GUNDAM EXSEED_14

Last-modified: 2015-02-26 (木) 23:05:34

【奪還編】

 

任務の準備が行われる中、ハルドはメリアルージの医務室にいた。別に怪我をしたなどというわけではない。
「俺は、あんたとは仲良くなかったけど。信頼はしてたんだがな」
ハルドの声には全く感情がこもってなかった。話しているのはマスクド・ハウンドの医務官である。
「エルザの差し金か?」
「なんのことだい?」
そう医務官が返した瞬間、ハルドは医務官の首を片手で締め上げていた。
「俺が何も分からないと思うな」
そう言って、ハルドはカルテを床にぶちまける。それらはリーザのものである。
「内臓やら何やらの数値が異常だ。すぐに処置を考える必要があるくらいな」
ハルドは声を荒げず続ける。
「だいたい分かるよ。エルザに隠せと言われていたな」
医務官の顔面は蒼白になっていた。
「ハウンドにいるなら、俺がどれくらい怖いか知ってるよな?それでも、お前はエルザを選んだか。判断ミスだな」
ハルドは手を離した。医務官はほっとした表情を浮かべるが何も分かっていなかった。ハルドは許してなどいないことに。
「頭が良くなるように注射してやるよ」
ハルドは手近なペンを手に取ると医務官の目玉に突き刺し、さらにそれが脳にまで届くようにペンを思い切り押した。ペンは脳にまで達し、医務官は即死した。
ハルドはその後、カリフォルニアの海に医務官の死体を投げ捨てた。罪悪感とは全く無縁だった。
少なくともリーザの命が危険だということをハルドは認識していた。エルザの元にいるというだけでもだが、それ以外にも肉体的に限界が近いということを。
急がなければならない。そういう思いがハルドを支配していた。

 

「で、エルザのいる場所だが……」
ハルドはブリッジにいた。ブリッジの空気は重苦しい。それもこれもハルドが常に殺気を出しているからだ。
端整な顔には強烈な憎しみが表れており、それは凶相と言っても良い表情であり、あのエルザ・リーバスを思い起こさせるものだった。
「一応、情報は来ている。エルザ・リーバスはマルキオ教団保有のコロニーに潜伏しているというな」
ベンジャミンはなるべく刺激しない態度でハルドに臨んでいた。
「どこからの情報だ」
「そのコロニー自体からの情報だ。一応連合とも関係があるんでな」
そう言って、ベンジャミンは写真一枚ハルドに渡した。そこに写っているのはエルザ・リーバス本人であった。ハルドの顔がさらに歪む。
「そうか、じゃあ行くぞ」
ハルドは自分がもう正気かどうかも分からなくなっていた。ただエルザを殺せれば良いそれしかないのだった。

 

メリアルージの打ち上げはスムーズに行われた。それもマスクド・ハウンドの面々がハルドを恐れて、作業を急いだからだ。
だれも冗談を言える雰囲気ではなかった。当のハルドは自室に籠って出てこない。
誰もが重苦しい空気を感じながら作戦に臨んでいる。
「では、メリアルージ。該当のコロニーへ向け発進する」
ベンジャミンは平素と変わらぬ様子を装い、艦を出港させるのだった。

 
 

