GUNDAM EXSEED_17

Last-modified: 2015-03-08 (日) 20:39:23

【復讐編】

 

「ほら、しっかりせんかい」
じぃ様は格納庫で失神していたレビー・シカードという見習い整備士の頬を叩いて起こしていた。
「え?あの?」
と、レビーは気づいたが、下半身が思うように動かないことに気づいていた。
「残念ながら生きとるのはお前だけじゃ、脱出艇に乗り込め」
いや、でも、とレビーは思った。下半身が動かないのだ。
「匍匐前進でもして乗り込め」
じぃ様は、レビーが何も言わずともそう言った。
「命がある限りは、あがくのが正しい生き方じゃ」
ならば、じぃ様も、とレビーは思ったがよく見ればじぃ様の腹には鉄骨が突き刺さっていた。間違いなく致命傷だ。
「人間根性、為せば成る!」
そう言って、じぃ様はレビーから離れていった。
人間根性、為せば成る!ならば、私は!と思いレビーは腕の力だけで進んでいった。
その後ろ姿を満足したように見届けながら、じぃ様はつぶやく。
「なんで、こんな艦に乗っちまったかねぇ」
任務は大変で機体を壊す奴は多いし、隊長に至っては骨董品を愛用するイカレボウズだ。
「だが、まぁ悪くはなかったかねぇ」
色々な馬鹿な奴らに囲まれて楽しかったのは事実だ。
「まぁ、満足ってことにしとこうかねぇ……」
そう最後に言って、機体の整備を一手に引き受けていた老人は、静かになった。

 

「てめぇぇぇぇぇ!」
艦が破壊され、真っ先に突っ込んでいったのはギークだった。
「やめろギーク!」
ズタズタの機体で何ができると、ハルドは言いたかったが言葉が間に合わない。
「ぼくだってな!ぼくだってな!」
必死にドラグーンを回避しようとするが、避けきれずギークの機体は手足をもがれる。
「ほら、こういう装備もあるぞ」
エルザは狂気から冷静に戻ったようだった。
そしてハルドに見せつけるようにエクシーダスの上面からサブアームを多数展開し、さらにそこからビームサーベルを放出、ギークの機体、その全身を串刺しの状態にする。
「いいよな、ハルド。こういう趣向はさ!」
エルザは全身が串刺しになったギークの機体を見せつけるようにハルドに言った。
「なにが……面白いんだ……ババア……!」
聴こえてきたのはギークの声だった。
「地獄がなんだ。童貞なめんな!」
ハルドは嫌な予感がした。
「ボクはギーク(オタク)だぞ!機体の自爆のさせ方ぐらい分かる!」
その瞬間だった、ギークの機体が閃光に包まれ、大爆発した。
その衝撃でエクシーダスの上面の武装が全て破壊され、各種の武装を発射するハッチが潰れ、機能を停止する。
「うらぁぁぁぁ!」
直後に聞こえてきたのはライナスの声である。やはりハルドはやめろと言おうとするが、間に合わない。
突進するライナスの機体はエクシーダスのハサミ掴まれる。
「なんだろうな、ハルド。さっきから昔のことを思い出す。お前の前で、こう……何かの肉をだな」
ライナスの機体が上半身と下半身をハサミで切り離された。

 
 

