GUNDAM EXSEED_12

Last-modified: 2015-02-26 (木) 23:02:16

【基地襲撃編】

 

それは、とある日の出来事であった。
基地が襲撃されたのである。普通に考えれば、基地が襲撃されることなど珍しいことでもない。
だが、それが取り立てて重要な拠点でもなく、平和なカリフォルニア基地であることと、
襲撃は基地内部からあったことと、
そして襲撃者が自軍のMSであれば、間違いなく異常であると言えるだろう。
この日、ハルドは大きなミスを犯していた、それは、基地の外に買い物に出ていたこと。
そして、リーザを基地内部に置き去りにしていたこと、それも他のマスクド・ハウンドの目の届かない場所に置いていたこと。
この二つのミス。片方は取り返しがつくが、片方はリカバリーの効かないミスとなることをハルドはまだ知らない。
「なんで、迎撃用のMSが出てないんだ!」
基地に戻ったハルドの第一声はそれであった。
1機のMSが基地内で好き勝手に暴れ回っている。それはグラディアルに酷似しているが大きく違う。
まず頭部の形状が大型で角のように突き出ているパーツがある。それに全身に追加装甲だ。
バックパックは前方への突進に最適化されているように見えるし、両肩の装甲に付いているスラスターは左右方向へ加速するための物に見える。よく見ると胸部の追加装甲もスラスターが内蔵されている。おそらく後方への加速に使う者だとハルドは考えた。
武器は対艦刀。サイズはかなり大型の物でそれを振り回して基地内の施設を破壊している。
ハルドは急ぎメリアルージへと戻った。機体も何もかも、まだメリアルージに格納したままであるからだ。
「おい、なんで迎撃機がでていないんだ!?」
ハルドはコックピットへ駆け込むと、じぃ様に訪ねる。
「理由はわからんが、基地の全ての機体がロックされておる!動かせるのはハウンドの機体だけじゃ!」
どういうことだ。と思いながら、ハルドは機体に乗り込みながら、じぃ様にもう一度訪ねる。
「敵は?」
「エースパイロット専用グラディアルじゃ!データがある。装備は近接装備セット、スラッシュジャケットというらしい!」
「了解」
近接戦闘に気をつければ良いわけだなとハルドは思い、いつもの高機動装備とビームライフルにシールドを持って出撃した。
「他のハウンド機は!?」
ハルドが尋ねるとじぃ様から通信が入る。
「全機準備中じゃが、すぐ出せる」
「了解」
ハルドはじぃ様の情報に感謝しながら、暴れているグラディアルにライフルを撃った。
しかし、敵は想像以上の機動性でビームの一射を回避する。
「はえぇ!」
ハルドも驚愕する、動きの速さである。しかも、全身のスラスターは使わず、脚のステップだけで回避した。
敵は間違いなく、並外れたエースであるとハルドは確信した。
「下手くそだなぁ、仔犬ぅ!」
敵機からの通信がハルドに届く。それは聞いたことのある声。
「ジャックか!」
「そうだよ、仔犬ぅ!」
ジャックのグラディアルが対艦刀を手に、ストライクΔに突進する。
速い!?想像以上の加速にハルドはギリギリの対処しか出来なかった。ストライクΔの盾で対艦刀を防いだのだ。

 
 