「あまり、気の進む任務ではないな」
アッシュ・クラインは輸送艦内で呟いた。
クライン小隊は今、ロウマ・アンドー大佐から依頼された任務でとあるコロニーへと向かっていた。
その任務というのはマルキオ教団が違法に武装化している可能性があるので調査してきて欲しいというものだ。
マルキオ教団とはSEEDを神聖視し救世主として崇める教団であり、カルト集団だが、
危険は大きくないというのがアッシュの認識だった。
しかし、違法に武装化しているという噂があるなら調査をしなければならない。
「アッシュ。早く任務を終えて地球に帰ろうよ」
シーエルはニコラスの戦死以降、ナーバスになっているようで、早く地球に帰りたいと、いつも漏らしている。
リチャードも表情が暗い時が多い。そういう自分もまだニコラスの戦死が吹っ切れないでいると、アッシュは思い悩んでいた。
「少しだが、休みが必要かもな」
そうだ隊員全員に一度休暇が必要だ。このところ働きづめなのだから、一度くらい申請してもいいかもしれないとアッシュは考えた。
そうだ、この任務が終われば、そう、少し暖かいところで隊員皆でバカンスでもすれば……
アッシュが思いはせていた、その時だった。輸送艦内に警報が響く。アッシュたちは急ぎ、自分の機体に乗り込み出撃した。
出撃した先にいたのは1機のMSであった。何の特徴もないスマートな機体。強いて言えばストライク系列に似ている。
だが、それよりも無駄を廃して細い機体。ガンダムタイプにも近いが特徴的なV字のアンテナは無い。
武器はライフルとシールドくらいしか確認できない。
アッシュは未確認機に警告する。
「こちらはクライン騎士団、アッシュ・クライン中尉である。そこの機体に告げる。今すぐ武装を解除し、所属と姓名を言え!」
イージス・パラディンはビームライフルを構えている。
答えはすぐに返ってきた。
「名前はエルザ・リーバス。死にゆく者にはそれで十分だろう?」
その声が聞こえた瞬間だった。シーエルのゼクゥド・パラディンのコックピットが貫かれた。
「は?」
アッシュには何が何だかわからなかった。だが仲間が死んだ。
「坊ちゃんの方のクラインが先だったか。まぁいい、機体の馴らしにはちょうど良い」
状況を理解し、アッシュは即座に攻撃に移ろうとした。だが、敵機は消えていた。
「アッシュぅぅぅっ!」
リチャードの叫びがアッシュに聞こえた。
急ぎ、リチャードの機体の方を見ると、リチャードの機体はビームサーベルで串刺しになっていた。
「低質だな。まぁいいが」
聴こえてくる女の声には何の感情もこもっていなかった。いや感情はある。まるで虫を潰すような。
「貴様ぁぁぁぁ!」
アッシュは激昂と共に自分の能力が解放されていく感じがした。そして、イージス・パラディンを操り未確認機に突っ込ませる。
「種持ちか。まぁどうでもいいな」
未確認機は右手に持ったライフルを撃つ。その程度の射撃は避けられる。そう思った、瞬間にはイージス・パラディンに直撃していた。
「なぜ!」
分からない。だが、イージス・パラディンの右脚は吹き飛んでいた。
反撃にライフルを撃つが未確認機には当たらない。全て余裕を持って避けられる。
「速すぎる!」

 
 

