そして上の面から発射されるミサイルの雨で動きを止め、

トリモチで捕縛していたぶるつもりだろう、おそらく。

「シン!」

前方に偃月刀を投げる。

ミサイルが爆散。

偃月刀は弧を描きながら飛び、そこにインパルスの陰。

シンは飛び上がることでミサイルを回避、さらに偃月刀を足場にすることで、

トマホークミサイルと腕部ミサイル、両方の死角たる角度に飛び込んだ。

其処に、絶妙なタイミングでフリーダムの乱入―――読めていた。

『ぶっ!?』





実は、シンが乗ったのは、『偃月刀を写したニトクリスの鏡』。

実際投げた方は、ミサイルを突き破った時には隠してあった。

横に投げたそれは縦向きとなり、フリーダムが割って入ろうとした時に

思いっきり衝突するという心算だった。すまん、キラ。

「あやつも不憫だな。よりによって○チ○○に捕まるとは」

まったくだ。

お前はいい友達……じゃないな、少なくとも。

とにかく絡んできた人外がいけないのだよ。



「覚悟、ドクターウェスト!!」

ツァールを振り下ろす。

トリモチの砲身をばっさり切断。

『な、なんとぉぉ!!』

これで終わりではない。終わらない。

ロイガーをドラム缶にぶっ刺し、一気にはね上がる。

狙いは上からミサイル発射口を破壊する攻撃、

此処からならドリルも間に合いはしな―――

「おわぁぁぁぁ!?」

信じられない、間に合ってた。

吹き飛ばされ、廃ビルに衝突。

いや、まだ刺さってる……!? エネルギーが!



『のわっはっはっはっは!!

 ひっかかってやーんの、m9(^д^)プギャー』

『博士、うるさいロボ』

『………………』

あ、傷ついてる。





『ま、まあよい。我輩の開発したこの切札

 「ドリルトルネードクラッシャーグラインド」の調整は完璧であることがわかったのであるからな』

「あー、元ネタそれってもしかして戻ってこないアレか?

 4~5年前にリメイクされた作品だったけど、熱かったなあ、あれ……」

『……おーい、シン』

「どうしたんだ、九郎?」

『いや、そこ……』

「あ」

灰になっちゃってるよ。



『こんな……たかが乱入者の小僧に我輩のネタを読まれるなど有り得んのである! 断じてッ!

 それにあれは我輩がパクったに非ず!』

いやまあ、俺の世界とは時系列が違うわけですが。

「調子狂う……」

しかし実際問題苦しいは苦しい。

トリモチはなくなったが、ミサイルが残っていた。

おまけに機関砲まで乱射弾幕が激しすぎて、エネルギーがもたない。

PS系の装甲はエネルギーが切れると脆い。そして充電手段は…



そんな時。

『シンさん、聞こえますか?』

「総帥!?」

覇道総帥からの通信だ。どうやら間に合ったらしい。

『フォースシルエットは高機動戦闘用でしたわね?

 こちらからシルエットを転送します、指定座標にて換装を!』

「りょ、了解!」

って、待て。

換装システムに関しては少ししか話をしていない筈だ。

……まあ、インパルスのシルエットを換えてあったんだ、有り得ない話じゃない。





「九郎、インパルスは装備を換装するから少し離脱する。

 終わるまで足止めを!」

『わかった、あまり時間かけるなよ!』

『全く、こんな時に離脱か。手間のかかる機体のようだな、それは!