「ライナス!」
そうハルドが叫んでもライナスの機体は上半身だけで動いていた。そして、エクシーダスの下面に潜り込んだ。
「そっちもあるぞ」
下面からは大量のサブアームが展開され、ライフルやバズーカをライナスの機体に向けていた。
「うるせぇ、マスクド・ハウンドのナンバー2をなめんじゃねぇ!」
ライナス機はありったけの弾薬をエクシーダスの下面に撃ちこみ、砕け散った。しかし、撃ちだされた弾はエクシーダスの下面を半壊させる。
「なんだ、気持ち悪い。どいつもこいつも必死で反吐がでる。私はハルドがいればいいんだ!」
そうエルザが思いを漏らした瞬間、ハルドはエルザを殺すために動いていた。
「これがハウンドの流儀だ、エルザ・リーバス!」
シュベルトゲベール・ドライをストライクΔⅡがエクシーダスの上面に突き刺す。
そして、スラスターを噴射し、そのまま縦に切り裂いた。
「とどめだ、エルザ!」
そして、切り裂いた切り口にビームライフルを連続して撃ちこむ。確実に機体の息の根を止めるためだった。
ハルドの目の前でエクシーダスは損傷に耐え切れず、壊れていく。ハルドは、ハルド達は勝ったのだ。
「生きている奴は……」
脱出している奴もいるかもしれない。そう思い、ハルドが辺りを見回している時だった。最後の声がしたのは。
「まだ、終わらないぞハルド!」
それはMAエクシーダスからの最後の声、その声の直後、エクシーダスの内部からビームが射出される。
「まだ、アンタは……」
「そうだよ、ハルド!」
その声とともにエクシーダスの内部からMSが飛び出す。全く見たことのないMSだった。
「これが本当のエクシーダスだ、ハルド!」
その機体のシルエットは細身で女性的。武器は無いが、両手の前腕部に銃身らしき部分が見える。
「さっきは、失礼をしたなハルド。どうにもEXSEED用の機体というのは人型の方が落ち着くらしい」
そんなエルザの声がした瞬間、ハルドの視界から機体が消えた。危険を感じ、咄嗟に回避行動を取るハルドのストライクΔⅡ。
そのカンは当たり、ストライクΔⅡの背後では、MS形態となったエクシーダスが銃身の先、その銃口からビームサーベルを出し、切りかかっていた。
「なるほど、人型ではこういう感覚か。やはり馴らしが必要だな。手伝ってくれるか、ハルド」
再び、エクシーダスが動く。基本的に目で追えない速さであった。だがハルドは対応した。エクシーダスのビームサーベルをシュベルトゲベール・ドライのビーム刃で受け止めたのだ。
「なるほど、極まったということか」
エルザはこともなげに言う。そしてエクシーダスをストライクΔⅡから離し、両腕の銃身の銃口からビームを連射する。
ストライクΔⅡは圧倒的な精度で放たれる射撃に対し、バックパックをかすめ破壊されながらも、本体は無傷で全て回避してみせる。

 
 

ストライクΔⅡは圧倒的な精度で放たれる射撃に対し、バックパックをかすめ破壊されながらも、本体は無傷で全て回避してみせる。
「確かに育てすぎた」
ロウマの言う通りだと今更ながらにエルザは痛感していた。
エクシーダスとストライクΔⅡが互いにビームの刃を展開し交錯する。その直後に、互いの左腕が切り裂かれて、宙に飛ぶ。
「なるほど、これではイヌとは呼べんな」
エクシーダスの右腕の銃身の銃口から放たれたビームがストライクΔⅡの左脚を貫き吹き飛ばすが、同時にストライクΔⅡもビームを撃っており、エクシーダスの右脚が吹き飛ぶ。
それでもエクシーダスは射撃を続けるが、ストライクΔⅡ捉えられない。エルザの人生で初の体験だった。敵を捉えられないなど。
いつだって、自分は優位者だった。それが崩れようとしているとエルザは思った。
「確かに、経験を積ませすぎたな」
思えばハルドには色々させてきた。喜びも怒りも悲しみも愛も、それらすべてを踏み台にしてハルドはここに辿り着いた。エルザのしてきたことも含め、それらが積もり積もって、今完成したのだ。おそらくハルドはこれから誰にも負けないだろう。
これも、ひとえにに自分の愛の結果だとエルザは思う。エルザがひたすらにハルドを愛し、そのために苦しめ悲しませてきた結果なのだ。それがいま実り最強という果実が成ったのだ。
エクシーダスの射撃を全て回避、ストライクΔⅡは突進してくる。
「お前の愛で私を貫いてくれ、ハルド!」
エクシーダスは銃身の銃口からビームサーベルを放出し、構える。対してストライクΔⅡはシュベルトゲベール・ドライからビームの刃を出し、突進する。
二機は正面から激突した。
「そうだ。私はこれで良かったんだ……」
「そうさ、アンタはそれでいいんだ……」
エクシーダスの刃はストライクΔⅡの左胸を貫き、そしてストライクΔⅡの刃はコックピットの真下の動力部を貫いていた。
エクシーダスは動けない。ストライクΔⅡは動ける。結末はそんな終わりだった。
「愛してるよ、ハルド……」
「俺は愛してないよ、エルザ……」
ストライクΔⅡは離れ、エクシーダスのコックピットにビームライフルを撃った。
それで終わりだった。それがエルザ・リーバスの終わりだった。