そう叫んだ瞬間、未確認機はイージス・パラディンの眼前に立っていた。
アッシュは咄嗟にシールドがマウントしている左腕でビームサーベルを抜き、薙ぎ払おうとした。
しかし、未確認機もシールドがマウントされた左腕でサーベル抜き放ち、イージス・パラディンの左腕を切り飛ばしていた。
「お前が遅いと考えたことは?」
未確認機がイージス・パラディンを蹴り飛ばす。
「相手を讃える前に自分の未熟を恥じる考えを持った方が良いな」
イージス・パラディンが体勢を整えなおした瞬間、ビームが飛来し、右腕が吹き飛ばされる。
「何者なんだ、おまえは?」
強すぎる相手を前にアッシュはそう言うしかなかった。返ってきた答えは全く淡々としたものであった。
「強いて言えば、世界最強のパイロットだ」
さも当然のごとく言った声と同時に、数発のビームが飛来し、そこでアッシュの意識は途絶えた。
「まぁ、ロウマがいうほど見どころなしではないかな?」
未確認機が、ほぼ完全に破壊したイージス・パラディンの残骸を掴み、この機体が出撃してきた輸送艦に投げつける。
輸送艦はイージス・パラディンを回収すると回頭し、来た方向へと帰って行った。
「馴らしは上々。早く来い、ハルド」
エルザの表情は歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「エルザを殺す。そしてリーザを助ける」
他はもうどうでも良くなってきた。
ハルドはMSのコックピットでひたすらに待機していた。
「コロニーに接近……前方に未確認機がいます」
エルザだとハルドは確信していた。
「ハルド・グレン出るぞ」
ハルドは機体をカタパルトまで運ぶ。
装備はバックパックに宇宙用のヴァリアブルスラスターパック。両肩両脚にスラスターパック。右手にはビームライフル、左手にシールド。腰には対艦刀をマウントしてある。
「隊長、自分たちは?」
「雑魚は出るな」
居られても邪魔なだけだとハルドは思った。
「おい、ハルドお前、まだ正気じゃろうな?エルザのように狂うなよ!」
最後にじぃ様の声がしたが、ハルドは無視して機体を発進させた。
確かに前方に未確認機がいる。ハルドは躊躇わず。ライフルを撃った。エルザじゃなくても別に構わないがエルザであるという確信はあった。
「ははははは、躾の悪いイヌだな。挨拶もなしか」
やはりエルザであった。ハルドに声が届く。
「エルザぁぁぁぁ!」
ビームライフルをエルザの機体に連射するが、全て余裕を持って避けられる。
「良い機体だろう。ジークシードと言うらしい」
そんなことは関係ない。ハルドは機体を突進させながら、ライフルを連射する。
それを回避しながらジークシードもライフルを撃つ。
ハルドの射撃は当たらないが、エルザの射撃は当たる。しかし、ストライクΔはシールドで防いでいる。

 
 

「ふむ、なかなか良い経験値を得ているなイヌ」
「エルザぁぁぁぁ!」
ハルドは叫びながら突進し、格闘戦に移行する。腰の対艦刀を、シールドをマウントした左手で抜き放ち、ジークシードに切りかかった。
「格闘戦はジャック以上になったか。上々上々」
ジークシードは左手でビームサーベルを抜き、対艦刀の一撃を軽く弾いた。
「なんだと!」
加速を乗せ重量もある一撃が軽く弾かれた?
「忘れていないか?私は、格闘戦はジャック以上で、射撃はレオ以上だぞ、イヌ」
ストライクΔが再び、対艦刀を振るい、剣撃を打ち込む。だが、それも軽く弾かれる。
「うらぁぁぁぁぁぁ!」
ハルドは叫び、何度も切りかかるが、全て軽く流される。
「一番大事なことを忘れているな、イヌ」
突然の蹴りがストライクΔを襲い、大きく弾き飛ばされる。
「私が今、現在、この宇宙で、最強のパイロットだということを」
ライフルの連射が左腕のシールドで防ぐ。だが、その間に、ジークシードは距離を詰めている。
そして、ジークシードのビームサーベルが舞う。
シールドで防いだ。そのつもりだったが、シールドの守りをすり抜けてビームの刃が左手に持っていた対艦刀を根本から断ち切る。
「腕の違いは知っている。だけどな!」
ハルドは叫び使えなくなった対艦刀を捨て、ビームサーベルを抜くとジークシードに切りかかる。だが、すでにそこにジークシードはいない。
ジークシードはストライクΔの顔面を踏みつけ、ストライクΔの真上にいた。
そしてライフルを真下のストライクΔに撃つ。
シールドで防ぎながら、ビームライフルを撃ち返しながら、ハルドは叫ぶ。
「譲れないものがある!」
シールドが限界に達し、破壊される。それでもハルドの気持ちは折れていない。
ライフルの射撃をかすりながらも左手にサーベルを持ち、ストライクΔが突進する。
「譲れないか……」
ジークシードも左手にサーベル抜き、突進する。
ぶつかり合う二機はビームサーベルで鍔迫り合いをする。
「じゃあ、奪わせてくれよ、ハルド。いつもそうだろう」
直後、ハルドはゾワリとした感覚を覚えた。
鍔迫り合いの状態から二機は互いに右手に持ったビームライフルを相手に向ける。
その瞬間、二機は間合いを取り、互いに向かってライフルを撃ちかける。
ジークシードは回避し、ストライクΔは左脚にビームが直撃した。
「いつもいつも、お前の大事なものは私が奪ってきた。今度も奪わせてくれ。そして悲しむ姿を見せてくれ。私に愛を感じさせてくれ」
狂人め。とハルドは思う。
既にシールドが無い以上、防御はできない。ストライクΔは回避するしかなかった。
回避しつつスキを伺うという作戦しかハルドには取りようがなかった。
「私はお前を愛しているぞ。ハルド!だからなんでもやれる!」
ジークシードはライフルを連射し、ストライクΔを追い込む。
「でも悲しいんだ!私はお前が苦しんでいる所を見なければ愛を感じれない!だから、痛めつける!」
ストライクΔは連射されるビームの隙間をぬって機動し、僅かの隙にライフルで反撃する。
「ふざけるな、イカレ女!」
「おまえも同じだよ。ハルド!」
ジークシードはライフルの連射を止めるとサーベルを抜き放ち、ストライクΔに切りかかる。