 換装が終わるまでもなく片づけてやるわ!』

……仕方ない。かなり斜め上のコンセプトなんだから、この機体は。



指定座標に到達、急いでソードシルエットを切り放す。

「これでよし……総帥!」

『虚数展開カタパルト、展開!』

そして、空に陣が浮かび、其処からフォースシルエットが具現化する。

いや、冗談抜きですげぇ、これ。

そしてさほど時間もかからずフォースシルエット装着完了。

『それと、こんなこともあろうかと

 送電システムを作らせていただきました。

 急ごしらえですが、動作は保証します』

そして、空からビームが降ってくる。

これはすげぇどころじゃない。覇道財閥の力は化物か。

というか、あんたら俺が戦力になること前提で仕込んでないか。

……しかし、準備は万端であるに越したことはないな、と思った。

今回は素直に感謝すべきだな。

「よし、行けぇぇぇッ!!」

送電ビームを受けて十分にエネルギーが回復したインパルスは、

紅き翼を用いて空を舞う。

『シン! 思ったより早かったな!』

「すまない、戦線に復帰する!」

見ればデモンベインは、フリーダムの暴走に加えてのドラム缶の援護で、

近付くことができないでいるようだ。

『ぬぬ、また新顔であるか』

―――残念だったな、その答えは30点だ!





換装したインパルスはカラーリングも、性能も大幅に変化する。

「引き付けて……こうだ!」

先程より機動力に重点を置いたこれならば、ミサイルを回避することも難しいことではない。

捌けない分はロイガー、ツァールで斬り払う。

「踏み込みが足りん! 非力なんだよ! 狙いが甘い!」

……そういや、赤服もエリート兵のひとつだよな。

そして、エンゲージ。

「17に分割してやる!」

『お、おのれぇぇぇ!!』

振り抜いて、刺し貫き、改めてこの切味を確認する。

異常だ。

これなら、例えばあのドリルでさえも……

『えぇい、今である! エルザ!』

『ドリルでルンルンくるるんるん、今日のドリルは空を飛ぶロボ』

無言でロイガーとツァールを連結させる。

そう、これなら―――



ザンッ!



   ―――斬り崩せる!

『ば、馬鹿なぁぁぁ!? わ、我輩が丹誠込めて造り上げた夢のドリルが……

 ぜん……めつめつめつめつ……』

「これで終わり……っ!?」

邪魔が入った。フリーダムか!

『撃ちたくない! 撃たせないでぇ!!』

「今回ばかりはまともな発言に聞こえるよ、それ」

……私情は抜きにしよう。今回はあいつだって被害者だ。





「こなくそっ!!」

放たれたフルバーストを回避。

流れ弾がドラム缶に全部ヒットしたのは気にしないでおこう。

「くそっ、フリーダム!!」

『僕だってこんな事好きでやってるわけじゃ!』

だぁぁ、わかったからいちいち返すな!

相手はサーベル二刀流、対する此方も同じ。

―――受け止める!

鍔競り合いも程々に、強引に距離をとろうとして……

『アトラック=ナチャ!』

デモンベインの髪が伸びて、フリーダムの自由を奪う。

『シン、頭を潰すぞ!』

「了解!」

デモンベインが偃月刀を構える。

インパルスにも両刃にした剣を構えさせる。

「「覚悟ォォォ!!」」

『え、えぇぇぇぇぇぇ!?』

『……なんかデジャヴュを感じるんだけど、それ』

『破壊ロボの半分はネタでできていますロボ』



キ○○○は バラバラに なった



『えぇい、パワーダウンだと!?