しかし、加速力に加えジャックのグラディアルのパワーは想像以上であり、ストライクΔは機体ごと弾き飛ばされた。
「ひゃは、雑魚い雑魚いぜぇ!」
「くそ野郎が!」
倒れた姿勢のままライフルを連射するストライクΔ、しかしジャックのグラディアルは肩のスラスターを噴射し、滑るように横に回避する。
「隊長、援護します」
ライナスから通信が届くが、ハルドはマズイと気づく。
「お前じゃ無理だ。下がれ!」
ハルドが叫んだ瞬間だった。
「しゃあっ」
ジャックのグラディアルが2本のビームサーベルを投擲する。
それは駆けつけたライナス機の両肩に刺さり、腕の使用を不能にする。
「ひゃは、雑魚の手下も雑魚ってな!」
「てめぇ……!」
ストライクΔが立ち上がり、ジャックのグラディアルにライフルを連射するが、全く当たらない。
「くそ速すぎて、射撃が……!」
ストライクΔはライフルを捨てビームサーベルを抜くとジャックのグラディアルに切りかかる。
「切り合いで俺に勝つ気か、仔犬ぅ!」
対艦刀とビームサーベルで鍔迫り合いになるが、重量の差で対艦刀が有利になる。
「じぃ様、こっちも対艦刀だ!サーベルじゃ軽すぎる!」
「メリアルージじゃ、簡単に武装は出せんぞ!」
ストライクΔが競り負け、大きく後ろに飛ばされる。
「ギークの機体にでも持たせて、届けさせろ!サーベルじゃ相手はできねぇ!」
ジャックのグラディアルは対艦刀を肩に担ぎ余裕の様子だった。
「自軍の基地をぶっ壊すとは、とうとう脳がやられたかヤク中」
ハルドは時間稼ぎのつもりで言う。正直、なぜこんなことをしているのか、関心はあった。
「俺は正気だぜ、仔犬ぅ。全部、命令でやってんだ」
言いながら、ジャックのグラディアルが切りかかってくる。重量のある対艦刀での一撃にも関わらず、それは今まで見たことのある斬撃の中でも最も鋭かった。
「誰の命令だよ?」
ストライクΔはバックステップを取り、かろうじて避ける。
「俺が命令を聞く相手は1人に決まってんだろうが、仔犬ぅ!」
対艦刀の振り下ろしが途中で変化し、突きとなってストライクΔに襲い掛かる。
無理だ!避けられないと察したハルドは盾を構える。対艦刀の突きは易々と盾を貫いた。
「エルザの命令ってことか!?」
使い物にならなくなった盾を捨て、訳が分からないながらも、ハルドは機体を操りジャックの刃を避ける。
「気づくのが遅いんだよ、仔犬ぅ」
不意にジャックの機体はその刃を止め、対艦刀を肩に担ぐ。
「ひゃは、間抜けな仔犬ぅ。エルザがてめぇにいつも何をするのか思い出しなぁ!」
エルザが何をするか?決まっている。いつも自分を痛めつける。それだけだとハルドは今までを思い返す。
「ま、答えにゃ気づかねぇよ、てめぇみたいな間抜けな仔犬ぅじゃあなぁ」
言って、ジャックの機体が躍動しようとした、その瞬間だった。
「隊長、持ってきました」
ギークの機体が飛行しながら、対艦刀を持ってきたのだ。
「よし、渡せ!」
そうハルドが言った直後、ギークの機体が空中でビームに貫かれた。
「ギーク!」
ハルドは叫びながら、落下した対艦刀だけを拾いギークの機体は捨て置いた。

 
 

「狙撃!?どっからだ」
ハルドは対艦刀を構えながら、嫌な予感を覚えていた。ジャックがいるということは……
「どこから撃ったかを明らかにする狙撃手はおらんよ」
「レオか!?」
再び、聞いた覚えのある声であり、知り合いだ。気づいた瞬間、ビームが飛来する。狙うつもりのない射撃だ。
「まぁ、今はジャックの時間だ。私の相手は、その後でいい」
「俺様が仔犬ぅに負けるかよ!」
ジャックのグラディアルは余裕な様子で肩に対艦刀を担ぐ。
「それならそれでいい。ならば最後かもしれんから伝えておこう。ハルド、私もお前が嫌いだ」
ジャックのグラディアルが動き出す。対し、対艦刀を手にしたストライクΔも同様である。
「隊長、援護します!」
サマー機がスナイパーライフルを構えている。
「邪魔はしないでくれないか」
サマー機をビームが貫いた。
「まぁ、殺しはせんよ。恨みもないしな」
撃ったのはレオだった。レオの機体のビームはギークの機体やったように、コックピットを外し、機体を動けなくするだけの射撃だった。
「てめぇのお仲間、雑魚ばっか!」
ストライクΔとジャックのグラディアルは対艦刀で剣戦を行っていた。ヤク中ではあるが、やはり相当に強いと、ハルドは舌を巻く思いだった。
兎にも角にも恐ろしく捌きが上手いとハルドはストライクΔを操縦しながら思う。
ストライクΔが袈裟がけに対艦刀を振るうと、ジャックのグラディアルは無理に受けようとはせず、軽く刀身で滑らせながら、衝撃を流し、即座にカウンターで自身も対艦刀を振るうのだ。
まさか、MSの切り合いで受け流しを出来る人間がいるとは思わなかった。
「ひゃは、俺と切り結ぶのは無理だっつーの仔犬ぅ!」
ジャックの機体の対艦刀が振り下ろされる。ハルドは防御したつもりだったが、衝撃が軽い。フェイクである本命の一太刀は真下からの切り上げである。
バックステップを取り、ストライクΔは下がり回避するが、追撃の二の太刀が真上から襲い掛かってくる。
これは無理だ。そう思ったハルドは対艦刀で防御をする。が、その瞬間ジャックのグラディアルは肩のスラスターを噴射し、ストライクΔを中心に弧の軌道を描いて左に回り込み、薙ぎ払いの太刀を仕掛ける。
対応できない……!ハルドがそう思った瞬間にストライクΔの肘から下は切り落とされていた。
「これじゃあ、レオの出番はねぇなぁ」
「構わんよ。私はハルドが死ねば満足だ」
弾かれるように飛び退くストライクΔ。ジャックのグラディアルは余裕なのか追撃する様子がない。
「実際のところはムカついてんだぜぇ、仔犬ぅ。今ので仕留められるはずなのに避けやがって。今、生きてんのは実力じゃなくて運だろうが!」
それは、そうだ。対応できないと感じた時点で自分は死んでいてもおかしくはなかったとハルドは思う。
「運も実力のうちだろ?」
ハルドは何となく言ったのだが、これが良くなかった。
「ざけんなぁっ!ハルドぉぉおぉぉっ!!」
ジャックのグラディアルが急突進する。そして対艦刀を振り回す。