 

アッシュ・クラインはひたすらに戦っていた。そして周囲から敵がいなくなっていることに気づいた。戦況を気にしている余裕などなかった。
しかし、自軍には強力MAがあり、それが敵軍を蹂躙しているという情報は入ってきた。
そんな中だった、奴に出会ったのは。

 

何も無くなった。そう思いハルドは戦場を徘徊していた。生き残っている仲間はみつけられなかった。つまり自分は1人ということだ。ボロボロの機体、それで今更何をするというのか、そう思っていた時に奴に出会った。

 
 

「貴様は……」
「アンタは……」
目の前には赤いガンダムがいた。
目の前にはストライクΔがいた
「まいったな、鷹の坊ちゃんに会うとは」
正直、もうどうでも良かったのでハルドは通信で会話をしようと思った。周りは戦場なのだが流れ弾に当たっても、別に構わないと思った。
「僕も貴様に会うとは思わなかった」
アッシュも不思議と会話する気になっていた。周囲の敵はあらかた片付けたし心配はないという思いがあったからだ。
「それで、どうする?俺はあんたの仇だが」
「それについては、もう振り切った」
過去を思っても仕方ないのだ。ニコラスや仲間の死は確かに恨みに思うことだが、それに囚われてはいけないという思いがアッシュにはあった。
「そうか、そりゃ立派だ。俺は振り切れずに、このざまさ。残っているのはボロボロの機体と自分の命だけで。ほかは何も無し」
そうだ、エルザのことなど捨て置けば良かったのだ。あのイカレ女など勝手に自滅する。それなのに大切な仲間をエルザと関わらせて犠牲にした。
「投降するか?」
アッシュは何気なく尋ねた。答えは期待してなかった。
「いや、もう少し頑張ってみるよ」
そういえば、とハルドは思い出す。
「アンタと決着を付けてなかったが、つけてみるか?」
「その機体でか?」
見たところ、左腕に左脚もなくバックパックも損傷しており、左胸には風穴が開いている機体だった。
「まぁ、いいじゃないか。勝負を付けようぜ坊ちゃん」
もう背負うものも何にもなしだ。気楽な勝負だとハルドは思った。
「まぁ、構わないよ」
対するアッシュも似たようなものだ。気づいたら仲間は全員戦死。地球勤務だったはずなのに訳も分からず、今は宇宙で戦っている。本音を言えば、色々とどうでも良いのだ。
「じゃあ、やるか」
「ああ、やろう」
そう二人は言って二機のMSは激突した。

 

まいったな……お互いにすぐ、そう思うことになった。技量に差がありすぎたのだ。
ハルドの方はなんで自分が、これほど強くなっているか分からなかったし、アッシュも相手がこれほど強くなっているとは思わなかった。
イージス・パラディンの撃つライフルは全て軽くかわされ、反撃のビームは的確にイージス・パラディンのライフルを捉え破壊した。
ビームサーベルを抜き突進するイージス・パラディンだったが、ストライクΔⅡのシュベルトゲベール・ドライで容易くビームサーベルを弾かれ、その直後に胴体に垂直に斬撃を叩き込まれ決着がついた。
「はは、いや無理だ」
なんとなくスッキリした気持ちでアッシュは言った。
「なんか悪いな」
ハルドは少し申し訳ない気持ちだ。