 ……仕方あるまい。では皆さん、やわらか戦車の心はひとつ!』

『退却~ロボ』

脱出ポッドらしきものを切り放す破壊ロボ。

……というかそれ、頭だったんかい。

『ちょ、何で僕までぇぇ!?』

アトラック=ナチャから抜け出したフリーダムも後についていく。

最早奴らの操り人形だ。



「迂濶に追撃できないな、これは」

『ああ、全くだ』

『……汝ら、あの電波が増えても構わんのか?』

「いや、もうこれはどうしようもない」

『デモンベインの損傷も酷いしな』

『予想以上に薄情だな』

いや、あいつには相当の煮え湯飲まされてきたし。

あとは……

『……そういうことか。そこの汝』

「俺か」

『痛みはまだ残っているな』

……驚きだ、見透かされてた。

『汝はこれまで魔術と関わりがなかった。

 それが急にロイガーやツァールなど、何の過負荷もなしに使えるものか。

 呼び出せただけで奇跡ぞ』

ぶっちゃけると奇跡に近いんだが。

『この状態では、追跡もままならんな。仕方なかろう。

 無理をして汝まで潰れられたら困る』

「……悪い」



こうして、俺達はかろうじて○○ガ○に勝利した。



『たぁすけてぇぇぇぇぇぇ…………』



約一名の尊い犠牲と共に。



格納されたデモンベインの周りを慌ただしく駆け回る機械。

それは自動的に機体を修理してくれる「トイ・リアニメーター」だそうだ。

こんなのがミネルバに配備されたらヨウランやヴィーノ達は泣くぞ。



そのデモンベインの横にウィンダム、そしてインパルス。

基本シルエットはソードとフォースがあり、

ソードには余った予備の一本が新たにマウントされている。

エクスカリバーは一本消費したし。

あとはフライヤーもまた一式。

よくここまで集まったな。



「改めて見ると、出来すぎてる気もしないでもないな」

そう、今日は特にご都合主義が酷い。

虚数展開カタパルトから、インパルスの唐突な出現。

恐るべき性能の武器。

そして、マユの携帯に起こった異常。



本当に何が起こったのか。

ただ今は、マユの画像だけが携帯の画面を埋め尽す。



携帯をぼうっと眺めている内に、覇道総帥達が来た。

「今回はご協力ありがとうございます、シンさん」

「いえ、俺も無我夢中でしたし。

 それに、フリーダムも……」

「過ぎたことを悔いても仕方がありませんわ」

しかし、今回の件でフリーダムが敵の手に渡った。

ということは、この時代にない核動力MSの技術が渡ってしまった。

責任は取らなければならない。

「総帥、俺もブラックロッジと戦います」

「……本当によろしいのですか?」

「はい。俺も、この時代に深く関わりすぎたみたいです」

犯罪組織単体ならまだいい。

しかし、此処から他国に技術が渡るだけで未来は崩壊する。

……まずは、ブラックロッジという大元を立たなければ、

不安で元の時代に帰れない。



自分への言い訳だな。

本当は、理不尽な悪を許せないって、ちっぽけでガキ臭い正義感のせいだ。

「……ありがとうございます。助かりますわ。

 では、近いうちにこの基地を案内しますので」

「すみません、総帥」



戦争はヒーローごっこじゃない。

けど、此処で一回ヒーローやってしまえば、退くわけにはいかない。

これならあんただって納得はさせる自信があるぞ、アスラン。

俺は自分から絶対に逃げない。



それに、だ。

「……汝、妾からもよいか」

大方の予想通り、今度はアルが口を挟んできた。

「汝、いつから魔術が使えるようになった?」

「実感も、使えたかどうかも全くない」

「では、何か不可思議な出来事でもよい」

……一瞬、「影」の話をしようかと思ったけど、やめた。

この話はアルにしちゃいけない、という一種の確信があった。

ということで、今日の事をなるべく正確に話した。



 ―かくかくしかじか―



「ってことは、この携帯……電話、だよな? の中にその化け物が?」

九郎が核心を突く。

そうだ、あの後はどうなったんだ。

気づいたら携帯がおかしくなっていたし。

本当に、いるかもしれない。

「俺は、そのときもうやけくそだったからわからない」

「わたくしも、わかりかねますわ。

 怪物らしきものがシンさんとぶつかる寸前に光が溢れて、目を閉じてしまいました」