 
 

「なんだ、エルザに褒めて貰いたかったのか。ジャックくんはさぁ。かっこわるいねぇ」
ハルドは煽る。そうすれば、ジャックの太刀筋が乱れるかもしれないと思ったからだ。だが、ジャックの太刀筋は乱れず、激しさだけを増すという逆効果だった。
「殺す!俺を馬鹿にするやつは殺す!てめぇの存在そのものが俺を馬鹿にしてんだハルドぉぉぉぉおぉっ!」
振り下ろし、からの突き、そこからの切り払い、返し刃の袈裟切り、からスラスターを使い、回り込んでの薙ぎ払い、に見せかけた袈裟切り、からの切り上げ。
何とか全部見えた。ハルドは一連の動きをかろうじて見極めたうえで、防御が出来た。しかし、攻撃に転ずることは出来ない。見極められても片腕だけでは防ぐので限界だからだ。それに片腕でも防ぐのに限界は来る。
「ハルド、受けるな!右腕が悲鳴を上げとるぞ!」
じぃ様が通信越しに叫ぶ。度重なる連続攻撃を防いだ衝撃で、ストライクΔの右腕は破壊寸前まで損傷している。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、殺すっ!」
叫びとは裏腹にジャックの攻撃に大振りは一切ない。太刀筋は見極められても普通にやる分には、反撃のスキはない。
では、どうするか。結果、ハルドはスキを狙うのを諦めた。
「死ね、殺す!」
振り下ろしの一撃だった。ストライクΔは手に持った対艦刀を捨てた。そして、僅かに相手にもたれかかるように体を傾けた。
結果は当然、刃が通る。ジャックのグラディアルが振り下ろした刃はストライクΔの左肩口を切り裂き、真っ直ぐ腰付近まで届いた。
もたれかかられたせいで、柄の方に近く、深く切り込めなかったが。致命的なダメージだと一目で分かる。普通ならば勝者は明らか。傷を与えた方。だが、実際、戦いの勝者はその傷を与えた方ではなかった。
「ナイフ好きだろ」
ストライクΔの右手にはナイフが握られており、それがコックピット付近を深々と刺していた。
「俺も嫌いじゃないがな」
ハルドがそう言った直後、ストライクΔはコックピット付近を滅多刺しにする。
「うそだよ、エルザぁっぁあぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁっぁ。おれが一番だろぉ!」
ハルドは叫びが聞こえた気がしたがひたすらに、コックピットを刺し、ジャックを殺した。
パイロットが死に、動かなくなったグラディアルは地面に倒れ伏す。
対して、ハルドの機体も大破状態である。肉を切らせて骨を断つを実践したら、こういう様である。
機体の左肩口から垂直に腰付近まで綺麗に切り裂かれている。その上、対艦刀はまだ傷口に残っている。まだ稼働しているのが奇跡的だが、ハルドはこんな状態でも動くからストライクΔに乗っているのである。
決して運任せではない、確信を持った作戦を持ってジャックのグラディアルを撃破した。
「じゃあな、ジャック。あの世でラリってな」
別れの言葉を言い終わるとハルドは、ストライクΔの傷口に残っている対艦刀を引き抜こうとしたが、
「駄目じゃ!抜くなハルド。抜いたら機体がぶっ壊れる!」
じぃ様が叫ぶ、対艦刀はもうビームを出していないとはいえこんなものがささったままじゃ戦えるわけがない。

 
 

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