 
 

「おまえも私と同じになるように育てた。愛のためなら何でもする化け物に」
切りかかるサーベルにキレはない。隙だと思った瞬間、ジークシードの動きが加速し、ストライクΔの右腕が切り落とされた。
ライフルが……ハルドがそう思った瞬間にはジークシードは再び、切りかかっていた。
ストライクΔはサーベルで防ぐしかなかった。再び、鍔迫り合いになる。
「思い出せよ。ハルド、お前はあの女のために何人殺した?その中には全く罪のないのもいたろうに」
思い出す。直後、発狂しそうになる。あの研究所の人間たちに医務官。あいつらは悪い人間ではない。
そうかそうかそうか、そうなのかそうなのかそうなのか、まぁまぁまぁまぁ、いいじゃないか、たいしたことじゃない。
世の中世界宇宙には優先する順位があるから別に良いこともいっぱいあるではないだろうか。
「うるさい」
「声が小さいぞイヌぅ!」
鍔迫り合いの中、ジークシードの蹴りがとぶ。その直撃を受けて、ストライクΔは弾き飛ばされる。
「うるさいんだよ。もう、どうでもいいだろうが」
ストライクΔのまともな武器はビームサーベルしかない。だから、突進する。
「どうでもよくはないだろう?」
ジークシードは向かってくるストライクΔにビームを撃つ。だが、
「いいんだよ、どうでも」
飛来するビームをビームサーベルで弾き防ぎ、そのまま突進、素早い動きでジークシードの右腕を切り裂いた。
「誰が死ぬとか、もういい話しだ」
ハルドはサーベルを構え、再び切りかかる。右腕が使い物にならなくなったジークシードはライフルを捨てながら、回避する。
「お前を殺して、もう終わり。全てどうでもいいんだ」
ハルドは不思議なことに気が楽だった。強敵との戦闘中にも関わらず、心は穏やかだ。
余計な考えが浮かばなくなっている。なんだか晴れやかになってきているぞ、とハルドは思った。
「はは、こっちに来たなハルド。分かるよ。私も最初はそうだった。全てどうでも良くなる!」
ジークシードはシールドを捨て、ビームサーベル一本でストライクΔと対峙する。
なるほど、気が狂うとはこういうことかと思い、機体を操る。色んなことの見方が変わってくるようにハルドは感じていた。
二機のMSは互いにサーベル一本で縦横無尽の動きをしていた。誰が見ても超人的な動きだった。
「でもな、ハルド。いつかそうではなくなってくるんだ……」
ジークシードの刃がストライクΔをかすめる。
「執着が生まれるんだよ!」
再びジークシードの刃がストライクΔをかすめる。
「俺にはもうあるよ。アンタを殺したいってのと、リーザを救いたいっていうだけ、それが終われば死んでいいや」

 
 

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