……謎だ。

「だが、この携帯に魔術的な何かを感じるのは確実だ。

 でなければ、あんなものは扱えん」

確かに、あの武器が魔術に関わるものだとすれば納得はできる。

「むう……どこにあるのか正確に掴めねば、いくら妾とて断章を回収することは叶わぬ」



「そうか……悪い」

「気にするこたぁねーよ、まだページはたくさん残ってるんだ。

 ロイガーにツァールなら、俺が使う機会は殆んどないし」

「そうだな。シン、それはまだ汝に預けておく。

 しかるべき時が来たら返してもらうぞ」

術式兵装、ロイガー・ツァール。

正直気味が悪いが、その力は絶大だ。

使用中は負担かかりすぎるけど。

「なに、魔術関連で足りないものは努力で補えばよい。

 我等ができるところまで強力サポート致します、だ。

 それに汝には資質がある。妾が保証しよう」

……魔術の力、か。

そういうオカルト染みたものとは無縁だと思ってたけど、

つくづく人生というものはわからないものだ。

「そして、その力でフリーダムを連れだして来るのだ。

 汝らの世界のものは、在るべきところに還さねばならぬ」

全くだ。

その原因があんたの断章じゃなかったらまともなセリフだったんだけどな。



「ところで、汝。その肩のものは何だ?」

「へ?」

言われて気づく。

肩のところに、紅と蒼の帽子がある。

嫌な予感。



「「挨拶」」



帽子から体が生えてきた。

いや そのりくつは おかしい。

「母様、お初にお目にかかります」

「マスター、お初にお目にかかります」

……なんだ、これ。

まるで今日遭った化け物の頭身を縮めたような。

「汝ら、まさかロイガーにツァール!」

「「はい、母様」」



この瞬間、様々な理不尽に侵蝕され続けていた俺の理解力は、とうとう限界を越えた。

「あ、あんたら一体なんなんだぁ――――――っ!?」



もつかな、SAN値。





PHASE-3「Life Goes On」

phase shift down...





     ―次回予告―

戦いへの意思を新たにしたシンだったが、

一気に襲いかかってきた騒動に悪戦苦闘を強いられる。

一方、フリーダムと共にブラックロッジに連れていかれたキラ。

彼もまた、混沌の渦中に身を置く事となってしまう。

次回、機神咆吼デスティニーベイン

PHASE-4「PRIDE」

混迷の世を、生き残れ! フリーダム!



注:予定は特番等で変更される可能性がありますのでご注意ください









おまけ



大晦日。

皆さんはいかがお過ごしか。

此方アーカムシティには、いつも通りの面子がいつも通り集まり、

「本日は年越し蕎麦を用意しました」

「来年も無事に過ごせるように、か」

「ふん。願かけでもせんと不安で仕方ないのか」

「あらあら、だったらアルちゃん、その手に持ってるものは何かな?」

「う、これは箸などではなくな……」

「フライングー」

「いけないんだー」

「あ、あの……いただきます、くらいは……」

「全く、中身は古いくせにやることは今時の若者であるな」

「ゆとり教育の弊害ロボ」

ちょっと待て後ろふたり、総帥はお前らを読んではいないと思うぞ。

「だよね」

お前も馴染むな、キラ。



というわけで、なんだかんだ言ってほぼ全員集合してる。

リアルに合わせてるんだ、本編と季節が違うかもだけど気にしないでくれ。

目の前には蕎麦。この時代にも年越し蕎麦の概念は残っていたが、

ちょっと待てここはアメリカだろ。

「稲田、わたくしはあの者達に蕎麦を出せといった覚えはありません」

「水臭いロボ」

「全く、心の狭い総帥であるな」

「何でお腹は空くの? 僕は何を食べればいいの?」

「あ、猫は止めておけよ。あれは「やめやめやめやめ!」」

だからあんたが言うとシャレにならないって。



まあ、この一年、このスレもいろいろあったけど。

『来年もデスティニーベインをよろしくお願いします!』



ところで、除夜の鐘は誰が鳴らしてるんだろう。





「……出番」

「これだけですかぁ?」

「次の話まで待てんわぁ、早よ出してー!」

ごーん。







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