 
 

「それでどうするんだ?」
アッシュが聞くと、返事は行動で返ってきた。ストライクΔⅡのコックピットが開いたのだ。
「投降するよ。もう疲れた。色々とな」
コックピットから出てきたのは自分と同じ年頃の少年だとアッシュは思った。アッシュは不意に顔を合わせてみたくなり、自分もコックピットを開いた。
「名前を教えてくれないか?」
そういえば、何度も言葉を交わしていたのに名前を聞くことはなかったなと思い返す。まぁ敵同士だったし仕方ないかと結論付けた。
「ハルド・グレンだ」
「アッシュ・クラインだ」
お互いに名前を交わし、そして二人は手を交わした。
それがハルドの戦いの終わりを告げるものとなった。
そしてハルド・グレンは戦場から身を引いたのだ。

 

その後のアルテア要塞の戦況の変化はというと、あまりに意外なものだった。
クライン公国の公王に即位したというエミル・クラインが聖クライン騎士団の大軍と共に戦場に駆けつけ、戦いを征したのだ。その軍勢の先頭に立ち、率いていたのはロウマ・アンドーであった。
地球連合軍は、ほぼ壊滅状態で撤退したという。
この戦いによって、ロウマ・アンドーはその働きにより、クライン公国内での評価を上げ、聖クライン騎士団内での地位と権力を盤石のものとした。

 

その後、アッシュ・クラインはロウマ・アンドー大佐により、マルキオ教団の調査に関して、民間の非武装コロニーへ、武装しての調査は違法行為であると告発を受ける。
そしてロウマ・アンドー大佐の独自の調査によって、その調査行動中に故意に同僚を戦死させたという疑いをかけられた。
アッシュにしてみれば、全くの捏造であったが弁解の機会は与えられず、アッシュ・クラインは聖クライン騎士団の軍籍を剥奪され、その上で本来は軍刑務所へと収監されることになるはずだったが、
公王となった妹のエミル・クラインの温情により、自宅への無期限の軟禁処分となった。しかし、環境的には監禁であったという。
こうして、アッシュ・クラインは歴史の表舞台から引きずりおろされた。
ロウマ・アンドーとしてはアッシュに関しては興味が無かったが、自分の発言力がどれほどのものとなったかを試した結果であったが、
想像以上に思い通りいったことにロウマ・アンドーは自分の言葉どれほどの影響力があるのかを知り、満足を覚えたのだった。

 

余談ではあるが、後にクライン公国の大躍進の原動力となったと言われるアルテア要塞の戦いで、クライン公国は多くの捕虜を得たが、その捕虜の名簿リストにハルド・グレンという男の名前は無かったという。

 

地球、湖のそばの小さな小屋の裏にある墓に1人の男が立っていた。
「みんな逝っちまったよ。どうなんだろうな。そっちは寂しくないか」
男は墓に語り掛けていた。
「まぁ、正直、俺もどうでも良いんだけど。約束だからな、もう少し頑張ってみるよ」
男は寂しげに語り掛けていたが、その眼差しに絶望は無かった。
「じゃあ、また来るよ。こういうことを言うのも変だけど、元気でな」
そう言うと、男は墓に背を向け、歩き出す。
行くあては無かったが、ただ生きてみようという意思だけを胸に歩き出したのだった。

 

C.E.149 世界中に広がる戦いの火は消えずに、まだ燃え上がり続けていた。

 

機動戦士ガンダムEXSEED  完

 
 

これで終わりです。自分的にはストーリーとして納得した結末です

 

ですが、恥ずかしいことに続編を書いてます

 

「キミと獣にどれほどの違いがある?」

 

最強の男ハルド・グレンと全てを失った少年セイン・リベルター
二人の道が重なった時
運命は動き出し、世界は燃え上がる

 

「キミの魂は焔に似ている」

 

機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ(仮)

 

近日投下開始

 
 

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